XI 黒い影ジェラルド・フィッツジェラルド
逮捕令状を取り出した黒い影二人は、表情は見えないけど達成感に溢れているみたいだった。
「さあ、俺たちに付いてきてもらおう。」
声が低い方の男が先導して、黒尽くめの二人はじりじりと私とフランシス君の方に近寄ってくる。
いくら男子中学生みたいな声をしてても、顔の見えない黒服に近寄られると本能的に怖い。無意識に後ずさってるのに気づいた。
「抵抗は無駄だ、ルイーズ・レミントン、俺たちは全ての肌を布で覆っている。」
声が高い方が誇らしげに宣言する。
肌を覆えばマッサージが効かないと思い込んでいるのかしら。全裸なら魔法が効くと思い込んでた男爵も大差ないけど。
「くらえっ」
どこに持っていたのか、突然声の高い方がロープを投げつけた。たちまちロープが体にまとわりつく。
フランシス君の体に。
「わあっ。」
「はははっ、油断したなルイーズ・レミントン、さっきは令状を取り出すふりをして袖口にロープを用意していたのだ。」
声の高い方の影はフランシス君に向いて自慢げに言い放った。
確かに油断したしすごいと思うけど、相手に種明かしをする必要があるのかしら。
ともかく苦しそうなフランシス君を助けてあげないと。
「ルイーズ・レミントン、お前の魔法は接近戦でしか効果がないのはわかっている。ロープを前にしてお前は無力だ。」
声の低い影が高笑いをすると、フランシス君の周りをぐるぐる回り始めた。あんまり格好良くないけど、近づかないまま縛りつける戦略みたい。
シュールだけど恐ろしい光景だわ。縛り方を間違えるとフランシス君の首が絞められるかもしれない。フランシス君が実は拳法の達人だった、とかいう展開を淡く期待していたけど普通に捕まっちゃってる。
二人とも顔を黒いレースで覆っているから、私たちの見分けがつかないのかしら。
止めに入ろうとしすると、声の高い方の影が私に近づいて制止してきた。
「侍女の方はおかえりください。逮捕令状はルイーズ・レミントン宛なので、俺たちはあなたに危害を加える気はありません。レミントンも逮捕するだけで、直接危害は加えません。」
黒装束の悪役にしては丁寧なセリフ。
そうか、私の顔を知らないんだ。
王都の人はルイーズ・レミントンを見たことがない。肖像画だって、「座っている両親の周りで戯れる子供三人のうちの一人」として一回登場したくらいで、それも9歳のとき。栗毛は珍しくないし、多分ルイーズが誰だかわからないはず。今日は裁判っぽい格好をしてないから、私が侍女だと思われたんと思う。
縛られなかったのは良かったけど、このままだと巻き添えになったフランシス君がひどい目にあいそう。男爵が帰ってくるまで時間稼ぎをしないといけない。




