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CXXVIII 部外者フランク・アームストロング

スカートの裾を縛り終わってドアを少しだけ開けると、申し訳なさそうにたじろぐモーリス君の横で、フランクが食器の破片を掃除してくれているのがチラッと見えた。洒落たカーキのベストを着ているけど、相変わらずポテト感溢れるたたずまいをしている。


「(入って!)」


モーリス君に小声で声をかけて、引き入れるとドアを閉める。フランクからは私は見えなかったと思う。


「ふう。気付かれなかったわよね。フランクはルイス・リディントンしか知らないから、ルイザを見られたらややこしいことになるわ。」


考えてみれば従者ルイス用と小間使いルイザ用で部屋を二つもらえたとしても、着替えて出てきたところで知り合いに遭遇する可能性はゼロではないと思う。どうしたらいいかしら。男爵のアイデアを使うのは気に食わないけど、恋人にしておくのが無難なのかもしれない。


「聖女様、そのご格好は・・・」


キョトンとするモーリス君は、赤茶色がメインで腕やボタン部分に水色の装飾がふんだんについた服を着ている。下のシャツもくすんだ水色みたい。意外な色の組み合わせだけど悪くないと思う。今日は茶色いタイツを履いちゃっているけど、上着の丈が長いからあんまり気にならない。


「私の格好、似合わないかしら?侍女らしいと思うのだけど・・・」


モーリス君を一通り観察してから自分の格好を見てみる。水色のペチコートとブラウスの上から群青色のガウンとオーバースカートをはいて、首元は群青のスカーフを巻いてある。ファージンゲールをつけたせいでスカートがブワッと広がっているのが不本意だけど、同色系のツートーンだし侍女としては問題ないと思う。


「いえ滅相もない。よくお似合いです。聖女様のお御髪を拝見するのが久しぶりでしたので、不躾ながら感無量に思っていたところです。」


モーリス君の目が輝いているけど、感動されても困るし、「お御髪」なんて言葉初めて聞いたけど?


「あ、ありがとう?スザンナが結ってくれたの。帽子で隠れちゃうのがちょっともったいないけど。」


そう、侍女は帽子かショールが必須。結構前髪を出すタイプが流行っているけど、髪をまとめてある部分は隠さないといけない。


「ルイス様大変だよ!青系統の帽子がない!」


ノリッジから持ってきた私の服を漁るスザンナ。帽子はガーデンパーティーか夜会会場に着くまでの間しか被らなかったし、あんまりバリエーションはない。


「白でいいと思わない、モーリス君?」


「聖女様の仰せの通りです。」


ううん、率直な意見が聞きたかったんだけど。モーリス君と話しているとたまにこう、ご馳走しようっていうときに「なんでもいいよ?」と言われて困ってしまうみたいな感覚がある。


スザンナが持ってきた白い帽子をかぶる。帽子だけ浮いてしまって、あんまりしっくりこない。


「黒の方がいいかしら。そういえばモーリス君、スザンナが服を洗濯しないまま返しちゃったんですってね。モーリス君としては親切に申し出てくれたんでしょうけど、やっぱり恥ずかしいから、一度洗濯させてもらえないかしら。」


服を借りるときモーリス君を恥ずかしがらせておいて申し訳ないけど、やっぱりレディとしてどうかと思うから。


モーリス君はにこりとして恭しく礼をした。


「お気になさらないでください、聖女様。どうぞご心配なく。聖女様のブリーチは丁重に祭壇に飾ってありますので。」


はい!?


「やめてえええ!!!私の履いたズボン崇めないでえええ!!!」


「ルイス様、声が大きすぎ!廊下のフランクが気づいちゃうよ?」


そうきたのね。匂いを嗅がれる方がまだ純情な感じがしてよかった。


「聖女様が身につけたものは皆『ズボン』となるのですか?真鍮のネームプレートを発注しようと思うので、スペルを教えていただければ・・・」


モーリス君はどこまでもモーリス君。部屋が質素だからきっとネームプレートがやたらと目立っちゃう。


「とりあえず黒い帽子でいいよね、ルイス様?」


スザンナの冷静な一言で我に帰る。今日はスザンナの格好が落ち着いているからあんまり劣等感に惑わされない。


「モーリス君、そんな大したものではないから、ちゃんと洗濯して着てね。」


「そんな、いけません、ブリーチは直接身に着けるものですから・・・」


またほっぺをピンクにしてもじもじするモーリス君。


そうね、現世の男性はパンツを履く文化がないわけだし、丈のかなり長いシャツを下着がわりにしてその上からタイツかブリーチを履くわけだから、モーリス君が恥ずかしいのもわかる気がする。


あれ、恥ずかしいのは私じゃない?


「・・・モーリス君、忘れましょう。なんだかすごく恥ずかしくなってきたわ。あと、一応確認だけど、私はシュミーズとホース履いているから、モーリス君のは地肌に当たってないから・・・」


「そ・・・それは・・・わかっております、聖女様・・・忘れは、できませんが・・・」


モーリス君の青白い肌がピンクになっているけど、鏡を見たら私も人のことを言えない赤さになっていて、気まずくおろおろした。


「黒いやつを持ってきたよ!」


スザンナの声で安心するのってよほどの事態ね。


「ルイーズ様、準備はいかがですか。」


廊下からゴードンさんの声がした。昨日の日中はヒューさんについていてもらったけど、今日はゴードンさんの日なのかしら。


「もうすぐです!ゴードンさん、周りに人はいませんね?」


廊下に向けて声を上げる。


「見当たりません!」


フランクはいなくなったみたい。ルイーズと呼ばれても「聞き間違い」で済ませるようにルイス又はルイザなんだけど、どうせなら状況に応じて呼び分けて欲しいなとも思う。


改めて鏡台の前に立ってみると、黒い帽子も主張が強すぎた。


「スザンナ。この黒い帽子もいまひとつだわ。青いショールを持ってきて。結った部分だけお団子みたいにしましょう。」


こうなったら全身青系統で行こうと思う。ネックレスは真珠ね。


「お団子?」


「・・・ボールみたいにしましょう。」


そういえば団子を見たことないのよね。小麦粉はあるんだし製法的には簡単な気がするけど。


団子というワードが出て、急にお腹に注意が行ってしまう。お腹すいた。そういえば前もこんなことがあって、確か男爵が夕食を用意してくれなくて、ゴードンさんが・・・


「ゴードンさん!今日はビスケットありますか!」


廊下にまた声をかける。


「ありますよ!」


「嬉しい!」


着替えている間、すごくひもじかったから、ビスケットは涙が出るほど嬉しい。


「すみません、僕がポリッジを運んで来られなかったばかりに・・・」


「忘れましょうモーリス君、恥ずかしいことは忘れるのが一番よ。」


すまなそうにしているモーリス君に向けて、自分に言い聞かせるように呟く。


スザンナにショールを設置してもらうと、私はトタトタとドアを開けに向かった。


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