7章26話(ハーレム編_クリスマスパーティ) 話すきっかけ
アリアと本格的に交流を持ち始めたのは、入学して少し時間が経った頃だった。
周りの人間とは明らかにかけ離れた容姿。外国との血がそうさせるのかはわからないが、精巧な人形にも劣らない程。美姫にも劣らない程の美貌。
だが、その容姿がこの国の人間との壁を自動的に作っていた。
自分とは違うものに対して距離を置くのは人間としての本能に近いのか、自然とそうなっていた。だからアリアの周りには人がいなかったのだ。
アリアも人との距離を詰めかねていた。本来の性格は、おそらく受動的な人柄なのかもしれない。自分から他者に話しかけようとはしなかった。
「……どうするか」
正直言うと、俺に少し迷いがあったのは事実だ。
これから行うことを考えれば、距離を縮めることは必要条件だ。
メリットとして、アリアの動向を間近で知ることができる。情報としてすぐに入ってくる。
デメリットが確かにあったのだ。
リスクと言ってもいい。早いうちに距離を詰めると、『あのリスク』が早い段階で発生する。それに、今のメンバーのスケジュールやその管理を考えると、俺の負荷が高まってくる。
だが、今回はメリットをとった。
「華、お願いしてもいいか?」
「ん? 何よ? 珍しいわね。」
下校中、一人で帰っているアリアを横目にしながら、横で一緒に帰っている華に切り出した。
「あいつ、いつも一人で帰っているだろ?」
「ああ、あの子ね。私たちと隣のクラスの……」
「お前の目から見てもやっぱり、いつも一人なのか?」
「そうね、私も体育の合同授業とかでしかあまり見ないけど……、大体そうかな。私の周りの友達ともあまり交流内から、それくらいしか知らないけど。」
「そうか…」
「何よ、気になるの?」
「そうだな。気にならないとは言えば嘘になる。」
「はぁ…また女の子ぉ? あんた、周りにいつも女の子いるじゃない。」
「そうか?」
「そうよ。あの可愛い二人の子たちもそうだし、かといって他の女の子たちもいるし。いつも女の子達いるじゃない…」
「あいつらは別として、今はただ交友関係を絞っていないだけだ。まだこの時期だ。みんな、様子を見ているだけだろう。次第に絞られてくる。長くて深い付き合いなのはお前くらいだよ。それに、お前だけだろう、これからも長く一緒にいてくれるのは。これからもよろしくな」
「ま、まぁ……私から別に離れようとはしないけれど……、って、ちょっと! 恥ずかしいこと急に言うの禁止って前言ったでしょ!」
「ああ、助かる。だから、あの子と仲良くならないか?」
「……ちょっと話が繋がらないのだけれど?」
「交友関係を絞らないという話だ。俺らから交友関係広げてもいいだろう? お前とも気が合うだろうしな」
「何で和人がわかるのよ?」
「それは秘密だ。直感だと思ってくれ。ちょっと交流して、あの子と合わないなと思ったらそれまでだし。俺も横にいる。俺ら二人であの子と仲良くなろうぜ。綺麗な子と仲が良いと、お前のクラスでの立ち位置も上がるし、メリットしかない」
「別に私は立ち位置なんて気にしないけれど…。まあいいわ。ちょっとあの子のこと気になっていたしね。」
そうやって華を説得した俺は、少し距離が離れていたアリアに近づいて行った。
「なぁ、少しいいか?」
「はい? えっと、何でしょうか…?」
少し疲れているような、いや緊張しているのか? どこか前の時間軸よりも暗いアリアと会話を始めた。
「同じ学年の生徒だ。和木谷和人。で、こっちが華。よろしくな。」
「よろしくね」
「あ、はい。よろしくお願いします…。」
「そう固くならないでいい。それに、敬語は不要だよ。同じ学年じゃないか」
「ありがとうございます。いえ、わかったわ…。ああ、華さんこの間はありがとう。助かったわ。」
「いえ、私こそ組んでくれてありがとうね」
「何かあったのか、華?」
「ええ。体育の時、ストレッチで一緒に組んだのよ。二人組を作るときにね。普段話している友達たちで組もうとしたら一人余るから、私が一人になって相手を探していたの。こちらが助かったわ。あのときたくさんお話したかったけれど、もう時間になったから残念だったわ」
「いえ、私相手が普段いないから凄く助かったの。それに嬉しいわ、そんなこと言ってくれる子、周りにいないから……」
苦笑いをするアリア。その辺の男だったら来るものがあるかもしれない。
「そうなの!? 意外だわ。今お話ししているだけでも、もっとたくさんあなたと仲良くなりたいと思うのに…」
「ありがとう。そうね、あまり学校では一人で居ることが多いの。だから誰かとお話できるのは楽しいわ。……あ、私に用事があって話しかけてくれたのよね? ごめんなさいね、私なんかに時間使わせて。彼氏との下校デート中なのでしょ? そちらの彼氏さんもごめんなさいね。」
華には悪いが、そのために華を連れてきた甲斐があるというものだ。男だけで言ったら警戒心があるというもの。
男の立場であってもそうだろう。女子が一人で話しかけてきたら、一体何事かと思ってしまうというもの。
話をスムーズに進めるために、華を説得したのもある。まあ、他にも理由はあるんだけどな。
さて、そろそろ話しに加わるか…。
「べ、別に彼氏ってわけじゃ……」
「あぁ、俺らは別に付き合っているわけじゃない。それに別に大きな用事というわけじゃない。強いて言えば、君と仲良くなりたかったからだ。」 「…ふんっ」
「え、私と……?」
「俺と華は同じ学校だったんだ。ちょうど入学して、俺らも交友関係広げたいと思っていたんだ。それで話しかけた。急に悪いが、この後時間あったりするか? よければ、今から一緒にカフェでも行かないか? ちょうど俺らもカフェで休もうとしていたし。俺も華も、君とゆっくり話せればと思っているんだが……」
「ああ、そういうことね。とても嬉しいわありがとう。でも……」
「ああ、ごめんな。予定あったよな。それとも体調悪かったか? 少し顔色悪そうだもんな…。よければまた誘わせてもらえたら嬉しい。もし男の俺が居たりしたら話しにくかったら、先に俺だけ帰っているが……。」
「ううん、ごめんなさい。気を遣わせて。あなたと話したくないってわけじゃないの。本当に話しかけてくれて嬉しかったわ。でもちょっと、家事があってね…。私、最近ここに来たばかりで、わからないことばかりなの。家事もその一つ。帰ってからやることが多くて…。クラスのみんなも最初は話しかけてくれたり、何か誘ってくれたりする子たちもいたのだけれど、断ったらそれからまったく…。私のせいなのだけれど、それでもさみしくて…。だから嬉しかったの。」
「……」
「そうしたら、周りはもうみんなグループを作ってて。話しかけにくくて。そうやってたら、もう話しかけにくくて…。」
その言葉を聞いて、黙っていた華は口を開いた。
「そうなのね……。少し失礼かもしれないけど、気持ちわかるわ」
「え?」
「私もね、家事に追われてた日々があったの。親の帰りが遅かったり、帰れない日が続いたりしてね。だから早く帰って、家族の面倒見たりしていたの。でも、そんな中で和人が話しかけてくれて、こうやって楽しく過ごせてるの。すごく気を遣ってくれて、それでクラスにも打ち解けてくれるようにして。」
「そうなの…。」
ナイスアシスト、華。さすがだ。
「おいおい華、そんな褒めないでくれよ。なんだ、今日はやけに優しいな。何かいいことでもあったのか?」
「うるさいわね! 恥ずかしいんだから黙ってなさい! えっと、何を言おうとしたんだっけ…。ああ、そうだったわ。私、あなたと仲良くなれれば嬉しいの。だから、時間を合わせることができれば、合わせる。そうね、今度のお休みの日に一時間だけどうかしら? おいしいスイーツがあるお店があるの。この前和人と一緒に行ったんだけど、また行きたいなと思ってて。厳しいかな?」
「ううん。大丈夫。お休みの日は比較的に空いているから。ありがとう。是非行かせてもらうわ。」
「ありがとう! 日頃の愚痴とかあるかと思うから、いっぱい愚痴ってね? あなたとお話するだけでも楽しいし、私もこのバカな和人の愚痴たくさんあるの。」
「やっぱり俺、席を外していいか? 肩身が狭くなりそうだ」
「ばかっ! 横で聞いて反省しなさい!」
「はいはい、わかったよ…。」
「うふふ……」
………
……
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