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6章19話(文化祭)

「あ、あの……和人君?」


「……」


静かに俺の家の周りの空気は澄んでいる。だが、それは心地よくはない。家の前では俺と聖だけだったらその空間はあり得ない。だから、この空間には異物が混入しているのだ。いや、聖が抜け、その異物が代わりに塗り替えたのだ。それは……アリア。

か細い声でこいつは俺の名前を呼んでくる。私服にスーツケース、そして買い物袋を持ったアリア。本気でこいつは俺の家に居座るようだ。


「あ、あのね? 確かに和人君に相談せずに決めたのは申し訳ないわ。でも、私も和人君に停学なんてなってほしくなくて……」


「……」


なぜこいつはこんなに俺に構いたがるのだ? 俺がこいつに何をしてきたか、こいつは覚えているのか? 俺はただ、こいつを威圧し、怖がらせ、ただ暴言を吐いてきただけだ。なぜそのようなやつを面倒見ようとするのだこいつは? ……理解できない。


「あ、か、和人くん……」


「……邪魔だ」


「きゃっ」


玄関の前で突っ立っていたアリアをどけ、ドアを開ける。ただこいつが煩わしい。


「ま、待って和人君……あ、お邪魔します……「待て」 え?」


俺を追って家の中に入るアリア。靴を脱ごうとするこいつを止める。


「お前、……何を考えている?」


「え?」


問わなければならない。こいつの心の中を。


「ありえないんだよ。なんでうざい後輩の面倒を見ようとする? なぜ生意気な後輩の世話を焼こうとする?」


「そ、それはあなたが後輩だから……」


目をそらし、小さい声で口から漏らすアリア。こいつのそんな態度がただ苛立ちを加速させる。


「じゃあお前は後輩だったら誰でも世話をするのか? すごいなお前。じゃあこの学校の生徒の不良共全員世話しろよ。」


「ち、ちがう……。私はあなたが、あなただから……」


「だからそれがあり得ないって言っているだろう! 俺がお前に好かれるようにしたか? お前に言い顔をしたか? 一度たりともないはずだ。なんだ? お前は俺の顔にでも惚れたのか? 自分で言うが、俺は顔だけはあの人に似て良いからな。……今となっては、何も言えないが。」


「ちがう! 私は表面的なところばかり見てないわ!」


目の前のこいつは強く否定してくる。嘘は言っていないだろう、今のこいつの表情は真剣な者にしか出せない表情だ。だがそれが俺を困惑させる。


「じゃあ何でなんだよ……俺はお前に優しくしたか? お前に好きだと言ったか? お前を守ろうと……うっ」


「和人君……?」


……守る? その言葉で俺は『あの子』の顔を思い出す。俺が守りたかった彼女。普通な彼女。だけど、俺を愛してくれた彼女。ただ純粋に、目の前の肉親よりも俺をとってくれた彼女。そんな彼女を俺は守れたか? 

……守れなかった。

俺は、こいつを壊した。そしてその結果、あの子も壊した。こいつの顔を見ているとそれを強く思い出す。俺の不甲斐なさを自覚させられる。俺の罪を強く頭に叩き込まれる。それが……何よりも俺を否定する。頭痛、そして吐き気が押し寄せてくる。


「か、和人君大丈夫!? すごく顔色が……」


「近づくな!!!」


「きゃっ!」


近寄ってくるアリアの手を振り払う。こいつに助けてもらう必要がない。助けてもらうなど、俺のプライドが許さない。……あの子が許してくれない。

少し安静にしていると頭が冷静になる。

……待て。こいつはもしかして……思い出しているのか? 俺のあの唾棄すべきあの行為を思い出しているのか? 俺がこいつを壊したことを思い出しているのか? そして、俺が原因であの子を殺してしまったことを思い出しているのか? 

アリアの顔を見てみる。その顔は悲しみを帯びているように見える。……ますます理解できない。なぜこいつはそのような顔をする? 俺が苦しんでいる姿を見ているならば、あの子の仇であり、そしてこいつ自身の憎しみの象徴ならば、俺を憤怒にゆがんだ顔で見るだろうが。


「……アリア」


「……え、ええ。何かしら?」


「お前は……思い出しているのか?」


「……え? なにをかしら?」


「惚けるな!」


アリアの肩を強く握る。アリアは怯えているように見える。……怯えるのは俺の方だ。俺はこいつに殺されても文句は言えないのだ。それだけのことをしたのだ。


「俺を殺す気なんだろう? なら早く正体を晒してくれよ……早く、俺に思いの丈をぶつけてくれよ……俺を、憎いと言ってくれよ……」


「か、和人君……?」


アリアは困惑しているような様子を見せる。それどころか俺を労わっているような、心配しているような顔をしている。……ますます、こいつのことがわからない。何を、本当に何を考えているのだ、こいつは?

アリアから手を放し、息を整え、頭の中を無理やり冷静にする。

……そうだ、落ち着け。こいつを邪険に扱うのはいい。そして今の話を続けたらどうなる?その結果どうなるのだ? あの部の崩壊しかないはずだ。部の雰囲気が悪くなり、そして聖に迷惑がかかる。……今は冷静になる時だ。


立ち上がる。そしてアリアに背を向ける……


「……勝手にしてくれ」


「……え?」


「この家には俺しかいない。自由に、どこでも使ってくれ。台所も、リビングも、冷蔵庫も全部。寝る場所は……そうだな、客人用の部屋が余っていたからそこで寝てくれ。」


「う、うん」


「じゃあ俺は自分の部屋にいく……」


……疲れた。久々に、俺の罪を強く意識したからか、体も心も重い。俺はゆっくりと、自分の部屋で休みにいった。


「……和人、君」




………

……







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