7章28話(ハーレム編_クリスマスパーティ) 問答
生徒会選挙、それは俺の学校では秋に開催される。
普通の学校と変わらないだろう。単に俺の学年のやつらが立候補し、生徒達に生徒会長が選ばれるだけだ。
生徒会の役員については、他の学校とは違うかもしれないが、ある程度生徒会長の権限により采配が認められている。
副会長においても生徒会長の推薦があれば、そいつがアサインされる。他のメンバーに関してもそうだ。役員の席が余っていたら、学校中の生徒が立候補し、最終的に生徒会長の権限により決定される。
アリアは生徒会長に立候補しようとしていた。それを、俺と華で行ったいつものカフェで話を切り出してきた。
「華、和人君……私、今度の生徒会長選挙、立候補しようと思っているの」
「え?本当? そっか、アリアが…。頑張ってちょうだいね」
「ありがとう、華…」
華とアリアは微笑みあった。そして話題をきろうとしたが、俺は待ったをかけた。
「何故なりたいんだ? 失礼なことですまないが、……内申点を稼ぐとかそういった理由か? それであったら、お前は十分に教師も含め、周りから認められている。もう必要がないくらいだ。何を言いたいかというと、…つまり、本音を知りたい。」
「そうね、それを初めに話すべきだったわね。…私、この学校に恩返ししたいの。華と、そして和人君と会えて、凄く楽しい思い出ができた。すごく幸せだった。学校のみんなにも、そうやって素敵な思い出を作ってほしい。その支えになりたい。生徒会長として、生徒全員を支えたいの」
過去の時間軸での志望動機が何かはわからないが、今の時間軸ではそのようなことを思っていたのか。
まあ、すでに想定済みのことだ。
「なるほど。ありがとう、気持ちはわかった。その思いは尊敬する。そのうえで聞かせてほしい。」
「ええ。何かしら?」
「票はすでに集まっているのか?」
「え……?」
「……和人っ。 突っ込みすぎよ」
「いや、友人の思いを形にするには、聞く必要がある。」
華が割り込んでくるが、聞かなければいけないことだった。
そう、こいつを生徒会長に確実にさせるためには。
「事前の裏取りが必要だ。そうだな、今の立候補者の数からすると、…学校の3分の一以上の票があれば確実と言っていいな。……いや、それほどいらないかもしれないが、数は集まっているのか?」
「…いいえ。私、そんなこと考えていなかったわ。」
「選ばれたら何をしたい、そしてその熱い思い、それはいい。だが、選ばれるための道筋を練るべきだ。生徒会長になるまでの目標を立て、動くべきだ。目標としてはまず、集めるべき票数を明確にするのがわかりやすいだろう。それはどれくらい入りそうか、目途はあるか? もうすでに周りに合意をとっている状態が望ましい。」
「事前にこそこそなんて、そんな卑怯なこと……。」
「卑怯? 卑怯ではない。では、何のために政治家は定期的に住民と交流を持っている? 顔を覚えてもらい、票を入れてもらいやすくするためでもあると、俺は考えている……。それだけではもちろんないと思うが。……なあ、お前は何も知らない、何も信用ならないやつに投票したいと思うか? 多くの生徒にとって、お前は何も知られていない。その状態から、どうやって、生徒会長になるというんだ?」
「和人っ!」
華が俺の横から口出ししてくるが、手で制止する。
「今は静かにしていろ、華。……アリア、それにお前は一人で選挙までの準備をするつもりか? ポスター作り、応援演説。色々な人員が必要だ。それを一人でこなすつもりだったのか? 支援者は集まっているのか?」
「……いいえ。……和人君の言う通りだったわ。……そうね、私、何も考えてなかった。それにごめんなさい。ひどいこと言っちゃって…。」
少しの間、お互い黙っている時間が過ぎる。
俺から口を開いた。
「いや、こちらこそ言い過ぎた。それに、さっき言ったことは俺の個人的な憶測が強い。思い込みかもしれない。あまり気に病まないでくれ」
「……いいえ。私、何も考えてなかった。それは本当のことだわ。ただ、なりたいとしか考えていなかった。でも、なりたいの…。」
ここからが畳み掛け所だ。
「アリア、お前はすごいと思う」
「…え?」
「普通の生徒だったら、内申点以外の理由でなりたいとは思わない。お前は本気で学校のためを思って、生徒会長になろうとしていた。きついことばかり言ってしまったが、それでもお前は萎えなかった。本気だと感じだ。すごいよ、みんなのために頑張ろうと思えるお前は」
「和人君…」
「言い過ぎてすまなかった。俺はお前を本気で生徒会長になってもらいたいと思っている。内申点ばかり考えてたり、目立つことばかり考えてたり、自分が得することしか考えていないやつ。そんな自分のことばかりで選挙に出るやつなんかじゃなく、お前に……。俺なんかが言ってしまって申し訳ないが、一番近い友達として…。」
「……うん。ありがとう。私も、和人君と華は、一番大事な友達と思っているわ。」
「お前を否定することばかり言っていたが、協力させてもらえないか? お前の手伝いをさせてもらいたい。」
「…え? 生徒会長になれなくて、徒労に終わるかもしれないのよ?」
「そんなことは些細な問題だ。何より友人の力になりたい。」
「でも和人君、最近凄く忙しそうだし…。」
「気にしてくれてありがとう。だが、それももう落ち着き始めている。……だめか? お前がいやだったら身を引くが……」
「いいえ! そんなことないの! ……いいの?」
「ああ、手伝わせてくれ」
「……うん。是非よろしくお願いします。」
黙っていた華が、真横にいる俺を小突いてニヤニヤしながら口を開く。
「何よ和人、遠回りしすぎ。もっとスマートに最初から協力したいって言いなさいよ。私も手伝わせて、アリア。家の用事とかあるから、いつも手伝えるわけじゃないけど…。」
「いいの、華まで…?」
「一番仲が良い友達に遠慮してどうするの! どんと私たちに頼りなさい! 和人をこき使ってね!」
「……お前が言うなよ、華」
「「「あはは!」」」
「すまん、ちょっとトイレ行ってくる」
そう言って俺は席を立ち、トイレに向かった。
先ほどまでの自分の開いていた口にイラつき、トイレの壁を強く殴った。
………
……
…




