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CXLII 新任者ルイザ・リヴィングストン

ダドリー様が上機嫌でいらっしゃるところは滅多にお見かけしないが、物思いに耽りながら馬車から降りる姿はいつも以上に気難しげに見えた。


「ようこそお越しくださいました、ダドリー様。」


屋外なので簡単に礼をする。倹約家のダドリー様らしく今日も従者を連れていらっしゃらない。


「その花束はどうしたのかね、フィッツジェラルド。」


ダドリー様は俺の持つブーケが気になったようだった。


「今日認証式があると聞いたルイザへのプレゼントでしたが、北の間者の騒動で認証式が流れてしまい、行き場を失ったのです。」


せっかくマクギネスが見繕ってくれた花なのだが、明日はこれほど綺麗ではないだろう。また花畑に摘みに行かないといけない。


「そのルイザというのは親類かね?」


「いえ、見かけたことしかありません。この花束が話すきっかけにでもなればと思ったのですが。」


認証祝いは自然に話しかけるきっかけになるし、花を送れば花言葉を語ったりできるかもしれないと思った。島ではそんなこと気にしたことがなかったから、ちょっと本土っぽいお洒落さに憧れる。


「一体何者なのか。」


ダドリー様は不審感を隠さない。


「よくわかりませんが、俺の女神です。」


「魔女が侵入している可能性が高いと言ってきたのはフィッツジェラルドだろう。身元の分からない女にはくれぐれも気をつけてほしい。」


「気をつけますが、ルイザは見た目からして魔女ではありませんし、人目を憚るそぶりも見せませんでした。」


見た目からして魔女ではない。魔女が日中堂々と王子の従者と歩いているなんてことはないだろう。


「初対面の相手にこの花束は大仰な気がするが、とにかく遊びはほどほどにするように。魔女の対応は喫緊で、かつ一歩誤れば深刻な結果を招く。花畑を走り回っている場合ではないのだよ。ウィロビーの変わり様を見たフィッツジェラルドなら言わずとも良いと思っていたが。」


ダドリー様は少し呆れた様に頭を掻いた。


「遊びではありません、これは真実の恋です。大事な時期に恋煩いになってすみませんが、落ち着いてルイザと恋愛をするためにも、魔女退治には手を緩めないつもりです。」


俺は至って本気だ。本能がルイザを求めている。さっさと東の魔女ルイーズ・レミントンを縛り上げて、大陸の魔女ルクレツィア・ランゴバルドを血祭りにあげて、ルイザにプロポーズするつもりだ。


「ご実家にも知らせるのか。君には確かド・ラ・ズーシュ家の許嫁がいたはずだが。」


ダドリー様は訝しげだ。


「魔女の騒動がひと段落したらそうします。ベティには申し訳ありませんが、自分の心に嘘はつけません。すでに仲良くしていたエリザベス・グレイ嬢には俺の気持ちを知らせてあります。」


エリザベス嬢は傷ついていたというよりも困惑した様な顔をしていたが、誠心誠意俺の心のありざまを説明したつもりだ。


「やれやれ。まあ、私には火のついた若者を止めるほどの勢いもないがね。それよりも今は魔女だ。今から魔女がいると推定される東棟に向かうが、歩きながら話そう。ウィロビーの様子はどうかね。」


軍人貴族に比べて華奢なダドリー様の歩幅に合わせて、ゆっくりと歩き始める。


「アンソニーですか・・・昨日の晩は不機嫌そうでしたが、あまり変わった様子は見ません。俺は昨日の夕方、ご存知の様にダドリー様に報告に上がっていたので、四六時中アンソニーを見ていたわけではないのです。」


昨日の晩に俺は枢密院に上がって、俺が一昨日の晩ドア越しで聞いていた惨状を報告していた。アンソニーは数回見かけたくらいだ。


「ずっと付き添っていられないのは仕方ない。フィッツジェラルドの報告により、少なくとも一人の魔女が東棟にいる、ないしは入れる位置にいるらしいとわかった今、ウィロビーの回復よりも魔女退治を優先すべきなのは間違いない。」


こうしてダドリー様自らが現場に来るのは珍しい。この魔女退治への意気込みを感じる。


「わかりました。ところでダドリー様、アンソニーに関わる妙な噂を聞いたのですが。」


「新大陸の話かね。」


ダドリー様はいつも情報を得るのが早い。人と話しているところをあまり見ないが、頼りになる部下を抱えているのだろうか。


「ええ、ウィロビー家が植民に送られるなんてとんでもない。当然デマですよね。」


デマなのはわかっているが、ダドリー様の口から否定されると安心するのだ。


ダドリー様は視線を斜め上にやって、軽いため息をついた。


「本当だ。本人も望んでいることだ。話を聞いた一族が大反対しているので予断を許さないがね。」


「んなまさか!!」


そんなはずはない。アンソニーに限って。


第一アンソニーが志願する理由が見当たらない。危険な航海になるが、船に乗ったこともないはずだ。




魔女の仕業か。


「魔女が仕掛けてきたのでしょう。考えは俺にもわかりませんが、幸い俺たちはアンソニーが魔法によって操られていることを知っています。この悪巧みを止めましょう。」


「いや、ここは魔女の企みに乗った方がいいのではと考えている。」


「なんでや!!いえ、なぜですか!?」


ダドリー様は本来そんな奇をてらった策を練る方ではない。思わず島言葉だ出そうになった。


「魔女本人には知らせていないようだが、ウィロビーは魔女本人を連れて行くつもりでいる。魔女はおそらく、待機ばかりで王太子に近づけないとわかったウィロビーを新大陸に送ろうとしたのだろうが、魔法自体が依存関係によるものだから当然ウィロビーは魔女を巻き込みたがる。しかし魔女本人が、自分の指令が二次災害的に自分を巻き込むのを想定できていないのだろう。そして魔女の同行が実現するなら私としても全力で協力しようと思う。修道院送りよりもよほど良い。身分の高いウィロビーを指揮官にすれば、副官人事を我々が仕切って、魔女に近い勢力が横槍を入れるのを防ぐこともできる。」


魔女を道連れに厄介払いをするのか。アンソニーは魔女に操られるまでダドリー様に忠実だったというのに。


「ダドリー様、それ以前にアンソニーの更生は俺が責任を持つとの約束だったはずです。」


「フィッツジェラルド、友人を更生させたい気持ちはわかるが、ウィロビーは人柱になって、魔女に操られる前の目標だった騎士としての役割をはたすのだ。また新大陸事業で魔女に身に何が起ころうとも、魔女の後援者はほとんど影響を与えられないだろう。ウィロビーが新大陸から帰ってくる頃には魔女の影響を脱しているかもしれない。どの道今のままではウィロビーは永遠の自室待機だ。これは彼にとっても失地回復のきっかけにもなる。」


「しかし・・・」


アンソニーがこのままじゃいけないのは分かっている。更生方法がわかっているわけでもない。でも双六を振るように新大陸送りにされても、アンソニーのためになるとは納得できない。


花束を抱いたまま、俺はやるせなさに苛まれながら歩いた。


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