7章17話(ハーレム編_林間学校) 告白
俺たちの学校は金があるのか、この林間学校の部屋は二人一組で提供されていた。
施設自体も状態がよい。比較的新しく、各種アメニティも充実している。部屋ごとにシャワーも用意されており、もはやホテルといってもよいくらいだった。
俺は同室の山田君と一つの約束をしていた。
『1日目の夜、山田君が部屋からいない状態を作ってほしい』
山田君は素直に頷いてくれた。…まあ、対価は要求されたが。
了承が難しくなかった理由、それはこの学校では比較的周りもやっていることだからだ。
恋人同士が一晩同じ部屋にいる状態を作る。毎年の伝統のように、この学校のカップル共がやっていること。同じ背景だと説明すれば、容易に話が進んだ。
ただ…。
『嫁さんと過ごすんだろ? 優しくしてやれよ?』
山田君をその言葉を思い出す。……違う。華じゃない。今から会う相手は、違う女だ。
部屋をノックする音が聞こえた。
一度深呼吸する。失敗したときのデメリットは大きい。だがやるしかないのだ。
「入ってくれ」
「和人先輩……」
海が入ってくる。
もじもじしていて、どこか恥ずかしそうだった。だが、俺は自身の顔から血の気が引いているのが実感できていた。
「風呂上りか?」
「あ、はい…」
髪が少し濡れていた。少し色っぽかった。
だが、今はそんなことどうでもいい。
そんなことさえ、利用するのだ。
「悪かったな。まだ肌寒いのに。」
「いえ、大丈夫です…」
「これ着てくれ」
「あ、ありがとうございます。……和人先輩の匂い」
俺のジャージを上から羽織らせる。それを海は大事そうに両腕で抱き込み、目を閉じていた。
そんなこいつの肩を抱き、ソファまで連れていく。顔を赤らめながら、素直に海は従っていた。
「うぅ…」
恥ずかしそうに、ソファに座り、顔を赤らめながら俯く海。俺が彼女の横に座っているのも要因の一つだろう。
そして、彼女は時々顔を上げ、俺の方を見つめる。うるうるとした瞳だった。名前のように、澄んだ海のようなきれいな瞳だった。
この反応から推測するが、海は俺に惚れている。
自惚れな発言と感じるだろう。だが、この世界のシステムと、これまでのこの時間軸での営みが裏付けるのだ。
あの球技大会の日から、確実に俺に対する好感度は高かった。
そこからは着実に交流をもっていった。
尊敬する男の先輩、……いや、海や後輩からして理想的な男の先輩を演じればいい。
演じるのは、昔から得意だった。……得意にはなりたくなかったが。演じることしかできなかったから。
話を戻そう。
理祖的な先輩。勉強もでき、スポーツもでき、ユーモアセンスもあり、決断力もある。
何年、俺はこの世界にいると思う? 経験を積めば、誰でも演じることができるものだった。
だから、こいつは俺に対して信頼と、好意を持っていったのだ。
「お茶はハーブティーでどうだ? 家から持ってきたんだ。ほら、どうぞ」
「あ、ありがとうございます。」
「固くなるなよ。気楽にしてくれ。…って、そういわれても難しいか。」
「い、いえ…。そんなことは…」
「どうだ、学校の方は? 慣れたか? …って、なんかお前のお父さんみたいだな。おっさんくさいか?」
「…ふふっ。そうですね。でも、別におじ様みたいじゃないですよ。おじ様方なら、座るとき、『よっこいしょ』とおっしゃられると思うので」
「そうか、我慢してよかったよ。言いそうになった」
「そうなんですか? うふふ。先輩も、大人になってきたということでしょうか。」
「ポジティブな言い方をすればな。それに、最近腰も痛くてな。運動してないからかな?」
「ふふ、冗談ばかり。マッサージでもしましょうか?」
「それは気持ちよさそうだ。今度お願いできるか? マッサージ代金は、そうだな……喫茶店でお茶一杯でどうだ?」
「凄く魅力的なご提案ですね。是非とも」
良い具合に緊張がとれてきただろう。そろそろだ。
「そろそろ本題に入らせてくれ。緊張もとれただろうから」
「はい、わかりした。…もしかして、迷惑でしたでしょうか?」
「……うん? 何がだ?」
何の件か思い浮かばず、素直にそう聞いた。
「私が、和人先輩と交流しているのが、です…。こうやって私のために時間を作ってくださったりして、凄く嬉しいです。でも、先輩は人気がありますので、申し訳なく感じてます。」
「そんなことない。お前と話すのは楽しい。俺の意思でお前と居たいと思っている。」
「あ、ありがとうございます。でも、あの方…華先輩はいいのでしょうか…?」
「……何がだ?」
「先輩と華先輩、付き合って「俺と華は付き合ってないよ」……え?」
海の発言に割り込む。感情か、理性か、俺もわかっていない。
「あいつは俺によくしてくれているが、別に付き合っているわけじゃない。ただの……、そうだ、ただの友人だ。俺の、この世界の…初めての友人なんだ。」
「そう、ですか…。でも……凄く仲が良くて、…。それに凄くうらやましくて…。私、私……。」
…納得いってないようだな。
大きなリスクがあるから、あまり使いたくなかった手がある。だが、使うことも予定の範囲内だ。今、このタイミングでこの手を…。
海の肩を抱き寄せる。海は「えっ…」とつぶやくが、顔を至近距離に近づける。キスできそうな距離だ。
「彼女が居たら、こうしてお前をここに呼んだりはしない。」
「……それって」
この言葉は、美姫の時に発した言葉。
もう、使いたくはなかった。だが、ここが使い時なのだ。
「海、……俺は、……お前が一番気になっている」
「え、…?」
「お前が、好きなんだ」




