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6章37話(文化祭) 修羅場

7章の3分の1が完成いたしました。ほぼ毎日、可能であれば投稿していきたいと思います。

また、本日キーワード等も少々修正いたしました。

※皆様、ご感想いただきありがとうございます。すごく嬉しかったです。

 よろしければ、他の方もご意見等いただければすごく嬉しいです。


起きる。小鳥のさえずりが聞こえる。もう、俺に風情を感じる余裕などない。

文化祭から2日たち、登校日となった。その中日で、俺は心の準備をしてきた。それを、今日出す日がきたのだ。

ある人に電話をする。……でない。昨日から何度か電話してみたが、つながらない。だから、今日直接会うしかない。


少しだけ落ち込みながら、自分の部屋からリビングへ向かう。すると、人の気配を感じた。


「海、か……」


「はい。」


完璧な姿で海は現れた。昨日の泣きじゃくった顔を浮かべていない。化粧もし、髪も整え、最高に美人の状態の海だ。昔、俺が攻略した時の海そのままだ。

リビングに入ると、良い香りがした。どうやら海が用意した朝食のようだ。


「どうしてお前が勝手に入っている?」


「前も、こうしていましたから……。ごめんなさい、一度許可を事前にいただくべきでした……」


「……もういい。昔の俺の命令に従っただけだろう。ほら、食おう」


「……はい。」


久しぶりの『あの』海の朝食を食べる。俺の好みに合わせた味付け。和食のメニュー。完璧だった。


「どう、でしょうか……」


海が不安げな眼差しを向ける。手に箸を持っていない。……そうだったな、昔の俺は、俺が一口食べるまで、こいつには食うなとひどいことを命令していた。


「ああ、美味いよ。海も食えよ」


「は、はい! ありがとうございます……」


「作ったのはお前だろうが。礼を言う必要はない。……こっちこそ、ありがとうな。」


「う、うぅ……ありがとうございますぅ。」


「ほら、泣くなよ。……ああ、海。今日、お前に言わなきゃいけないことがある。放課後、時間をくれないか」


「は、はい……。私なら、いつでも和人君に合わせます……」


「そうか、じゃあ迎えに行く」


それきり、俺たちの会話は切れた。昔からそうだった。俺たちは静かに朝食を食べるのだ。




朝食を終え、俺たちを玄関に向かう。学校に向かうためだ。すると、玄関の向こうから人影が見えた。


玄関を開く。すると、一人の女の子が現れた。


「もう、和人。遅いわよ。『彼女』を待たせるなんて……。」


美姫だ。満面の笑みで俺を迎えたあと、少し不満げな顔を見せる。懐かしいやりとりだった。昔は、俺が彼女の家に迎えに行けないから、こうして彼女が迎えにきていたのだった。


和やかな雰囲気を美姫は醸し出していた。

だがそれもすぐに終わった。


「海、先輩……?」


「美姫、さん?」


二人が出会った。


一瞬体がこわばる。だが、予想していた範囲内だった。


「どうして、海先輩がここにいるのよ、和人。それに何、この海先輩の姿。とんでもなく、きれいに……」


海は昔を完全に思い出していた。その影響で、化粧も完璧に覚えていた。

だが、それは海だけでない。


「美姫さん、……やっぱり、凄く綺麗……」


美姫はとんでもなく綺麗だった。今まではほぼノーメイクであの美しさだったが、それががちがちに化粧してきたのだ。同じ次元の人間でないくらいの錯覚を覚える。


その二人の間に、亀裂が入る。


「和人、どういうこと?!」


美姫は爆発寸前の感情を俺に向けてくる。瞳はすでにうるんでいる。


「……」


それに対して、海は沈黙している。海は言葉は発しないが、内心荒れ狂っているだろう。だが、俺にそれを明かさない。俺に負担をかけると思っているからか。


そんな二人に向かって、俺は話しかける。


「事情は後で話す。今日の放課後、時間を空けてくれないか。その時に話させてくれ」


「それで私が納得するとでも……?」


美姫は燃え上がる寸前だった。そんな彼女に疲れを覚えつつ、すでに準備していた動きをする。


「いいよ、それでも」


「え?」


「せっかくわけを話そうとしたのにな。じゃあ話すことは何もない。海、行くぞ」


「はい、わかりました。それでは……」


「ちょ、ちょっと! 待ちなさいよ和人! わかったわよぉ……。私も、一緒に学校に行くから」


俺たちの後をついてくる美姫。3人で登校することとなった。


「「「……」」」


学校までの道は無言だった。それもそうだろう。仲良く話すことなど、この段階では無理だった。


学校に近づくにつれて、生徒の数が増えてくる。


「うそ、何あれ。綺麗……」「めっちゃ可愛い……」


海と美姫の美貌をたたえる声が聞こえる。

その一方で……。


「やっぱりあの三人って……」「ねぇ……?」「うわ、修羅場ってやつ……? こえー」


その会話を無視する。予想していたことだが、鬱陶しさでイライラする。

美姫の顔を見てみる。俺をずっと見つめていたようだ。何かいたずら心が芽生えたのか、俺の腕に絡んでくる。

大胆だと周りが囃し立てた。

海は俺の半歩後ろを歩いている。強い目線を海から感じる。何も言わないが、何かすごく言いたそうだ。


3人はそれぞれの教室に行くために、玄関で別れる。


自分の教室につく。机の上には冷やかしの落書きがあった。どっちを選ぶのと。無視する。周りがにやにやと俺を見つめていた。


HRもすぐに終わり、授業が始まる。

すると、すぐに携帯が震える。メッセージは美姫からだった。


無視する。内容は先ほどの謝罪だった。……何も悪いことはしていないのにな、美姫は。

何度もメッセージが来ていた。だがすべて無視していた。

しばらく無視していて、ふと新しいメッセージを見る。


美姫「ねえ、ごめんって言ってるじゃない。……もしかして私のこと嫌いになったの? 願い、嫌いなところがあるならちゃんと言ってほしいわ。ちゃんと治せるように努力するから。お願い……」


無視する。姫の様子も危ない気がする。思い出したばかりの彼女はとても不安定だ。だから早くフォローする必要がある。……だが、無視する。

何度もメッセージが届く。

……無視、する。


美姫「……お願い、返事して。和人から興味をなくされるのが一番辛いの」


早く返信をしないといけないという焦燥感が俺を攻める中、メッセージは絶えることはなかった。……無視、しなければいけない。


美姫「……和人に会いたい。和人の顔を見たいわ。ねえ、今から和人の教室の前通るから。 先生には適当に具合が悪いって言っておくわ」


あいつなりの虚言だ。そう俺は自分に言い聞かせる。

もうすぐ昼休みが始まる。その時に……。


そう思いながら、ずっとノートを見つめていると。教室がざわめき始めた。何事かと思い、騒動の中心であろう廊下を見る。すると、二人が言い争っていた。


「なんで、海先輩がここにいるんですか!!」


「……私は和人君のそばにいないといけませんから」


「理由になってない! なんですか、和人と付き合っているとでもいいたいんですか!?」


「……美姫さん、あなたには関係ありません」


「関係あるわ! だって、和人は、……和人は! 私の好きな人だから!」


人だかりができている中、美姫は叫ぶ。文化祭の時のように美しくなく、悲痛な叫び。それに対し、海は冷静にこう打ち返す。


「はい、私も和人君が大好きですよ」


一瞬、狼狽える美姫。だが、それもすぐに持ち直した。


「大好きだから? 好きだから、授業中に廊下で待っているの……?」


「それはあなたも同じでしょう。自分が言っていることをご自分で理解しているのですか?」


「おい! お前ら授業中に何をやっている!?」


見兼ねたのか、教師が二人の間に入ろうとする。その教師に対し、烈火のごとき声で二人は言い放つ。


「黙ってて!」「静かにしてください」


教師はその迫力に押されて、黙ってしまう。ちょうどその時、昼休みを告げるチャイムが鳴った。それと同時に何事かと、大勢の生徒が俺の教室前の廊下に集まった。あれだけ騒いだのだ、皆気づくだろう。それに、ここの周辺の生徒が、メール等で情報を流したのだろう。


……そろそろ、限界か。


「おい、美姫、海」


「和人!」「和人君……」


二人は笑みを浮かべながら俺を迎える。それに構わず、言葉をつづけた。


「ちょっとお前ら来い。ここじゃ、周りに人がいすぎる」


俺が二人の腕を引っ張ろうとすると、片方の腕が払われる。美姫だ。


「その前に和人! 説明してよ!」


「……何をだ?」


「惚けないで! 海先輩との関係よ! 今ここで説明して!」


「だから言っているだろうが。ここじゃ説明するには人が居すぎる」


「でも、でも………! 納得できないの! 感情が抑えきれないの! 私の和人が、誰かのものになるなんて!」


「いえ、和人君は私のものじゃないですよ」


「え……?」


突然の海の言葉で一瞬場が凍ってしまう。海は言葉をつづけた。


「私が、和人君の物なんです。美姫さん、あなたは和人君を物として見ていないのですね。それじゃ、和人君も疲れますよ」


場は、完全に凍ってしまった。

爆弾、だった。

最悪の煽り文句だった。


自然に、だったのだろう。誰も美姫を責めることはできない。一つの、乾いた音が鳴り響く。

パチン。


「あ、あああ……。」


「……」


美姫は、海の頬をはたいた。


美姫は自分の手を見つめる。美姫にとって、部活のメンバーは特別な存在だった。前の学校では、美姫は孤立していたから。でも、部活のやつらは美姫を支えた。美姫にとって、かけがえのない存在になった。あの孤高の、美しい女の子は、もう孤高ではなくなっていた。

それに、彼女にとって相手に危害を加える行為は、あの『トラウマ』を刺激する。俺が与えたトラウマ。美姫を助けるためと、やってはいけない禁忌。


そんな存在を、彼女ははたいてしまった。一歩目の行為に、及んでしまった。


「あ、ああああぁぁぁぁ」


泣き崩れる美姫。小さく、小さく泣く。こんなに小さな女の子に、俺は辛い思いを味合わせていたのだ。

美姫を抱きかかえて移動しようとする。美姫は俺を抱きしめる。この場からの移動はしやすくなっただろう。

だが、後処理はどうする?

もう、この場をほぼ学校の全員が知ったと言っても過言ではない。美姫と海の今後の学校生活を考えると、何とかフォローをしなければいけない。


絶望していた。今の二人のフォローしか頭にない。周囲など、俺はこの時間軸では軽視していたから。もっと周りに味方を作っておくべきだった。昔の俺ならば、場を好転させることができた。だが、今は……。


汗が全身から流れる。誰も助けてくれない。海も、美姫も。海は俺に従うだけだ。美姫は、感情のまま泣いている。この場を収めてくれる人は、誰も……













「うーん、これはちょっと、大変だね……和人君」


その時。

この世界で一番頼りになる存在であった……春香が、俺の肩を包むように手を載せてくれた。





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