7章4話(ハーレム編) 看病②
誤字のご報告ありがとうございました。
また、6章1話で一部誤記がありましたので修正しました。内容自体に変更はありません。
「まさか彼女に二人も妹弟がいるなんてな」
「姉さんに聴いてなかったんですか? ……うぅ、にがい」
今、俺は妹さん、それと玄関で会った少年、弟君と一緒に夕飯を食べていた。
あの玄関での邂逅後、俺は彼に部長の華と俺がどのような関係かを説明したのだ。
彼も華が体調を崩していたことは帰ってから知ったらしい。すごく慌てていた。そんな彼に俺は根気よく説明した。
彼はすぐに理解してくれて、はじめは申し訳なさで渋っていたが、こうして俺が買ってきたものを最終的に受け取ってくれた。
俺が買ってきたものは彼女達の夕食だった。スーパーまで急いで行き、惣菜や、飲料水、非常食などを買ってきた。華はあの調子だからおそらく調理することができないだろうと判断した。それに残り物もないことも知った。それに小さい妹さんが夜遅くに家の外に出たら危ない。だからおせっかいだと思ったが、こうして買い出しに行ってきたのだ。
彼、……そう、玄関で会った男の子は華の弟君だ。
彼の目や顔立ちは華と似ている。背はあまり高くはないが、その可愛い容貌はまさしく同年代の女の子たちから人気があるだろうと予想できた。
その彼は俺が買ってきた惣菜のサラダを苦い顔をしながら食べていた。妹さんはその横でおいしそうに黙って食べていた。
「あー、……あまり学校で多くは話さないからな」
「そうなんですか? 僕、姉さんの彼氏さんだと思って期待したんですけど……。あ、和人さん、これも食べていいですか?」
「ああ、どんどん食べてくれ。……俺には分不相応だよ。ま、でも普段世話になっていることに違いないよ。だからこうやってプリント届けに来たり、夕飯の買い出しの手伝いもしているし」
「あはは、同級生に世話になっているって、御舎弟さんか何かですか? ……ごめんなさい、失礼でした」
「あはは、気にしないよ。気軽に接してくれ。で、どうする? 姉さんが同級生の男を顎で使ってたら?」
「ありがとうございます! ……ありえますね、姉さん、気が強いから。最初は和人さんをいつも尻に敷いているのかなって思ってました」
「それを華に言ってもいいか?」
「い、いえ! 冗談ですよ! だから言わないでください……!」
「「あはは!」」
おいおい、彼すごくないか? 俺が小学校の時なんてこんな冗談言えなかったぞ? こいつは将来モテるだろうなぁ……。
「ま、実際どんな世話になっているかは秘密だよ。お姉さんにも聴くなよ、恥ずかしいし」
「凄く聴きたいです! 普段姉さんが学校でどんな風に過ごしているか」
「あまり学校のことは話さないらしいな。妹さんも言っていたよ」
「そ、そうなんですよ。な、聴きたいよなー?」
「うん、聴きたいです!」
そう言って妹さんと弟さんは頷きあった。
……実際、今の段階では言えないからなぁ。この時間ではまだ交流という交流はしていないから。テキトーに話をでっちあげた場合、後で絶対にぼろが出る。華と長い付き合いになるならば、それは避けた方が良い。だから話を早く切り上げることにした。
「あはは、いつか彼女の口から話してくれるだろ。それまでは我慢だ」
「わかりました……。……でも、正直和人さんが羨ましいです。俺、姉さんの何の役にも立ってないから……」
「おいおい、そんなことないって。弟君がいてくれて、華も助かっているはずだよ。仮にそうだったとしても、別に恥じることじゃない。それくらいの年だと、他のやつらも似たり寄ったりだ」
「……でも、僕は姉さんの役に立ちたいです。いつも、助けてもらっていますから」
「……」
その姿に、少し既視感を抱いてしまった。
姉さんに恥をかかせたくない、姉さんの足手纏いになりたくはない。そう思って足掻いていた自分を思い出してしまった。
だからだろうか。だから、俺はこの家族に入れこむようになっていったのは……。
………
……
…
弟君たちが食べ終えたのを確認した後、俺は帰る準備をしていた。その際、つい気になったことを聴いた。
「お姉さんはどんな病気かわかるか?」
「はい、姉さんが言うにはただの風邪らしいです。寝たら熱も下がってきたかもって言ってるんですが……まだ姉さんは苦しそうで」
いつ華が学校に来れるか気になって聴いたのだが、……結構危ないのか?
あー、……どうしようか。
海を呼ぶか? あいつなら手伝ってくれるだろう……いや、何を言っている、まだあいつと俺は面識がないだろうが。それならば聖は? ……いやいや、それこそ何を言っているんだよ。
頭の中を少し整理しよう。
まず彼女達の親御さんはしばらく帰ってこない。部長の様子はよくない。そんな彼女達の様子を見て黙って帰れるほど、この世界の俺は白状になれない。
……しょうがない。聴いてみるか。常識的に考えて彼らに入れこみすぎて失礼だが……。
「なあ、お姉さんは薬をちゃんと飲んだか?」
「え? 多分飲んだと思います……」
「いつも薬はどうしてる?」
「えっと、確かリビングにあるタンスの上にあるお薬箱の中のを……あ」
「どうした?」
「ちょっと薬箱見てきていいですか?」
「ああ、いいぞ」
「失礼します!」
そう言って彼はリビングに向かった。
待つこと十数秒、彼は俺の元に戻ってきて、こう言った。
「……風邪薬、ありませんでした」
「お姉さんがその辺のドラッグストアで買ったということは?」
「多分ないと思います……」
そうだ、我ながら失礼過ぎると思うが、彼女の家を少し観察させてもらった。
まずこういう家族が多そうな家庭の場合、薬をその時その時に購入する家庭は少ない。
家族が病気になった時のために常備しておく家庭が多いのだ。ま、一人暮らしでもそうする人はいるけどな。
リビングで妹さんのお茶を待つときに、部屋を失礼ながら観察させてもらった。妹さんのお茶を淹れる時間は長く、色々観察できてしまったのだ。すまない。
その観察の過程で薬箱を俺は見つけた。幸いと言っていいのかどうかわからないが、薬箱は開いていて中身が見えてしまったのだが……どうも風邪薬の類は見つからず。ゴミ箱も彼女の部屋から去る際に見てしまったが、風邪薬を使った後もなく。
そして部長の部屋に彼女を運ぶとき。その時に部長の部屋を少し見させてもらったが、風邪薬らしきものは存在せず。普通はベッドの横などに風邪薬を置いて、服用したりするのだが、その痕跡もみつからなかった。
ということで我ながらガバガバな推理だが、部長が薬を服用していないことを予想していた。それにしても俺って変態だな。世話になった女性の部屋を観察するなど。
弟君の言葉で確信したのだった。また、薬箱を詳しく見てなかったので弟君に確認してもらったが、どうやら目的の物は本当になかったらしい。
最後に気付いてよかった。これでは風邪薬を服用おらず、苦しんだ部長を置いて帰ろうとするところだった。
夕食を食べ終えたこの時間、もう時間は結構遅い。弟君達は小さいから就寝する時間が早くなければならない。外に出すのも申し訳ない。
さて、これから俺がやるべきことはもう決まっている。
「ちょっと待っててくれ。バッグの中の物を持って来る」
「え? はい……」
リビングにおいていたバッグを持ってきて、目的の物を出す俺。
「え? これって……」
「ああ、風邪薬だ」
そう、俺が一応見舞い用に持ってきていた風邪薬を出した。彼女の家族構成もわからず、最低一人暮らしで買っていなかった時のために持ってきていたのだ。……よかった。
俺のこれからとる行動予定。それは俺が持ってきた風邪薬を彼女に服用してもらい、彼女に早く風邪を治してもらうこと。
ただの風邪ならば薬を飲んで2、3時間寝れば、少しは回復するだろう。これ以上他人の家に長居するのは申し訳ないから、最後は風邪薬だけ渡して帰ろうとしたのだ。
「え、でもいいんですか?」
「ああ、そのために買ってきたんだからな。遠慮なく使えってくれ」
「あ、ありがとうございます! さっそく姉さんに飲んでもらいますね!」
「あ、ちょっと待ってくれ。一つお願いがあるんだけどいいか?」
「はい、何でしょうか?」
「お姉さんにな、俺が買ってきたことを言わないでほしいんだ」
「え? 何でですか? せっかく和人さんが気遣ってくれたのに……」
さすがにここまで世話を焼くと気味悪がられると俺は思ったのだ。
それと……何だか恩着せがましくて嫌だろ? 部長は良い人だから余計な心の荷物を負わせたくはない。
「ばか、いいんだよ。いつもお姉さんには世話になっているんだから。こんなところで感謝されても、こっちが困るんだ。お前の手柄にしとけ」
「……できません、そんなこと。ご飯まで買ってきてもらって、しかもお薬までもらったのに……。俺はそんな恩知らずじゃありません。だから和人さんが買ってきたことは姉さんに伝えさせてもらいます!」
「……あー、わかったよ」
まったく、できた弟君だ。彼の年齢の頃の俺だったらそんなこと言えなかっただろう。彼の頭を撫でる。照れくさそうにしている弟君。それが少し嬉しかった。
「それじゃ、姉さんに飲ませてきます!」
「ああ。じゃあ俺、そろそろ帰るな。華によろしくって言っておいてくれ。それに、それでも体調が良くならなかったら、病院に行くように強く言ってくれ」
「はい! 今日はありがとうございました!」
………
……
…
 




