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CXXXII 王太子付警護隊長サー・エドワード・ネヴィル

男爵と別れたあと、スタスタと歩く王太子妃様と侍女の方のあとをついていく。二人ともファージンゲールをしていてスカートが広がっているけど、歩くのも階段を上るのもすごくスムーズで、やっぱり経験値の違いを感じる。特に姫様はそよそよと動くたびに白いドレスと銀の模様がさらさらと靡いて綺麗だった。


私は子猫を抱いたまま、姫様たちと西棟の南側の階段を上がって二階に上った。広い空間に出る。


「構造が東棟と全然違う・・・」


思わず呟いた。


「いかにや?」


侍女の方が興味深げに私を覗き込んでいるけど、私は見慣れない内装をしげしげと見つめていた。


階段を上がったところには、天井画や壁掛けは綺麗だけど家具がほとんどない広い部屋があって、近衛兵が何人か控えていた。私や王子がいる東棟は中庭側にギャラリーという名前の廊下があって、そこから外側に部屋が並んでいるけど、西棟はもっと伝統的な造りで、一部屋一部屋通過していかないといけないみたい。こういう部屋をいくつか突破しないと王女様の居住空間に辿り着けないようになっているのね。


部屋を見回す私を姫様達が面白そうに見ていたけど、当直の近衛兵の中で一人だけ制服を着ていない、身分の高そうな騎士が近づいてきた。なんだか鼻の大きい、顔の平べったい人で、30代後半くらいかな。胴の部分だけ鎧みたいになっていて、そこから白い襟と黒い袖、灰色のタイツが出ている。ちょっとアンバランスな感じ。


「妃殿下、先ほど間者が逃走したという伝令がありました。速やかにお部屋にお戻りください。そちらの客人の方はこちらで手続きをしますので。」


低い声が天井の高い部屋に響いた。私が王太子妃様の侍女でないのは一瞬でバレたみたい。


「私が預かるのです、この子は、私が責任を持ちませう。」


さっきはびっくりして気づかなかったけど、王太子妃様の口語には少し訛りがあった。南の国からお輿入れしてまだ3年くらいなのを考えるとずいぶん上手だと思うけど。


「お連れの方のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか。侍女と訪問者のリストから確認しますので。」


騎士が慇懃に伺いを立てた。


「名前はル・・・」


王太子妃様が自信なさそうに私と子猫を見る。


そういえば私、まだ名乗ってなかったね。認証式がまだだから私の名前がリストにあるか心配になってきた。姫様も心配そうな顔で私を見つめる。


侍女の方がハッと思いついたような顔をして、王太子妃様の前にでた。


「この子が名はルーテシア!ネヴィル殿のリストにぞないやもしれませぬが、南の国の出です。王都のプエブラ博士の家にて滞在しており、今日こそ姫様のご様子をば伺いにこしのみにあらむ、館に入る予定などなかりしものを。」


古典語が混じっているけど、侍女の方が元気よく答えた。南の国の出身者ならリストになくても姫様に会いに来れるのかしら?


ちょっと待って、これ以上私の偽名を増やさないで。


「ルーテシア・・・姓は。」


騎士の方は割と淡々としているけど、このままだと露見してしまいそうな気もする。


「フルネームは、それは、ルーテシア・・・」


侍女様もとっさに思いつかなかったみたい。私自身が登場しないといけない。


「ラフォンテーヌ。我が名はルーテシア・ラフォンテーヌなり。」


私のハンカチやカバンにはイニシャルに因んで、斜めのLを二つ重ねたマークが入っている。前世の某バッグメーカーにインスパイアされたけど、決して真似したわけじゃない。


とりあえず偽名のイニシャルはLLで揃えないと。せっかく男爵が頑張っていたし。


「ルーテシア・ラフォンテーヌ・・・ 南の国というより、東の国風の名前ですな。」


警備の騎士は不思議そうに髭をいじった。そもそも侍女さんはなんで名前をルーテシアにしようと思ったのかしら。


姫様が私を騎士から隠すような位置に動いた。


「ルーテシアの出身地は東の国との国境沿い、ルシヨン。東の言葉を話すものの、南の国の領土です。」


王太子妃様の口語の話し方はフォーマルすぎるからか、前世のドキュメンタリーのナレーションを聞いているような気分になってくる。


「・・・わかりました、記名をお願いします。」


騎士の方は私を冷たい目で見ていたけど、姫様の必死の訴えが効いたのか、私たちを通してくれるみたい。私が記名しようとするのを制して、侍女の方が羽ペンを持ってさらさらと住所や出身地を記入していく。


でも王太子妃様は名前もわからない現地の侍女を部屋に入れてしまうのね。ちょっと不思議。


ほっとしていると、私の前に黒い影がさした。顔を上げると、さっきの鼻の大きい騎士の方の顔。いつの間にかすぐ近くに来ていた。


少し驚いてたじろぐ。


「子猫が捕まって一安心ですね、妃殿下、ラフォンテーヌ様。」


冷たい目をしたまま、騎士は私が抱える子猫を撫でた。






ルイーズの名前のスペリング


Louise Leamington

Lewis Lidington

Luisa Livingston

Lucrezia Longobardo

Lutecia La Fontaine

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