7章16話(ハーレム編_林間学校) 主要人物は集まっていく
「よーし! 張り切ってみんな作りましょー!」
「「「おー!」」」
華の声に皆が声を上げる。
もはや林間学校の恒例だろう、カレー作りの時間になった。
この会場に、学校の全員が来るのはもう夕方に差し迫っていた頃。夕食の準備にはうってつけの時間だった。
俺たちのクラスの中で班分けをしてカレーを作ることになるが、その班分けのメンバーは勿論華と一緒だった。
華はクラスでも中心の人物となっていた。
元から素材はトップクラスにいいのだ。あの海たちにも見劣りしない。
それに俺との交流からか表情の豊かさが生まれた。
化粧もし、おしゃれにも気を遣うようになった。
それに加え、この性格。面倒見の良さ。さっぱりとした性格。クラスの誰もが彼女を認めた。
「華ちゃん、今日の晩御飯の隠し味は?」
クラスの女の子の一人が華に質問する。
「え? そうね、あまり考えていなかったけど……」
「違うでしょー。旦那さんへの愛情でしょー?」
「え? は? えぇぇ! ち、違うわよ! 私と和人は付き合ってないわよ!」
「誰も和人君とは言ってないよー!」
「う、うぅぅぅ!」
「「「あはは!」」」
春香とは違った方向での、クラスへの溶け込み方。
あの時の春香は、クラスから尊敬を集めていた。誰もが彼女を頼り、彼女に反抗もしなかった。春香がそれを許さなかった。
何故それを俺がわかるのかって?
だってそれは……。
『和人、あなたは何故他人を気遣うの? 私が付いているのよ? 胸を張って、相手を跪かせなさい』
姉の一端を、見ているように感じたからだ。
姉さんは、他人を見下している。
だが、相手はそれでも姉さんに反抗しない。
『姉さん』、だからだ。
……姉さんは今関係ないか。
言いたかったのは、姉さんと同じ目を、春香に感じたからだ。
だが、華は違う。
姉さんと春香ならば、相手の反抗を許さない。そもそも、プライドが高いものからみたら舐められるような「弄り」を許さない。
華は周囲に愛されているのだ。弄られている? それがどうしたというのだ? クラスのみんなが、華を慕い集まってくる。華の笑顔は絶えたことがない。支配というより、ただ華が好きでみんなが集まってくるのだ。そもそも、舐められているから弄られるという姉さんの理論がわからない。
これを、人柄というのだろう。これが人気というのだろう。
その人気は、華に当然のように、本来は初めから備わっていたものだ。
俺と華が出会う前の世界、そう、聖と仲良くなった前の世界では、俺がいなくても周囲からの信頼を集めていた。
俺とは違い、その人柄は周りを幸せにする。周りを豊かにする。居なくてはいけない人間。俺とは、根本的に違うのだ。俺など、他者に不幸しか与えない。
そうだ、俺など初めからこの世界に……。
「和人君? どうしたの?そんな暗い顔して…。」
俺は華たちと少し離れて俯いて座っていた。そんな俺に誰かが話かけてきた。
顔を上げる。その顔は…。
「アリア、か……」
「ええ。どうしたの、そんな暗い顔して……。」
アリア。
前の世界での、分岐点となった女。
俺の認めたくなかった部分を、的確に指摘した少女。
金色の髪が美しいと、初めて見た時から思っていた。今顔を上げると、それが目の前にある。だが、『あの子』を思い出すから、本当は見たくはなかった。
…しかし。
「ああ、なんでもないよ。ちょっと考え事をしていただけだ。」
「そう。何か悩んでいるのなら、遠慮なく相談してね?」
「ありがとう。その時は相談させてもらうよ」
にこやかに答える俺だった。
こいつとは、去年、球技大会後に出会った。どうやら球技大会に転校してきたらしい。外国からこの国に転校してきたのだ。
右も左も、そして文化もあまりわかっていなかった彼女(※なぜかこの国の言語は堪能だったが)。社交的な俺を演じ、優しくこいつとの接触を図っていった。
何のためだって?
わかりきっていることだろう。
目標のためだ。そのために、こいつを十分にまた知る必要があるし、交流ももっておかなければならない。一定の好感度が必要なのだ。
そうでもなければ、誰が好き好んでこいつと……。
……いや、感情を殺せ。笑顔を作れ。
「どうだ? もう慣れたか?」
「学校にってこと? ふふ、あまり和人君と入学時期も変わらないじゃない」
俺の横に座ってくるアリア。女性特有の甘い香りがする。それほど距離が近い。
「確かにな。転校してきたのがついこの間だと感じていたよ。月日が経つのは早いな。」
「ええ、そうね。でも、思い返すといろいろなことがあったわね…。私が困っているときに、助けてくれてありがとう、和人君。」
深い話はまた次の機会に話そう。
「気にするな。俺も役得だったさ。美人に頼ってもらえるなんてな。」
「も、もう。またからかって……」
「からかってなんてないさ。事実を言ったまでだ。お前はこの学校の中でも美人だからな。転校してきたときも視線が集まっていたのが見えたよ。周りの男に嫉妬されてたかもな、俺は。」
「確かにみんな見てるなって思ってたけど…。恥ずかしいわ…」
「だから美人を周りから一人占めできて楽しかったさ。いつも横にいるのは、ちんちくりんだからな。ストレートに美人だという相手と交流できて、普通にうれしかったよ。」
「もう…。私を褒めてくれるのは嬉しいけれど、そんなこと言うと彼女、怒るわよ?……あ…」
「彼女……?」
「かーずーとー?」
後ろに怒りのオーラを出している女がいた。
まさに先ほど話していた、ちんちくりんの華だ。
「悪かったわね! ちんちくりんで、怒ってばかりで、うるさくて! そ、それに、ひ、貧乳でっ!! ふんっ! そんなにスタイル抜群の子がいいかっ!」
「誰もそんなことまで言ってないだろうが……ぐふっ」
腹にパンチを入れられた俺。
……あれ? 何でこんなコメディを演じているんだ?
痛みで腹を抑えていると、アリアが小言で呟いていた。
「ふふっ……羨ましいわ、距離が近くて」
その言葉に俺は悩むことなく、俺は意図的に無視した。
「ところで華、もうカレーはできたのか?」
「そうよ、できたわよ。だから呼びに来たのに…、何よ、デレデレしちゃって…」
「デレデレしてない。普通に話していただけだ。な、アリア」
「え、ええ……」
「してた! 絶対絶対絶対してた! ……めったに私のこと、褒めてくれないのにっ」
「拗ねるなよ……」
「……つーん。もっと撫でなさいっ」
頭を撫でて機嫌を取ろうとすると、続きを要求された。華は周りの目が見えていないのか、今? 生暖かい視線でいっぱいだぞ? 二人きりと思い込んでないか?
とりあえずは、あのことを優先するか。
「華、ところで同じクラスの山田君の様子はどうだった? よくなったか?」
「え、山田君? ううん。やっぱりよくならなくて、今保健の先生のところで休んでいるわ。病院に行くかもって」
「そうか…残念だな。」
……よし、上手く進んでいるな。
「山田君?」
アリアがつぶやいた。
「ああ、俺と同じ部屋の人だよ。ちょっと今日の後半からどうも体調がよくないらしくてな。」
「そう…残念だわ」
「あ、あああ! ばか、ばか和人!」
華が大声を出す。その様子は、周りが俺たちを見ていることに、今更気づいたな。
苦笑いしながら華の腕をつかみ、みんなのところに赴く。飯の時間だ。
さあ、……上手くやる必要があるぞ。
「和人君……」
背中のアリアの視線を無視し、俺は華とともにクラスのところに戻っていった。