6章25話(文化祭)
お待たせして申し訳ありません。以前より更新速度は遅くなるかもしれませんがよろしくお願いします。
※誤字報告ありがとうございました。
「和人君、はい」
「ああ。……おい、あれとってくれ」
「あれ……ああ、これでいい?」
「おう」
今、俺はキッチンに立っている。無駄に設備が整っている我が家のキッチン。こうして俺を含め二人が立っているには十分な広さ。何を考えてこんな家を建てたのか……今はわからない。まあ、これから先もわかる可能性があるとも言えないが。
「おい、皿並べておいてくれ。箸がおいてある場所はわかるだろう?」
「ええ、あそこよね。わかったわ」
「ついでにコップもな。」
テキトーに指示を出し、自分の作業に戻る。時間も迫っているし、ここからは少しペースを速めないといけないな。
そうして料理に集中しようとしていると、春香がいつの間にか横で俺の料理を見ていた。
「和人君、アリア先輩……会長とすごく息があっているね!」
「あん? まあな……」
「面倒な顔しないでよー! 寂しいよー!」
春香が拗ねた顔をしているがどうでもいい。無視して料理を進める。
「私も思っていました……。すごく、息が合っていて、なんというか、……夫婦のような……」
いつの間にか海も横に来ていたようだ。少し脳のリソースを会話に傾けるようにする。
「そんなんじゃねぇよ。単にちょっと以前に、アリアが家に来て料理を手伝ってもらったくらいだ」
「家に来て……?」
「あー……、おい春香、余計なことは言うなよ? 俺が説明するから」
「ひどーい! まだ何も話していないのに!」
「海、話を続けるぞ? 春香から聞いているだろう? 俺が先公、……先生たちから問題児扱いされているのは知っているだろう? ひどい話だな、俺は善良な生徒なのにな」
「本当の話じゃない」
「美姫、急に話に入ってくるな。驚いたじゃねぇか。聖、美姫の相手していてくれ」
「もうしてるよー。美姫ちゃん、さっきのファッションの話の続きなんだけどね-……というか、美姫ちゃんの髪って本当にきれいだねー……」
「ちょっと、先輩、髪の触り方がやらしい……」
急に美姫が話に入ってきたら包丁で指を切ってしまうところだった。彼女の注意が聖に向かったことで話を続ける。
「話を戻すぞ? それで聖と会長が俺の面倒を少し前に見てくれていたんだ。そこまでは知っているよな? その一環で聖と一緒に飯を作りに来てくれたことがあるんだ。食生活から直さないとってな。その時の名残で覚えてくれているんだろう。」
「……それならば、私が作って差し上げましたのに」
「お前だったら、俺に何も言わずに豪華料理を作るだろう? 毎日それは申し訳ねぇよ。……ほれ、口開けろ」
「え? ……あ、おいしい」
「だろう? 少し気合入れて作ったんだ。」
これ以上話を深堀させないために、無理やり味見させる。海の驚いた顔をみると、なんだか懐かしい気分になった。前の時間軸、こうして海とキッチンに立ったことがあったという記憶。……まあ、その時はあまり海にとって良い記憶とは言えないだろうが。だって、あの時は海に食材の置き場所や器具の置き場所を教えただけで、残り全部調理まで全部海に任せていただけだし。
「すごいです……こんなに料理がお上手だなんて。私なんかと比べて……」
海のキラキラした目に参る。だから何でお前はそんなに「すごい」って言いやすいんだ? それに最後の言葉が気になる。こいつの料理の腕は正直鍛えれば相当のものだ。いや、というか今でも相当なはずだ。こいつの家庭は厳しいはずだからな。徹底的に料理なんかは仕込まれているだろう。実際に海を攻略した時間軸では、花嫁修業の一環として料理の修業もしていた。今時古風で驚いたが。しかし、現在の海と、前の時間軸とでは差があるだろう。それは、前の時間軸では徹底的に、俺の都合の良いように海を仕込んでいたからだ。料理、掃除、洗濯、その他家事類はすべてこいつに任せるようにし、完璧レベルを求めた。それと比べたら、今の海は……俺は何を考えているんだ? そもそもが比べること自体がおこがましいし、海を侮辱している。
だから、俺はただ謝罪の思いと、そして海に自信をつけてほしくて言葉をかけた。
「お前の方が、俺よりもずっと料理の腕もいいし、なんでもできるよ。もっと自信をもってくれ」
「……私なんて全然」
「……本当に、お前の方が旨かったんだよ。……あの時は悪かった」
「え? 私、和人君にご飯なんて……」
「……忘れろ、失言だった。ほら、手が空いているんだったら皿を並べるの、手伝ってくれ」
「は、はい!」
「……海」
「はい、なんでしょうか?」
「明日、頑張ろうな? お前がすごいやつだって皆にわからせようぜ」
「……いえ、私なんかが和人君に役に立ってもらえるよう精一杯頑張ります!」
「……そうか。それなら、今日は一杯食え。お前が好きなもの結構用意したからな。おかわりもいいぞ」
「はい! おかわりがなくなるまで食べさせていただきます!」
「……無理はするなよ?」
「はい! 無理はしないように頑張ります! では、私はお皿を運んでまいります!」
海は皿を運びにメンバーたちが集まっているリビングに向かった。そんな海に懐かしさを覚える。しかしその気分に浸る時間をあまり待ってはくれなかった。春香が声をかけてきたからだ。
「ふふっ、仲良くやっているようでよかったよ。ありがとうね、海ちゃんと向き合ってくれて」
「驚かすなよ、春香……。まあ、依頼だからな。それに、海みたいな可愛い女と話せてうれしくはない男はいない。」
「あはは、正直だね、和人君は」
「隠す必要がないからな。それと同じで、今お前と話せて楽しいしな」
「ふぇっ、え? わ、私?」
顔を赤らめて慌てる春香に、俺は言葉を続ける。
「だから合宿の時から言っているだろうが。お前も海に負けず劣らず可愛いって。自覚しろよ」
「わ、私なんか……海ちゃんや美姫ちゃんよりも……」
「だから、何でお前らは自信がないんだよ……美姫を見習え、美姫を。あいつは自分の顔に自信もっているからな。今から手本を見せるぞ。……おい美姫! お前自分のこと可愛いって自覚してるよな? このナルシスト野郎が。「な、なにいきなり変なこと言っているのよ和人! バカ! あんたこそナルシストじゃない!」 ……ちょっと失敗したな。気にするな。」
「……ふふっ」
少し落ち込んでいた様子を見せていた春香だったが、笑顔を見せてくれた。……あれ? なんだ、この春香の雰囲気……。
「和人君、ありがとう。少し元気になったよ」
「お、おう。気にするな」
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな? いや、これはお願いなのかな?」
「……いいぞ。気軽に言ってくれ」
「ありがとっ! 海ちゃんたちと同じくらい可愛いって言ってくれたよね? ……それだったら、……うん、そうだね。…………私にも優しくしてほしいな。……優しくしてほしかったなぁ」
「……春香、お前?」
春香はニコニコといつもの笑顔と、ちょっと拗ねた様子を見せた。いつもと同じだった。最近疲れているのか、どうも嫌なことを予想しすぎる。心配性は俺の悪い癖だ、ネガティブさを改善できていない、この世界でも。
「もーっ! 和人君ったら、可愛い女の子たちに優しいだもん。それなのに、私には構ってくれないし! 今度遊びに連れていってよ~」
「わ、わかったよ、わかった。なら、文化祭でも終わったらどこかパーッと遊びに行くことにするか」
「え? 本当!? やったー! ちゃんとエスコートお願いするよ~?」
「はいはい。……お、部長たちがやっと到着したようだな。春香、応対頼んでいいか?」
「はーい! 期待してるからねー!」
………
……
…




