7章10話(ハーレム編) 試合当日。そして、役者は揃っていく
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スポーツというものは素人と経験者との間に絶対的な差がある。それもボール以外の道具を使うスポーツだと尚更だ。
ホッケーだったら、普段そのボールを打ちなれていないものがプレイすると、コツをつかんでいないと、どんなに運動神経が良くとも足を引っ張る。アイスホッケーだともはやすべりなれてないと戦力としても数えられない。
野球もその傾向が顕著にあらわれる。普段バットを扱っていないものがいきなりバッターボックスに立って時速130キロを超えるボールを打てと言われても無理だろう。どんなに運動神経が良くともだ。
それに打球も捕球することも容易ではないだろう。ショートバウンドなど、素人がどうやって対処すればいいかわかるだろうか。
だからアニメや漫画で野球経験のない女どもにうつつを抜かしている主人公共が、いきなりプレイして活躍することに俺は苛立ちを覚えている。あんなものは普段汗水たらして頑張っているスポーツ選手に対して馬鹿にしている。
……ま、俺の持論はそこまでにしよう。どんなに語っても愚痴になるからな。
そう、だから普段あまりクラスに協力的でない俺がチームに参加するように言われたのだ。
ソフトボールならば初心者達が活躍できる機会は少々ある。ボールが大きいことも一因だし、そこまでプレイする範囲が広くないことも理由だな。(完全に俺の持論だ。議論するつもりはない)
疑問に思うのだが、何故学校側は球技大会の内容を野球にした? ソフトボールなら野球未経験者でもある程度は楽しめるし、普段の授業でも学ぶ機会があるからプレイしやすいというのに、何故野球にしたのだ? まぁ、この世界が作り物だったら、それが都合がいいのだろう。
それに、……だからだろうか俺が参加できるんだけどな。俺の他にも元野球経験者は数多く参加しているし、俺のクラスは結構なガチメンバーだ。
「なあ華、覚えてるか?」
「何がよ?」
学校の体操服を来て登校中、俺はそんなことを考えつつ華と一緒に登校していた。
そんなことを考える余裕があるのも彼女との間にある空気のおかげである。彼女といると本当に安心して心地良い。聖の時とは、また違った感覚だ。
「俺がホームラン打ったらなんでもするってことだよ」
「ああ、そのことね。いいわよ、頑張って打ってみなさい!」
ホームランスイングをシャドーでする華。中々様になっているじゃないか。
「ああ、わかったよ。……パンツ見えそうだぞ」
「バカ! みるな!」
「まあ、そんなことはどうでもいいが。期待しておけよ。俺もお前のご褒美に期待しているから」
「ど、どうでもいいってあんた……。何かそれもそれでイラつくわね……。……あっ!」
「なんだ?」
「は、はい、……これ」
「これは……」
彼女から布で包まれた箱を渡される。
……もしかしてこれは。
「お、お弁当……あ、あんたどうせ今日のご飯まだ買ってないでしょ? それにあんた手作りのもの食べたいって言ってたし……」
彼女は目を右斜め45度の方向に向けながら顔を赤らめていた。
「……サンキューな。嬉しいよ」
「ふ、ふん。だから今日はしっかりと気張りなさいよね」
「はいはい……あ」
「ん? どうしたのよ?」
今更ながら気が付いた。今彼女から弁当を受け取った場所を。
そう、ここは……
「……やっぱり付き合ってるんじゃ」
「……ツンデレ夫婦」
「……神は何故このような仕打ちを私に?」
俺達の教室だった。もう、気が付くと到着していたのだ。
そう、彼女が俺に弁当を渡していたところをクラスメイト全員が見ていたのだ。それを見たクラスメイトの目は様々。俺達に対してニヤニヤしている者もいれば、まるで冷戦状態の兵士のような顔をした者もいる。
俺が釈明するのも面倒だし、それらに対し華の弁明を期待しようとするが……。
「あ、あ、あぁ! み、皆! こ、これは違うの! 昨日こいつが私の家に来たときに言ってたから作っただけなの!」
「おい、バカやめろ。また誤解を……」
「……家にまで」「……押しかけ夫婦」「……通い妻かな? いや、通い夫かな?」
……彼女の言葉がまたクラスメイトにネタを与えてしまった。
今や彼女はクラスメイトと仲が良いと言ってもよい。俺と彼女の会話を密かに聞いていたクラスメイトが、『あれ? もしかして彼女は良い人なんじゃないか?』とわかってきて彼女と交流し始めたのだ。実際に彼女は芯が良い人なので、皆からも受け入れられていった。
その中で彼女と俺の仲を弄ったりするのだが……俺にも少し羞恥心がある。そこは程々にしてほしい。
「……もー! 和人も何かいいなさいよ!! あんたも何かフォローしてよ!」
「お、おいだから余計なことは……」
「「「……和人!?」」」
クラスメイトのそのような声が聞こえて、少し疲労を覚える。そうだ、彼女が俺を下の名前で呼ぶのは彼らの前では初めてなのだ。
前までは、恥ずかしがってまだ名字で俺のことを呼んだり、はたまた『あんた』と呼んだりしていた。それが下の名前で突然呼んだのだ。……関係を疑っても障害ないだろう。
「あ、あわわわ……」
どうすればいいかわからなくなった彼女は混乱している。おい、目が?マークになってるぞ。
……今日これで俺は打つことができるのか?
………
……
…
私は高校をどこに行くか悩んでいた。
お父様やお母様のいいつけをこれまで忠実に守ってきたという自負はある。
茶道、華道、武道、舞踊、音楽。他にも様々な習い事を修めてきた。自分で言うが、それも高いレベルで。
周りの大人たちは褒めてくれる。お父様たちの言いつけを守って偉いね。すごく上手だねと。
しかし、お父様たちはもう褒めてくれない。私を見てくれない。
それは、私に下の妹ができたからだ。
下の妹は、私よりはるかに高いレベルで習得しているのだ。いわゆる、天賦の才。それに私よりも頭が良いし、器量がよい。
両親の興味も妹にうつっていった。私はだから、妹の予備だった。一応、私に命令してくれるが、それは妹が何か問題があった場合、私に継がせるためだ。家のお手伝いさんたちが話しているのを、私が聞いたからだ。
進学先は親から指定されていた。
元女子高であり、超進学校でもあり、超スポーツ校でもある。それでいて、超マンモス高でもある。その影響で学生の自治会が強い。
……なんだろう、誰かが昔言っていた言葉を思い出す。
『誰かさんにとってまったく都合が良い学校だな』
誰かにそんなこと言われたことないのに、その言葉が頭の中に聞こえる。
懐かしい声。
頭に焼き付いた声。
甘い声。
痺れる声。
その声が、頭の中に時々よみがえってくるのだ。その声は、私の何かを目覚めさせるのだ。
だからだろうか。
親が私の興味の対象から外しても、予想と比べて悲しみが薄いのは。
もちろん悲しい。私は家族に認められたいし、それに愛されたい。
でも、それと同等か、それ以上に、頭の中に、心の中に一つの存在がある。
『●●君』
………私の、私だけの、いや、あなただけの………。
「……ちゃん! もう、聞いてる? 大丈夫?」
「……ああ、すみません。春香。」
横にいる親友が私へ心配そうに話しかけている。
……私の親友。私と違って、凄く可愛いし、流行に乗っているし、友人も多い。自慢の親友だ。
そんな彼女が横にいてくれるから、私は両親から見放されても耐えられた一因だ。
「もうすぐ、目的の学校に着くね! 楽しそうな学校だといいね、志望校! 私も狙ってるから、一緒に行けるといいね!」
「はい……」
優しい彼女。私の親から指定された学校の見学に付き合ってくれる。
親は私に言った。暇だったらその学校の様子を見てきなさいと。なんでも、今日は球技大会だそうだ。学生たちの気兼ねない交流を見れるだろうと。
一人で行く勇気もあまりなかった私を心配して、こうして彼女が付き合ってくれるのだった。
学校が見える。みんな楽しそうだ。
私も楽しめるかな……。
『……海』
会えるかな……その声の男の人に。
わかるかな、私が何者なのか……。




