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XIII 功労者フランシス・ウッドワード

声の低い方の黒い影は廊下の奥に見えなくなった。声の高い方は目の前で、縛るのに都合がいい感じに膝をついている。


彼はちょうど私を縛るはずだったロープを持っていたから、片手で肩から首のツボを押したまま、もう片手でそのロープを体に回す。


「あ・・・やめっ、つっ、・・・離せあっ・・・ああっ」


言葉に反して、声の高いアンソニーは抵抗らしい抵抗をしてこなかった。こっちの世界にはお灸も鍼治療も当然ないから、みんなしびれるような感覚に不慣れだし想定もしていないみたい。ツボを押されてびっくりしてしまう人は珍しくない。


「・・・くふっ・・・んあっ・・・らめっ・・・」


アンソニーの大きな目がウルウルしていて、顔も紅潮してしまっている。なんだかいけないことをしている気分になってきたけど、そもそもなんでこんな少年が魔女逮捕に派遣されたのかしら。


ちょっと時間がかかったけど大体アンソニーの上半身はぐるぐる巻きになった。多分魔女と距離を取るためだったんだろうけど、ロープは長くてだいぶ余ってしまっている。


あとで蹴られても困るから、膝の根元から足首にかけてもぐるぐるに巻いて、正座したみたいな姿勢で固定する。


「魔女めっ、後でただじゃおかないからなっ。絶対許さないからなっ。」


ツボ押しから解放されたアンソニーはちょっと調子を取り戻したみたいだった。相変わらず中学生みたいな声だし、まだ涙目のままだからあんまり迫力ないけど。


「ルイス、大丈夫か。」


振り返ると、男爵が護衛みたいな二人を連れて廊下を走ってきた。


「男爵、遅いですよ。フランシス君がいなければ私は誘拐されているところでした。」


フランシス君が活躍したわけではないけど、字義通り彼がいなかったら困ったことになっていた。


「向こうでも一悶着あってな。しかし一人仕留めるとはさすがの魔力だルイス。」


「ちょっと待て!ルイーズ・レミントンはお前だったのか!お前はルクレツィアじゃなかったのか!騙したな卑怯者!」


縛られて座っているアンソニーは混乱しているようだった。ルイスがルイーズに聞こえたんだろうけど、ルクレツィアの愛称がルイスっていうのも無理がある。


卑怯者はお互い様だと思うけどね。


「男爵、フランシス君が囮になってくれたのに水の泡ですよ!バレちゃったじゃないですか。」


「なんの話だい。文脈が分からないが。」


まあ、誰も逮捕する側が人違いするなんて展開想像していなかっただろうから、しょうがないのかな。


「それよりこの子を補導してもらえますか。」


さっきからキャンキャン吠えている金髪の少年を指差す。


「魔女めっ、俺の体は手に入っても心は譲らないからなっ。」


なに悲劇のヒロインみたいなセリフを言っているのかしらこの子は。


「あと、この子って子供扱いするなあ!俺はもう15だあ!」


「え、そうなんだ。」


もう少し下だと思ってた。


「なんだか緊張感に欠けるが、その金髪はまさかウィロビー家の三男か。」


「ウィンスローめ、お前などに名乗る義理はない。」


アンソニーは吐き捨てるように言った。頑張って睨んできたけど、さっきの流れから言って格好をつけるのはちょっと無理がある。


「ルイス、魔法がかかりきっていないぞ。」


男爵は戸惑ったようだった。そりゃあ、マッサージをしたら聞き分けがよくなる、なんて効果はありませんからね。


「ええと、マッサージの最中は大人しかったんですけど・・・肩から首しか揉めていないのと、そもそも個人差があるんです。この子は健康体で肩も凝っていなかったし・・・」


準備運動やストレッチがない世界だから、若いスポーツマンでも肩腰膝に痛みがある場合が多くて、大抵はマッサージのしがいがある。でもこの子の場合はそもそもそマッサージの需要がありそうな体じゃなかった。


「ハハッ、俺の精神力が魔法に勝利したんだな!」


アンソニーは勝ち誇った小型犬みたいな顔をした。男爵は困惑顔。


「弱ったな。ルイス、彼は現行犯逮捕するには身分が高すぎる。国王陛下の勅許状が必要になるだろう。」


そっか、貴族の子息には不逮捕特権があった。なるほど、失敗しても捕まらないから、この少年が下手人になったのね。


「そんな・・・」


「それに、公の場で縛ったこちらが罪に問われる可能性が高い。」


男爵はまた真剣な顔をしている。これは深刻そう。お互いに縛った罪は一緒のはずだけど、残念ながらこの世界の法律は平等じゃない。


「ふんっ、よくも俺に恥をかかせてくれたな、覚えておくといい。もう魔女の顔も覚えたし、お前たちはあとで全員断頭台行きだっ。」


アンソニーは明らかに調子に乗っている。縛られて正座したままでこんなに堂々としていられるのは一種の才能かもしれない。


「とりあえず控え室に移動しよう。ここでは外聞が悪い。」


「そうね、男爵、アンソニーの右側を持ってもらえる?足はそのままで。」


護衛の2人も手伝ってくれて、神輿を担ぐようにしてアンソニー君を運ぶ。


「敬称をつけろっ、こらっ、せめて足を解けっ。ちょっと怖いっ。」


出会って30分もしてないけどこの子の性格がわかってきた気がする。


護衛の方が開けてくれた控え室にアンソニー神輿を運び込む。


「待ってください!私を見捨てないでください!」


後ろから声がした。


振り返るとフランシス君が柱にくくりつけられたままになっていた。


「フランシス、一体何があったんだ!」


男爵が神輿から手を離すとフランシス君めがけて走っていった。


「うわっ、いきなり手を離すなっ、ちゃんと運べっ。」


アンソニーが慌てている。



私もさっきからもう何がなんだか・・・


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