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そうだ、女の子を壊してヤンデレにしよう(旧題:そして俺は彼女達を堕とす)  作者: pawa
7章 花の笑顔。そして、俺は彼女を壊した。
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7章13話(ハーレム編) ありがとう、楽しかった

この話は文章量多めです。1万3千弱文字です。

俺は美姫を観客席の方へ連れていく。

彼女を連れていく道中、他の生徒の目線が少しウザかったがしょうがない。美姫はこの周辺で「美人」として有名だからな。


改めて思うが、どうして俺は彼女を惚れさせることに成功できたのだろう?

どう考えても彼女と俺は釣り合うとは思えない。

家柄もあっちはよい。それに頭もよくて美人でスタイルも抜群だ。

何だこの子、こんな子はさすがに前世でもめったにいなかったぞ。

……まあ、姉さんは別格だったが。


……俺に引っかかった要因は、人生経験の差か。

どうみても温室育ちだった。あまりにも純粋だったから、ちょっと比較的優しかった俺に惚れてしまったのだろうな。こんなどこにでもいそうな屑に。


綺麗だからと、近づくべきではなかった。どっちが蛾だ。俺の方じゃないか。今さら悔やんでもしょうがない。彼女にはいつか、ちゃんと向き合わなければいけない時がくる。その時までに俺は彼女を……。


「ちょっと和人! 私の話聴いてる!?」


そんな風に真面目に考えていると、彼女は少し怒りながら話しかけてきた。

……どうやら彼女が話かけてきているのを無視していたらしい。申し訳ないことをした。


「うるさいな、単純脳みそが」


「はぁ!!!?」


「……すまん、冗談だ。すまん、ごめんな。考え事してたんだ」


「……水に流すわ。しっかりしないさいよ。和人が私のこと口説いてきたんでしょ? そんな和人が何で私の話に興味がないのよ!」


「口説いた!?」 「うわー、手が早い……」 「さすが……」


「……少し声を抑えてくれ。それに口説いたわけじゃない」


彼女のその言葉に周囲の人間は驚いている。

……いつも思うが、美姫は堂々としすぎだ。話し声も皆より大きいし、何より彼女の声は凛としていて良く響く。その姿に昔から俺は好感を抱いてはいたが、少し……、ちょっとなんというか周りを見て……


「何よ、事実でしょ? 和人が私をここまでエスコートしたんじゃない」


「何でエスコートが、イコールで口説くになるんだ……。ポジティブ過ぎだろうが」


「ふふ、ちゃんと最後までエスコートしなさいよ♪」


……いくらなんでもこいつは俺にデレるのが早過ぎだろうが。

やはり潜在好感度の存在は確信できるかもしれない。

前の聖の時間軸では、俺に対して最初警戒していただろうが。難易度が跳ね上がりすぎだろうが。


大きくため息をつく。埒が明かない。話をまとめる必要がある。


「……はいはい、わかったよ。でもな、俺に対してはそんな口を利いてもいいけどさ、他の目上の人にはちゃんとしっかり対応しろよ?」


「あら? 私、和人に年教えたかしら?」


「……お前は有名なんだよ。少しは自覚しろ。お前が可愛いからこの辺で結構皆知ってるぞ」


「そう……ま、美人税というものかしらね」


……彼女の自信はホントにいつもどこからきてるんだ?

まあ、自信がつくのも仕方がないほど、現実感がない美人だからしょうがないか。


「おい、わかったのか美姫? 最低でも礼儀をわきまえろ。初対面でこんなことを言うのは申し訳ないが、お前のためだ。」


「大丈夫よ、私は和人以外の年上にはいつもちゃんと敬語使えるから」


「……それは喜んでいいのか? 腹を立てるべきなのか?」


「どっちにでもとっていいわ」


「……まぁいい。ほら、着いたぞ」


「え?」 「え?」


美姫は驚いている。そして俺が案内した先の「彼女」も驚いている。

そう、俺が案内した場所は「海と春香」がいる場所だ。

美姫が一人で試合を観戦していると何かと目立つからな。少しそれは避けたい。海と春香なら面倒見てくれそうだし。それに一人じゃこいつが何するかわからない。

……ま、一番の理由は一ヶ所に集めていた方が監視しやすいという点なんだけど。


リスクはないのか? 初対面で思い出すほど、こいつら同士の好感度は高くはない。それに、俺に対してのみ適用されるだろう、このシステムは。

だってそうじゃないか。

これまでの世界、愛し合った者たちがいたはずだ。

その者たちが思い出していない時点で区別ができるだろう。

……だが、何故俺のみに適用されるのかがわからない。

たかだか世界の一住人だぞ?



……話は変えよう。


「ごめんな、えっと……海さんと春香さんだっけ? 彼女を少しだけ任せてもいいかな? 今日の試合観に来たらしいんだけど、一人で来ちゃって寂しいそうだからさ」


「か、和人! なに人聞きの悪いこと言ってるのよ!」


顔を赤らめて非難してくる美姫を可愛いと思いながらも、してやったりと感じた。たまにはこいつの可愛いところも見たいからな。

美姫を無視しつつ、海と春香に微笑み続ける。


「え? は、はい。別にいいですけど……」「もちろんいいですよー!」


俺のお願いに対して海は了承してくれた。基本的にこいつは人が出来てるからな。俺のお願いも聴いてくれる。それを利用した俺はまさしくクソ野郎だがな。


「か、和人! 私は別に一人でも……」


「一人でいたらクソウザいナンパとかされるぞ? お前そういうの嫌だろう?」


「確かにそうだけど……って、何でそんなことわかるのよ?」


「今までお前と話したが、それくらいわかるさ。それに、お前はそういうナンパ断るの苦手そうだからな」


「む……」


当たっているだろう。だからこそ俺なんかに引っかかったのだからな。


「海さん、春香さんもごめんな。怪我させてから今度は俺の知り合いの面倒まで見てもらって」


「……いいですよ」「気にしないでくださいー!」


「今度二人とも、何かお礼させてくれたら嬉しいな」


「ちょっと和人! 何で彼女たちばかり優しいのよ!」


「お前が俺に敬語を使えば優しくしてやるよ、年下?」


「……もう! 和人のばか!」


……何か可愛いな、後輩の美姫も。

いやいや、だめだ。欲望に流されるな。いつも俺はそこで失敗してるんだ。


「あのー……、か、和人先輩!」


「え? 海ちゃん?」


何か意を決した彼女。そんな凛とした彼女は俺に意外なことを聴いてきた。


「その、和人先輩と美姫さんはつ、付き合っていらっしゃるのですか!?」


「「え?」」


「だ、だって、下の名前で呼び合ってますし……」


なるほど、な。確かに初対面にしては美姫と俺は仲が良く見えるからな。

というか何で海はそんなこと聞くんだ? まだ何も攻略もしてないだろうが。

……ま、本当のことを言うしかないだろう。


「あはは、付き合ってないよ。こんな生意気な後輩より、もっと素直な可愛い女の子が良いな」


「……ふんっ」


「いてっ、脛を蹴るな美姫」


俺のその言葉に納得したのか、彼女は何かつぶやいた。


「……よかった」


……うん、少し危ない雰囲気だな。ここは退散するか。


「それじゃあ海ちゃんたち、よろしくな? 美姫も大人しくしてるんだぞ?」


「はい!」「はーい」 「私は和人の子供じゃないわよ!」 


そう言って俺は自分のクラスに戻った。

だが、戻った先、何だかいつもと様子が違っている女の子が金属バットを持って素振りをしていた。


「……何やってるんだよ、華」


「ふん、ふん、ふん! …………ほら、和人。守備練習するわよ。あんたの腐った根性

、私が叩きなおしてあげるわ」


「何を拗ねてるんだよ……?」


「う、うるさいわよ! 誰も拗ねてないわよ! あんたが美人と何人も知り合いだからって別に嫉妬してなんかないわよ!」


「はぁ……」


「ほら、早く守備につきなさい! 地獄の1000本ノックよ!」


「時間がないだろうが」


「う、うるさーい!!」




……試合はもう、迫っていた。




………

……




「わー! 野球ってこんなに面白いんだね! 私、今まで全然野球観て来なかったけど、すごく面白いと思うな!」


親友の春香が隣で目の前の試合に熱中している。その眼はいつもの以上にきらきらと光ってみえた。その明るい表情は彼女の長所だと素直に思う。その笑顔は中学のクラスメイトのみんなの人望を集め、みんなの心を明るくする。

わたしが持ってないものは春香はたくさんもっている。だけど、そのことに私は嫉妬を抱いたりしない。逆に誇らしい気持ち。だって、親友がこんなに魅力的だなんて鼻が高いと普通は思うものだもの。


そんな熱中してる親友。だけど、私の横ではそれと正反対の冷静さで野球を見てる彼女がいる。


「……はあ、つまんないわ」


彼女の名前は美姫さんという。

この学区周辺で有名になるくらいの美しさを持っている彼女。初めてその顔をみたが、本当に可愛い。女の私でも少し惚けてしまうくらいに。


「つまらないですか?」


「ん? ええ、ちょっとつまらないわ……です。あまり野球に興味ないですから」


「え? 野球が好きだから観に来たのではないのですか?」


「ああ、ちょっと理由があって……」


そう言って何か恥ずかしそうに目線を逸らす彼女。その仕草も絵になっているなと思う。

だけど、そんな彼女のしぐさに私はある疑問を抱いてしまった。


「……やっぱり和人先輩のために来たんですか?」


「え?」


野球に興味がないのなら、それをやっている人物のためにくると私は思ったのだ。

彼女が興味がある人は和人先輩だ。


「ち、違いますよ! 私はあいつのことなんか……」


……絶対嘘だ。そのブンブンと振っている手と赤くなっている頬で一目瞭然だ。


「やっぱり付き合って……」


「付き合ってません! 誰があんな不良なんか……。そ、それより海先輩はあいつのことどう思ってるんですか!?」


「え?」


「だってあいつ、海先輩にあんなに優しそうだったじゃないですか。あいつ、海先輩のこと多分特別に思ってますよ」


「え、そんなことないですよ……」


先輩と私は会ったばかり。そんな私のことなんか、なんとも思ってないはずだ。


「あいつとここまで歩いてきたんですけど、普通の知人と海先輩を見る目が全然違いましたもん。それに態度も。……ムカつく。私の扱いはテキトーなくせに……」


「あはは……」


それが本当だったら嬉しいと思う。

だって、私も先輩のことを見たら、何か胸がおかしくなってしまうから。

そのおかしさは、先輩が謝りに来てくれた時からではない。もっと前からだ。

そう、先輩をこの学校で初めて見た時。その時から私は先輩のことを他の人と同じように見えなくなっていた。

彼を見ると、私の胸の鼓動は途端に活発になってしまう。体温が上がるのを感じてしまう。だから私は先輩がさっき謝りに来てくれた時、嬉しかった。遠い存在だった先輩が私に話しかけてくれたから。

今まで一度も抱いたことがない感情。だけど、その感情の正体はわかってしまう。


だから。


「……負けませんよ」


「え?」


「ほら、もうすぐ和人先輩が打つ番ですよ」


「あ、そうですね。あいつ、またカッコ悪いところ見せたら後で弄ってあげるわ。ま、この調子だと「また三振」でしょうけど」



もうこの試合は最終回となっていた。

点差は0対1、負けているのは先輩のクラス。2アウトランナー3塁。迎えるは先輩の打順。先輩を抑えれば、ゲームセットだ。


先輩のこの試合の成績はこれまでヒットなしである。相手投手がすごいからこその成績だと思うが、相手の分析力も原因だと思う。

相手チームは的確に和人先輩の弱点をついてきた。最初の試合から先輩の打席を見てきた私だから少しわかってきたのだろう。先輩はずっと打ち続けたわけじゃない。あるコースに投げられたら必ずと言っていいほど打ち取られてきたのだ。

そのコースは内角低め。そして球種はストレート。


他のコースは打ってきた先輩だが、そこばかりは苦手なのだろう。先輩はそこに投げられる前にヒットを打つが、追い込まれてそこに投げられたら先輩は絶対に打てなかった。


だからこの試合、相手チームの分析によって先輩はずっと打ち取られた。2ストライクまではテキトーにファールを打たせて、最後にそこにボールを放る。そうすることで先輩は完全に抑えられていたのだった。


それに、噂に聞いたところ、相手チームの投手は県大会の決勝までいった元エースである。今は野球はやってないそうだが、それでもその実力は素人目からしてもすごいとわかるほど。


状況は絶望的。試合ももう完全に相手チームの勝利ムード。


……あれ?


先輩の顔を見てみると、その顔は「自信」に満ちていた。

何故だろう? ずっと負けてきたのに、何でそんなに自信があるのだろう?


打席に立った先輩。そして両チームの勝敗を分ける打席が始まった。

投手の球は最終回に近づいてもまだ衰えていない。先輩は簡単に2ストライクに追い込まれてしまっていた。


“これで終わりか……”


負けムードが漂ってきた。そのときに……


「……え?」


グラウンドがどよめく。

先輩は、『ホームラン予告』をしてきたのだ。

バットを相手に高々と数秒向ける行為。それは絶対に打つという自信の表明。

何故、何故そうも自信があるのだろうか? 今まで打てなかったのに……


その予告にイラついたのか、相手投手のファンらしき女の子が野次を飛ばした。


「後一球よー! そんなやつズバッと三振にしとめてー!!」


その女の子の声を皮切りに、グラウンドはコールが駆け巡った。


「「「さーんーしん! さーんーしん! さーんーしん!」」」


……そのコールに腹が立つ自分がいる。これでは先輩が可哀想だ。


「こらー和人! あんなやつに三振したらゆるさないんだからね!!!」


同じ気持ちなのだろうか、隣の美姫さんも大声を出して和人先輩を応援してきた。

だから私も……


「……打って! 打って和人先輩!」


打てるはずだ、先輩は絶対に。

だって先輩は……



そして、相手ピッチャーがその剛腕でボールを投げ。

そのボールがキャッチャーのミットに吸い込まれようとしたとき……


「……え?」


快音が、響いた。

その白球はその快音と比例するように大きく上がり、勢いを下げず、そして………


「う、嘘……」


今度は、レフトスタンドにいた私の元にボールは届いた。

そう、これは………

“ホームラン”なのだ。


グラウンドは、大きな歓声に包まれ、大きな振動が響き渡ったのであった。




………

……




グラウンドを悠々と走りながら、考えてきたことが上手くいって内心喜ぶ。


俺が考えたことは作戦ともいえない単純だ。

これから先は相手チームがデータを集めてくることを予想した俺。

不利になるのだが、だが、逆にそれを利用すればいいだけ。俺が「得意」とするコースを逆に苦手と思わせればいいのだ。

これまでとそして直前の打席まで、ずっと内角のストレートを打たなかった。

相手チームはそのコースが俺の苦手コースだと思って、様々な投球をしてきたが、それも作戦のうち。

この、最終打席のための布石なのだ。


そして最後の策は“ホームラン予告”。俺がそうすることによって、ある生徒に野次を飛ばしてもらうこと。そう、「彼女」に。

野次を飛ばしてもらう相手は、俺に以前告白してきたあのクソ女だ。こいつには最終回、俺がホームラン予告をしたら隠れて野次を飛ばしてもらうようにお願いした。


普通の他人の野次だったらそこまで相手投手も意識しないだろう。

そう、相手投手は、彼女の恋人である。俺が喧嘩した相手だ。

だから彼も恋人にいいところを見せようと、恋人の要求をのみ込み、そして熱くなった頭で何も異変を感じることができなかっただろう。

そして、以前喧嘩した相手の俺だ。

素直に内角へまたストレートを投げるだろう。俺を三振、もしくは凡打を打たせるために。変化球という小細工は使わずに。


ただのストレートなら普通に打てる自信があった。

今まで相手は変化球を混ぜてきたから確実に打てるか不安要素があった。

そんな時のための保険があのクソ女というわけ。

投げるコース、そして球種。それだけわかっていたら対策もできるさ。

それに相手は野球を離れて時間が経っている。そんなやつの球を打つことくらいできる。


……大きな保険も用意していた。センターのバックスクリーン付近で、俺に協力してくれる人を用意していた。彼がレンズで相手キャッチャーのサインと、座った位置を確認して、無線で俺に応える。それが確実な決め手だった。


一塁を回っていたとき、俺はクラスメイトが座っているところを見る。そこで華は、ぼーっとしていた。きっと、目の前で起きたことがまだ信じ切れてないんだろうな。

そんな彼女に対し、俺はしてやったりと微笑みかける。やったぞと。グーを突き出す。

俺の笑顔でやっと現実に戻ってきたのか、彼女は……


「よっしゃー!!! やった! やったわ! 和人ー!!!」


2塁を回っている俺まで聞こえるくらいの大声で喜びの声を上げていた。

そして、ホームベース付近に向かってくる、俺のホームランを祝福するクラスメイト。その中でも皆より早く俺の元へかけてくる華は……。


「和人ー! やったわね! 最高よ!」


俺がホームベースを踏んだ後、抱きしめてきたのであった。

普段はそれを弄るクラスメイト。だが、今はクラスの優勝が決定したのだ。そんなことに構わず、彼らも……。


「やったな和人! これで優勝だ!」

「サイコ―!」

「やるな和人!」

「よかったよ、G君の次に!」


皆優勝を喜び、もみくしゃになった。……久しぶりに、心から笑えた日だった。




………

……




その掛け声とともに、店内にはグラス同士がぶつかる音が響き渡った。


その辺にある普通の小料理屋みたいな場所を貸し切り、そこで俺達のクラスは球技大会の打ち上げをしていたのであった。

戦績は優勝。その結果で盛り上がらないはずはなく、クラスのみんなはお祭りムード一色である。先生も俺達の活躍を喜び、会計の半分を負担してくれるそうだ。

そう、クラスメイトもその先生もテンションが上がっている。だから……


「和人さん、優勝おめでとうございます!」

「おめでとーございます!」


「あはは、ありがとな、弟君、妹さん」


華の弟妹達の打ち上げ参加も認められた。

本当は、彼らと試合が終わったら帰る予定だった。彼らが帰るのは誰もいないアパート。だから華も彼らを寂しがらせないために帰ろうとした。俺も一緒に帰るつもりだった。だが、クラスの皆が、“弟君たちも参加しなよ”と打ち上げに誘ってくれたおかげで、彼らは参加できるようになったのだ。

これも華の人徳のおかげだ。彼女がクラスのみんなと打ち解けた結果なのだ。


そんな華はというとクラスメイトと談笑していた。前までの疲れ切った顔からは考えられないほど晴れやかな微笑み。ようやく、俺が知っている「部長」の笑顔に似てきたと思う。そのことが少しだけ嬉しい。

そんな華を見ていると、彼女と目が合ってしまった。


「あ……うぅ」


何故か彼女は恥ずかしいのか目をすぐにそらし、顔を赤らめる。華と一緒に談笑していた女の子がニヤニヤしながらこっちをみてくる。

おそらく俺がホームランを打ったときに彼女が抱きついてきたのを今更思い出したのだろう。素直な彼女のことだから……いや、俺達の付き合いの長さからもそう判断できる。


「姉さんは何で顔を赤らめているんですか?」


「……さあな。ほら、テーブルにある料理腹一杯食べてこいよ。妹さんも好きなだけ食べてな」


「はーい!」 「……はい」


元気よく返事をしてくれる妹さんとは反対に、弟君の表情は少し暗い。


「あの、すみません。思ったんですけど、僕たちの会計はどうなるんですか……僕達連れてきてもらって今更なんですけど……」


何だ、そんなことか。


「あはは、年下がそんなこと気にすんじゃねえって! そんなもん俺に任せとけ」


「え、でも申し訳ないです……」


「だから、子供がそんなこと気にすんなって。子供の面倒を見るのも年長の務めだろ」


「でも……」


「ああもう、わかったよ。そうだな……お前が大きくなったらな、そのときにお前の姉さんを助けてやってくれ。それでチャラだ」


「そ、そんなことで……それに和人さんに何も関係が……」


「……あるよ。俺はお前の姉さんのおかげでこんな楽しい思いをさせてもらってる。お前の姉さんはすごい人だよ。人を気遣えるし、こんな俺にも優しい。俺に良くしてくれている。だから、俺が世話になっているお前の姉さんを助けてやってくれ。家族でしかできないことがあるからな、俺ができないことでも家族ならできると思うんだ」


「……」


「お前の姉さんはいつも頑張ってる。俺に弱音なんて一つも吐いたことないぞ? でも絶対に心の中で疲れをためているはずだ。そんな彼女を、お前がこれから助けてやってくれな?」


この願いは、俺ができなかった願い。

俺の本当の姉さんにしてあげられなかったこと。

俺は姉さんにいつも頼ってばかりだった。だから姉さんは……。


『和人……私はあなたのことが……』


……くそが、嫌なこと思い出してしまった。

気を取り直せ。今はこの楽しい雰囲気に体を任せればいいだろうが。

そんな俺の言葉を噛み締めるように目を閉じた弟君は、パッと目を開くと、


「はい! わかりました!」


と、気持ちの良い返事をくれた。


「うん、ありがとな。それじゃ食べてきなよ」


「はい、ありがとうございます! じゃ、行こうか」


「うん!」


彼は妹を連れて、様々な料理が載ってあるテーブルに向かっていった。

彼なら大丈夫だろうと素直に思ってしまう。失敗した俺だが、何故だかそう思ってしまうのだ。彼が素直で賢いから。そして俺のように……


「あら、年下には優しいじゃない和人」


「……何でお前がいるんだよ美姫」


俺が彼らを気持ちよく眺めていると、後ろから彼女が話しかけてきた。

彼女は全然クラスとは関係ないはずだ。それが何故この場にいるのかというと……。


「和人の知り合いだって言ったら快く了承してくれたわ。今日活躍したあんたのおかげね」


「お前の面の皮の厚さは、おばちゃんか何かか?」


「誰がおばちゃんよ!」


俺のおかげと言っているが、それは少しだけだろう。どうせクラスの男子達が彼女の可愛さに魅了されてOKをだしてしまったのだろうな。男って本能に忠実だからな、俺含め。


正直まだ彼女とは向き合う必要はない。まだ動くべき時ではないのだ。

だから……


「なあ、美姫」


「何?」


「お前ってさ、もしかして結構軽い女だったりするか?」


「は? 何よそれ! 私のどこが軽いですって!」


「じゃあ何で知り合ったばかりの俺を追ってここまで来るんだよ?」


「暇だったからよ。それに、あんたのその態度が気に食わないわ! 何よ、私のこと全然興味がないような顔して……何だか腹が立つわ、とても」


「あはは、俺に一目惚れでもしたのかよ?」


「う、うるさいわね! 違うわよ! あ、あんたが私に惚れるっていうならわかるけど……」


「……あはは、それはないよ」


嘘だ。現に俺は彼女に昔一目惚れしてしまったのだ。

俺の様子が違ったのを察したのだろうか、彼女はイタズラな笑みを浮かべた。


「ふふ、ウソでしょそれ? 私のこと、気になってるって顔してるわ」


「……別にそんなことねぇよ」


それも嘘だ。俺は美姫のことを気にしている。罪の象徴なのだ。彼女を堕としたのは俺なのだから。


「ま、無理もないでしょうけど。私、可愛いものね」


「……お前のその自信はどこからくるんだ?」


「あら、実際可愛いでしょ?」


「……ああ、そうだな。お前はすごく可愛いし綺麗だ」


「な、何よいきなり素直になって……」


認めるしかない。彼女は実際に綺麗で可愛いのだから。本当は調子に乗っている後輩を懲らしめてあげたいんだけどな。


というか恥ずかしがるなよ。自分で自身のことを綺麗だって言ってたくせに。


「何で今更俺が褒めたくらいで恥ずかしがってるんだよ……」


「う、うるさいわね! 和人がいきなり口説くから悪いんじゃない! 反則よ、反則! それに恥ずかしがってないわよ!」


「何が反則なんだよ……」


彼女は恥ずかしがっていないと言っているが、それは嘘だとすぐにわかる。それは、彼女は恥ずかしがるときはいつも自分の髪をクルクルと巻く癖がある。彼女と過ごしたことがある俺だからわかることだ。

積むべきではなかった経験だがな……。


「まったく、和人ったら本当にしょうがないわね。いつもいつも…………あれ? 私、何言ってるのかしら?」


「……さあな、知らないよ。疲れてるんじゃないか? お前あまり運動しなさそうだからな。足とかすごく細いし」


「肉体労働は私の担当じゃないの。そんなのは他の輩に任せればいいわ」


「お前は女王様か何かかよ……」


「あら、それだったら和人が私に仕えてくれるのかしら?」


「あはは、バカ。誰がこんな生意気な後輩に従うかよ」


そう言いながら座っていた椅子から立ち上がる俺。そろそろ行かなきゃいけないしな。


「え? どこ行くのよ……」


「ちょっとな。お前も他の人と話してみろよ。せっかく来たんだしよ」


「べ、別に私は……」


「ま、お前だったら勝手に男の方から寄ってくるか。それじゃ」


「ちょ、和人!」


俺が少し離れると、予想通りクラスの他のやつらが美姫に話しかけてきた。

そいつらが美姫の面倒を見てくれるだろう。


次に俺が向かう場所。それは……。


「楽しんでくれてるか?」


「か、和人先輩……」「あー! 和人先輩だー!」


海と春香である。

美姫を他のやつらが連れてきたのだ。(誰が美姫の分の金を払ってくれるか謎だが……。)だったら俺もいいだろうと思って、海と春香を誘った。


「ごめんな、他に知らない人たちばっかりの場所に連れてきて。でも、せっかくだしお礼したかったんだ。だから、好きなものを食べてくれ」


お礼するのは決まっていた。だからまあ、海と春香と俺の3人だけで会うよりはマシだろうと思い誘ったのだ。

弟君たちのお金と海たちのお金。少し財布に痛いが、普段散財しないのでこの機会くらい構わない。


「ううん、楽しんでますよー! ねー、海ちゃん!」


「はい、楽しいです……。だって、こんな楽しい雰囲気久しぶりですから……。それにごめんなさい、私たちの分のお金、払ってもらって……」


二人は顔を合わせて微笑みあう。やっぱり美少女二人が一緒にいるのは目の保養だな。さっきから、美姫に話かけることができなかった他のやつらがここを見ているし。

……後で、クラスメイトの女子にフォロー入れておくか。あまり海や美姫に初対面の男と話させると、ストレスをためるかもしれない。

……ん? 俺はいいのかって? 大丈夫だ、最小限に彼女たちと交流するから。

それに、この店の貸し切り時間も短いからな。すぐに退店時間もくるだろう。


「気にしないでくれ。……少し聞きたかったんだ」


「はい、何でしょう?」


「君たち、まだ中学生だよね? さっき、ここに来るまでに聞いた話だと……、今年受験か。今日はどんな用事でこの学校に来たのかな?」


それを聞くために、彼女たちを呼んだし、彼女たちのところに俺は来た。

確かめるべきだろう、これは。

海の方に問いかける。春香は猫をかぶっている可能性もある。だから、海に聞くことで、信憑性が増す。仮に思い出していても、俺に嘘はつけないからな。


「それは……。私たち、この学園を受験する予定なんです。だから、どんな学校か一目見たくて……。」


「なるほど……。他に理由はないのか?」


「え? いえ、他には特には……」


「そうか……。変なことを聞いて悪かったな。それじゃ後はゆっくり楽しんでくれ」


さっさと去ろうとする俺だったか、海が俺のシャツの裾を掴んだ。


「……私、本当はこの学校を受験するか迷ってました」


「ん……?」「海ちゃん……?」


少し伏し目がちになる海。彼女は話をつづけた。


「親から受けろと指示を受けて、それでいいのかと少し悩んでいました。他の道もあるんじゃないかと。でも、私、今日ここにきてよかったです。……私、ここの学校にきたい理由ができました。」


「うんうん、よかったね、海ちゃん!」


俺を少し涙目で見てくる海と、何かニヤニヤしながら見てくる春香。だから言っているだろうが、この世界のシステム面倒臭すぎるだろうが。


「……そうか、よかったな。君たちが俺らの学校に来てくれたら嬉しいよ。歓迎する。合格して、学校に来たら、話しかけてくれ。ジュースでもおごるよ」


「はい!」「わーい!」


「それじゃあな。今日も楽しんでくれよ」


海たちのもとを去る。

そろそろあいつの元に行かなきゃ拗ねるからな。

最後の目的の場所に行く俺。その目的の彼女はクラスの女の子と談笑していたが、俺が近づくのをそのクラスの女子が気付くと、ニヤニヤしながら場を離れてくれた。


「後はお二人でお楽しみに~」


「え? どういうこと……って、和人!」


「よう、楽しんでるか?」


「楽しんでるわ……ありがとね、和人」


「何がだよ?」


「今更だけど、あんたがいなかったらこんなに私、楽しめなかったわ」


「……いや、お前は俺がいなくても大丈夫だったよ」


「ううん、和人のおかげよ。ありがとう和人。和人がいなかったら私、暗い顔でずっと学校生活を過ごしてたと思う。正直ね、前までは家事とかですごく疲れてたの。家には私しか弟たちの世話をする人がいないから、すごく気を張ってた。だから学校なんてどうでもいいって思ってたの。家族の方が大事だしね」


「……」


「でもね、和人のおかげで気が軽くなっていったわ。周りを見る余裕もできてきて、和人を通して周囲の人と打ち解けていって……段々ね、学校が楽しくなってきたの。だからその……ありがとっ」


「……ああ」


そうお礼を言ってくる彼女の顔は恥ずかしさで真っ赤だったが、それがとても可愛いなと思ってしまった。というかこっちも恥ずかしい。いきなりそんなすごく可愛くなられたらこっちだって困る。これは反則だ反則。

だから、俺は動揺して話をそらそうとした。


「お、覚えてるだろうな?」


「へ? 何が?」


「だから約束だよ。ホームラン打って、優勝したらなんでもいうこと聞くっていってただろう?」


「う、うん……何か言ってみなさいよ」


「そうだな……」


言ってみたはいいものの、ぶっちゃけ具体的に何をしてほしいかは考えていなかった。

そうだな……。


「なあ、華」


「うん……」


「これからも、よろしくな」


「え?」


「俺もお前といてすごく楽しかった。学校に行くのもお前がいるから楽しかった」


「うん……うん。……そっか」


「だからな、これからよろしくな。俺、お前がいないとぶっちゃけ学校ですごく暇だから。」


はぁ……柄にもないことを言ってしまった。お互い、顔を赤らめながらも、微笑みあった。本当に柄じゃないけど、たまにはこんなのもいいなって思ってしまった。


「わ、私も……。私も心の中であんたと仲良くしたいって思ってたし…………あ。ちょ、ちょっとだけなんだからね! 本当はあんたが弄ってくるのに構うのめんどくさいんだからね!」


「いきなり恥ずかしがるなよ……」


「恥ずかしがってない! …………もう。だから……そうね、仲良くしてあげるの、考えてあげるわ」


「ああ、期待してるぞ?」


「ふふ、任せなさい♪」


この世界にきて、改めてわかったことがある。

年が違ったら相手の見方も結構変わることは今までの世界でわかっていたことだけど。

だけど。


頼りがいのある「部長」が、こんなにも魅力的な女の子だなんて、前の世界までは思いもしなかった。


そうだな、あえて茶化して言うなら“俺の部長がこんなに可愛いわけがない”か? ま、彼女は俺の所有物でもなんでもないけど。


だから、俺は計画を考え直す必要がある。

できるだけ彼女を、華を悲しませないような、そんな計画を考える必要が。


そう、彼女の、美姫や海に勝るとも劣らないような綺麗な、そう、彼女自身の名前のような……『花』が咲くような笑みを見て、俺は思ったのだった。



7章の1/3が完了しました。お読みいただいてありがとうございました。

次回の更新は近日中を予定してますので、お待ちください。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ちゃくちゃくと因果のある少女たちが集まってきましたね、、、。またもや泥沼になることは楽しみですし、辛いところもありますw [一言] 読み応えのある文章を毎回執筆してくださりありがとうござい…
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