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CXLIV 近衛連隊長バウチャー子爵

ダドリー様はすっかり戦意を喪失した俺を連れて東棟の出入り口までたどり着いた。近衛兵が門を閉ざすように立ちはだかっている。


「フィッツジェラルド閣下、及びダドリー枢密院議長閣下、北の国の間者の騒動で、東棟は現在封鎖されています。残念ですが立ち入りいただけません。」


髭の衛兵は俺たちのことを知っているようだったが、いつものように通過させてはくれなかった。


ということは・・・


「ダドリー様、これは神様の思し召しです。もう認証式に行くしかありません。東棟には出直しましょう。」


「嬉しそうにするんじゃない、フィッツジェラルド。第一神様は煩悩の味方をするとは思えないがね。東棟に入ろうとしたことが向こうに知られれば、対策を取られかねない。それに私も暇ではないのでね。」


はやる俺を叱責するように呟くと、ダドリー様は衛兵の方を向いた。


「バウチャーを呼んでほしい。王族と連絡を取るため、枢密院顧問官は有事の際も宮殿の出入りが許可されている。」


バウチャー子爵は近衛連隊長だから、宮殿の警備の責任者になる。


「バウチャー子爵は国王陛下に付き添って王都の議事堂に参上しています。東棟の封鎖は副家令ハーバート男爵の御司令です。また、この措置は棟内が危険と考えられているため取られており、また国王陛下及びヘンリー王子殿下は不在ですので、議長閣下のおっしゃった規則は当てはまりません。」


「危険だとはいえど、間者はすでに船で逃亡したのだろう。認証式さえも続行するそうじゃないか。そもそも間者が間者であると発覚した時点で危険は薄れている。東棟の警備責任者は誰かね。すぐに呼んでほしい。」


ダドリー様はいつもほど落ち着いていないようだ。タイミングの良すぎる東棟の封鎖は、確かに誰かに先回りされたようにも見える。


「輪番制でして、今日はチャールズ・ブランドンの担当です。現在ヘンリー王子とリアルテニスをしております。私はこの場から動けませんので、徘徊している同僚を見つけ次第、呼びに向かわせます。」


あいつに警備を任せたのは一体誰だろうか。美女を一人用意すれば数時間は警備不在の状況が実現するはずだ。


「やれやれ、昼前の間者騒動は王都にも伝わっているというのに、警備担当者がリアルテニスをしているのかね。」


「ヘンリー王子殿下の身の安全が第一、との判断かと。失礼、向こうに同僚のモードリンを見かけました。チャールズ・ブランドンまで連絡を取らせます。」


近衛兵は合図をすると、もう一人の近衛兵にリアルテニス場に行くように伝えていた。しばらく待たされるようだ。


ああ、認証式での運命的な出会いは結局実現しなかった。


「しかし、なぜ皆が北の間者だと確信を持っているのか。捕まって拷問されたならまだしも、逃亡した者の正体が分かることなどまずないはずだがね。」


「はあ。」


ダドリー様は分析を続けているが、俺の心には響かない。


「落ち込んでいる場合ではないよ、フィッツジェラルド。部屋を特定できれば、私の手の者に外から監視させる。掃除夫や下男に扮させるのも簡単だ。ルイーズ・レミントンにせよ。ルクレツィア・ランゴバルドにせよ、魔女を宮殿から排除する一大事業の第一歩なのだよ。」


ダドリー様は俺の士気を高めようとしているみたいだった。


「それに、ルイーズ・レミントン方面では進展があった。彼女の天敵を自負する男とコンタクトが取れたのでね。マナーがなっていないので、まだ宮殿には参内できそうにないが、いずれは働いてもらうことになるだろう。レミントンの素顔を知る人間がいるのは心強いだろうからね。じきにフィッツジェラルドにも引き合わせる。」


どうやら俺の知らないところで別の計画が進んでいたようだった。


「その者の名前はなんというのですか。」


ダドリー様はさっきよりも優しい目つきで俺をみた。


「ピーター・ジョーンズ。」

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