7章14話(ハーレム編_林間学校) 幻聴、そして始動。
大変長らくお待たせして申し訳ありません。
お待たせ手前で申し訳ありませんが、これからも読んでいただく方がいらっしゃれば凄く嬉しいです。
※誤字報告ありがとうございました。
あの高等部1年の時の球技大会から、1年がたった。
時期は春。新入生たちが入ってきて、ようやく慣れようとしているだろう時期。
俺たちの学校は……。
「ほら、和人! しゃきしゃき歩きなさい! そんなんじゃ、いつまで経ってもキャンプ場につかないわよ! せっかくの林間学校日和っていうのに」
「……わかってるよ。はぁ……」
そう、華が言う通り『林間学校』が始まる。
俺たちの学校は、1年に一度、この時期に全校生徒を挙げてこのイベントを実施している。なんでも、「みんなが仲良くなる良いイベント」だそうだ。ここは小学校か何かか? その会場まで、俺たちは毎年恒例の徒歩で向かっていた。
会場と言っても、山と海が面しているキャンプ場だ。俺たちの学校から1時間程歩けば着く。
前の時間軸ではサボった。サボった理由はわかるだろうから省略する。
だから今回もサボりたかったが……。
「こら和人! どこ行こうとしているのよ! そっちはコンビニよ!」
「ちょっと涼むだけだ。」
「あんた、そうやってサボる気でしょ? あんたの性格わかってるのよ!」
「違う違う。頑張る頑張る。ほら、お前も喉乾いただろう? おごってやるからこいよ」
「べ、別にいいわよ……。」
「(お、もうちょっとか?)あ、そういえば華、お前バナナ好きだろ? コンビニのバナナ買ってやるから来いよ」
「何勝手に私をバナナ好きにしようとしているのよ……。」
「だってお前いうじゃねぇか、いつも「キーっ!」って」
「誰がサルよ! キーっ!」
「……。」
「あ……。も、もぉぉぉ! 何言わせるのよ! このバカ! バ和人!」
「ああ、すまん。別に弄るつもりじゃなかったが……。じゃあ、行ってくる。お前は先に行っておいてくれ」
「和人! あーもう!」
華を置いて、俺はコンビニに向かう。
この数日の林間学校での、最後の仕上げをあのコンビニで買う予定なのだ。いろいろと、華に持ち物チェックされたからな。「忘れ物ないか確認するわよ!」って。まあ、俺が許可したのだが。
目当ての物を買う。
コンビニのトイレで、着替える。着替えたのは、煙草を吸うためだ。
このコンビニの店員は、不真面目だということは事前に調査済みだ。だから、制服で煙草を買おうとしなければ、購入させてくれる。煙草と、目当ての物を買う。
煙草を買って、店の前の喫煙所で煙草を吸う。
もう、煙草は手放せなくなっていた。
「精神的に、依存先がなくなっている、か……」
煙草の紫煙を吐き出しながら、つぶやく。
『和人、あなたはまだ『弱い』わよ。肉体的にも、そして精神的にも。あなたの身体能力は今、同級生たちを凌駕している。でも、それは何のために今鍛えているの? あなたの学力はすでに、この地域でもトップクラスよ? でも、何のために勉強しているの?』
「……うるせぇな」
過去、姉さんに言われたことを思い出す。頭に痛く、響きだす。
『結局は、目的もなくただがむしゃらに鍛えているだけ。目的がないならば、完成形もない。だから、一流に負けるのよ。一流は、その目的のために、鍛錬を怠らないわ。あなたは、その辺の全国レベルの武道部に勝てるかもしれない。だけど、世界一になれるの? あなたは勉強ができるかもしれない。国一番の大学に行けるだけはあるかもしれない。だけど、その先は?』
「……姉さんが、俺の何を知っているというんだ?」
2本目の煙草に手を出す。
『私は、和人のすべてを把握しているわ。あなたに起きたこと、考えていることなんて、わかっているの。この前なんて面白かったわね。あなた、また女の子を攻略したの? 好きでもない女の子を攻略して、何を得るというの? 目的は? 結局は、あなたは自分の目的が見えていないのよ。』
「……黙ってくれないか?」
『あなたの全盛期……、そう、女の子を攻略した数ね。何人同時攻略したんだっけ? えっと、9人だったかしら? あの時のあなたは、イラついていたから、自暴自棄になっていたのね。でも、得たいものを得ることができなかった。』
「……うるさいんだよ」
3本目の煙草に手を出す。2本目は足で強くすりつぶした。
『和人、あなたはお姉ちゃんだけを見ればいいのよ。だって、そうでしょ? あなたの人生で、私以外に優しい人はいた? いなかったでしょ? 私以外に認めてくれる人はいた? 誰も存在しなかったでしょう? 私だけよ。あなたは私に並ぶ唯一の存在。私を理解してくれる存在。そして、私は和人を唯一理解できる存在。だから、和人は私だけを、『目的』にすればいいの。』
「……目的は、自分で決める」
4本目の煙草に手を出す。まだ、頭痛は続いている。
『それを言ってどのくらいの月日が経った? あの時から、どのくらいあなたは苦しんだの? もう、いいんじゃないの? あなたが求めているものは、私、全て与えることができるのよ?』
「……出ていけっ!」
頭痛がひどかった。
だから、俺は大声を出してしまった。
コンビニの外にいた客は俺を見ている。俺は、その視線から逃げるように、煙草の火を消し、その場を後にした。
歩きながら、独り言をつぶやく。
「全盛期……か。」
ああ、認めてやるよ。今の俺に目的はない。
だが、目標だけはある。目的がない。ただあるのは目先の未来だけ。
「必要最低限は、あの全盛期に俺が戻ることだ。」
だから。
「ああ、和人先輩!」 「あー! 和人先輩だー!」
「……ああ、海ちゃんと、春香ちゃんか」
目の前のこいつらからだ。