7章19話(ハーレム編_林間学校) 一夜明けても嘘をつく
日が昇る前。
俺たちが泊っているコテージ? ロッジ? どう表現するか迷うが、その宿舎は周りが森林に囲まれていることから、普段の住宅街よりも良い空気が流れている気がする。
窓を開ける。さわやかな空気を部屋の中に入れたいから。
…昨晩で、ちょっと汗臭くなったからな。他の臭いも混ざっているが。
その理由は…。
「和人、君…?」
シーツで体を隠しながら、窓を開けた俺のそばに寄ってくる海。
そのシーツの下は裸だ。
…これで、何で汗臭いか理由がわかっただろう?
「お前が俺より遅く起き上がるなんてな」
「ご、ごめんなさい! 私…っ!」
「いや、気にするな。お互い、疲れているからしょうがないさ。それに、俺が引き起こしたことでもある。お前を責めるつもりはないよ」
「で、でも……昔の和人君なら」
「今、俺がこう言っているのが信じられないのか?」
「い、いえ…。信じています。」
話が長くなりそうだから、無理やり会話を終了させた。こういう時、昔の俺の態度は役に立つ。あまり使いたくないがな。
…空気が重くなったな。
海を抱き寄せる。
「なあ、海」
「あ、はいっ!」
「お前、やっぱり暖かいんだな…。」
「は、はい……?」
「少し、このままにさせてくれ……」
「…はい」
心の中で、何度も何度も懺悔を唱える。
俺のその懺悔が、海に伝わるようにと。
だが、伝わってはだめだ。今伝えたら、全てが崩壊する。
これから先に実施することに対するこの懺悔は、伝わってはダメなのだ。
そして俺は思う。こんな暖かい人を、これから……これから悲しませていいのかと。
やるしかない。俺の自己満足を達成するために。
後でいくらでも謝る。償いも必ずする。だから、…ごめん。
「やっぱり海、お前って柔らかいな」
「は、はい!」
「そう強張るな。前みたいに、急にお前を突き放したりはしない。お前からも、俺に抱き着いていいんだ。もちろん、いやなら別だが。」
「…いいんですか?」
「ああ。お前は人形じゃないんだろう? お前自身の気持ちに寄り添って行動してくれ。今の俺は、お前を都合の良い人形のように扱ったりしない。……お前には悪いが、反省しているんだ」
「……」
「前の時間軸で、強く実感したよ。お前は意思を持っている。昔のお前のままであったら、俺に反論するなんてありえないだろ。そんなお前を、俺は無下に扱っていたんだ。もっとお前を俺は知りたい。だから教えてくれ。お前が、俺に何をしたいかを」
少し考えるそぶりを見せる海。すると、もじもじしながらこうつぶやいた。
「じゃ、じゃあ……失礼します。」
海は俺の胸に飛び込んできた。
お互い肌色の面積が多い。だから体温が敏感に伝わってくる。
ずっと抱きしめている時間が続いた。
……ん?
「海、頭を俺の胸にグリグリしすぎだ。少し痛い」
「す、すみません。」
「いや、お前がしたいなら、それでいい。思う存分やれ」
「じゃ、じゃあ……ぺろ。はむっ」
「お、おい……。いや、やってくれと言い出したのは俺だ。続けてくれ」
俺の首をなめたり、耳を噛んだりしてくる。
そうやって少し時間が過ぎた。
「そろそろみんなが起きる時間だ。お前も自分の部屋に戻る必要があるだろう。解散だ。」
「は、はい! ありがとうございました! 充填完了しました!」
「何を充填したんだ…」
「和人君成分です!」
「…もういい。ほら、行ってくれ」
「はい! それでは!」
「……いや、待ってくれ」
走って出ていこうとする海を呼び止める。これは言わなきゃいけない。
「海、こうして時間がお互い都合がつけばまた会おう。その時は事前に連絡してくれ」
「あ、……はい! 嬉しいです! あ、……そうですよね……わかりました。その方がスムーズに集まりやすいですもんね」
「ああ。突然お前と仲睦まじい姿を誰かに見せたら、お前も恥ずかしいだろうし、対応も面倒だろう? だから前もって会う時間を決めておきたいんだ。何も会いたくないわけじゃない。気持ちに任せるのはいいが、少し準備をしたいだけだ。」
「わ、私は別に……。恥ずかしいですけど、それよりも和人君と会えるのが嬉しいですし…。」
「俺が恥ずかしいし、面倒なんだ。そこは譲ってくれ。」
「……うふふ。はい、わかりました。」
「その反応、何か納得いかないが…まぁいい。外ではいつも通りのお前でいろ。先輩とまた呼んでくれ。いきなり君付けだと、周りが面倒だ」
「はい! 和人先輩!」
「……お前、ちょっとキャラ違くないか?」
「えへへ、だって嬉しいんですもん。ちょっと気持ちが溢れすぎてます…。だから、声にも、行動にも、力が入っちゃいますよ…。」
「……こまめにお前に連絡はする。俺も、……お前が好きだからな。だから、それまで我慢してくれ。そうだな……俺が良いというときまでだ。」
「はい、わかりました!」
海は俺の言うことを比較的良く聞いてくれて助かる。…そうやって彼女を過去の時間軸で構成したのは俺の罪だが。だが、今はそれが役立っている。
本来は優しい女の子なのだ。
最初の時間軸の俺なんかに目をかけてくれて、接してくれた子なんだ。あんなくずみたいな人間を見捨てないなど、優しいというほかないだろう。
家庭環境もひどい彼女だった。
父親からも、母親からも、十分な愛情を与えられなかった。さみしい思いをしたはずだ。
それでも、他人に対する優しさを失わなかった。どんなに孤独でもだ。
……そんな彼女に報いる必要があるんだ!!!
ずっと優しくしてくれて、好きでいてくれた彼女に。
償う、必要がある。
こんなことと、そしてこれから行うことは到底許されることではないのだ!!
だが、だが許してほしい。少しだけ、俺にこの時間を維持させてくれ………来るべき時までは。
「なあ、お前さえよければ、林間学校、できるだけずっと一緒に、過ごさないか?」
「……え? ほ、本当に私なんかが、和人君の時間を奪っていいんですか? こんな頭も悪くて、みじめで、何の魅力もない私なんかに……」
「だから、そんなこと考えるな。逆に俺がお前の時間を奪うんだ。申し訳ない。でも、償いをさせてほしい……、いや、この言い方は失礼だ。悪かった。そうだ、お前と一緒にいたいんだ。」
「か、和人君……」
海の瞳に涙が溜まる。
……どの口がほざいているんだ! 俺はどこまでクソなんだ!
「お前は一人の人間だ。素晴らしい人なんだ。だから、頼むからそうやって卑下しないでくれ。」
「はい、…はい」
彼女が俺を抱きしめる。強く、強く。
「ありがとう、抱きしめてくれて。お前の意思でそうやってくれるのが、一番うれしい。物みたいに扱いたくない。たくさん反抗して、いっぱい怒って、俺に感情をぶつけてくれ。こんなにかわいい女の子が、人形なんかじゃないんだから。もう、お前を重荷なんかに感じたりしない。だから、いっぱい考えて、俺にわがままを言ってくれ。さあ、もう自分の部屋に行ってくれ。みんなに気づかれてしまう」
「……わかりました! また、また!」
「ああ。」
海は俺から離れ、この部屋から出ていった。
俺は強い薬を飲み、数十分意識を失った。




