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CVIII 先輩ウィリアム・コンプトン

王子の目前でコンプトン先輩が私に決闘を申し込んで、私も男爵も呆気に取られていた。


「コンプトン、一体何を言い出すのだ。」


王子も困惑顔をしている。どうやら先輩を焦らす目的はなかったみたい。


「王子様、俺は俺の仕事にプライドと誇りを持っています。新入りに取られるのを指を咥えて見ていることはできません。さあ決闘だリヴァートン。」


宛名が間違った決闘の申し込みって無効になるのかしら。


「落ち着いてくださいコンプトン先輩。先輩の仕事は奪いませんし、殿下の耳かきも秘訣を教えて差し上げます。更に先輩より先に殿下からファーストネームで呼ばれることも辞退いたします。」


「いや、私としてはルイ・・・リディントンに頼みたいのだが。」


私が途中で睨んだので、殿下も言い直してくれたけど、コンプトン先輩の機嫌は治らない。


「おのれリヴァートン、先輩を敬わずに、よくも王子様を!」


先輩、「を」の次には何がくるのでしょうか。私、耳かきしただけですよ?喜んで引退しますよ?


今まで静かにしていた男爵が前にでた。


「ルイス、コンプトン、ここは殿下の味わった耳かきとやらを、コンプトンも味わうということで手を打ったらどうかな。殿下も、そうすればコンプトンも納得すると思いませんか。」


手を打つって動詞の使い方が間違っていると思う。コンプトン先輩も配下に入れる気なんだろうけど、耳かきについては私に技術がないし、単に王子が耳かき好きだっただけだと思うから、先輩に所定の効果があるとも思えない。


「男爵、申し上げたように耳かきは体に悪いのです。すでに耳かきにはまってしまっていた殿下はともかく、まだ無垢な先輩にするのは酷です。」


大体、次から次へと従者を耳かきする羽目になったら悪夢だわ。


「しかしルイス、普通に決闘をしたら負けるのではないかな。」


薄笑いの男爵が指摘する通り、よく見るとコンプトン先輩はモーリス君やフランシス君よりも体格もいいし、ノリス君と違って運動ができそう。王子やブランドンやトマスを見慣れたせいで気がつかなかったけど、真剣勝負をして私が勝てるとは思えない。


「そうですね、先輩、私は剣術の心得もありませんし、先輩に勝てる気がしません。リアルテニスでの勝負はいかがでしょう。」


「リアルテニス・・・?」


ちょっと混乱している先輩。


「そうか、リディントンはリアルテニスが大の得意だからな、危険な剣術よりも平和で良いだろう。」


言っていることはもっともだけど、さっきから一言余計なのよ、王子。


「なっ!リヴァートン!お前は自分の特技で勝負しようとしたな!卑怯者め!剣で堂々と勝負しろ!」


王子が何回もリディントンって言っているのに学ばない先輩。


「コンプトン先輩、私に剣の心得がない以上、剣も卑怯に変わりがありません。」


「ぬ・・・」


平和理にこのくだらない紛争を終わらせられないかしら。


あまり気が進まないけど・・・


「そうだ、先輩、二人のうち王子をより気持ち良くさせた方が、今後王子を気持ち良くさせる権利を独占する、ということでいかがでしょう。先輩が誇りを持っている仕事についての勝負で、かつ私たちの争点は職務領域についてだから、これが最適だと思います。」


もちろん先輩に勝ちを譲る予定。先輩のターンになったら逃げる。


「私としては構わないが。どうだコンプトン。」


王子は少し楽しみなご様子。


「分かった・・・要は王子様を気持ち良くさせればいいんだな。」


先輩も同意して。決闘の危機は遠のいたみたい。最初からあんまり危機感なかったけど。


「それでは、先輩のターンでは私は東棟から居なくなります。あと私が先攻でいいですよね。」


「ああ。」


コンプトン先輩はおもむろにキラッとした刃物を懐から取り出した。


「先輩、武器は禁止ですっ!」


驚いて思わず早口になる。


「いや、これは道具だ。俺は顔そりで勝負をかける!」


剃刀だったみたい。何真剣な顔で宣言するかと思ったら。


とりあえず私は逃げずに済みそう。


「・・・わかりました。では私は先ほど耳をほぐしたのが殿下に好評だったので、顎から耳元にかけて蒸しタオルでほぐして参りましょう。殿下がどちらが良かったか後で判断する、という順でいいですね。」


「よかろう。」


王子もうなずく。


経験がないからわからないけど、蒸しタオルでほぐれた顔はきっと顔そりにもいいはず。でも皮膚が柔らかすぎると切れちゃったりするんだろうか。不安もあるけど、とりあえず顎をほぐしてもあんまり気持ち良くないから私の負けは堅い。


血が出たりして先輩が減点になったら頑張って私のせいにしてもらおうと思う。


先輩に花を持たせるなんて、私ったらなんてできる子でしょう。


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