表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/106

2章2話

また回想から始めよう。

手紙の主よりもらったと思われる能力『やり直し』。俺はこの世界の時間を巻き戻すことができた。だが、どうやら時間は指定できないようだった。赤ん坊の頃からやり直すと思ったが、今度は小学校高学年の頃に戻ったようだった。『q@zwut@e』……、まあ頭のノイズは置いておくとして、自身の体と、カレンダーを見てそう判断したのだ。境遇は変わらず、また海と同じ学校であった。1回目の時と同じように、クラスの信頼を得ている俺。だが異なる点もあった。それは海と面識がないことであった。海は居たのだが、廊下ですれ違っても俺に興味なさげに通り過ぎていくだけであった。海如きが何故挨拶も碌にしないと、その時少し腹が立ったが、まあ抑えた。


話を海から今までの俺を少しだけおさらいしよう。

世界をやり直しても変わらないもの。それは自分が世界から認められていないという孤独感だ。こんな世界に一人放り出されたのだ、誰だって感じるだろう。というか何でネット小説の主人公たちとかは前の世界と別れてあんなに切り替え早いんだ? ……まあいい、俺は要するに元の世界の家族たちに会いたかった。家族じゃなくてもいい、自分を本当に必要としてくれる人、『愛してくれる人』とまた触れ合いたかったのだ。でも、戻る方法がわからないからその願いは叶うことはない。だから、別の方法で寂しさを紛らわせる必要があったのだ。そう、『病む』程に愛してくれる子を作り上げることによって。


前回の相手は先ほど述べた海。そして、今回の相手は……あ、名前忘れちゃっt、……、Cちゃんと名付けよう。何でCと名付けたかって? それは以前の海、保険をかけた元気っ子のBちゃんから数えると三番目だからだ。憶えているぞ? だが、どうでもよくなる可能性があるやつに頭のリソースを一文字分使うのは無駄だと思わないか?


そのCについて少し詳しく説明しよう。今回、戯れに俺は後輩キャラを攻略してみることにした。

彼女の年齢は俺と海の1つ下。当時は三つ編みが似合う大人しいメガネっ子。前髪が少し長すぎて顔が少し見えづらいが、良く見てみるとすごく可愛い。地味な子だが、一皮剥けるとすごく化ける、そんな子だった。まあよくいるだろう? 高校や大学でデビューすると凄く綺麗になる子。そんな感じだ。

彼女の周りの人間関係を話そう。父親と母親と彼女の3人家族。家は裕福な部類である。彼女の家の外装、その他彼女の地味ながらも清潔で上品な服からそう推測した。


そしてこれが大事になってくるのだが、彼女は海の時と同じで友達が少ない。しかし別にいないわけではなく、親友が一人いる。仮にその子をDちゃんと名付けよう。類は友を呼ぶと言うが、その子は自身を『ボク』と呼称し、ボーイッシュで可愛い部類に入る。というかCと同等である。


CにとってDがどのような存在か? 簡単だ。ほら、よくいつも漫画やアニメに2人組の女の子っているじゃないか、大人しい子とそれを守るボクっ子。まさにそんな感じだ。Dは、Cを月とするならば太陽。そんな存在。明るく、運動神経抜群のDとは鏡のような存在。Cは大人しいからいつも誰かにいじめられていたりするのだが、その都度DはCを守っていた。それに対してCは感謝し、大事な親友として認識していた……表面上は。ま、詳しくは後で説明する。


こんな感じで、Cには温かい家族と一人の親友がいた。守ってくれる存在がいたにはいたのだが……その頼れる存在の数は少なかった。Cの引っ込み思案な性格が、それ以上周りの人間の数を増やそうとはしなかったのだ。

人とのつながりが少ない子は、多い子よりは攻略が容易い。これは多くのケースに当てはまる。人間とは絶対に他者とのつながりと求める生き物だ。一部の例外はいるが、どいつも他者とふれあいたい、認められたいと常々考えているもの。常に孤独を抱えている。

人間関係が良好な者は、それほど孤独感に苛まれていないかもしれない。孤独を感じれば、友達と遊びに行ったり、家族と暖かい食事をしたりして解消すればいい。

だが、交流関係が薄い者や、人との触れ合いが苦手なものはそれができない。流行りのSNSや、ゲームや漫画などの創作物で孤独を誤魔化すか、それとも少ない人間関係に依存する他はない。

そのような人との触れ合いがあまりない者達の弱点は何か? その一つは、容易く騙されやすいということだ。一見怪しそうな話でも、相談する相手もいず、冷静に物事をみることが難しくなってくる。それどころか容易く依存してしまう傾向にある。そして騙されている中でも、それを救ってくれる人は限られてくる。だから攻略が比較的容易いのだ。


話をCとDの二人の関係性に戻そう。

簡単にまとめるとCには一人だけ友達がいたのだ。Cはその彼女のことから離れることができなくていつも一緒にいた。登校も一緒、休み時間も一緒、食事も一緒、トイレも一緒。……依存していた。


この子たちのことは海を攻略しているときに一応目に入っていた。海が失敗した時はBを攻略しようと考えていたが、保険は多い方がいいと思いリストアップしていたのだ。


だけど、攻略するには……ただのCには興味はない。『程よい』ヤンデレの女が欲しかった。


理由は以前と同じように、前の世界で視聴した深夜アニメがきっかけだった。

内容は特に変哲もない恋愛もの。イケメンの主人公が、ヒロインを助けて惚れさせる内容。そのなかで気になるキャラ、ヒロインの一人がヤンデレだったのだ。

そんな彼女を見て、主人公を見て思ったのだ。『そんなに愛されているのなら、この孤独感を消すことはできるのでは?』と。


……攻略が失敗して捕まってしまうと、ニュースで『犯人は深夜アニメを趣味で視聴しており……』と報道されるな。アニメに対する偏見は許さないぞ。……まあ捕まらないようにうまくやるつもりだ。


今回の攻略はちょっと違う方法でやってみる。

何故か? それは前回より難易度が高いかもしれないからだ。今回は攻略対象に親友という存在があり、家庭環境も悪くなく、少なからず海よりは恵まれている。俺に傾くのは少し骨が折れそうだった。

いや、別に海がちょろいってわけではないぞ? たしかにヤンデレ? の素養はあったと思うけど……。……違う違う。今はCの話だあいつは関係ない。ないったらない。


さて、攻略は前回より難しいと思う。だが、今回はそれを利用させてもらうぞ。

小学生の頃。攻略対象のC、そしてその親友のDはよく男の子達に虐められていた。


「泣き虫!」「やーい、男おんな!」


「うぇーん!!」「ち、違うもん! ボクは女の子だもん!」


説明しよう。数々の物語での後輩キャラというのは、気弱なパターンが多い。確かに生意気なツンデレ後輩や元気っ子など世の中には存在するのだが、王道はやはり気弱なおどおど系後輩。昔のギャルゲー作品などに多い。


今回調教するのは王道! だってツンデレや元気っ子は疲れるしな。確かにツンデレ系は付け入る隙は多々あったりするが、心を折るのは少し手間がいる。それに元気っ子は人間関係を上手く構築している場合が多い。だから今回は気弱系でいくのだ。……表面上は。


で、先ほどの頭の悪い会話について。

俺は子供たちの社交場、公園で最近このような光景を拝見していた。現代では公園で遊ぶ子供は希少だと聞いていたが、この世界ではそんなことがなかった。公園で遊ぶ子供はたくさんいたし、何より女の子も遊んでいる。

で、その会話を行っている人物。からかっている男の子達3人は上級生だろう、幾分か俺より身長が高い。その彼らをまた仮にジャイア……1号、スネ……2号、のび……3号とする。海の頃のいじめっ子とは別人だ。別人だ。大事なことだから2回言った。


そしてそれに泣いているのが攻略対象の彼女達だ。対象の子Cが泣いていて、親友のDがそれを庇っている。

彼女達はよく公園で遊んでいるのだが、高確率でクソ坊主どもにからかわれている。二人ともそんじょそこらの女子より圧倒的にかわいいのだ、いじめたくなる気持ちもわかる。まぁ、今はその気持ちを利用させてもらおう。


「弱いものいじめ、楽しいですか?」


「……あ?」


今回は彼女達が号泣する直前で登場する。何事もタイミングが重要なのだ。……ん? もっと早く登場した方がいいんじゃないかって? いいじゃないか、俺だって少しは泣いているところを楽しみたいんだよ。


「だからモテないんですよ」


「う、嘘つくな! お前だって……」


「ごちゃごちゃうるせぇ!!」


「ごほっ!」


そう、今回もマッチポンプをしたのだった。

上級生にCたちがあんたたちのこと好きだって言って、更にからかうように仕向けた。これが以外と効果がある。俺が言うのもなんだが、男っていうのは本当に単純だからな。女の子に好きって言われたらそれだけで狂喜乱舞するほど。皆もバレンタインデーの時は、机の引き出しの中を楽しみにしていただろう?それくらい俺達男っていう生き物は、悲しいが単純なんだ。


「お前達が女の子を泣かせるまで虐めていいって思ってるなら、まずはその幻○をぶち壊す!!」


「グハッ!!」


すまん、何かこのカッコいい演出使ってみたかったんだ。

一番強そうな1号をまず初めに倒す。どうやら殴られ慣れてないようで一発で泣いて倒れてくれた。それに少し鼻血も出していた。集団と喧嘩するとき、大事なのはそのボス格をはじめに倒すことが大事だから正直助かった。俺こそが弱い者いじめしている最中だからな。俺にも人の心があるから、あまり殴りたくないのだ。(どの口が言うのかと思うだろうが)

……ほっ。どうやら他の2号たちも気勢をなくした。大体このように集団で行動しているやつらはボスの腰巾着が多い。その行動は集団生活を生きる中ではある意味正解だと思うし、俺もその立場だったらそうするかもしれない。攻めることなどできない。弱者には弱者の生き方があるのだ。強者に蹂躙されないための。……クソが。


そして次に強そうな2号の方を向く。「ひっ」。さっきの1号の鼻血がきいたようだ。血に対して恐怖している。小学生の年で血を見るというのは結構精神的に来るものがある。

こうして、1号の先輩を倒した後は、他の腰巾着達も簡単に倒せた。「○ラ○もーん!!!」3号が俺から逃げる際、そんな言葉を出していた。……来ないよな? 未来の狸とか来ないよな?

そんなこんなでいじめっ子たちが逃げた後、俺は残された彼女達になるべく暖かく、笑顔で話しかけた。


「大丈夫か?」


「へ? …はい」


これが彼女達との出会いだった。

それからは簡単だった。虐められていたところを助けた俺に少し興味持った二人は、少しずつだが、話しかけてくるようになった。ラブコメでは王道だろう。曲がり角でぶつかるとか、路地裏で暴漢に襲われているのを助けるとか。


これから彼女達に良い顔を見せ続けていけば惚れてくれるだろう……。今の俺には様々なステータスが備わっている。生まれながらの美形、成績、運動神経、そして周りからの賞賛。会話も同学年のやつとは違うように心がけ、楽しく優しくを徹底している。また、年が近い『先輩』という部分も大きい。ぶっちゃけていうと、先輩というだけで少しだけカッコよく見えるものだ。それにどこか包容力を感じる可能性も高まる。それらのステータスをもって普通に交流すれば、難なく惚れてくれるだろう。


だが、それだけで終わらせない。

ただ惚れられるわけではだめだ。程よいヤンデレにしなければいけないのだ。海のように愛してくれ、かつ海程重くはない存在に。だが、いますぐどうこうできるわけではない。計画を本格的に移すにはまだ先だ。今回は焦らない。


今のところ、彼女達を俺に依存させていくのは変わらない。

彼女達が困っているときは手を差し伸べ、暇だと彼女達が感じているような日はなるべく楽しませるようにした。

細かくは前回の海と同じ手法だ。共通の趣味を作り、俺との会話を特別と感じさせ、俺達3人だけの世界を作り上げていった。宿題を見てやったり、一緒に登校したり、遊びに行ったり。共通の話題を作り、多くの時間を共有すれば、人は自ずと心を開くのだ。


しかし、依存のレベルを必要以上に上げる行為は程々に留めた。

理由は二つある。

まず一つ目は、依存レベルが上がり過ぎるとお互いの生活に支障が出るからだ。

海の時もそうだったが、依存しすぎると常に一緒に行動しようとする。それだとこちらのストレスが半端ないし、攻略の保険活動もままならないから。また、程よくヤンデレにするには、監視を徹底しなければならない。今回はCの他にDも監視する必要がある。一方に何か問題が起きた場合のフォローが大変なのだ。


そして二つ目は、本格的に依存させるのは思春期の方が良いから。

小さすぎるときは、まだ保護者という精神的に自分を守ってくれる存在がいる。暖かい存在がそばにいる。だから、もし攻略を進め、周りから遠ざけすぎたら自然と保護者に助けを求めてしまう。海の時はその保護者に頼ることができなかったけどな。

だが、思春期ならどうか?

思春期とは保護者と距離を保ちたがる。いらない反抗心を持ってしまう。その影響でいくら問題が発生しても、何とか自力で解決しようとしてしまう。自分が助けてもらわなければどうしようもないところまで問題が大きくなっていてもだ。だから程よく交流していくのだ。


これで彼女達を順調に目的の段階まで程よく依存させていった。その証拠に……。


「……せ、先輩は高校どこに行くんですか?」


と、俺が高校受験を控えているときにCが聴いてきた。その眼は誰が見てもわかるくらい不安に揺れていた。きっと、俺と離れるのが怖いのだろう。今まで散々一緒にいてやったからな。Cは楽しく過ごしてくれただろう。そして俺の受験というイベントでその日常が壊されようとしている。それを恐れてこんなにも迷子のように震えているのだ。

そんな彼女に俺は努めて優しく応えた。


「俺? 俺は○○○高校だよ」


その高校はCちゃんが勉強を頑張ればギリギリ入れる学校だ。俺がその高校を選んだ理由はいくつかあるが、まあその話は置いておこう。

高校の名前を聞き、Cは何か決心したようだった。一呼吸置いた後、彼女は俺に宣言してきた。


「……じゃ、じゃあ私も同じ高校に入れるよう頑張りますね! えへへ」


そんな彼女の告白紛いの言葉に、隣にいたDも負けじと応えた。


「ぼ、ボクも同じ高校に入る!」


その言葉を放ったDは顔は赤くしながら俺の手を握ってきた。それは傍から見れば微笑ましい光景だが、俺にはこいつらの内心が手に取るように理解できていた。色々な感情が混ざったそれ。その一番は、また3人一緒にいたいという感情だろう。だが、その次には俺の目当ての感情があるはずだ。


これで第一段階は成功。とりあえずは安心する。だって彼女達が違う学校に行くつもりだと応えれば攻略の成功率も下がるし。

そういえば海たちはどうしたって? 彼女達は同じ中学校にいるよ? クラスが違うだけで。……しかし、今回は海と面識があまりない。あいつの相手は疲れるし、何より俺の中の海は前の海だけだ。もうこの世界の海は別人だと割り切っている。だから今回は海は攻略せず、保険も元気っ子のB(Dとキャラが被るなこいつ。いらなくね?)だけを攻略している。


そしてCたちの嫉妬と独占欲を煽るために、わざとBを目の前で抱きしめさせたりもした。これ安定。本当にBは便利な道g、……ゲフンゲフン、女だ。俺がBの存在を忘れないためにもやらせたがな。

俺には他にも友人がいて、別にお前だけじゃないんだぞというところを見せるのが大事なのだ。これも姉さんに教えられた。姉さん安定。


それに同級生にも何回か告白されたしね。それを口頭で二人に伝えたりもした。モテているという事実と、そんな男がお前たちの横にいるんだっていう独占心を与えた。

だが、告白の場面を見せるのは止めた。そこまでショッキングな場面を見せたら、慌てて俺に告白する危険性も伴うしね。思春期というのは本当に危ういのだ。


彼女達に聴かれたりした。「何で誰とも付き合わないんですか」って。それに対して「君たちとの時間が何よりも大事だからね」って答えておいた。彼女達はそれに満足してしまっていた。


そして、彼女達をクラスから除外させたりの依存イベント(これは俺に告白してきたやつが彼女達のクラスのリーダー格で、俺が彼女達の方が大事だと言ったら便利に除外してくれた)を発生させつつ、順調に依存させた。一方俺は中学を卒業。


精神的に疲れながらもC達は何とか中学を卒業し、俺と同じ高校に入ることができた。校舎で俺に出会ったとき、彼女達は泣いていた。これからの明るい未来を想像して幸福になったんだろうな。これからが攻略の本番だというのに。


泣いている彼女達の頭の中は、もう世界は完全に3人だけになっていた。


………

……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ