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CXXVII 仇敵ピーター・ジョーンズ

私は頭が痛いのを我慢しながら、「ステイズ」という前で縛るタイプの緩いコルセットをして、スザンナが棚から何本か出したペチコートから選ぼうとした。二日酔いで頭が働かない。


「ルイス様、そのタイプの胴着って、あたいみたいに胸の大きい人がするやつじゃない?」


「黙りなさい!それより、私がダウンしている間に、何か変わったことはあった?」


スザンナは少し考えたあと、いたずらっぽそうな笑みを浮かべた。


「あった、あったよ!喘ぐ人が様子を伺いにきたけど、部屋に入れずに服だけ返しておいた。ブリーチは洗濯するはずだったけどそのままでいいって。ひょっとしたら今頃、そっと匂いを嗅いでたりしてね!」


「モーリス君に限ってそんなことは・・・ないわよね?」


モーリス君も年齢的には思春期男子なんだけど、でも性格的には乙女だからそういうシーンは想像できない。


洗濯せずに返すのはすごく恥ずかしい。レディとしてもかなり恥ずかしい。でも借りるときに恥ずかしがるモーリス君を押し切ったから、おあいこというか、因果応報というやつかしら。


「さあね。あとは、夜に例のむせび泣く人が来ていたけど、ルイス様は二日酔いだって言ったら怒って帰っちゃった。」


アンソニーは毎晩通ってくるつもりかしら。王太子のところに出勤できなくなっているらしいし、暇なのかもしれない。噂の問題もあるけど、健康な人に毎晩マッサージするのは良くないのよね。なんとかしないと。


「あとは男爵様からの伝言が三つあって、マダム・ポーリーヌの服が明日の朝までに届くって。それと、ルイス様のお父様に状況が知らされ次第、ドミニクさんとアメリアさんにお誘いの手紙が行くみたい。あと、男爵がいない場所で強い酒は絶対に飲むなって。」


初日に仕立てた服がようやく届くみたい。ちょっとワクワクする。男性用の服を数着と、男爵のプレゼントで女性用も一着したてたのよね。


お父様には無罪判決が届いただろうけど、私からの手紙はついたかしら。私がよんだらアメリアは来てくれるだろうけど、ドミニクはひょっとしたら来てくれないかもしれない。助手がいっぱいいたレミントン家の厨房と比べると宮殿は勝手が違うかもね。ノリス君との約束があるからぜひ来て欲しいけど。私一人でパンナコッタを作るのはハードルが高い。


「ウォッカまではなんとかなったのよ。水だと思ってジンを飲みすぎちゃったのが敗因ね。急性アルコール中毒にならなくてほんとによかったわ。それはそうと、絶対飲むなって言われると思ったのに、男爵がいるところなら飲んでもいいのね。なんだか不思議な条件だわ。」


「急性・・・?なんでも、ルイス様は強いお酒を飲むと積極的になるんだって。」


私はほんとに何をしでかしたのかしら。男爵本人には恥ずかしくて聞けない。モーリス君あたりにそれとなく尋ねてみようかしら。


とにかく、お酒は控えようと思う。


「そんなことより、スザンナ、小間使いはどんな服装をするものなの?」


「前みたいな派手なドレスはダメ。あと侍女はファージンゲール必須だからね。」


ファージンゲールはスカートを広げるための骨組みみたいなやつで、動くときに不便だからあんまり履きたくない。


「気が進まないわ・・・大体、なんでみんなスカートを広げたがるのかしら。ジョーンズ少年みたいな不届き者がめくりかねないわ。」


ピーター・ジョーンズみたいな無礼者に一度遭遇するとトラウマになるのよ。


「ファージンゲールに固定していれば簡単にめくれないよ。それにめくれたとして、ルイス様ってズロースを履いてるんだね、色気なくてびっくりした!」


無礼者がここにも一人。


「履くに決まっているでしょう!まさか脱がしてはいないわよね!?」


手で確認する。昨日のやつだと思う。


そっか、庶民はズロースを履かないんだっけ。


「いい、スザンナ。下町の女の子がズロースやドロワーズを履かないのは、清潔でプライバシーのあるお手洗いにアクセスがないからよ。宮殿のお手洗いはいくつか改善の余地があるけれど、衛生的だし誰かに見られる心配もないわ。だから、慣れないだろうけどあなたも下の下着を履くといいと思うの。」


「なんで?」


キョトンとした顔のスザンナ。なんでと言われましても。


「なんでって、安心感というか・・・ブランコに乗れたり・・・それに、スザンナだって月一回は履かないといけないでしょう?」


「え、履かないけど?」


首をこてんと倒すスザンナ。


「えっ、じゃあどうしているの?一体どうしてるの!?」


私たちが男子禁制の会話をしていると、ドアをノックする音がした。


「聖女様、お具合はいかがですか?ポリッジをお持ちしました!」


ドアの向こうからモーリス君の声がする。おかゆを持ってきてくれたみたい。私の具合が悪いから気を利かせてくれたみたいだけど、身分が高いのにすっかり召使いみたいなことをさせちゃってなんだか申し訳ない。


そういえば私はご馳走を食べ損ねたんだった。レイアウトだけ見て、ウォッカを飲んで気を失ったのよね。ガチョウの丸焼きは正直魅力を感じなかったけど、マスの塩焼きは美味しそうだった。牡蠣もあったわね。デザートはなんだったのかしら。


思い出すと悔しさと同時に、凄まじい空腹が襲ってきた。そういえば、帆立のクリームスープを王子に会う前に食べてから、ほとんど何も食べていないじゃない!


「ありがとうモーリス君!あなたは私の救世主よ!ちょっとそこで待っていてね、今、私下着姿なの!」


廊下でガシャーンという音がした。モーリス君がバランスでも崩したのかしら。


ということは私のお粥が・・・


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