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CXXVI 認証官ハーバート男爵

「朝、鈍い日が照ってて 風がある。 千の天使が バスケットボールする。 」


「ルイス様、寝ぼけてないで起きて!もう昼だよ!」


スザンナに毛布が乱暴に剥がされて、私は起きる羽目になった。


「寝ぼけてないわ、詩を思い出しただけよ、もう朝じゃなかったけど・・・どれくらい寝たのかしら、頭が痛いわ・・・」


頭がぼうっとしているけど、同時にガンガンする。ほんとに天使がバスケットボールしている。


「スザンナ、化粧棚に置いてある時計をとってくれる?」


パタパタ動き回って格子戸を開けていたスザンナに頼み事をする。胸を半分出していた昨日のセクシー衣装と違って、今日は首元まである女中らしい服を着ているみたい。魔女みたいな濃い紫のワンピース。


「これでいいの?でもゼンマイが巻いてないから、時計止まっちゃってるよ。」


そういえば時計を巻いてなかった。昨日はそれどころじゃなかったし。


「もう予定が狂っちゃって困るわ。今何時なのかしら。」


「さっき鐘が鳴ったけど、10時半くらいじゃない?」


現世の人たちは時間に大雑把なのよね。機械時計は高価だけど、水時計くらいは部屋に欲しい。巻いていないと急に止まる機械時計と違って、水が足りなくなってくると気がつくし。


「私を叙勲したがっていた王子にねだったら、勲章の代わりに水時計くらいプレゼントしてくれるかしら。でもそれじゃあ、なんだかキャバレーの悪い女みたいで嫌だわ。今の撤回ね。」


ダメよ、ルイーズ。私はちゃんと独立したキャリアウーマンになるんだから。


「キャバレーってなんなの?あたいわからないけど、別にいいんじゃない?ルイス様は魔女なんだし。水時計は場所取っちゃうと思うけど。」


部屋が広いから、水時計くらいは置けると思うけど。


「魔女じゃないってば。それよりスザンナ、今日の予定は?」


「王子様が気を遣って、ルイス様は今日は休むことになったって。王子様は一日リアルテニス三昧みたいだよ。」


王子は意外と従者の福利厚生に理解がありそうなのよね。病気の従者一人のために狩を切り上げて帰ってくるくらいだし、過労になる心配はなさそう。


「じゃあもうちょっと寝かせて。」


起き上がった半身をバタンとベッドに倒した。ふんわりと眠気が襲ってくる。


「ダメ。男爵様はこの機会にルイザの認証式を済ませておこうって言ってるよ。明日は王子様とその勉強仲間と一緒に勉強だって。」


寝ようとする私を無視して服を準備し始めるスザンナ。男爵は悪い上司の典型例よね。仕事するのは構わないけど、思いつき頼みの行き当たりばったりに付き合っているから毎日が大変。顔はいいけど。


それはどうと、王子様はともかく勉強できそうな従者に全く会ってないけど大丈夫かしら。


「ルイザなんて架空の人物なんだから、認証式も架空でいいじゃない。副家令のハーバート男爵は私たちの味方なんでしょう?」


いちいち着替えるのも大変だし、ルイスの認証式にいた人がいたら困る。


「本当にいるかどうか疑われたときに証拠になるからって。あと、ハーバート男爵は味方でも、記録員とか下の役員まではルイス様の話が行っていないみたい。」


なるほどね。女が男装して女嫌いの王子に近づいているなんて、知っている人が少ない方が良いでしょうね。


「そうね、わかったわ、小間使いってどんな格好すれば良いのかしら。とりあえず地味なら良いのよね。」


もそっと起き上がって衣装棚に向かおうとすると、昨日と同じキャミソールを着ていることに気づいた。


「あれ、私、昨日の宴会でジンを飲んでから記憶がないのだけど、どうやって帰ってきたのかしら。」


少し冷や汗が出てくる。


「男爵がルイス様を抱えて帰ってきたよ。」


なんですって?


「え!?抱えるって、どうやって!?」


また恥ずかしいところをみられたのかしら。またバカにされる!


「どうって、こう、ゆりかごみたいに。」


スザンナが腕を揺らす仕草をする。


「それじゃあお姫様抱っこじゃない!」


「お姫様?お姫様は抱っこなんてされないと思うけど?」


スザンナは混乱しているけど、私も私で人生二度目にして初めてのお姫様抱っこに動転していた。


「でも意識なかったし、ちょっと待って、私が着ていたモーリス君の服も男爵が脱がせたの?」


あの青緑の服が見当たらない。


「脱がせたのはあたいだから大丈夫だよ。あとルイス様意識はあったみたいで、男爵様に怖い呪いの呪文を唱えてた。なんだか『ホソマッチョ』とか異国の言葉で唱えていたけど、どういう効果があるの?男爵様が恐れをなしていたよ。」


スザンナはお風呂を手伝ってもらっているから見られてもまあいいけど、男爵に何を言ったのかしら、私。


恥ずかしい情報の量が多すぎて、私の頭はすっかりキャパシティーオーバーになっていた。


千の天使が バスケットボールする。

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