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CL 求婚者トマス・スタンリー卿

フラフラしながら硬い腕から解放された私は、スタンリー卿の方を振り向かないまま宣言した。


「とりあえず、歯磨きしたら戻ってくるから、ここで待っていて。」


「ルイーズ、ここで君を逃したらまた会ってくれなくなるかと心配になる。それにニンニクなど恥ずかしがることはない。しかし恥じらっているルイーズも可愛いな。」


私の肩に手が置かれる。分厚い皮の手袋のせいか結構重い。


「会わなかったのは求婚を断っていたからだし、ガーリックはスタンリー卿が良くても私が嫌なの!諦めて大人しくしてくれれば話くらいはするから。ニーヴェット家のトマスくらいしか知り合いがいなくて少し寂しかったし。」


そう、ノリッジにいたときはちょっと鬱陶しかったけど、王宮で知り合いに会えるのは少し嬉しくもあって、なんだか複雑な気分。


「わかった、では30分ほどの間、求婚は諦める。歯を磨いてきてくれ。」


「短い!」


思わず振り向いて突っ込みそうになったけどぐっと堪える。


「それとルイーズ、遠駆けできる格好に着替えてきてほしい。」


なんだか有無を言わせない、よく通る声が後ろから響いてきた。三度のご飯よりも馬が好きな軍人さんらしいけど、なんで久しぶりにあっていきなり遠駆けになるのかしら。


「スタンリー卿、私がピーター・ジョーンズの一件があってから馬には乗らないことにしているの、知っているでしょう?どこかに座ってゆっくり話せばいいわ。」


「そうもいかない、ルイーズ。この宮廷は味方の顔をした敵ばかりだ。誰もいないところに行って、二人だけで話したいことがある。」


あまりロマンティックでない響きだけど、私の知っているスタンリー卿よりも抑揚を抑えた、少し真剣な響きがする。


「わかったわ。でもそんなことを言って誘拐したら、もう二度とマッサージしてあげないから!」


「ルイーズ、どうかそんな酷いことを言うな。ルイーズの指先の悦びを知ってしまった私には・・・」


「変な言い方しないで!」


なんだかいつものテンポに戻ってきた。裁判になってからこういう軽いやりとりはあんまりなかったから、ちょっと懐かしい。


裁判・・・


「そういえば、混乱していて忘れていたけど、そもそも私がこんな大変な目にあってるの、全部スタンリー卿のせいじゃない!もうどうしてくれるの!」


「それについては心から謝る。せめてもの罪滅ぼしとして、ルイーズをお嫁にもらって幸せにしてあげたいと思っている。」


「ちょっと、都合よすぎ!」


まずいわ。スタンリー卿のテンポに巻き込まれてはダメよ。さっきから振り返って頭突きをしたい衝動に駆られているけど我慢する。


「ルイーズ、裁判について気になることがあるのだが、詳しくは馬の上で話すことにする。そんなに匂いが気になるなら振り向かずとも良いから、部屋の前まで私もついていこう。」


いつもより緊迫感がある声が真剣に聞こえる。軍にいるときはこんな感じなのかしら。


「部屋を覚えられてストーカーになられたら怖いわ。歯磨きや着替えでバタバタするし、待合室みたいな場所もないから、建物まででお願い。」


「ストーカー?ルイーズ語か?」


スタンリー卿は私が時々口にする謎のコンセプトをルイーズ語と呼んでいる。


「好きな人の同意を得ずに付き纏う人のことよ。」


「なるほど、それは私のことで間違いないな。」


ちょっと面白かったから、自称ストーカーの得意げな表情を確認したかったけど、この距離で振り返ったら息がかかっちゃう。スタンリー卿はもともと距離が近いのに、マッサージしてあげてから悪化しているのよね。


「じゃあちゃんとついてきてね、スタンリー卿。」


「迷うかもしれないから手を繋いだらどうだろうか。」


「関係なさすぎ!」


スタンリー卿に突っ込んでいるうちに日が暮れちゃうんじゃないかしら。少し不安になりながら私は東棟にストーカーを連れて行った。

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