6章11話(文化祭)
更新が遅れてしまう申し訳ありません。文化祭編始まりです。
合宿も終わり、俺は今日も学校に通っていた。
登校はするが、だるい時にはサボる。そんな毎日に戻っていた。
そしていつものように授業をサボって屋上で時間を潰していた時。
「あんたまた授業サボってるの?」
「……美姫、か」
彼女が現れた。
美姫。俺の部活の後輩であり、そして俺が以前攻略した相手。
その彼女は最近変わった。いや、変わったのは合宿からなのかもしれない。
あまり化粧やファッションに興味がなかった彼女が、最近それらに目覚めだして、さらに美しくなった。
いや、本当に綺麗だ。化粧とかしなくても綺麗だったが、それらをしたことで美しさの段階が上がった。
俺が攻略した世界、俺と仲が良くなったときから化粧に目覚めだした彼女。今、その美しさに近づいている。
そうだ、『以前』の彼女に近づいている。外見は美しさの頂点を極めたが、内面は堕ちてしまった彼女へ。
彼女の美貌に呆気にとられていた自分に嫌気がさす。昔の彼女に近づくということは、彼女が堕ちるということなのだから。
彼女は、ただ綺麗なままでいてほしい。
「あんた、そんなに授業サボっていたら碌な大人にならないわよ」
「……お前も今サボっているじゃねえか」
「わ、私はいいのよ。成績も良いし、教師からも気に入られているし、何より可愛いし。あんた、そんなサボったりして成績は良いの?」
「さらっと自画自賛してんじゃねえよ」
何故彼女があの進学校からこの学校に来たかわからないが、彼女の成績は良いことは耳にしている。それも難関大に楽に通るくらいの成績だと。
「だって本当のことじゃない。で、あんたはどうなのよ? しょ、しょうがないから私が教えてやってもいいわよ?」
「ほれ」
「え? 何よこれ? 成績表? 見ていいの?」
「別にいい。だから渡したわけだしな……」
「じゃ、じゃあ……へぇ、まあ劣等生ってわけではないわね」
何回俺は繰り返したと思っている? それに俺は美姫の通っていた学校で好成績を残していたんだぞ? この学校でトップ辺りに位置するくらい造作でもない。それくらいの成績がなかったら教師にも生活態度を見逃してもらえないからな。
美姫から見れば、この程度の成績は驚くべきことでもないだろうが。こいつが異常なだけなんだよ。なんだよ、綺麗で頭が良くて金持ちで。完璧じゃねえか。そんな彼女から見れば俺なんて劣等生だ。さすがお兄様です! と慕ってくれる妹が欲しい。…何考えているんだ、俺は。最近疲れているのか?
「ま、私が少しは認めた男子だし、これくらいはやってもらわないとね」
何故か誇らしげにしている美姫。そんな彼女に苦笑いを浮かべてしまう。そんな俺を見て彼女は何か機嫌を損ねたのか、顔をそむけた。
「はは、何だよそりゃ……なあ、美姫」
「何よ?」
「お前、教室戻れや」
「え……?」
「お前、何でここに来た? ここに来る理由なんてないだろうが」
甘い空気が流れていた空間に一石を投じる。
成績が良いからサボるなんて、以前のこいつからは考えられない言葉だ。確かに美姫を攻略した時は、サボる時もあった。でもそれは彼女の精神が少し不安定だったかもしれない。今の彼女は、初対面の不良だった俺を嫌って、あれだけの啖呵を切った女だったはずなのに。何故、彼女は変わってしまったのだ? 何が彼女を変えてしまったのだろうか?
……原因はわかっている。そう、一番の悪因。
「べ、別にいいじゃない……そ、そう! 私もサボりたくなったのよ! もう授業で習っているところ、自分で勉強した内容ばかりだから退屈なの。だ、だからなの!」
焦っている様子を見せる美姫。そんな彼女を俺は反応しない。ただ彼女を見つめる。
「ねえ、それタバコ? 私にも一本ちょうだい。吸ったことないけど、試してみたいの」
そう、……俺だ。一番彼女をダメにしていっているのは、俺だ。俺みたいなくそ野郎がまた、彼女を困らせようとしている。彼女を腐らせようとしている。このままでは、綺麗な彼女が駄目になってしまうのは目に見えているのだ。
……だから。
「だめだ」
「え? それくらいいいじゃない。後で私が他の箱買ってあげるわよ」
「違うんだ。それじゃない。……そうだな、今日からサボるのはやめるわ」
「……え?」
「確かにお前の言う通りロクなやつにならないだろうからな。だから今日からサボるのはやめだ。真面目に授業受けるよ。いい大学にも入りたいしな」
「そ、それなら……私が勉強教えてあげるわ!」
「はは、なに言っているんだよ。お前は俺の後輩だろうが。まだ俺が習っている範囲の勉強なんて……」
「もう学校で習う予定の範囲はすべて理解しているわ。それくらい当然でしょ?」
「……お前の当然はどこの当然だよ」
「だから私が教えてあげる! ね、いいでしょ? 遠慮はいらないわ。でもそうね……、どうしてもお礼がしたいって言うなら、ご飯でも奢ってもらえればそれで許してあげる。安いところでもいいわ、学生だからしょうがないわよ。あ、あんたが連れていってくれるなら……」
「……いや、勉強は自分でやる」
「え……?」
彼女とこれ以上接近したらだめだ。ダメなのだ。だから、彼女の願いはもう、受け入れない。彼女に背を向け、自分の教室に戻ろうとすると、ふと後ろから声が聞こえた。
「……私のこと、嫌いなの?」
細い声。風で消えてしまうような、そんな小さい声。だが、聴こえてしまった。いや、俺が聞き逃すはずがないのだ。彼女の声を、彼女が泣きそうな声を出しているという事実を、俺が聞き逃すはずがないのだ。そのか細い声は、俺の心の臓を抉る。あの、トラウマがよみがえってしまう。もう彼女にあんな声を出させたくはない。ださせては……いけないのだ。
だから。
「……情けねえだろうが」
「……え?」
そう、だから。
「だから、後輩に教えてもらうなんて情けねえだろうが。勉強くらい自分で解決する。後輩の、それも女の後輩に情けなく頼るなんて男としてみっともねえよ」
「……ふふ。何よ、かっこつけちゃって。似合ってないわよ」
そんな彼女を、みたくなくて、彼女から少しも離れることができなかった。
「当然だろう? 誰だって綺麗な女にはカッコつけたくなるもんだからな」
「……え?」
「それじゃ、先に戻るわ。部活でな」
彼女を喜ばせたくて。彼女に負い目があって。彼女を汚したくなくて。泣かせたくなくて。
だから、だからこんな女々しいことを、俺はやってしまった。
……クソ。
クソが、クソクソクソ野郎が。俺は何をやっている? 前から学んでいないのか? こんな中途半端な態度が彼女を困らせることをなぜ俺は学ばない? ……くそが! そんな自暴自棄に屋上のドアを開けると、今見たくない人物が目の前に現れた。トップ3を争う、あの生徒会長様のアリアだった。
「あなた達、何授業サボっているの! いくら部活の後輩だからって、生徒会長として許すわけには……」
「うるせえ漏らしていたことばらすぞ」
「扱いがひどいわ! ……ほら、あなたたちのクラスも、文化祭の準備に入っているでしょ? 早くしなさい」
「……あー、そんなこともあったな」
「……無関心ね。ま、あなたらしいと言えばあなたらしいけど」
お前が俺の何を知っているんだくそ野郎が。その言葉にブチ切れてこいつを殴りそうになりながらも耐える。美姫の前では荒事は起こしたくない。
「……いくぞ、美姫」
「あ、ちょっと待ちなさいよ和人!」
アリアの顔を、声を、認識したくなくて俺は半ば強引に連れていく。ふとアリアの横を通り過ぎると、何か小声で話していたような気がしたが、無視する。こいつのことはどうでもいい。何があっても、もうかかわりたくない。
「……また、あの目」
………
……
…




