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6章35話(文化祭) この世界ではじめての少女

この章の最終話まで、毎日投稿できる目途がたちました。

頑張って投稿していきますので、お読みいただければ嬉しいです。

※あらすじも少々修正しました。少し読みやすくなったかなと思います。

思考しろ! 状況を整理し、今後の方針を考え! 最適な正解を導け!

美姫は確実に思い出したのだ。あの時の記憶、俺が美姫と付き合っていた時間軸の記憶を。俺が、過ちを起こした世界。確実にあの世界の彼女だったら、俺を求める。俺に拒絶されたら、自分をナイフで刺す女だぞ。


俺は今、美姫との電話を終え、ぐつぐつと湧き出すマグマような脳みその中をおさめ、冷静になろうとしていた。ここで自らの体調に任せ、眠るのは悪手だとわかっていたから。から、最善の一手をすぐにでも考える必要があった。


死ぬ気で考えろ! 今ここで思考を止めたら、最悪の事態になることくらいわかれ!


もちろん考えることは、これからどうするかだ。美姫が思い出してしまったのだ。過去、自分に起きたことを。

そして遂に海が俺に告白してしまった。あんな純情になっていた海が、勇気を振り絞ってだ。それも大勢の前で。誰もが、この出来事を知ってしまった。もう、このイベントを避けることはできない。


人間関係とは脆いものである。それはどこの世界でも同じだ。

だから現実の学校でも、部活内恋愛が禁止の所もある。それは恋愛沙汰で人間関係が悪化し、部活動に悪影響を出さないようにするためであるのだ。

だが、俺はその問題を起こしてしまった。俺に惚れさせてしまったことで、思い出させてしまったことで。

………文面だけ見れば、自分に酔っている感じがするな。まったく我ながらキモいと思う。

だが、事実なのだ。この事実は変えようもない。


前の、転生者?を片づけた時間では、俺は意図的にこれを引き起こした。いや、利用した。恋愛沙汰が人間関係を壊すことを知っていたからだ。

ハーレムなど、漫画やアニメのような皆が笑顔のハーレムなど、現実ではありえない。昔の大奥のように女同士の争いがいい例かもしれない。女同士というのは派閥争い、それに相手を独占したいという欲求が出てしまう。……いや、女に限ったことではない……。男も、相手を独占したいという欲がある。それは人間として当然の欲求だ。誰だって、自分の場所を奪われたくはないし、相手に一番愛されたいのだから。都合よく、男だ、女だと分類するな。

だから本来ハーレムというのはギスギスしているものである。その歪なものを俺は前の時間で利用したのだ。

簡単なことなのだ。思春期という、アイデンティティを確立できていない不安定なこの時期、彼女達の不安を増幅させることは。


前の時間でやったこと。基本的にそれだが、攻略対象によって方法は少々異なる。

アリアは不安をついて惚れさせていった。

海や美姫に対しては、あのくそ野郎のクソさ加減を暴いていった。

そして最もヒヤヒヤしたのが、春香だ。彼女という人間関係に対して化け物のようなスペックを誇る傑物に思い出させれば、こちらの目標は達成したも同然だったのだ。

そのことが前の世界では別に良かった。人間関係を壊すといった面ではそうなのだが……


今回は、俺自身が人間関係を壊れることを望んでいない。聖のために……、いや、聖を悲しませたくないという、俺のエゴのために。

しかし美姫は思い出してしまった。そして海が俺を好きになってしまった。

……なんだ俺は、俺は何をやっているのだ? 春香に対してだけ注意していたからと言い訳をするつもりはない、だが、この無様さはなんだ?

これでは……これではまるで『皮肉』ではないか? 俺が前回あの野郎にやったことが、今度は自分の身に起きているだけではないか。


もしや……いや、それはない。ないはずだ。だって、それならばもはや今の状況などありえないのだから。


……今はそんなことよりこれからのことについて考えよう。

まず、美姫についてだ。彼女は思い出してしまった。そんな彼女を無視するなどできるはずがない。

攻略した時間での最後の彼女の性質は、俺に対しての罪悪感が染められていたはず。それから俺に対しての依存、それが影響して俺に対して尽くすといった歪な感情が芽生えた。

彼女には悪いが、その罪悪感を利用させてもらおう。今の彼女なら俺のわがままを少しは聴いてくれるはずだ。……そのはずだ。今の彼女なら、部活のメンバーに対する友情があるはずだから、他人を排除しようとは動かないはず。元々が善良な彼女である、他人を傷つけることをよしとしない。


他人を傷つけず、自分を傷つけると言ったところで思い出す。

そうだ……まだ彼女が残っていた。

俺の初めての世界。自分を見てほしいという想いから、俺を傷つけずに自傷した女の子。

ちょうど、彼女のことを考えていると、その彼女から電話がかかってきた。唾を呑み込む。ここから、選択肢を間違ってはいけない。


「……か、和人君!」


「……海、か」


海が電話してきた。

今、自然に受け入れることができる。海という少女は想像を絶するほどの美少女である。それも美姫に負けないくらいだ。

春香の自信がなくなるのもわかる。そばにこんな美女がいたら誰だって自信をなくすだろう。

長い黒髪は彼女のお淑やかさを嫌味なく引き出し、その顔立ちはまさしく日本人の美の極致といってもいい。美姫が世界中のどこでも通用する美女だとしたら、まさに彼女は日本を代表する顔立ちだ。

恥ずかしくて前の時間軸ではこいつには言えないが、相当の美人だ。前世の、この世界に来る前の、俺だったら……。いや、それは今どうでもいいことだ。


「あ、あの! お、お返事をいただいてもいいでしょうか……!」


「……」


「か、和人君……。」


どんだけ緊張してるんだよこいつ、まるでロボットのように声が震えているじゃないか。


電話を耳から離し、俺も一呼吸する。すると、メッセージが飛んできた。相手は……美姫だ。


美姫『ねえ、和人。今から一緒にご飯食べましょうよ。あ、どこかに食べに外行く?』


一呼吸入れる。体の中にたまっていたストレスを吐き出すように。その呼吸で、頭を切り替えろと、脳みそに命令する。


「ちょっと待ってくれ、海。少しだけ、少しだけだ……。すまないが……」


「は、はい…」


海にことわりを入れて、美姫にメッセージ送る。


『クソみたいな俺なんかを誘うな。ほかのお前を好いているやつを誘え』


すると、即座にメッセージがかえってきた。


美姫『何言ってるのよ? 私のために体を張ってくれた人を認めないわけないじゃない。和人のそばにいて好きにならないなんて、よっぽどその人は見る目がないか、それとも同性愛者かのどっちかよ。だから和人、ご飯食べに行きましょう? もしまだわからないところがあるっていうなら私が教えてあげるから」


媚びるようなメッセージ。

俺は少しだけ悲しい気持ちになった。堕ちる前の彼女なら、そんなことは絶対にしないのだから。確かにこんな美姫も可愛い。こんな甘える彼女も愛おしく感じるが、だが俺は彼女の、初めて会った彼女の方が好きなのだ。


だから……。


『遠慮する。お前とはもう会わない」


美姫『え、何よそれ? ……もしかして、女の子?』


美姫『やっぱりそうなのね。私との食事を断るってことはそれほど大事な用事があるってことよね』


美姫『和人ならその用事の内容も言うはず。例えば食事の先約が入っているなら素直にそう言うだろうし、仕事の場合でもそう。それに和人は私に嘘はつかない。おそらくそれを聴くと私が悲しむと判断したのね』


美姫『冷たい振りしても無駄よ。和人が演技しているのが私に見破れないと思ってるの?』


……くそ、何でいつも俺は惚れた女の子に対してダメになるんだよ。

海の時だって、美姫の時だって、それこそ『彼女』の時だって。いつも俺はこうだ。


『ねえ和人? 私だけを見てって言ってるじゃない。私、和人のためだったら何だってするわよ。お金をちょうだいって言ったらいくらでもあげるし、私の体だって』


「うるさい!!!」


耐えきれず、大声を出す。目の前に美姫なんていないのに。だが、感情を吐き出さずにはいられなかった。


「ひっ……、和人君……? 私、何かしましたか?」


「……すまない。なんでもない。ごめんな、海。本当にごめん。もうちょっとだけ、待ってくれ」


すかさずメッセージを送る。少し、切れた。


『俺がお前にそんな願いをすると思ってるのか? 心外だな。少しがっかりした』


少し傷ついた。少し怒った。彼女にそんな願いをするはずがないだろうが。彼女を汚すことが俺は嫌なのだから。だから、素が出てしまった。


すると、間が空いて、次のメッセージが帰ってくる。


美姫『ごめんなさい』


『……すまん、少し俺も言い過ぎた』


……あ。

くそ、クソが! 何故謝ってしまった? ここから畳み掛けていれば彼女を離すことだってできただろが! 負い目なんて関係ない。彼女のことを想うのなら、俺は冷静に対処すべきだったのに……


美姫『本当にごめんなさい』


「それじゃあな」


そう言ってメッセージをきる。

さて、……次は、海だ。


「ごめん、海。本当に済まない、待たせてしまった」


「は、はい! 大丈夫です。私、いつでも待ってますから……」


「……」


「本当は、誰かそこにいたんですよね?」


「……いや、いないよ。誰かいたら、海と電話しようなんて思わない。大切な話だからな」


「そう、ですか……。いいんですよ、私、和人君に私の存在を知ってもらえるだけでもいいんですから……。和人君が、私を少しでも見てくれるだけでもいいんですから……」


その健気な声を、認めたくはないが可愛いと思ってしまう。

……気持ちを切り替えろ。俺は今から、彼女を突き放すんだぞ? 感情を捨てろ!


「えっとな、告白の件なんだけど、嬉しかったよ。海みたいな美人にそう言ってもらえるなんて」


「え、えへへ……嬉しいです」


できるだけ傷つけないように、拒絶しようとした。だが、海の声で違和感を覚えた。

……ん? なんだか少し様子が違うぞ? いつもはもっと恥ずかしがるはずだ。今のこいつは、なんというか純粋に笑い過ぎだ。まるで心から信頼しているものを目の前にしているように。

いや、……何か違和感がある。

だから少し心配して言葉をかけてしまった。追い打ちをかけてしまった。


「おい、本当に大丈夫か? ……具合が悪いのか? よかったら後日でも大丈夫か? お前の体調が心配だ。お前なんかに、俺のせいで体を壊してほしくない」


「大丈夫ですよ。またこうして『心配して』くださるんですね、ありがとうございます……。―――――――――え? こうしてって……? 何で、そんな言葉……」


「お、おい、……海?」


瞬間、空気が変わった。

いや、その空気は徐々に変化していたのだろう。俺が電話を出た時から空気はおかしかった。そうだ、彼女は「変化」していたのだ。変化していたからこそ、彼女は、あのステージでも喜んでいたのではないか。

その変化のダムを、俺が決壊させてしまった。


「待つ、待つ……私は和人君を待つ。どんな時でも、どんなにつらい時でも……。私にできることなんて、それくらいだから……。こんな、みじめで、頭が悪くて、何の魅力もない私にできることなんか……。」


「待て、待ってくれ海。お前はみじめでも何でもない。お前は、凄くいいやつだ。だから……」


「すごくかっこいい和人君。私なんか、和人君と釣り合うはずが……。でも、そんな私を和人君は見放すことなんかしなかった。……あれ、でも何で? 何で最後、和人君は私を置いていったのですか……? 私、和人君の命令、ちゃんと守って……。あの時、私が少し反抗したからですか……? でも、私はあの時、一杯いっぱいで、……混乱しちゃってて……。だから、だから私には和人君しかいないのに。」


「海、海! 聞いてくれ。頼むから、聞いてくれ……」


「そうだ、私には和人くんしか……」











「あ、あああああ。か、和人君! 私、私! えへへ、えへへ、えへへへへへへ! 和人君、会いたかったです。ずっと、ずっと抱きしめてほしかった。……ああ、和人君。和人君に美人って褒められるのが嬉しかったです! めったに褒めてくれない和人君が褒めてくれるなんて……えへへ。和人君が、私にこんなに優しくしてくれるなんて……。やっと、やっと私が和人君のそばにいていいんですね。」



幸福の極致、彼女はそこに至っているようだった。

だが、それ反し、俺は力が抜けていた。彼女までも、思い出してしまったのだからだ。

崩壊の音が聴こえているような気がした。




………

……






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