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2章3話


「え、えっとね……、この近くにね、すごく可愛いカフェ見つけたの。放課後3人で行きませんか?」


「俺はかまわないよ」


「え、えっと、ボクは……」


手に持っていた箸をおき、おどおどと俺達に提案してくるC。俺はすぐに肯定するが、Dは言い淀んでいた。


今、俺達は昼休みに学校の屋上で昼食をとっていた。俺達3人は授業以外は『なるべく』一緒にいようとしていたのだ。何故『なるべく』なのか? まあ俺達はいつも仲良し3人組だからっていうのもある。しかし、今からDが話すことにも大きく関係するのだ。


「……ごめん。ボク、今日も放課後は部活があるんだ」


「……うん、わかった」


Dは高校に入学した時、どうしても勧誘を断ることができず陸上部に所属することになったのだ。その影響で、部活が休みの時以外は俺達と一緒にいることができなくなっていた。

Cは寂しそうに食事を再開する。普段は自分から誘ったりすることなどない彼女。すごく頑張ったのだろう。そんな頑張りを理解しているDは罪悪感からか、いつもより遅く箸を動かしていた。


俺達の関係性は少し変わってしまった。中学まではいつも一緒だった。だが、3人が高校に入学し、Dが陸上部に入ったことで中学から一変したのだ。

運動部はほぼ毎日が練習だ。大会で良い結果を残すために生徒のみならず、顧問と保護者も一つになる。そんな『熱』に、Dは取り込まれ、そして俺とCは取り残されていた。

何故俺はDの入部を止めなかったのか? それは攻略上必要なことだからだ。


「ごめんね、ボク行かなきゃ。部のミーティングがあるんだ」


本当にミーティングがあるのか、それとも重い空気に耐えきれなくなったのか。Dはこの場を去って行った。


「……」


Cは黙って床を見つめている。きっと寂しさで一杯なのだろう。華やかだと期待していた高校生活は、こうしてまったく違っていたものだったのだから。

そんなCに俺はなるべく優しく笑いかけながら話しかける。『嗤い』かけながら。


「しょうがないよ、また一緒に行けばいいじゃないか」


「……はい」


Cの反応は鈍い。結構ショックだったんだな。いつも一緒にいた親友がどこか遠くにいったような感覚なのだろう。可哀想にな。だが、その感覚を俺は利用させてもらうぞ。


「でも本当にあの子はすごいよな」


「……え?」


「だってさ、この前も賞もらってたじゃん。しかも県大会の。高校から始めて中々できることじゃないよ」


Dははっきり言って、天才だった。

彼女は入部するとメキメキと実力を伸ばし、1年の中で、いや、部の中ではトップになっていた。そしてこの会話の少し前の大会では、楽々と2位に差をつけて優勝してしまっていた。しかもその相手は前回の全国大会入賞レベルなのだ。

俺のそのDの才能を中学のころから知っていた。知っていたからこそ、この高校に彼女達を入らせたのだ。そして陸上部の同級生に無理やりスカウトさせたのだ。自慢ではないが人の才能を見定めるのには自信がある。それは俺が結局的には凡人から抜け出すことができないから、他者の優秀さに敏感なのだ。昔からそうだった。俺は他人を羨むことしかできなかった。足が速い上級生を、勉強ができる同級生を、そして全てが超越しているあn……、いや、俺の話はどうでもいい。

今の俺の苛立ちを、こいつの攻略にぶつける。


「やっぱりあの子ってすごいよな。小さいころから将来絶対何か成し遂げるって思ってた。そんな子を後輩に持つことができて光栄だよ。でも、それに比べて俺は……」


「いえ、先輩も凄いですよ! 私の方こそ……」


Cの顔が更に曇るのがわかる。小さいころから横にいた俺なのだ、彼女の微細な表情の変化など逃しはしない。

そうだ、その顔が欲しかったのだ。だからDを陸上部に入らせたのだ。

きっとCの心は今大きく揺れている。『嫉妬』という毒に。俺がDを褒めているから、俺を盗られるかもしれないと思っているのだろう。そして自分の存在の小ささに苛立って、悲しんでいるのだろう。別に俺はCのものじゃないのに。そして華やかに活躍する親友と自分を比べ、どうしようもなく自分の矮小さに怒りを覚えているのだろう。

このように、『虐め』という外的抑圧とは違う方法で、内的要因から彼女の心を不安的にしたかったのだ。味方となる要素を極限まで0にしたかったのだ。その結果、俺が望んでいた方向に事態を持って行けるのだ。


そして……。


「……あ、あの! 和人先輩!! す、好きな人とかいますか?!」


「……」


Cが俺に告白してくるように仕向ける。どうやら俺が想像していたように、もはや頼るものが俺にしかないようだ。同級生も、親も、親友も、そして自分さえも彼女の敵でしかない。こうなることは明白だった。よく周りにいるだろう、他人の栄光を自分のように感じる人間が。彼女は今、それに近い状態に陥っている。今の俺はどちらかというと優秀な部類だからな。そんな俺が彼氏になると、自分も上位の人物になれるかもと思ったりしたのだろう。そうして彼女にはこの世界を壊すきっかけになってもらった。これでようやく次のステップに進めることができるのだ。


「うーん、特にいないね」


「じゃ、じゃあ! わ、私と付き合ってくれませんか……!?」


「いいよ! これからよろしく!」


「や、やったぁ……」


今回の時間軸ではCは『主な』攻略対象だから。もちろんOKするよ。そう、『主』だからな。


で、Cと付き合い始めた俺は当然のごとくDにそれを報告する。だって、『親友』だからな! 


「俺、Cと付き合うことになったよ」


「え、えっ……?」


理解できないという顔で呆然とするD。今俺はDと二人だけでいる。Cにはこう告げた、『君からじゃ彼女に伝えにくいだろう。俺から伝えるよ』と。実際にCは報告しにくそうにしていた。だってそうだろう? 自分だけが『自慢』で『大好き』な先輩をフライングでゲットしたのだ。それを利用させてもらい、今の状況を作った。確認したいことがあるのだ。

そして、まぁDのの心は理解できる。まさかCが自分から今の関係を壊すとは思わなかっただろうな。引っ込み思案な彼女。誰よりも3人の世界を大切にしていた彼女。彼女がまさか、自分から友を『裏切る』ような真似をするとは思わなかっただろうな。裏切る……それは3人だけで行った旅行の際(言ってなかったなすまん)に、CとDはお互い、俺のことが好きだと秘密をさらけ出していた(もちろん俺は今の状況を作るために手は出していない)。その際に約束し合っていたのだ、お互い告白するときには先に言うと。それをCは破った。まぁ粗方、先に自分から伝えないとDに負けると思ったのだろうな。俺がDばかり褒めるから。


そんな裏切られ、放心していたDは気を取り直し、祝福してくれた。


「そ、そうなんですか……。お似合いですね。お、おめでとうございます」


その場では気丈に振る舞っていたD。慌ててる慌ててる。声も震えて息が荒くなっている。というか目に涙が溜まっているし、足も震えている。もう少し攻略を進めれば、自分のあの気持ちを決壊してくれそうかな。その気持ちは近いうちに話そう。


「それじゃあ、これからも『俺の彼女』のことよろしく」


「は、はい……」


親友が付き合ったのだ、祝福しない人なんていないだろう。たとえ……『自分が最も好きな人と付き合っても』。


そこからはDは俺達と遊ぶときや勉強するときは俺とCを気にしてか、一歩引いた感じになった。俺はこれ幸いにとDに俺とCがイチャついてるところをトコトン見せつけていく。


この前3人で喫茶店に行ったときは、


「……先輩、あーん」


「ちょ、恥ずかしいよ」


「私のあーんは受け入れてくれないんですか?」


「わかったわかった!」


「……」


この前、何とかDが時間を作って実現できた3人でのお泊り会。Dが寝ている横で、


「……ねえ、キスしよっか」


「え、駄目ですよぅ…、目の前に……」


「大丈夫、寝ているよ」


「……もう、ちょっとだけですよ」


「………すぅ」


絶対起きてる絶対起きてる。枕が涙で濡れていた。肩も震えている。布団を強く握りしめていることもここから見える。


何故そのようにDを追い詰めるのか? そう、彼女の情緒を不安定にするためだ。彼女が唯一の親友と、最愛の異性がイチャイチャしているのを見れば、絶対にそうなる。というか誰でもなるだろう。ちなみにCがこうも積極的なのは、Dに見せつけたいからだろうな。今まで散々負け続けていたCだ。周囲からも、そして親友からも。そんなCが初めて勝つことができたのだ。俺を親友というライバルを負かせて付き合うというな。嬉しくてしょうがないのだろう。……本当に親友なのかこれは?

……ん? Cだけでなく、Dも不安定にさせる理由か? まあ直に明かされる。


まあそんなイベントをこなしながら、卒業を控えた冬。進路がはっきりする時期。


「……え、陸上の推薦で○○○大学に行くの!!? 地元の大学にするって言ってたよね? これじゃ全然会えなくなっちゃう……」


「……うん、ごめんね」


俺達の逢瀬に耐えられなくなったのか、Dはついに俺達から逃げる選択をとった。まあ、俺も親友にそんなことされたらそうする。彼女はよく耐えた方だ。……結構俺、鬼畜なことしてないか? まあいまさらか。


「……なあ、応援しよう? 親友を応援するのが、本当の『親友』というものじゃないか?」


Dの選択を俺はフォローする。どの口で言うのかな俺は。俺の言葉にCは何とか納得し、Dの両肩に手を置く。


「……そうですね。うん、頑張ってね! 向こうにいっても応援するよ!」


「……うん、ありがとう」


そして、時は過ぎ、卒業式の日。


「じゃあね、また会おうね。連絡取り合おうね。長期休暇の度に会おうね!」


「……うん、うん」


「それじゃあね! 応援してるね!」


「……うん』


そして、俺達と別れたD。その背中はいつもより小さく、消えそうだ。このままだと、本当に今生の別れになりそうだ。そりゃそうだ。でも、そのまえに……最後の仕上げといこう。


「……なあ、先に行っててくれ。ちょっと俺用事あるから」




………

……


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