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X 東の魔女ルイーズ・レミントン

馬車は王都の雑踏の中をすり抜けて、やたらと装飾の多い石造りの建物の前で止まった。


「これが星室庁の建物だ、この奥の部屋の入って待っていて欲しい。簡単な手続きだけですぐに終わるからね。」


男爵が私の目を見て諭すようにいうと、私たちは馬車を降りた。こういう時は男爵の微笑が余裕の象徴みたいに見えて心強い。


正直、男爵の言っていることが全部嘘で、部屋に入ったら本格的な裁判だった、という展開も心配しなかったわけじゃない。でもそれはノリッジのときと変わらないし、あれ以上悪くなることはないと思えば強気になれる。


「王都の裁判所なんて滅多に入れないし、観光気分で楽しんでくるわ。」


「さすが魔女、その意気だよ。」


「ちょっと!魔女じゃないって判決が出る前なのに、魔女扱いしないでよね。」


ちょっと緊張してるけど、悟られないように振舞ってみる。


天井の高い廊下には誰も人がいなくて、ノリッジの裁判所のガヤガヤした雰囲気とはだいぶ違う。


「静かね。」


考えてみれば非公開の裁判なんだし、くる人もいないのかな。


その時だった。


「なんだ!?」


パアンと何かが破裂する音がして、男爵が後ろを振り返った。さっき降りた馬車の方から音がした。


「様子を見てくる。」


「私も行きます。」


音の正体は怖いけれど、このアウェーの場で一人にされたら困る。


「いいかい、枢密院の部屋には枢機卿を始め重要人物がすでに着ているから、ならず者は中には入れない。フランシスもいる。前に進んだ方が安全だ。いいね。」


男爵が早足で戻っていって、私はフランシス君と取り残されてしまった。


「急ぎましょう、フランシス君。」


とりあえず裁判の部屋に入ってしまえばいいはず。


「待てっ!」


どこからか二人分の声がして、廊下に反響した。柱の陰からふらっと黒い影が二つ出てくる。よく見ると人の形をしているみたい。


「魔女だ!」


普段喋らないフランシス君が怯えたように叫んだ。魔女裁判で本物の魔女に会うなんて。いや、私の前の裁判で魔女が出廷していたのかも。


「魔女に魔女って言われる筋合いはない!」


私たちから5メートルくらいのところに立って、黒い影が言い返してきた。なんだか前世の男子中学生みたいな声で、ちょっと拍子抜けしてしまう。


ちなみに魔女が魔女を魔女って言ってもいいんじゃないかと思う。魔女は魔女にとっても魔女だよね。


「落ち着けアンソニー。いいか、東の魔女ルイーズ・レミントン、枢密院の名の元にお前を逮捕する。」


今度は男子高校生みたいな声が響いた。私が東の魔女ってことは西にもマッサージする人がいるのかしら。


年上の黒い影は頑張って袖から令状を引っ張りだしていた。頭を含めて全身を覆っている黒服が、身動きを取りにくくしているみたい。


「大丈夫かジェラルド。」


年下の黒い影が手伝っている。


なんだか逮捕シーンにしては締まらない。この手際の悪さから言って逃げるより男爵が帰ってくるのを待ったほうがよさそうね。


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