7章11話(ハーレム編) ホームラン
はぁ……何で俺がこんなかったるいことやらなきゃいけないんだ……
俺の名前は山田栄太。普通の学生だ。俺は今、こんな青空の下、かったるい球技大会に出ている。
この球技大会は学校でも結構大事らしく、クラスのみんなが優勝狙って熱血しているのだ。だから俺はキャラに合わないが、経験者だからという理由で駆り出されているというわけだ。
ポジションはピッチャー。野球でトップを争うくらいに疲れるポジション。なんで俺がこんなダルイポジションをやらなければならないというと、それは俺のクラスの野球経験者の数が他のクラスより足らないのが原因である。俺含めて他には2,3人しかいないのだ。
この球技大会は原則として現役野球部以外がピッチャーをやることを推奨されている。理由は野球部がピッチャーをやったら余計現役野球部以外打てないからだそうだ。
よくわからない理由だ。野球部だからこそ、コントロールも安定しているからストライクも入り、ゲームを作れるというのに……。
だから数少ない野球部もピッチャー以外に回されてしまって……なし崩し的に俺だ。
それなら球技大会で野球をやるなと言いたいところだが……めんどくさい。抗議さえもめんどくさい。
でも、決勝戦自体は、野球部が投手でも問題ないそうだ。なんでも、盛り上がるし、決勝に上がるならば、ゲーム自体も成り立つほど実力があるだろうと。何を運営は考えているんだ?
ワーワー!! キャーキャー!
クラスの女子から歓声が上がる。
お、そんなことを考えている間に俺達のクラスからヒットが出たな。
俺達のクラスの野球部がレフトにボテボテのヒットを打っているのを確認する。相手チームのレフトはその打球を捕球しにいこうとするが……
……ん? あれは。
相手チームのレフトの守備を見てある考えが浮かぶ。そのレフトの容姿は何というか顔は整っているが不良っぽい。それにボールを捕りに行く動作がおどおどとしていて、しかもグラブに入れたボールを落としている。惜しくもランナーは2塁に向かうことはできなかったが、まあいい。
……これはチャンスかもしれないぞ。
あのレフトはおそらく素人だろう、その動きで察知できた。あの不良は自分が目立ちたいから試合に出させてもらった筋だろう。俺も男だから少しわかる。ま、かったるいがな。
「こらー、和人! しっかりしなさいよ!」
相手クラスの一人の女子から罵声が聴こえる。……どんまい。かっこつけたくなる気持ちはわかったが、結果は反対になったな。
……ストラーイク! バッターアウト!
お、ヒットを打ったと思ったら、もうチェンジか。
たしかすぐだったな、彼との勝負は。
ピッチャーマウンドへ向かう。マウンドを足でならし、ロジンバッグで手の滑りを抑える。数球の投球練習を終え、最初のバッターを迎える。
お、さっきのエラーした不良君か。
彼は俺の予想では素人。その構えからも予想できる。彼の構えは初心者特有の大きくバットを揺らす構え。
彼には普通の直球を3球投げればいいだろう。基本的に配球権は俺に委ねられているため、キャッチャーのサインに首を振って俺の要求通りにさせる。
……よし、最初はあそこでいいか。
俺が最初に投げる球は内角へのボール。もしもの時があるかもしれないので、このボールで相手を完全に素人だと判断する。もし彼が本当に素人ならば俺の内角のストレートにビビッて大げさに避けるからな。アウトコースにボールがそれても、反応ができていない、大ぶりの空振りで素人か判断できる。
俺が放ったボールはキャッチャーのミットを動かさずに決まった。彼はそのボールに対し大きくのけぞり、そのボールを投げた俺に対し怒りを抱いているのだろうか睨みをきかせる。
よし、完全に素人か……。
素人とわかればこれからただ3球は外角にストレートを放ればいい。それで相手は勝手に三振してくれる。
俺のボールはただの時速110キロも出てないが、現役でないのでしょうがないだろう。だが、これでも充分素人は抑えることができる。
だから俺は安心してキャッチャーが要求した外角にストレートを投げる…………
…………待て。
おい、待てよ。
彼の構えが変化していることに俺は投げる直前に気付く。その構えはバットが出しやすい構え。最短距離でバットを出せることが素人でもわかるだろう。
さっきまでの大きく上げていた足は鳴りを潜め、彼は軽く足を上げただけ。それにより反動の強さは減ったが、視点のぶれは抑えれる。
待て待て待て! そう心の中で叫ぶ。これでは……「打たれる」と。心が警告している。
その彼のバットは、綺麗にボールへと向かい……
そして、バットから弾かれた白球は、ライトの頭上を大きく超えたのだった…………
…………
………
……
…
よう、和人だ。
俺は今さっきバットで打ったボールを見ている。そのボールは大きくライトの頭上を越え、特設ホームランゾーンに吸い込まれようとして……、吸い込まれた。
俺がとった作戦は……いや、これは作戦といえるほどのものではない。ただの幼稚なものだ。
まずは相手を油断させることが俺の考えの一歩だった。相手は経験者、球種はストレートだけではなく変化球を使ってくる恐れがある。だから相手投手にストレートだけを投げさせることが大事だった。
素人と経験者の間には絶対的な壁がある。それが俺を含め経験者の考えだ。だから経験者のストレートを素人がヒットを打つことなど不可能だと思っている節がある。ま、あまり間違ってはいないな。
彼らはこれから先にある試合のために疲労を極力なくすため、ストレートを素人に多用してくるようになるだろう、それが俺の考えだった。
だから俺は、俺自身を相手に素人だと勘違いさせるために、わざと素人の演技をしてグラブからボールを落としたり、動きを恐る恐るといったような動きをした。
そして完全に俺が素人だと思わせる最後の方法。それはバッターの時、自分の体に近いボールが来たら大きく避ける演技をすること。素人は速球が内角にいきなり来たら驚くからな。
最終的に相手は俺の演技にまんまと引っかかってくれた。素人と油断したボールは真ん中寄りのアウトコースのストレート。予想した通りだった。
それを打った俺は、今ダイヤモンドを走っている。そう、「軽く」、な。
俺が打ったボールはホームランゾーンに吸い込まれたのだ。だから俺は優雅に一周している。それくらい、楽しませてもらってもいいだろう?
さて、俺と賭けをした華の顔はどうしてるかなっと……
「よっしゃー!!」
拳を強く握り、雄叫びを上げていた。
雄叫びを上げているのに彼女は夢中で、クラスメイトのニヤニヤした視線に気が付いていない。その光景に苦笑しながら、1周する。
ま、これで1回戦突破だな。俺達のクラスメイトの投手なら、高々この程度の相手から大量点を奪われる心配はない。それに、俺たちのクラスはほぼ経験者や野球部で占めている。本気で優勝を狙いにいくメンバーだ。追加点もかなり期待できるだろう。後の打順は、チームバッティングに徹すればよい。
……ん? おいおい、ちょっと待てよ。
ホームランゾーンに入ったボールを見てみると、そこで座っていた女子生徒に当たっているのを確認した。
悪いことをした。ホームベースに着いた後は謝りに行こうと思っていた。
その相手が……。
……は?
何でお前がここにいる。お前は俺の一つ下で、俺は今高校一年だから、まだ中学生だろうが……
「……うぅ、痛いです」「だ、大丈夫!? 海ちゃん!」
……海と春香だった。




