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6章26話(文化祭)

この話ですが、あるヒロインを否定する描写があります。当ヒロインのファンの方、そして不快に思われた方は申し訳ありません。

「それじゃあみんなグラスは持った? ……じゃあ、かんぱーい!」


「「「「かんぱーい!!!」」」」


残りのメンバーである部長たちも揃い、俺たちはリビングに集まり、乾杯の音頭をとっていた。……不本意ながら俺も、だ。


「さて、それじゃあご飯をいただきましょう、みんな。って、本当に豪華ね。あんた一人で作ったの?」


「ああ、海や春香にも手伝ってもらってな。というか俺は何もしていない」


「そんなことありません! 和人君がほとんど作ったじゃありませんか!」 「和人君、何謙遜なんて似合わないことしてるの?」


話題から逃げたくて海、春香の名前を使ったが、どうにも失敗だったようだ。面倒臭いことは雑に仕事をするのは俺の悪癖だということをまた強く実感した。海も春香も素直に事実を言うなよ……。


「ふぅん、やっぱりあんた、料理結構できるのね。合宿の時もそうだったけど。……あ、これもおいしい。やるじゃない。」


部長が無駄に褒めるせいで、皆の視線が俺の方に向いてしまう。居心地の悪さを感じてしまった。ほら、一番こちらに注意を向けてほしくないやつが見てきた。


「ま、和人だからそれくらいは当然よ。ね、和人?」


どや顔でグラスを持ちながら語る美姫。何でこいつはこんなに得意気なんだよ。


「他人に言う前にお前は自分の家事能力を鍛えろ。「うるさいわね!」……部長、俺なんかより、もっと上手いやつがいますよ」


「そうかしら? あんた、結構な腕をしていると思うけれど……」


「海も、春香も実際相当上手い。俺以上に。今日料理作っているとき、もうこいつらに任せた方がいいんじゃないかって思ったくらいだ。この前一緒に昼飯食ったが、絶品だった」


「いえ、私なんか和人君に及びません……」「あはは、そこまで褒められると照れるなぁ」


女はいい、適当に褒めれば機嫌をよくしてくれるからな(ゲス顔)


「何他の娘に媚びているのよ……」


その代わり、違うやつのストレスが溜まるけどな(即落ち) 

そういうときは、これだ。


「海たちだけじゃない。聖も、……そこの会長も。これまで少し食わせてもらったが、上手かったよ。俺なんてここにいる奴らに比べれば、屁でもない」


褒める対象を増やせばいいのだ。そうすれば、俺が特別視していないことを見せることができる。


「またそうやって自分を卑下して……。男なんだから堂々としていなさい! 部長の私が認めるんだから、あんたの料理はうまい! いい? これ決定事項よ!」


……なんだこの雰囲気は? いつからこの場は俺の主役になったんだ?


「わかった、わかった。もうそれでいいよ。俺は料理が上手な完璧な男だ。顔も良い要領もいい、最高な男だ。これでいいか?」


「和人君、自画自賛~……」「あはは、いつもの和人君だね」


周りの有象無象の言葉は無視無視。なんたって、俺が主役だからな。俺の様子に満足したのか、部長は満足そうに頷いた。


「そう、それでいいのよ。そうね、今度この部活の皆でピクニックとか行きましょうか。そこでみんなのお弁当を交換しあうのって楽しそうじゃない? みんな、どうかしら?」


「「「さんせーい!」」」


面倒なのではんたーい! ……とはいかないか。何故ギスギスすることが多発するのに、こういうときに団結するんだよ。それだけ仲良かったら、もっとお互いをフォローしろ。


「もちろんあんたも絶対参加よ。サボるんじゃないわよ?」


見抜かれていたか……。ま、それだけこいつは部員のことを見ているということか。さすが、部長と言ったところか。下の者のことを知らないと務まらないからな。


「はいはい……。」


話題が一段落したと感じた俺は台所に向かおうとする。その俺に部長が声をかけてきた。


「ちょっと、あんたどこ行くの……」


「ああ、追加の料理を持ってくるんだよ。なくなってきてるだろう? 美姫が食いすぎなせいで。おい、美姫よー、……太るぞ?」


「そ、そんなに食べてないわよ! 適当なことを言わないで、バカ和人!」


「はいはい。まぁ、思ったより無くなるペース早いからな、ちょっと作ろうかな」


「別にいいわよ、あんたばかりに負担かかるじゃない」


「部長、別にこっちは楽しんでやってるからいいんだよ。じゃ、行ってくるわ。」


「あ、和人! 私も一緒に……」


「美姫、お前は食べてろ。そしてブクブク太れ。おい、聖。美姫の面倒見てやれ。」


「はーい。じゃあ美姫ちゃんー、このお菓子も食べようね~」


「ちょっと先輩! 無理やり口の中に……おいしい」


「和人君、私も……」


皆の横を通り過ぎようとすると、海が俺について来ようとしながら話しかけてくる。この様子は、俺の手伝いをしたいと言いた気な顔だ。そんな海に苦笑いし、俺は彼女の頭をグリグリと撫で、押しとどめる。


「今日くらい、お前もくつろげ。……そして、明日頑張れよ」


「は、はい!」


海は笑った。久しぶりの素直な笑みだ。俺はそれに満足し、通り過ぎる。


リビングのテーブルにいるみんなに背を向ける。行く場所は……庭。料理を作るというのは建前で、本命はこれだ。女ばかりの中に男一人だと、ストレスが溜まりに溜まるのだ。そういうときはたばこが一番。まぁ、ニコチンが足りなくてイライラしているのもあるがな。良い子のみんなはたばこは吸わないようにな。

一度部屋に戻り、上着とたばこをとる。サンダルを履いて、中庭に出ると、一人の女がいた。……何でこいつがいるんだ。


「あ、和人君……」


「……」


無視して予め灰皿を置いてある場所に向かう。煙草を取り出す。どこかの誰かがこちらを見る目を強めたが、無視無視。煙草に火をつけ、煙を吸い、吐く。この一連の動作が頭をリセットしてくれる。それが俺のストレス解消法だ。数が少ない、俺のストレス解消法だ。


「ぷはー……」


「……会長の前で堂々と煙草を吸うのね」


「いいのか?」


「ああ、煙のこと? 制服の上着は脱いでいるから大丈夫よ」


「違う……。そうじゃない」


「え……?」


たばこの煙を吸おう吸おうとしすぎて、もう1本目を吸い終わってしまった。2本目を取り出す。秋の夜空の下で出す煙、やっぱりいいなぁ。


いいのか、かぁ。

それは自分に言った言葉。こんな中途半端な状態を維持してきた過去の自分と、今の自分に問いかける。半端に情をかけ、海たちとの関係を維持してきた。勝手に俺の私情を持ち出し、彼女たちをフォローしてしまった。そしてその結果がこの雁字搦めの状態。誰かをフォローしようとすれば、誰かが傷つき、そして傷ついたやつをフォローしようとすれば、誰かが落ち込む。全てを0にしようとした。だが、それは悪手だと考えた。この状態の彼女たちをすべて放置し、あまつさえ嫌悪感を抱かせようとすれば、いつ爆発してしまうかわからない。最悪の状態になるかもしれない。

それに、逃げようとすれば。


『和人くんー……』


そうだ、聖だ。彼女が傷ついてしまう。この時間軸で俺は彼女に情をかけすぎた。そして彼女に情が移りすぎた。聖に、悲しませるようなことができなくなってしまった。姉さんは前に言った。姉さん以外に情をかけるなと。昔の俺はできたかもしれない。だが、今の俺にはできない。もう、昔の自分には戻れないのだ。海が、あの後輩たちが、美姫が、春香が、アリアが、……彼女が。そして聖が変えてしまった。いや、彼女たちと接するうちに変わってしまった。

もう、彼女たちをただの舞台装置と、今の俺は見れなくなってしまった。


非常に情けなく、まずい状態。……なぜ俺は、この時間軸でこうも情けないのだ? 自己の方針に従えない? 頭が昔ほど冴えわたらない? そもそもだ、そもそも初めから学校などどうでもよかったのならば、なぜ初めから転校、もしくは退学しようとしないのだ? どこまで中途半端なんだ?


……それも、文化祭までだ。

文化祭が終われば俺に少しは時間ができる。自分を見つめなおし、方針を定めることができる。そこから、そこからなんだ……。だからもう少し踏ん張れ。


「和人、君……?」


目の前の有象無象が俺に話しかける。いや、有象無象と俺が決めつけているだけか……。捨ててもいい、どうでもよい存在ならば、今頃俺はこいつを……。

だが、助かったことがある。俺がこいつを嫌っていることだ。その態度を出し続け、フォローをしなかったことだ。だから楽に接することができる。


「お前さ、……どこかに行ってくれないか? 疲れるんだ、お前と居ると」


「……うぅ」


はっきりと拒絶することもできる。確かに疲れるし、一緒に居たくはないが、態度を一貫できるだけ少し楽だ。こいつと目を合わせない。視界に入れるだけで脳のリソースを使用する。もったいない。


「お前は部屋に戻れ。……いや、俺が戻る。」


こいつと一緒に空間にいたくなくて、立ち去ろうとする。目の前で寒そうにしているこいつを無視する。誰がお前にアウターを貸すものか。……たばこの火をいつもより強く消す。背中を向けると、不意に声をかけられた。


「和人君、……一ついいかしら?」


「……」


面倒なので無視する。どこの世界に嫌いな奴の相手をわざわざやる人間がいる? ただの時間の浪費、そして感情の疲労を招くだけだ。玄関に手をかける。すると、一際大きな声が、後ろから流れた。


「何で…………何で?」


「……あん?」


「…………何で、私には優しくしてくれないの?」




………

……




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[良い点] 毎回楽しく見てます [一言] うん、まぁこの人だろうなぁとは思った
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