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CV 中毒者ウィンスロー男爵

ぐたっとして動かない王子を前にして、私たちは立ち往生していた。


「でも、耳かきをカードに王子と交渉しようにも、まともな返答がもらえる状況じゃないわ。そもそも何を頼むのかしら?女の子と仲良くしてほしいって言ってみる?まずは女嫌いの原因を聞いてみるのが一番だと思うけど。」


男爵の最終目標は王子が子供を持つことだけど、とりあえず私の任務としては女性と適切なスキンシップを取れるようになってもらえばいい。


「そんなまどろっこしいことをしていられないよ、ルイス。とりあえず、さっきの蒸したタオルで、念のため王子に目隠しをしてあげてくれないか。」


男爵は何を考えているのかしら。でも王子は幸い口が開いていなかったから、ちょっとトロンとした目を隠すとかなり見栄えは良い。なんだか革命の志士って感じがする、王族だけど。無反応な王子に、あまりきつくない感じで目隠しをしてあげることにする。


「さてルイス、王子は魔法に堕ちたものの、ルイスの魔法の本質に気づいているようだったね。今後、本人は言いなりになりつつも、自分の置かれた状況にどこか疑問を持ち始めるに違いない。つまり、本人の葛藤がある中で、こうしたチャンスはあまり巡ってこないかもしれないね。」


男爵は一体何を言っているのかしら?


「魔法の本質って、ひょっとして悪魔に魂を売り渡す云々のこと?だとしたら見当違いも甚だしいわ。大体男爵にも掌のマッサージをしたけど、私の言いなりになってはいないでしょう?」


「私は堕ちずに踏みとどまったからね。だけど危ないところだった、モードリンが救ってくれたときには向こう側が見えていた。」


男爵が懐かしい思い出を語るみたいに遠い目をする。


「男爵の妄想には興味がないですけど、王子が耳かきを魔法だと思っているのなら、男女関係なく私の立場が危うくなってしまうわ。」


「それは心配ないよ。ルイス、君の魔法には中毒性があるんだ。現に私も左手に魔法をかけられたくて仕方がない。魔法に無様に操られて醜態を晒すウィロビーやセントジョンを見てきたからこそ、なんとか食いしばって我慢をしているんだ。」


男爵、今まで全然我慢していなかったよね?何度もねだってたよね?この黒服イケメンはいつだって都合のいい解釈をする。


「つまり、王子は魔法と知りつつやめられなくなってしまうということ?タバコみたいなものね?」


「タバコというと?」


こっちにタバコはないみたい。宮廷には耳かきやゴルフが存在したから、ノリッジになくても宮廷にはあるかもしれないと思っていたけど。


「知らない方がいいわ。男爵の見た目にはとてもよく似合うと思うけど、健康によくないの。煙を吸うのよ。」


「確かに体に悪そうだね。言われてみれば、魔女の儀式にそういうのがありそうだね。」


考えてみれば最初にタバコを吸った人は何が楽しくて葉っぱに火をつけて吸おうなんて思ったのかしら。男爵は葉巻でもパイプでも似合うと思うけど。


「私は健康第一のマッサージ師だから、そんな怪しげな薬なんて使いません。」


「いや、宮殿にきてからアーモンドミルクだの、アロエだの、石英だの、滅多に使わない材料を次々と発注しているじゃないか。」


男爵は私の買い物をチェックしていたみたい。男爵の予算だから当たり前かもしれないけど少し気恥ずかしい。それにしても、ノリッジでは普通に調達していたから、あんまり珍しいと思っていなかったけど。


「あれは全部美容のためだし、私自身が使っているの。王都からノリッジに売られていた化粧品の方がよっぽど魔女らしい材料を使っていたわ。」


「そんなに気を使わなくても、ルイスは十分綺麗だと思うけどね。肌が美しいのはその魔法の材料のせいなのかな。」


相変わらずの微笑を浮かべる男爵。この人、顔はいいのよね。一応は毎回格好を褒めてくれるし、泉に連れて行って脱がそうとする王子よりはポイントが高い。当然王子は私を男だと思っているけど。


「散々人の体型をからかっておいて、調子がいいんだから。それで、私は何をすればいいの?」


男爵は肩を竦めた。


「さっき言ったように、これが魔法だという疑いがある王子は、我々が予想したほど頻繁にせがんではこないだろうと思う。月一回じっくり王子の女嫌い物語を聞くよりも、目隠しをして手っ取り早い方法があると思ってね。」


嫌な予感がしてきた。


手を叩く男爵。


「スザンナ、出ておいで。」


「はあい!」


控え室のドアが空いて、スザンナが出てきた。


「ちょっと!スザンナ、なんて格好をしているの!?」


スザンナは完全に肩のでたワインレッドのイブニングドレスを着ている。胸の上で縛るのが唯一の固定手段になるやつで、すごく露出度が高い。私には色々とリスクが高すぎて着られないタイプの服。赤い髪を垂らしていて、これは前世でもセクシーな部類、現世では御法度。


「着替えるのに時間かかったの。でも見て、あたい綺麗でしょ!?」


綺麗といえば綺麗だけど、不健全な感じが先行する。耳を挟むタイプのイアリングをつけていて、地味なネックレスが胸の谷間をアピールしている。


「スザンナ、そんな服をきて、一体何するつもり!?」


誇らしげに胸を張るスザンナ。この子は何かにつけて大きな胸を強調するから憎たらしいのよね。鼻息が荒くなっているみたいで、花瓶の百合の花が少し揺れた気がした。


「心配しないでルイス様、むせび泣く人でちゃんと練習したし、あたい、ちゃんとできると思う。」


心配が倍増する恐怖の発言があった。


一国の王子に何をしようとしているの、この二人は?

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