7章7話(ハーレム編) 和人と呼んでくれた日
こういう話を書いているのが一番楽しいです。本章はこのような描写が多いお話にできればと考えています。
「あー、暇だ……」
鳥の鳴き声しか聞こえない昼時、自宅の前の道路には人影もみえず。
俺は暇を持て余しながら自宅でボーっとしていた。
部長を虐めていた女の子の不良と喧嘩した俺は、教師連中から数日間の謹慎処分を受けたのだった。
ま、学校で派手に喧嘩すればそうなるよな。……俺もやることが若すぎた。
謹慎処分を受けて素直に従う必要もないが、特に外に出てやることもないので部屋の中で静かにしている俺だった。ダサいと言っていい有様だ。
ここ最近のやりがいと言ったら、華と会話をするくらいだったのだ。
学校に行くことができないので彼女に会えず、学校にいけない俺は腐る一方であった。
やることはある、あるのだが……今は時じゃない。
そもそもその『対象』がまだ動き始めていないようなので、経過観察のみ。その観察も、今は継続中。特に懸念事項はない。
……さて、どうするか。
久し振りに酒でも買ってくるか? 昼間から酒など、ここ最近やってないから少し楽しそうだ。
手持ちの金が少なくてまずい酒しか買えないが、まぁしょうがないだろう。
まずい酒を我慢するのが学生の醍醐味だ。そうと決まれば早速買いに行こうかな。
まずはなるべくいい酒を選ぼう。ワインを飲むか、……いや、ハイボールでもいいかな。コークハイにもできるし、安くてある程度は美味いからな。それから好みの酒のつまみを買おう。
ピンポーン……。
俺が上着を羽織りながら準備しているとき、家のインターホンがなった。
誰だ? 俺を訪ねてくるやつなんていたか? そんなに仲が良い奴なんて……。
……もしかして、『あいつ』か?
もう、もう思い出したのか?
あいつとは何の接点もなかったはずだ。ならどうしてあいつは思い出した?
……いや、原因は今は保留だ。
今、あいつをどうするかが問題だ。出会い頭に俺を襲ってくるかもしれない。スタンガンや催眠スプレーをかけてきたり、物理的な手段を講じているかもしれない。
そもそもそれで済むかもわからない。俺は、何度も何度も彼女を裏切ってきた。終いには、前の時間軸だ。最後の最後で俺は、あいつを裏切ったのだ。だから何らかの制裁を俺に与えるだろう。
……そうだな、まずはあいつに会ってみるしかないだろう。
あいつに対する対抗策を練りつつ、そして装備を整えながら玄関に向かう。この家は俺のテリトリーだ。だから、あいつがどんな手を出そうとも、俺は対策できる。仮に複数人が相手だったとしても、逃げ道はすでに用意している。
玄関に着くと、俺はドアの向こうの主に声をかけた。
「いいぞ、入ってこいよ。春香」
そうだ、俺が予想していた相手は春香。俺が前の世界で負けた相手。いや、今まで俺が騙し続けた相手。彼女の訪問を予想したのだ。
相手から扉を開かせればよい。そうすれば俺が一手早く行動できるだろう。
さて、あいつは俺にどういった行動をとってくるか……。
緊張して来客者がドアを開けるのを待つと、意外な人物が目の前に現れた。
「お、お邪魔するわ……」
「……は?」
緊張していた身体から力が一気に抜ける。とりあえずは安心した。
来客者は、俺が予想していた人物よりもずっと安全な相手。
そう、あのロリっている、ツインテールの奴。
「突然お邪魔して一言目がこれで悪いと思うけど……ねえ、春香って誰よ?」
「あー、……なんでもないよ、華」
俺の家に訪れた相手は、恥ずかしそうにしている華だった。
………
……
…
「突然お邪魔して一言目がこれで悪いと思うけど……ねえ、春香って誰よ?」
「だからなんでもないって、華。とりあえず入ってくれ。十分なもてなしができるかわからないが……」
特に広くも狭くもない俺の家の玄関。そこで俺と部長は向かいあっていた。
……何でだ? 何で彼女は来てくれたのだ?
いつも彼女は俺が構ったら迷惑そうにギャーギャー反応していた。
だからまだそこまで彼女との仲は進展していないと思ったのだが……。一方的に俺が構い続けただけなのだから。
「も、もももしかして彼女さんだったかしら? そ、そそそれだったらごめんなさいね! すぐに、か、帰るから! 彼女さんによ、よろしく!!」
彼女は何を勘違いしたのかわからないが、俺にはめったに向けない笑顔を、ぎこちない笑顔を向けながら俺にそう言って背中を向けた。……それに、少し何か涙目っぽかった。俺はその彼女の腕を慌てて強く掴んでしまった。
「待てよ! そんなんじゃないって。別に俺は彼女とかいないんだよ」
「……嘘よ」
「だから嘘じゃないって。何を拗ねているんだよ……」
「拗ねてないわよ!」
そっぽ向く華。本当に何で機嫌を損ねているんだよ……。
……はぁ、しょうがないか。
「華、こっちを向いてくれ」
「あ……? …………やっぱり、凄くかっこいい」
「ん? 何かつぶやいたか?」
「な、なんでもないわよ! 聞いていても記憶から忘れなさい!」
華の両肩に手を置く。華の顔を見つめる。俺が嘘をついていないと伝えるため。華は顔をさらに赤らめ、俺の瞳をじっと見つめていた。
「本当に今は彼女とかいないんだ。居たら、……お前に話しかけてなんかない。今は、お前以外に興味なんてないんだ。だから、信じてくれ……」
「……えぇ? えええええええええええええぇぇぇ!!??」
「……なんでもない。今の言葉は忘れてくれ」
おいおい、俺は何を無意識に口説こうとしているんだよ。完全に口説き文句だろう、それ。
まずいな、自然体で過ごそうとしたら口説いてしまうなんてどこのチャラ男なんだよ。
それに何で華も「あわわわ」言いながら顔を赤らめているんだよ。
というかこのパターンって何か美姫の時と似てないか? 春香が俺に抱き着いたのを勘違いした美姫が拗ねた時に。……ま、今更あの時のことを思い出しても意味がない。失敗した時の記憶などただ俺を苛むだけだ。
「しょ、ししししょうがないわね。あ、ああああんたがそこまで言うなんて!! そ、そそういうことなんでしょ? や、やっぱりそういうことなんだっ」
目線を外しつつ、ニヤニヤとする華。いや、どういうことなんだよ?
「……何を考えているかわからないが、俺はお前の誤解を解きたいだけなんだ。彼女なんて、今はいないって」
「へ、へー。焦らすのね……。わ、わかったわよ! えへへ……」
「キモイ顔でニヤニヤするな、顔を戻せ。」
「だからあんたひどくない!?」
「そもそも何をわかったんだよ……。まぁ、とりあえず上がってくれ。ここまで来てくれたんだし、お茶ぐらい出すぞ?」
「え、うんわかったわ。……お、お邪魔しまーす……」
「あはは、何緊張してるんだよ。右手と右足、右のツインテールが同時に出てるぞ」
「しょ、しょうがないじゃない! 男の子の家なんて初めてお邪魔したんだから!」
「はいはい、俺が第一号で嬉しいよ」
「うふふ、光栄に思いなさいよ!」
………
……
…
「緑茶、麦茶、コーヒーと紅茶あるけど何がいい?」
「そ、そんな気を遣わなくいいわよ……。突然お邪魔したこっちが悪いのに……」
誰もいない居間で話そうと、俺と華はそこへ向かった。
彼女をソファに座らせつつ、今俺は居間の隣の台所で茶葉を探している。確かこの辺にあったと思うんだけどなぁ、久し振りに客が来たから奥にしまったのかな?
「遠慮すんなって。いつもそんな遠慮してたら、ストレスで成長できないぞ」
「そ、そうかしら……って、誰が貧乳よ!」
「……だからお前は漫才師かよ」
うん、この紅茶でいいか。この間買った、高めの紅茶だ。できるだけ、良いものを口にしてほしいからな。それに飲めないことはないだろう、この前こいつに飲み物奢ったとき紅茶選んでいたし。
「お待たせ」
「あ、ありがとう……」
俺からもらった紅茶をチビチビと飲み始める部長。その姿が小動物っぽくて何か可愛さを感じた。いや、彼女が可愛いのはいつものことだが。
「さて、要件は何だ?」
「え? そうね……まず、先に謝らせてちょうだい。……ごめんなさい」
「あ? 何謝ってるんだよ?」
「……私のせいであんたは謹慎処分になったわ。だから謝る必要が私にはある」
「お前、俺の処分の理由知ってるのか?」
「……ごめんなさい。あんたが先生たちに止められているところ、私見ちゃったの」
「……あー。じゃあもしかして…………聞いてしまったのか?」
「…………………………………………………………………………………………うん」
確か、俺は教師が止めに来る直前まで白熱していたはずだ。
例えば俺は、
「お前のクソ女よりなぁ、あいつの方が可愛いし良いやつなんだよ!!」と言ったり。
または、「あんないい女に手を出すんじゃねえ」や。
「クソ野郎が、お前女見る目がないんだよ! 何で華には惚れないでこんな性格ブスに惚れやがるんだアホが!」など。
クソカップル共を罵りながら、華を褒めていた気がする。
俺は何て恥ずかしい真似をしてしまったんだ………俺のキャラじゃないぞ。この姿を姉さんに見られていたら、絶対に笑われる。
「……どこまで聞いていた?」
「…………『お前のクソ女よりなぁ、あいつの方が可愛いし良いやつなんだよ!!』とか、『あんないい女に手を出すんじゃねえ』とか、『クソ野郎が、お前女見る目がないんだよ! 何で華には惚れないでこんな性格ブスに惚れやがるんだアホが!』とか、『あんないい女泣かせるんじゃねえ』とか」
おいおい、ほぼ全部聴いてるんじゃねえか?
目の前でトマトのように赤くなっている華だが、それ以上にこっちも顔が真っ赤なはずだ。さっきから顔が火を噴くほど熱い。
「……忘れてくれ」
「わ、忘れられないわよ! あれからあんたが謹慎して学校で私、皆から噂されてるのよ! あ、アツアツカップルとか、いつものやつは夫婦漫才かも? とか、リアルピンク髪の魔法使いと使い魔とか!! 紅〇の徒とか!! ひそひそ聞こえてくるし!」
「あー……何かすまん」
最後のやつが気になったが、今は恥ずかしさでいっぱいである。というかこの部屋暑いな。暑いから二人とも顔が赤いんだよな、そうだよな。
「……ひとまずそれは置いておきましょう。それに、それがきっかけで、クラスのみんなも私に話しかけてくれたり、心配してくれたりしてるし……。あんたは私のために喧嘩してくれたの、だから私の責任。ごめんなさい……」
「ばか、謝るんじゃない。元はと言えば俺の勝手な行動の結果だ。それに、先を見据えた行動ができなかったせいだ。もっと周りを見ておくべきだった。……、まだまだだな、俺は。俺があのクソ女にもう少し配慮すべきだった。俺が振ったからお前が……」
「違うわ。私のせいなの、私が一人でどうにかしなきゃいけない問題だったのよ」
「お前は悪くないって。俺が原因なんだよ。これまでも、そしてこれからも……」
「何あんた一人で納得してるのよ! 私のせいよ! 私が毅然とした態度でずっといたらよかっただけじゃない。それか、私が行動に移せばよかったのよ!」
「違う。原因である俺が動くのが筋だろう」
「違わない! 私の責任よ!」
「俺だよ!」
「私!」
「俺だ!」「私よ!」
二人で顔を近づけながら言い争う俺達。だが、その顔の近さに気が付いて、すぐに距離をひらく。……何だよ、この3流ラブコメ展開は?
恥ずかしさで少しの間沈黙が流れるが、俺の言葉でそれを破った。
……そうだな。
「……なら、」
「え?」
「謝られるよりも、ありがとうって言ってほしい。お前のそんな悲しい顔を見たくて、俺は喧嘩したわけじゃない。お前に笑っていてほしくて、俺は動いた。お前の笑顔が好きだから……。」
「……そうね。……ありがとう、和人。あんたのおかげで助かったわ」
目の前の彼女は顔を赤らめた後、その名の通り花が咲くような笑顔で俺に微笑んでくれた。
……おいおい、もう少しで惚れそうだったじゃねぇか。やばいやばい、俺はもっと胸が大きい方が好みだって……。
「誰がまな板ですって!?」
「……何でわかるんだよ」
「あんたの顔を見たらわかるわよ。このバカ、バ和人」
「心を読むなよ……あ」
「なによ?」
「初めて、初めて俺のこと和人って呼んでくれたな」
「べ、別にいいでしょ! ……だめ?」
最初はそっぽを向きながらも、最後には上目使いで聴いてくる彼女。
……おいおい、それは卑怯じゃないか?
「ダメなわけない。俺もそう呼ばれて嬉しい」
「うん。……えへへ」
……あー、やばいやばい。そんな姿を見せられると……
いや、ちょっと待てよ俺。俺はいつもこんな場面で失敗するじゃないか。だから少し冷静になれ。
「な、なあ華!」
「え?」
「な、なんかさ、ご褒美っていったら変だが、飯でも作ってくれないか? 俺ここ最近外食ばかりだったから、久し振りに誰かの飯食いたい」
「え、あんた親御さんは?」
「いないよ。いつも一人で暮らしている」
「……そう。ごめんなさいね。悪いこと聞いてしまったわ。」
「いや、別に全然気にしていないからいいよ」
「そっか……。でも、……うふふ」
「な、何笑ってるんだよ?」
「和人って可愛い所あるのね。恥ずかしがってるのがすぐにわかるわ。だから無理やり話を逸らしたんでしょ?」
「……だから可愛いって言うな。俺は萌えキャラか」
何でいつも俺のまわりにいる女はいつも俺を可愛い可愛いと言って萌えキャラにしたがるんだ? 思い出すだけでも春香、美姫など。あれ? いつも弄ばれている相手じゃねえか。そんな俺の悩みを知らずか、華は制服の上着を脱いで気合を入れていた。
「しょ、しょうがないわね~。あんたがどうしてもっていうなら作ってあげるわよ! べ、べつにあんたにおいしいご飯を食べさせたいとか、喜んでほしいとか、全然思ってないんだから! 勘違いしないでよね!」
「そのひと昔前のようなツンデレはやめろ」
「誰がツンデレよ! 失礼ね! ……ええ、いいわよ! 腕によりをかけて作ってあげる! 今から作りましょうか? あ、それともうちに来る? 弟たちも会いたがってたし? というか来なさいよ! 一人で居たら気が滅入るでしょ?」
「おいおい、俺をそこまでお前の家に連れて行きたいのか? 何をするつもりだよ? すまないが、俺はもうちょっとグラマーな体つきの女が好みだ。もうちょっと成長してから来てくれ」
俺が悩んでいるのに得意げになっている彼女に少し腹が立って、下ネタまがいのことを言ってしまった。
「え? だから言ってるじゃない。ただご飯作ろうかなって……って! あんた何言ってるのよ! この変態! 誰が貧相か!」
「あはは、仕返しだよ、このツンデレロリツインテール!」
「ツンデレでも、ロりでもない! このバカ! アホ! 間抜け!」
「あはは! 語彙力が小学生だぞ」
「う、うるさいうるさいうるさいー! このバ和人―!」
そうやって、お互いを弄りあう俺達二人。
こうして、謹慎中の俺は、謹慎中とは思えないほど楽しい時間を過ごしていたのであった。




