7章34話(ハーレム編_クリスマスパーティ) 閑話_遊園地②
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俺と華たちは昼ご飯を食べに、遊園地の中のレストランに行っていた。
注文の順番を待っている間、大体自分たちが食べるものを決めた直後。
「ちょっと値が張るわね…」
華が少し眉をひそめる。
こういうアトラクションのグルメは、普通に値が張る。
華はそこまで調査していなかったようだ。
「こういうところにあまり来たことなかったのか?」
「そうね…。親も忙しくてあまり家族で出かけることもなかったし…。それに、普段は家でごはん作るし…」
「もしかして、予算が足りないか?」
「…弟たちが食べる分には足りるわよ」
それは自分が食べなければという話をしているのも同然だった。
「なんだ…それくらいで悩むなよ」
「え?」
「俺がここは出すって言ってんだよ。」
「悪いわよ…。遊園地のチケット代でさえ、和人に払ってもらったのに…」
そうだ、俺がこの代金を払っていた。
まあ、俺が誘ったからな。それくらい払うさ。華は代金については最初断っていたが、無理やり納得させたが。
だから今も拒んでいるのだろう。
「気にするなよ。俺とお前の仲じゃないか」
「……それとこれとは話が別よ」
「別じゃないさ。俺はお前が一番距離が近い友人だと思っているし、支えになるのは当たり前だと思っている。正直言うと、今日は俺が全部払う気でいた。所持金に心配はないさ。これくらいしか使う機会はないし」
「…友達なら全部払うってのは、少し違うと思う」
「…? 何をそんなに拒んでいるんだ?俺と華の仲で、そんな遠慮することないじゃないか。それに、ここでお前だけ食べなければ、華の家族も気まずい思いをするだろう。俺に出させてくれ。なに、後でごはん食わせてくれよ。俺の好物頼むぞ」
「あ、ちょっと…」
俺はそういうと無理やり代金を払った。
華は不満げに俺の方を見ていたが、これ以上言い争いになると、この楽しい雰囲気が崩れる。それを察してか言葉には出さないようだった。
だが、この件が尾を引いた。
楽しくご飯を食べ、次のアトラクションを向かう。それが終わるとまた次。アトラクションを回り続ける。
雰囲気には出さないが、どこか浮かない様子を見せる華。
家族は気づいていない。それはおそらく彼女のプライドがあるのだろう。
だが、俺にはわかった。年齢から読みとれるものだろうか。
…悩みは早く解決するのがいいな。
俺は次のアトラクションに向かう間、華たちの会話を横目にある人物に連絡をした。
端的に要件を述べ、相手はすぐに俺の意図を理解し、了承をする。
そして、目的のその人物が俺たちの目の前に現れた。
「あれ…、えっ、海ちゃん?」
「はい、お疲れ様です。華先輩」
海が俺たちの目の前に現れた。
「奇遇ね。友達と遊びに来たの?」
「いいえ。一人できました。恥ずかしいですが、この遊園地が好きなので一人で回りに来たのです。結構来たりするんですよ?」
「そうなんだ。確かにマスコットもかわいいし。女の子のファンも多いものね。」
「はい。先輩たちはご家族で?」
「そうよ。みんな、挨拶しなさい。」
「「こんにちは…」」
いつもよりも元気がない、というよりも疲れがにじんだ声を弟妹達は出していた。
「はい、こんにちは。挨拶ありがとうございます。……どうやらお二人は疲れているようですね。眠そうです…」
「そうね…ごめんね、みんな。もっと、気にしてあげればよかった…」
普段の華ならば絶対に気づく。だが、やはり悩みがあるせいだろう、気づけなかったらしい。
「私がお二人を見てますよ。先輩たちお二人は次のアトラクションを回ってみてはいかがでしょうか?」
「え、そんな悪いわよ…」
「いいのです。普段お二人に色々お世話になってますから。だから気にしないでください。言い方は失礼で申し訳ありませんが、純粋にお二人で楽しむ時間もあった方が、より今日はよくなると思います。」
「…」
「もしそれでもお気になされるようでしたら、今度、またごはん連れて行ってください。それに勉強も教えてください。ね、和人先輩もよろしいでしょうか?」
「ああ。ありがとう、海。ほら、華。海もこう言ってくれてるし、行こうか。これで最後のアトラクションだろう、今日は? これが終わったら帰るんだし、最後に少し二人で楽しもう。後輩の好意を無下にするのもよくない」
「……ええ。ありがとう。それじゃあ、お言葉に甘えようかしら」
「はい。わかりました。それではまた…。」
最後に海に目配せをして、俺と華は最後のアトラクションに向かった。
海に俺は連絡していたのだ。
華と二人で話す時間が欲しいと。
だから、適当に辻褄を合わすよう求めた。
海はできるやつだった。昔の海に戻った、『今』の海は、こうして俺の都合がよくなるよう動くことには長けている。だからスムーズに事が運ぶことは予想がついていた。
…今は、くそみたいなことをしている俺の自己嫌悪は無視し、華に意識を集中しよう。
最後のアトラクション…、それは観覧車だった。
最後は観覧車から遊園地全体の景色を見て終わる予定だったのだ。
華は順番を待っている間、無言。
普段は溌剌と話しかけてくる彼女。だが、やはり悩みがあったのだろう、こうしてテンションが低い様子を見せている。
順番になり、観覧車にのる。
ようやく、二人きりの空間になった。
この遊園地の観覧車は結構でかい。二人がゆっくりと時間を過ごせるほどに。恋人たちにも人気のスポットらしい。
まあ、俺は二人で話す時間があればいいのだが。
「なあ、華。何か悩みがあるなら言ってくれ」
「……別にないわよ」
視線をそらす華。だが、左下に視線をそらす様子は、彼女の癖だった。都合が悪いことになるとやってしまう癖。
「なあ、……俺に不満があるのなら言ってくれ。言ってくれないと直しようがない。気づければいいのだが、……すまない俺は鈍感と言われている。だから、はっきりと言ってくれると助かる」
「和人が悪いことなんてないわ……。悪いのは、私」
「……何がだ? よければ、言ってくれないか。いうだけで気持ちも楽になると思う。それに、今日は楽しい思い出で終わりたい」
「……わかったわ。…私、和人に甘えてばかり。だから、勝手に自己嫌悪に陥っていただけ。」
「そんなことない。逆に俺がいつも華に助けてもらっている」
「いつ?」
「え?」
「いつ私が和人を助けたの?」
「……俺の友人でいてくれること。横に居てくれること。それだけで助けになっている。」
「それだけだったら、普通の友人でもできることじゃない。私が和人に本当に力になってることって、あるの?」
「…何を言ってるんだ? 普通の友人だったら、そんなこと気にする必要ないだろう?」
華は少し黙った。だが、話をつづけた。
「和人……。あなた、私に甘すぎるのよ。よくしてくれすぎているのよ。それに甘えすぎていた私が言うのもあれなんでけれど…。今日だってそう。私がちゃんと払うべきだった。私のミスよ。雰囲気が悪くなっても…私のお金で済ませるべきだった。」
「…」
「最初の出会いだってそう。和人のおかげで私はみんなに受け入れられた。それからだってそう。和人のおかげで友人も増えたし、後輩たちともつながりができていったし、勉強もわかっていったし、……一番大事な家族とも、楽しく過ごせるようになった。正直あの時は疲れていて、楽しいという心がしぼんでいた…。だけど、和人がいてくれて、私、毎日が楽しいの。……だけど、与えられているだけ。私、何も返していない」
「何も返してないだと…? そんなことは断じてない。俺もお前がいてくれて、毎日が輝いている。それに、俺はお前に頼っている。飯だって食わせてもらっている。」
「それだけよ。……今日だって、そう。私が和人に甘えてばかりの結果で、この遊園地に連れてきてもらった。……チケット代さえも出してもらった。」
「俺は気にしていないし、力になれてうれしいと思っている」
「和人。あんた、私に優しすぎるのよ。それに、違うの。これは、私が甘えすぎた。それだけの問題よ」
「……」
話は平行線をたどっているように感じた。
「本当は言う勇気がなかった。そして、私が言うのも烏滸がましいと思う。だけれど……和人、はっきり言うわよ?」
「……なんだ?」
「あまり友達がいなかった私が言うのは正直どうかと思うけど……。私たち、友人の距離感じゃないと思うの。友人だったら、頼り頼られの距離感が正しいと思うけど、私は和人に甘えすぎてるだけ」
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