7章22話(ハーレム編_林間学校) どうでもいい存在じゃない
(海視点)
湖に落ちてしまった。
湖の前に、木でできた座れる場所に腰をかけようとした瞬間だ。何故が滑ってしまって、こうして湖の中に沈もうとしていた。
「和人君! 和人君!」
水面でもがきながら、彼の名を叫んでしまう。
助けてほしいという気持ちも、正直あった。だが、一番の気持ちは、愛する彼の姿を認識したかったからだ。
「海! 海! 何で誰もいないんだ! 誰か助けを呼んでくれ! 海、海!」
彼が私の名前を呼んでくれる。嬉しい。
だが、一つのあふれてくる思いがあった。
それは死ぬかもしれないという恐怖心だ。
「和人君!」
「海! 大丈夫だ! 大丈夫だから、待っていろ! 頑張ってくれ!」
登山のために、装備を整えてきたからだ。
服も重いし、荷物も重い。泳ぐにはデメリットしかない。
身を軽くしたかったが、恐怖心でうまく脱げない!
「海! このロープにつかまれ!」
和人君が何かを叫んでいる。だけど、呼吸するため、水面に出ようと動かないといけないし、装備も脱がないといけない!
……体力がもたない。
「和人君! 和人君!」
いやだ、いやだいやだ!
やっと彼に認めてもらえたのだ! やっと彼に好きだと、愛していると言ってもらえたのだ!
…抱きしめてくれたのだ。
……でも、もう。
和人君の顔を最後に見るために、最後の力を振り絞り、水面に上がる。
和人君の姿がうまく見えない。
…ああ、やっぱり私はいつもそうだ。
大切な人を、すぐに見失ってしまう。
居なくなってしまう。
その失望感で、体に力が入らなくなってきた。
水の中に沈もうとするとき、力強く水面に引っ張り上げられた。
「ゲホっ!! はぁ、はぁ、はぁ…っ!」
「海! 大丈夫、大丈夫だ! 力を抜け! 沈まない! 俺に任せろ!」
和人君が湖の中に飛び込んでくれていた!? 何故!? 命の危険もあるのに!?
でも、私はまだ怖くて、必死に彼の名前を呼ぶ。
「和人君! 和人君!」
「大丈夫だ! 必ず、必ず助けるから! ロープを頑丈につないでおいた! 後は、それにつかまっていけば、陸に上がることができる!」
「和人君、和人君…!」
「俺を信じろ! 海!」
「……はいっ!」
和人君の指示に従い、力をぬく。
どうやら和人君は、すでに私の装備を解いてくれていたようだ。
彼の言った通り、そこからはゆっくりとだが、陸に上がることができた。
力が入らない。
体力を使い果たしたようだ。
陸に横たわるしかなかった。
「海っ! 大丈夫か? ゆっくり息を整えるんだ。大丈夫だ…。そばにいるから。離れないから…」
「和人君……」
彼は私に膝枕をしてくれている。
彼の顔を見る。涙にぬれていた。
…何でだろう? 何故泣いているのだろう?
「ごめんなさい…。」
「何故謝る? お前は何も悪くないだろう!」
「だって……私を試したのでしょう? 極限状態で、私が和人君の指示に従うことができるのか…。申し訳ありません。できませんでした…。」
「何を言っている! そんなことするわけないだろうが! お前は、まだ、昔の俺だと思っているのか?! 大事な、好きな相手に、そんなことはもうしない! するわけないだろうが…」
「……和人君?」
和人君の涙が、私の顔にこぼれてきた。
そして、和人君は震えながら、私の手を強く握ってくれた。
「お前には、いつも辛いことをさせてきた。お前に死の危険を味合わせるような真似、できるわけないだろうがっ…! …すまない。俺の、俺のせいだ。お前にこんなことを考えさせるのは、俺のせいだ…」
「泣かないで、和人君…。私なんか……。和人君のお手を煩わせる価値なんて…」
「そんなことない! お前は、大事な人なんだ……。だから……よかった。助けることができて……」
……嬉しかった。
和人君が、私のことを、こんなにも思ってくれるなんて、夢でも見ているようだった。
だからだろう、自然と涙が私もあふれてきた。
二人が泣いていると、人の気配がした。
「和人先輩!? 海ちゃん!? 二人ともどうしたの?!」
春香だった。彼女の声が聞こえてきた。
「春香か!? よかった! 先生に連絡してくれ! 医者を呼んでくれと! 海が湖に落ちたんだ! 頼む…、頼む!!」
「え!? …はい! わかりました!」
人が増えると、少し安心した。
…いや、和人君が私の手を握って、そばにいるときから凄く安心してきたんだ。
だから、私は疲れもあって、意識を飛ばしてしまった。
「海…? 海!?」




