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2章4話

2章はこの話(2章4話)で修了です。

また、以下にこの話における注意点を記載します。

・流血描写があるのでご注意ください。

・ヒロインが特にひどい目にあう描写が多いのでご注意ください。



「……なあ、先に行っててくれ。ちょっと俺用事あるから」


『今』の彼女、Cに笑顔を向ける。優しく、優しく。休みの日に仕事で遊びにいけなくなり泣き出す子供をあやす父親のように。


「え、でもこれからご飯食べにいくんじゃ……。……い、行きましょうよぉ」


Cとはこれから飯にでもいく約束をしていた。ん? Dとは何故行かないのかって? それはDが断ったからだよ。何でも用事があるって言っていたけど、明らかに俺達と同じ空間にいたくないのだが明白だ。まぁCは気付いていないようだけど。お前図太過ぎだろ。

そんなCだが、これから俺がどうするか、『誰』の元に行こうとしているか、何となくわかってしまったのだろう。だから彼女は今まで俺に対して口答えしなかったが、初めてしてしまった。俺の袖を強くつかみながら。


「すぐ帰ってくるから」


「……明日じゃ駄目なんですか? もう遅くなりますし……」


さらに否定する彼女。……面倒だなぁ。そろそろ、いいか。

俺は笑顔から一転、彼女に対してある表情を向ける。そう、何も興味がないように、動物園の動物をみるように。海の時に浮かべたあの表情を。


「……はぁ。めんどくさいな。やっぱりあいつの方が…」


「……ッ!! わかりました! 待ってます! 待ってますから!」


「じゃあな~」


こんな感じでCと別れる。

Dが陸上部で良い成績を残してから、本当にCはDに対して対抗心を持つ傾向があるからな。親友だからか? いや、俺を奪うかもしれないと恐怖しているからだろう。その感情を上手く利用させてもらうさ。

俺が今から行く場所。もうわかるだろう? 

俺は今『始まりの公園』、彼女達と出会ったあの地まで走ってきた。あの人はここに来るだろうと確信しているから。奥に進む。すると、一人でベンチに座っている目的の人をみつけた。



「え……?」


俺がこの場にいることに本当に驚いているのだろう。彼女は手に持っていたコーヒー缶を落とした。


「どうして、俺達に何も言わないで大学を決めたんだ?」


「……」


そう、その人物とはD。もうわかるだろう? 俺が今から何をしようとしているのかを。俺は表面では顔を固くしつつ、内心では面倒がっていた。あくびを出していた。もうこれからはただの作業なのだから。


「俺達親友なんだろ? 言ってくれよ…」


「……ごめんなさい」


「ここで離れるなんて嫌だ。俺はもっと君の近くにいたい」


「……!」


「君と別れるなんて嫌なんだ。俺の前からいなくならないでくれ。だから……」


「……ちょっと今日は疲れました。ごめんなさい、ボク、帰り……」


「いやだ」


彼女の手を摑まえる。彼女の手は冷たかった。どれだけここにいたんだ? あ、俺が寒いからコンビニで休憩したからこんなに公園にいたんだ。


「や、……やめてよ! 先輩なんてもう知らないよ!」


「……」


必死に俺を振りほどこうとするD。だが、その眼には涙が溜まっていた。そんな彼女は、何かを必死に忘れようと足掻いているように見えた。……よし、もう少しだな。


「もう、先輩なんて知らない! 何で『俺の前からいなくならないでくれ』なんて言うの!? 何でそんなの、親友の彼氏に言われなくちゃいけないの!」


「……」


「僕の前からいなくなったのは先輩が先だよ!  もういや! 何で毎日毎日心を抉られなきゃいけないの!?」


もうそれ自分で答え言っているようなもんじゃん。


「……」


「もう、辛いの………それに、僕は先輩のこと一度も好きって言ったことはないよ?」


何も言っていないが……それは答え合わせをしてくれているのか? 何一人で盛り上がっているんだよ。


「……本当にそうか?」


「え?」


「3人でお泊り会の時とかそうだった。俺達より早く目が覚めて、俺にキスしただろ」


「……ッ!」


「俺は君が……好きだ」


そう、今から俺はDも攻略するつもりだ。だからわざとC一人に絞ることはしなかった。ん? 別にC一人だけ攻略するって言ったわけじゃない。『Cを攻略する』って言っただけで、別にDと同時攻略しないって言ったわけじゃないって。前も言ったと思うが、何事においても保険は必要なのだ。だからわざとこのような状況を作ったのだ。

俺の告白にDは一瞬顔を綻ばせた。だが、すぐに気を取り直して俺を拒絶した。


「……もう、遅いよ。それじゃあ先輩、彼女を幸せに……」


「待ってくれ!」


「へ?」


彼女の唇を奪った。ちょっとコーヒーの味がするな。何で俺冷静に感想言っているんだ?


「や、やめてよ!」


「……」


「どうして…どうして!……どうしてそんなことするの?」


「……ごめん。本当に、好きだから。離れたくなかったから」


「じゃあ、……じゃあ何で初めに好きって言ってくれなかったの? ボクも、……ボクも本当は好きだったんだよ? ボクが先だったんだよ? 先輩が初めてだよ、ボクを女の子扱いしてくれたの。可愛いって言ってくれたの。だから、そんな優しい先輩が、ボクが初めに好きになったのに……」


そりゃそうだ。彼女の言う通りだ。俺が彼女の立場だったらそいつを殴っているところだ。


「それにどうして……。どうして、どうしてそんなに慣れてるの!? ボクが先だったのに、ボクが、ボクが! 先輩、あの子と何回キスしたの!?」


ふむ、……成功かな。これで完成に近づいた。それとごめんね。前も合わせたら、もう二桁以上はやってるよ。伊達に海を攻略してないからね。



「……ごめん」


「……う、うわぁぁあああん」


「彼女とは、別れるよ」


「……」


「だから、お願いだ」


「……ごめんね」


「……」


「ごめんね、ボクの大好きな親友」


草。


「……」


「もう、抑えきれないの……」


「……俺、君が好きだ、本当に」


「……このまま、抱きしめて」


「……ああ」


彼女を抱きしめる。寒空の下、お互いが凍えないように。彼女は笑っているのか、それとも泣いているのか。それはわからない。

だが、俺自身の表情はわかる。俺は笑っている。それは成功したから。そして『別れる』と『嘘』を言った自分を嘲笑っているから。


………

……




「あー、……クソ。何回もうぜぇな」


携帯画面の待ち受け画面を見る。メッセージの未読数はここ1時間で数十件を超えていた。俺は通信料が無駄だと苛立ちを言葉に出しながら携帯をポケットにしまい、吸っていたタバコの火を消す。

高校卒業後。俺は地元の企業に就職していた。

そしてCもまた、社会人になって俺と同じ会社に入ってきた。

その会社なのだが、結構倍率が激しく地元でも優良企業として有名なところだ。この会社に、この会社のグループに入れば一生安泰と言われている。俺が入るのはまずは簡単だった。地元の高校枠があったその会社は、毎年俺達の高校から成績優秀者を採用している。成績が優秀な俺。あいつらと交流を深めるとともに内申点を稼ぐのは忘れてはいなかった。まあ地道に勉強していた成果で就職を果たした。そしてCだが、そこは俺の『コネ』とCの美貌で乗り切った。実際に顔採用はあるところはあるからね。一つ、大きな声では言えないが、俺のコネ……人事の女部長を暇つぶしで攻略して、有利にしたとは本当に大きな声では言えない。だって、行き遅れを攻略するのは簡単すぎたのがいけないのだ。


そう、そしてここからが本番だ。

俺は休憩から戻り自分の居室に戻った。職場の誰もが忙しそうに仕事をしている。その中で課長が一際大きな声で怒鳴った。


「キミ! 業務中に携帯を弄り過ぎた! それに、ここはどうなっているんだ!?」


「え、え? あ、うぅ……ご、ごめん、……なさい」


今までずっと、ひたすら俺にメールを送り続けていたC。彼女は課長に怒鳴られ、縮こまっていた。俺はそんなこいつを冷めた目でみていた。

Cは学生時代から俺とDに頼ってきたのだ。世の中をまともに見ようとしなかった。俺が意図的にCを周りから守った(排除した)ツケ。彼女はクラスでもD以外とはまともに交流することができなかった。それは今までの虐め、周囲に対する恐怖からきている。

そのツケが今まさに回ってきたのだろう、会社ではミスを連発。会社とは基本的に報連相が基本だ。その基本ができいない、……いや、作り上げようとしなかったCは、何もできないどころかミスをして周りに迷惑をかけることしかできなかった。


だってそうだろう、何より仕事は他者とのコミュニケーションで成り立つ。3人の世界に生きてきた彼女はこの社会という違う世界で生きていくには厳しい。人と付き合いが薄いと思われがちな研究職などはコミュニケ―ション能力いらないだろって思われがちだが、それは間違い。他の研究者との実験の協力とか必要だし、何より自分の研究成果、これからの研究をどうするかを上司に報告するには、とてつもない能力が必要だ。


そして仕事ができない、他のものと交流しようとしない彼女は孤立していった。

誰ともコミュニケーションはあまり上手くいかず、仕事もミスを連発。徐々に居場所がなくなっていった。


まあそこで俺が登場してやった。母校の先輩として。

他の先輩達はいくらCが美人でも、コミュニケーション能力不足である人間とはあまり関わろうとはしなかった。それに、仕事でミスを連発して自分達に迷惑をかけまくる彼女にイラついていたのだ。明らかに地雷なC。誰も自分の稼働をとってもまで査定を下げたくはなかった。だから付け入る隙はあった。


そこで落ち込んでいる彼女を助けていった俺。……彼女からすれば、な。

実際にはさらにミスを起こすようにさせてもらった。見せてもらった書類には重要なことが書かれていなかったり、趣旨が違ったりしていた。それは新人だから当たり前だ。だが、俺はもっともらしい意見(例えば独創性があって素晴らしいとか)だけ言って、それを上司に直接通した。これで上司にさらに怒られるようになった。まあ、勿論俺の評価も少し下がったが。彼女はそれに対して激怒していた。『先輩の言っていることは間違っていないのに! 先輩が正しいのに! 絶対なのに!』と。怖いなこいつ。


また、俺のことを多少気に入ってくれている女性社員たちに虐められるように仕向けた。

ミスを連発しても上手に謝ることができないC。そしてそれをカバーする俺。女性社員たちはそれに憤慨したらしい。それに加えて美人なCが以前から気に食わなかったらしいしな。女性の嫉妬は怖い怖い。


Cは俺以外の誰にも助けを求めていない。求めることができない。その方法すら知らない。

まだ少しだけ思春期が続いていた彼女は親に意地を張って弱音を吐こうとしなかったのも一因だ。裕福な実家から半ば家出するように別れたしね。親御さんは大学進学を強要していたが、俺と少しでも離れたくない彼女はそれが嫌で出て行ったらしい。


Dという、信頼できる親友がいるにはいるのだが……その彼女は遠く離れていた。

物理的な距離もそうだが、心の距離もだ。Dは、もはや日本中で知らないものがいないほど活躍していた。その華やかな美貌と実力はお茶の間の人気者だった。彼女のファンで会場が埋め尽くされるほどに。

テレビの中継で華やかに活躍するDの姿を見て、Cは嫉妬していた。自分は失敗して周りから白い目で見られているのに、何でDだけ……、と。人間の感情は複雑だ。一つの感情だけを持つのは難しい。少しだけ彼女の活躍が嬉しいと思ったそうだが、だが、周りの環境が重すぎた。もはや、Dは、少しずつ、Cの心から除外されていった。


もう、俺とCの2人の世界になっていた。

Cは俺にますます依存……違う、これは崇拝に近いな。増々俺を尊敬するようになった彼女。気持ち悪いくらいに俺を褒める。俺が言っていることは何でも信じる。信じようとする。ふとポケットの中で震える携帯を確認する。Cのメッセージだった。こう書かれていた。


『意味わからないことで怒られました。何で先輩とメールするだけで怒られるんですかって思います。先輩から色々教えてもらっているだけなのに。まあ、怖くて反論できなかったですけど。それより聴いてください。またあの人、先輩と一緒に作った資料否定するんですよ! ひどいです。私も、先輩も一生懸命作ったのに。先輩があの人の代わりに私の上司になってくれば最高です! 先輩の命令ならどんなきつい仕事でもやります! でも、正直接待とか嫌だなぁ……。だって先輩以外の男の人にお酌とかしたくないですもん。先輩だけしか一緒に飲みたくないです。あ、先輩今日のごはん何にしますか? お腹減りましたね。お酒の話をしましたし、今日はおいしいお酒呑みに行きますか? この前行ったお店よかったです! 楽しかったなぁ。大人っぽい雰囲気で、とても……。今度はもっと夜遅くまで飲みたいです……。あ、でも先輩まじめですから、仕事に差し支えない程度にですけど。先輩の邪魔はしたくないですし。でも最近……。いえ、何でもないです。先輩を支えることが私の生きがいですから! 先輩が楽しく仕事して、おいしいもの食べるのを支えるのが、私の使命ですから! ふふっ使命って言い過ぎましたかね? でもでも、私、先輩のために動いているってすごく幸せなんです! だって、こんな私が、先輩のためになれるって、最高です。あ、先輩のためって言えば、この前先輩にあの女の先輩が色目を使って抱き着いたじゃないですか? だから先輩のスーツにあの人の匂いがつくのは申し訳ないのです、すごく消臭頑張りました! 正直大変でしたけど、先輩のためだから頑張りました! 本当はあの人自体がいなくなってくれた方がいいですけど……。いえ、先輩の前怒ってくださったこと覚えていますから、危ないこととかしないですよ? だって先輩から嫌われるのが一番怖いですし……。私は結局先輩が一番なんです。先輩、先輩、先輩、先輩、大好き、好き、一番好き、本当に好き。だから先輩、好き、好きって、言ってほしい、です、好きです。』


……彼女の味方をするのは、もはや俺くらいだもんな。こうなるもの仕方がないのかもしれない。俺はそう思い込むようにした。思い込むようにした。2回言う。続けて絶え間なくくる長文のメッセージをスルーしつつ、仕事に取り掛かる。仕事って楽しいな(現実逃避)。

終業の時には、また数十件の量がきていた。



………

……




そして、現在に至るわけだ……。

Cは会社をずる休みしていた。表向きは病欠だが、見舞いにきた俺を逃がさないよう強く抱きしめる彼女の姿は、絶対に病気なんかじゃない。しかもいつもより力強くて痛いし。それよりおかしい。彼女は今まで俺に嫌われないために、従順だったはずだ。だが、今の彼女は何だ? それとは真逆ではないか?


「ちょっと待て、キスは止め。……今、何て言ったかな?」


「だから、仕事なんて何惚けた言ってるんですか? 先輩がもう行く必要なんてないんですよ」


は? お前こそ何言っているんだ? ちなみに俺は今社会人3年目。やっと会社に利益を出すことができるようになる年次。それを放りだせとは……。……いやいや、俺は頭の中を会社に染められ過ぎだ。話を戻せ。一番驚くべきこととは、今まで意志を見せなかった彼女が、強く自分を出してきたことだ。


「……なんでだい?」


「あんな職場、もういやなんです。私を邪魔者扱いして、あんなごみをみるような目で…」


それはお前に問題があったからだろうとツッコミたかったが、俺にも責任があるので何とも言えなかった。


「だから、仕事ずる休みしたのか?」


「ええ、もう嫌なんです。あんなところは地獄です。……でも、あんな地獄から助け続けてくれている先輩は私のものなんです。思えば、昔からですよね、公園で私を助けてくれた時から。誰も、誰もいつも助けてくれなかった……! あの時も、そして今もあんなに助けを求めたのに……!」


「それは大変だな」


誰もって、Dがいたじゃないか。ま、今のCにはそんなことは頭にないだろうけど。

そうそう、Dには、保険のために俺からあることを言っておいた。彼女の1年目の仕事の時には、『Cが仕事に集中したいらしいから電話してこないでと言っていた』と。そしてCが俺だけ見るため『Cから連絡きても、Cに仕事を優先させてほしい』と。俺のことを信用しているDだ、簡単にOKをだした。いくらおかしなお願いだったとしても、信用している俺からそう言われれば納得するしかない。それに彼女も俺達といつも一緒だったから世間知らずなのも幸いした。


「私には先輩だけなんです……」


「そう」


「前から考えていたんです……田舎で農家でもしませんか?」


「よかったな。……は?」


「こんな汚い世界で生きるよりも、田舎でゆっくり暮らしましょうよ。農家にでもなりましょう!! それだったらもう誰とも、先輩以外の誰とも……」


「オイオイオイ、マジかよ」


めんどくさくて話を聞き流していたが、ついツッコミを入れてしまった。


「幸いにも私達は結構大きい企業で働いていました。給料も一杯入っているので、始める資金は足りていますよ! 楽しみになってきました! そうときまれば……! 「おい」 ………え?」


暴走して変な妄想をしているCに向かって、強めな言葉を投げかける。Cの前でこんなに強く話しかけたのは初めてだ。


「おい、何故お前が勝手に決めている?」


「え?」


「せっかく俺が努力してこの会社に入ったのに、何故こんなに簡単にやめなければならない? お前を入れるのも苦労したんだぞ? それに今まで俺がお前に一生懸命教育していたのに、それをここで放棄するのか? とんだ身勝手だな」


「……すみません! でも……でも!!」


……今まで甘すぎたか。

しょうがない。あの言葉を言うしかないか。


「なあ」


「……はい」


「やっぱり、『彼女』の方がよかったかな」


「っ!!! いやです! 訂正してください!」


「……はぁ、そういうところだよ」


「ッ! ごめんなさいごめんなさい!! 捨てないでください!」


「はぁ…」


『彼女』……Dの話題を俺は事あるごとに出していた。

Dがテレビで出るとき、ニュースで取り上げられるたびに。彼女のことを称賛し、Cの嫉妬心を煽りに煽った。それが完全な俺に対しての依存に繋がった。こいつが俺の胸に泣きつくのを見て成功したのを確信する。海と同じように周りに頼れる者をなくし、それでいて、思考能力は海よりも正常に近かった。無闇に自傷しようとしないのが良い証拠だ。


そう、結果は成功したのだが……今回も失敗した感がある…。

海の時も思ったけど、ここまで重く、めんどくさいとなぁ……萎える。

いちいちDと張り合おうとするし、そのたびに対応したりフォローするのも本当めんどくさいし……。まあそうしたのが俺だが。ていうかお前のせいで携帯の通信制限すぐくるんだよ。俺の携帯代払え。……こいつだったら本当に払いそうだ。さすがに俺がださい。

そろそろ………潮時かな。


「もうさ、別れようか」


「……え?」


「いちいち俺を崇拝してくるの、何か……なんというか、ダルい」


「え、え? いや! いかないでください! あの子のところに行くんですか?」


「うん」


「……え? う、嘘ですよね?」


あ、面倒だから本当のこと言っちゃった。ま、この際だし別れるか。

Cと表面上は付き合いつつ、Dとも付き合っていた。Dには「中々別れを切り出すことができなくて……」って、長引かせていたけどね。でも、やっと一人に絞ることができたよ。


「………え? ウソですよね…?」


「……ごめん。ごめん」


「先輩、嘘ですよね? そんな………ありえない」


「ごめん。それじゃ……」


「あ、あはは……。あはは………ああああああっぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


泣いているCを置いておき、Dの家に向かった。大学といっても、内心では俺からあまり離れたくないと思ったのか、Dは隣県の大学に進学したのだ。


Dの家に着く。だが、そこにいた彼女は放心状態になっていた。


「何があったんだい?」


「親友が、大事な、本当に大事な親友が電話してきて……」


Dは悔やみように、そして恐れるように肩を上下させて涙を濁流のように流す。


「……『リストカット』したって」


「……え?」


「さ、さっきまで、ずっとボクを呪ってた。お前のせいだって、全部全部、私からお前が奪ったって。お前と出会わなければよかったて、……お前なんて地獄に落ちろって……あああああああああああああああああぁあぁぁぁぁぁぁああ!!!!!!」


「おい、大丈夫か? おい!?」


「……ウェェ!!」


Dはその場で泣きながら吐いた。吐いて吐いて、吐きつくした。

目の前の彼女を介抱する必要があるのだが、その前に急ぐ必要がある。吐いている彼女の横にある携帯を手に取る。「おい、おい! 俺だ、返事をしてくれ」「……」通話終了時刻は数時間前。Dは錯乱していてリストカットした正確な時間を聞けない。しかし……さすがに時間が経ちすぎている。今からCの所に戻っても……。


「ごめんね、ごめんね………」


「……」


「あの子は、自分を捨ててまで先輩を思っていた。だからボクも……」


「おい……おい、やめろ!!」


Dは自身の足を包丁で斬りつけた。これは…片足の腱を切っているのか?

彼女は自分の将来の飯の種を潰してしまったのだ。それが贖罪とでもいうように。彼女は、それでも足りないと言いながらまだ泣いて、今度は自分の腹を刺そうとしたが俺が止めた。


……今回も、失敗したか。

Cをあそこまで、追い詰めたのは本当に失敗した。フォローもすべきだった。いや、そもそも手段が悪辣過ぎた。……一度、付き合った相手だ。幸せにはなってほしいという気持ちもある。俺と別れれば、さすがに両親に頼り、助けられながらもいつかは幸せになれると思っていたが、甘く考えすぎていた。

そして、Dも壊れはじめている。

性格は残っていると思うが、親友を傷つけたことが相当なストレスになっている。ここから社会復帰するのは相当な時間がいる。……そうしたのが、俺だ。


そろそろ………潮時か。

ここで別れないと、……いや、『戻さない』と皆が駄目になってしまう。


「……なあ、別れようか」


「え……?」


「俺の責任だ。だから……」


「え? 待って! 先輩までボクの前から消えないで! 先輩までいなくなっちゃうの? いやだ、いやだよ! みてよ、ボクをみてよ! 仲間はずれにしないでよ! みてよ! みろ! みろってばぁ!!」


「……お前なら、いや、お前達なら、俺がいなかったら上手くいくよ。とにかく、じゃあな」


「う、嘘だ。先輩はいつも嘘ばっかり………いや、いや!!!」


大丈夫だよ。お前達は幸せになれる。世界を、時間をやり直すことで。俺が関わらなければ。今回はちょっと……酷過ぎた。今度はもうちょっと抑えよう。ちょっとまずい。俺の精神的にも。


さて、次は……。 




………

……



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