7章33話(ハーレム編_クリスマスパーティ) 閑話_遊園地①
暗くシリアスな場面が続いたと思うので、一旦明るい話を挟みたいと思います。
………
……
…
まあ、これはあまり攻略の本筋に関わらないことだ。
気楽にしてくれ。
「ほら、和人。早くいくわよ」
「はいはい。そんなに早く歩かなくても、アトラクションは逃げないぞ?」
「何言っているのよ? 今日はとことん楽しむんだから! あんたもやる気出しなさい!」
「……わかったよ」
俺と、華。そして華の弟妹達。そのメンバーで遊園地に来ていた。
何故かって? それは前に華と約束していたからだ。前、俺は華にいった。林間学校での埋め合わせをすると。ただそれを遂行しているだけだ。
「ほら、私たちが早めに来たから、人気があるアトラクション結構空いているわよ。早く行きましょう! ほら、みんな行くわよ!」
「お前よく知ってるな、人気があるところなんて。俺、何も知らねぇわ…」
「あんた、予習が足りないんじゃないの? そんなんじゃだめよ! やる気出しなさいっ」
「いや、別にやる気なんて…」
「はぁ!?」
今のは失言だったな。
華は明らかに楽しみにしていたようだった。
華の携帯がちらっとみえたがメモ帳に今日の遊ぶ内容のスケジュールが見えた。
それだけではない。
服装も、いつもより気合を入れているようだった。ツインテールの髪飾りも新しいもののようだった。
「そ、そんな怒るなって…。言葉が足りなかったな。俺はお前と一緒なら、どこでも楽しめるって言ってるだけだよ。」
「そ、そう…。……って、そんな言葉じゃ騙されないわよっ!」
「別にだまそうとしているわけじゃ…。ていうかお前、そんな楽しみだったのか? 予習しているなんて…」
「な、なによ……。別にいいでしょ。どうせなら楽しみたいって思って…」
「…いや、お前が正しい。ごめんな。俺も楽しもうとすべきだった。……よし。ほら、気張って行くか!」
「ふふっ、なによ気張るって。やっとやる気出してきたわね。みんな、負けないようにするわよ!」
「「はーい!」」
「華」
「何よ?」
「今日の恰好、かわいいぞ」
「…そっ。ありがと」
そうして俺らはアトラクションを回った。
特筆すべきことはない。
ただ、人気のあるスポットを回っていっただけだ。
華はあらかじめアトラクションを回るスケジュールを組んでいるようだった。何時ごろにどのアトラクションが混むだろうと予測し、回る順番を考えていた。それも、弟たちの体力も考えつつだ。
ちょうど、俺がトイレ休憩でグループを一人抜け出したときだった。
「和人君」
「……海か」
トイレに行く途中に後ろから声がかかってきた。
「お前、今日ここまで来ていたのか」
「はい。和人君を支えないとと思って」
海にはいつものように『あること』をお願いしていたが、まさかここまでついてくるとは思わなかった。それに……。
「昨日言っていなかったか? 今日は俺は遊園地に行くから、任意行動だと。遠回しに、休憩といったつもりだったが…」
「はい、任意でここまで来ています。」
「…休憩していなくないか?」
「いいえ、休憩ですよ? 和人君を見ると癒されます」
「…そうなのか?」
「はい、そうです。」
「「……」」
俺はゆるキャラか何かか?
これまで海と背中越しに話していたが、海の方を振り向く。
海の姿は、……なんというか少し特殊だった。
海は、この遊園地のキャラクターの顔が乗っている帽子をかぶっていた。
そして、片手にはソフトクリーム。もう片方には風船をつかんでいた。
本当になんというか…。悪く言えばミーハーな恰好だった。
「お前、……なんというか楽しんでるな?」
「はい、『楽しもう』としています」
「ああ、せっかく来たからという意味か」
「いえ、それもありますが、他の意味が大きいです」
「……? カモフラージュするためとかか?」
「それもありますが……わかりませんか?」
なんだろうか。
いつもよりジトーっとした顔をしているが…。
ん? ジトーっと…?
海の顔を見ていたが、そういえばさっきから何か不満げな顔をしていたような…。
「……『楽しもう』ってことは、最初は楽しくなかったのか?」
「…はい」
「なぜだ? 女の子はこういうところに来たら、自然に楽しいものだとおもっているが…」
「……うー」
「うめき声をあげるな。面倒だからさっさと吐け」
「では、……えいっ」
そういって海は俺の胸の中に飛び込んできた。
これまでの条件反射で周囲を見渡したが、どうやら知り合いはいないらしく、少し安心した。
海がこんな迂闊なことを感情にままにするなんてないだろうから、どうやら事前のチェックを終えていると考えてもいいだろう。つまり、安心ということだ。
だが、この行動の意味に疑問を持つ。
「どうした?」
「うぅ…だって、だって。私も和人君と一緒に二人で遊園地来たかったですぅ…。一緒にいちゃいちゃしたかったですぅ…。」
ぐりぐりと俺の胸に頭を押し付けてくる海。
…はぁ。そういうことか。
ため息をつきながら、空を見上げる。
こいつ、自分の我を出してくるようになったことは良いことだが、こんな風にたまに子供っぽくなるよな。
抑圧された環境に身を置いていたせいで、大人びた態度をとることを周りに強いられる。そのせいで、感情を殺してきた。だからだろう。
…まあ、その一因が俺にあるのだが。
ただ、感情を出してくれること。それを俺は上から目線で何様だがうれしいと思いつつ、華にばれないかと気にしつつ、苦笑をした。
「あ、そんな表情の和人君……」
「なんだ?」
顔を上げた海は俺の方を見上げながら顔を赤らめていた。
「いえ、あまり見ない和人君の表情で……、なんというか、胸に来るというか…」
「なんだそれ?」
「……もっと、和人君のそのような姿、もっと見たいです。和人君のこと、もっと知りたいです」
「…前、お前と付き合っていた時。その時だ。その時、俺とお前は距離が近かったはずだが…」
「…はい。でも、その時の和人君のこと好きでした。ただ、憧れが強かったと思います。私よりも頭がよくて、みんなに好かれていて。そしてかっこよくて…。でも、憧ればかりが強くて、……こんな和人君の姿を見なかった気がします。……いえ、見ようとしなかったと思います。あこがれた和人君のかっこいい姿ばかりを見ようとしていて」
「…」
「でも、そんな姿も見て、もっと好きになりました。」
「…昔のことは、あまり正直思い出したくない」
「…はい。でも、私にとっては、あなたと過ごした大事な時間です」
あの計画が俺の頭にある以上、こいつとこの時間軸で距離を詰めすぎる……、いや、もう実際の距離間は詰めすぎているが、俺の心を明かすことは得策ではない。
情を抱くことはよくないことだ。
だが、だが……。
「海、今日の夜遅くなってもいいか?」
「え? ええ…。別に家の者はもう私なんて興味ないと思いますので…。」
「夜遅くなると思うが……店が開いていれば、カフェにでも行こう。ゆっくり話そう。いつもの定期報告じゃない。お前が話したいことを話してくれ。」
「……いいのですか?」
「ああ。お前は人形じゃないんだろう? 人形じゃないお前をもっと見せてくれ」
「……はいっ!」
………
……
…