7章6話(ハーレム編) 喧嘩
楽しい日常。前の聖の時には色々とお世話になった、部長であった華との和やかな日々。
そんなとき、事件が起きてしまった。
事件と言ってもあれだ、些細なこと。よく現実の世界でも起こりそうなこと。
華がちょっと他のクラスの女子に意地悪を受けてしまっているという事件だ。
何故か? クラスでもあまり目立たなかった彼女が何故今更そのような扱いを受けるのか?
……まぁ、原因はいつものことだが俺だ。
俺はこの間他のクラスの女子に告白された。好きになった理由は何だったかな? 姉さん譲りのよく整った顔を好きになったのか?
まぁ、なんでもいい。違うクラスの女子に告白されたのが、俺はその子をもちろん振った。振っただけなら良かったのだが、俺は彼女に振った理由を正直に言ってしまったのだ。
友達と、……「華」ともっと過ごしていたい、そのことを。
迂闊だった。
その子はカンカンに怒ってしまい、部長を意地悪のターゲットに選んでしまった。
告白したその子が普通の子だったらよかったのに、運悪く、その子はクラスカーストでもトップのグループに属していた人物。周囲も巻き込んでしまって、部長を助ける者もいなかった。
まあその告白してきた子、確かに少し可愛かったもんな。そりゃそのクラスでもトップに属すことができるわ。でも何でそんな子が俺に惚れたんだ? 他クラスだから、そんなに絡みはなかったはずだ。それに、適度に今回俺は人間関係を構築していっているが、クラスカーストでもそんな高い位置にいない認識だ。しかも、違うクラス。
一応、その子達のグループの誘いも断った覚えがあるし……。
……俺の、人間関係構築能力、観察力に衰えを感じる。
前の、俺が海を攻略した時が全盛期だった。
その時の俺は、理性のタガが外れた状態。ただ冷静に、相手を利用し踏み潰すために行動していた。周囲に情など湧いていなかった。
だから、そのようなことができた。
それに、やり直しという能力もあり、失敗しても構わないという安心感があった。
だから、誰も敵ではなかった。
でも、今は違う……。もうやり直しはしたくないし、同じ繰り返しはしない。
……ま、そんなことよりもだ。
大事なのは部長が意地悪されている事実。
しかも部長は俺がいない間を狙って意地悪されているそうだ。
ほんと、陰湿なことってどこにでもあるよな。
……というか本当にこの世界そういうのが発生しすぎただろう。民度はどうなっているんだ? ……いや、違うか。俺がきれいなものばかりを見て、目を背けていただけか。
俺が原因で部長が辛い目にあっているのだから、俺が解決するのが筋だった。だから俺は件の告白してきた彼女に直接止めるように求めるように動いた。
ある日、その女の子を空き教室に呼び出して。
「あー、……えっと(……やばい、名前忘れた)、まあいいや。あのな、突然だけどお願いしていいか?」
「え? 和人君? 何?」
その子の笑顔が物凄くウザく感じる。それとお前が馴れ馴れしく呼ぶな。呼んでいいのは華や海達だけだ。
「ど、どうしたのそんな怖い顔して……」
……いかんいかん、冷静になれ。ただでさえ部長を苦しめたこいつを目の前にしたらイライラするんんだ。もっと意識して冷静になれ。
スー、ハー、スー、ハー……よし。
「あのさ、お前達が華にやっていること、もう止めてくれないか?」
「え?」
「イライラすんだよ、そんなクソみたいなことされたら。あんなにいいやつをいじめるお前ら、ホント腹が立つんだよ」
「な、何言ってるの……?」
「俺が知らないと思うのかよ? バレバレなんだよ」
「……何で」
「は?」
「何であいつの味方するのよ!? あんな、クラスでも目立たないやつなんか……!」
「……目立たないやつかどうかは賛成できないな。あんなにギャーギャーうるさいやつだから」
「か、和人君も迷惑に思ってるんでしょ!? あんなやつに付きまとわれて……」
「あー、別にあいつは付きまとってないよ。逆に俺があいつに好きで構っている」
「え? じゃあ何で和人君はあんなやつと一緒にいるの?」
「そりゃあいつはギャーギャーうるせーけど楽しいやつだし、何よりいいやつだ。いつも頑張っているのがわかるし、接していて気分が良くなる。それに、……あいつは優しい。家族にも、後輩にも、……そして俺にも。素晴らしい人だ。そんなあいつを俺は尊敬しているし、あいつを助けたいと思う。……そう、昔からな」
「な、何でよ……何でなのよ……」
「それにな、お前にもう一度言うけど………………やっぱ俺って面食いなんだわ」
「……は?」
感情が止まらなかった。
華を傷つけるな。
あいつはいいやつだ。俺なんかが本来関わりを持つべきではない人で、素晴らしい人なんだ。
そして、俺やお前たちとは、違う世界に生きて、楽しく、幸せに過ごしてほしいんだ。
華も、……海も、美姫も、春香も、聖も、あの子たちも。
だから、お前が許せない。
「海や美姫……お前に言ってもわからないか。ま、今まで会ったやつの中でも可愛いし、綺麗だし、上等の女だよ。だからあいつといるのは単純にうれしい。それに、クラスの誰よりも可愛いし、な。もちろんお前より数十倍。蝶と蛾だよ。綺麗に舞う蝶と、灯りに付きまとう汚い蛾だ。」
「ひどい……ひどいよぉ」
俺の正直すぎる言葉に対し、目の前の彼女は涙を流していた。
……くそが、めんどくさいやつだな。
「あー、ごめん言い過ぎた。えっと、まだ要件はあるんだけどいいか?」
「ぐすっ…………え?」
「これ、見てくれるか?」
俺はポケットの中から携帯を取り出し、彼女に提示した。
「これって……」
「ああ、お前がやってきた『楽しい』ことだよ。楽しかっただろ、ストレス発散になったか? でもそれも今日までだ」
人には必ず知られたくないことがある。
目の前の彼女の場合は、まあ子供じみた行為だ。部長や他の子をいじめた時の写真、タバコを吸っていた時の写真、万引きしていた時の写真。その他諸々。
これを手に入れるために少し時間がかかった。実力行使でもよかったんだが、人って後で何するかわからないからな。
「確かお前推薦狙ってたよな? お前と仲良くしている子に聞いたよ。でも、これがバレたらそれも諦めるしかないよな?」
「いや、ばらさないで……今すぐ携帯から消して……」
「別にこの携帯に入っているのを消してもいいけど、家にも保存してあるし……」
「……ひどいよぉ。何でそんなことできるの?」
「お前が言えると思ってんのか? あいつを痛めつけたやつが」
「……」
「……俺も、穏便に済ませたい。ただ、俺たちに関わってほしくないだけだ。賢いお前ならわかってくれるよな? これ以上、華を……苦しめないでくれ。……良い人なんだ。脅すような真似をしてすまないと思っている。でも、これを教師たちに見せてほしくなかったら……」
話はこれで終わろうとしていた。目の前の彼女が沈黙し、ただ涙を流している時点で俺の勝ちは決まっていたから。
だが、その時、俺と目の前の彼女しかいない教室にある男子が入ってきた。
「おい、遅いから迎えに来たぞ…………あ? 何で泣いてるんだよ?」
確か……彼はこの学校の数少ない不良の……名前何だったかな? 興味がないやつの名前を、とことん忘れる癖は治さないといけないな。
「おい、こいつに泣かされたのかよ?」
「……」
彼女は沈黙している。その沈黙が肯定の意をその不良君に示した。
「おい、お前何? 何で人の彼女泣かしてくれてんの?」
彼は彼女が泣いていることに激昂し、俺の胸倉を掴んできた。そして、俺を突き飛ばした。俺は机にぶつかり、転がり落ちる。彼はそんな俺に蹴りをくりだす。
「……ああ、なるほど。そういうことか」
少し、不良君にイライラしながら考え事をする。
なるほどな、俺に振られた後、彼女はすぐにそこの不良君と付き合ったわけか。
何で作り物だっていう世界のくせに、こんなところは妙にリアルなんだよ。別によくある話だしいいが……。
……イライラするんだよ、やっぱり。本当に。こんな茶番を目の前で見せられて。そして横にいるクソ女とそいつを守っている自分に酔っているこいつに。
それに、こんな低次元の争いしかできない自分に。
だから、だから……。
「……なあ」
「あ? 何だ?」
彼に対して、感情を抑えながら話しかける。
「お前、言ったよな? 何彼女泣かせてくれているんだって」
「それがどうした?」
「俺も言っていいか?」
「は? 何?」
「お前らもなぁ……なに華を泣かせてくれてんだよ!!!!!」
「ぐぇ!!!」
感情を抑えきれず、彼の顔面を殴ってしまった。(彼が先に俺に暴力を行使してきたので問題ない、……ないはずだ)
「お前の女がなぁ、あいつよりいい女だって言うなら殴り返してみろ!!」
「はぁ? ふざけんじゃねえ!!!」
そんな感じで俺は柄にもなく白熱してしまい、学校の教師が止めにくるまで彼と喧嘩してしまった。
………
……
…