6章18話(文化祭)
「和人君さー」
「あ? なんだ?」
夕焼けの空の下を歩く。学校も終わり、そして各自の本日の文化祭の準備も終わり……。文化祭も残すところ僅かとなった。準備の方も皆熱を上げ、各自その疲れを背負いながら帰宅する。そんな輩の一員として俺と海は帰路についている。こうして平和な気分で帰るのはいつぶりだろうか? 順調に海の、そして美姫の問題も解決に近づいている。今ではにこやかに俺のギターを聞く海、そして劇の練習にも参加している美姫。少しだけの平穏だが、俺は今気分がよかった。
聖と帰るのはもはや日課となっていた。文化祭準備の前までは、部活後に生徒会室で聖の仕事を手伝い一緒に帰宅。今は音楽室での練習の後、生徒会の仕事の一環である見回りを終えたことと状況を報告。そのあとに帰宅するという流れだ。この時間は嫌いではない。確かに聖がいつも腕に抱き着いてきて帰るのは恥ずかしいが、まあ、以前ほど人と触れ合うのが苦痛ではなくなっていたこともあり、もはや心安らぐ時間となっていた。
「最近―、学校の授業サボり気味じゃないー?」
「ああ、その話か」
ジト目で見つめてくる聖。こいつは変なところで真面目だからな。そして変に気遣ってもくるし。ま、そういうところもこいつの魅力といえば魅力なんだがな……。
「その話ってー、前から言っているでしょー? 和人君がいつも話逸らすからー……」
「だから言っているじゃねぇか。サボってはダメな生徒は素行不良で将来が不安になるやつだ」
「……じーっ」
「おいおい、俺を見るな。俺は優秀な生徒だ」
「どの口が言っているのかなー? 煙草も吸っている不良さんー?」
「まぁ聞け。そんな不良共と比べて俺は学校の内部の成績も正直良い。それに模試でも良い成績もおさめている。授業で問題を当てられた場合も滞りなく答えている。」
「成績はいいよねー」
「単位も問題ない。必要最低限な授業日数もこなしている。ほら? 問題ないだろう?」
「素行は悪いよねー?」
「まぁ昔はな。喧嘩もしたし。でも、今は喧嘩もしていないし、何だかんだ部活にも結構参加しているだろう? お前らの生徒会も手伝っているし。」
「よく助けてもらっているし、すごくありがたいよー」
「ああ、そうだろう? だから俺は優秀な生徒なんだ」
「あ、あの服可愛い~」
「おい、話を聞け。何ウィンドウショッピングを普通に楽しんでんだよ」
「いたっ。チョップしないでよー」
少し涙目になる聖。ため息を吐きながら聖は口を開く。
「和人君―、ちょっと今ねー……先生たちの間で和人君のことが話題になっているのー」
「なんだ? 俺が順調に育ってうれしいって?」
「違うよー。ちょっとポジティブすぎー」
「じゃあなんだよ? 最近何もしてねぇぞ?」
「うん、最近はねー。でもねー、この前の合宿のこと覚えているー?」
「ああ。あのお前が迫ってきた合宿だろう?」
「ちょ、ちょっとー! 変な話しないでよー!」
「だって本当の話じゃねぇか。お前が夜に俺の部屋入ってきて襲ったんだろう?」
「最終的には和人君でしょー! って、違うー! 今は論点が違うー! 真面目な話をしているのー!」
からかわれているときの聖も可愛いが、どうやらまじな話らしい。少し真面目に聞く必要があるようだ。
「あの時、ビーチで男の人たちに話しかけられていた時ねー、和人君守ってくれたでしょー? あの後、本当は喧嘩になったんだよねー?」
「……まあ、手当してもらった聖には嘘は言えないな。」
「やっぱりー……。えっとね、その時の喧嘩をねー、地元の人たちが見ていて学校に通報したのー。うちの生徒が喧嘩してましたよーって」
「……」
あの時は俺が負けていたのだが、どうやら周囲はそれでも喧嘩と判断していたらしい。それに、俺は私服を着ていたはずだが、うちの学校だと決めつけて通報したと。怖いな、地元の住民って。……まぁ、その人たちからすれば、近くで喧嘩事になるのが迷惑だという話か。
「和人君―、よく聞いてねー。今、和人君だと疑われているのー。今、和人君が停学になっちゃったら、困る人たくさんいるでしょー?」
「……別に俺なんていなくても一緒だと思うんだがな」
「本当に言っているー?」
「……すまん」
「そうだよー、素直が一番だよー。」
えっへんとしてどや顔している聖を小突きたいが、今は聖が正論だから何も言えない。
「生徒会としても厳しくなるし、何よりー……私が嫌だよー。和人君が停学になるのはねー……。だって、納得いかないもんー。みんなのために行動してくれた和人君が悪者になっちゃうなんてー。」
「……ありがとうな、気遣ってくれて」
「ううん、お礼なんて言う必要ないよー。私の方がお礼すべきだよー。だからね、和人君―。……ばれないように、文化祭までは真面目にしていてねー。遅刻もせずに、学校もサボらずに。今、私と会長で和人君のこと、すごく頑張っていて、みんなが感謝していることを伝えているから、もう少しで先生たちも信じてくれてー、和人君もいつもの生活に戻れるからー」
「……」
聖は100%善意で俺に忠告してくれている。こんな俺を気遣って、そして動いてくれるなんて感謝しかない。
だがな……最近朝はな。
正直、音楽室の練習だけでは全然足りないのだ。家で練習をしているが、昔の感を取り戻すことに四苦八苦している真っ最中。これでは海を完璧にフォローすることができない。だから深夜まで練習している。その結果が、最近遅刻につながっている。1限目は完全に寝坊して授業に参加できないからな。
「和人君―、まずは明日からちゃんと遅刻せずに来てねー」
「……なぁ、朝はどうにかならないか? ……いや、甘えだった。忘れて「その言葉を待っていたよー!」……あん?」
話を遮った聖。なぜかどや顔で顔を近づけている。
「私もねー、和人君がどうやったら朝ちゃんと来てくれるか悩んでいたのー。そうしたらあの子がねー、面倒見てくれるってー!」
「……おい、どういうことだ? 話が見えない」
「ちゃんと和人君が夜もちゃんと寝て、朝早く起きて登校するかを見てくれるってー! あの子も和人君と仲良くなりたかったそうだから、一石二鳥だってー! 文化祭までお泊りして見張ってくれるってー!」
「待て。そんなこと聞いてないぞ。」
……なんかギャグ空間みたいな雰囲気になっていないか? この空気はまずい気がする……。
「ごめんねー話せてなくてー。今日決まった話だったのー。彼女、もう和人君の家の前で待っているから。だから今日の生徒会室に来なかったのー。準備してくれていたんだー。……あ、家に着いたね。それじゃあね、和人君―。また明日―。……和人君、信じているからねー、手を出さないってー」
「おい待て聖!」
聖は俺を置いて一人で走り去っていく。周りを見渡すと、どうやら話に夢中で自宅の前についていたようだ。……ん? 誰か、家の前で一人の女が待っている。……ん? 待て。生徒会だと? それならば……。
「……あ。和人君。お、おかえり……」
「……」
………
……
…