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6章10話




そして夕飯も食べ、就寝する時間になった。

そう、皆が寝る時間だ。だから……


「やっほー、来たよー」


聖がきた。

パジャマを着た聖の姿は、正直エロい。こいつのスタイルが強調されているし、何より胸元から谷間が見えている。俺の視線に気付いたのか、聖はこちらをジト目で見てきた。


「……どこ見てるのかなー?」


「お前の胸」


「そこはストレートに言うんだー……えっち」


肩をすくめて呆れた様子を見せる聖。だがそれも束の間、ニコニコとしながら俺に近づいてきた。


「ふふ、和人くーん」


急に微笑んで俺の胸元に飛び込んでくる聖。少し、胸がときめいてしまった。普段みんなの前では大人びて中々隙を見せないこいつがそんな姿を見せるなんて、何か来るものがあった。


「ありがとうねー。私、今本当に幸せだよー」


「何言ってるんだよ。俺は何もしてねぇよ」


そうだ、俺は何もしていない。ただ単にこいつに言われたからこの部活に入って、なあなあで活動してきただけだ。


「ううん、和人君がいてくれるだけで私は幸せだよー」


「……」


「大切な友達と、大切な恋人。その二つがそばにいてくれるなんて、昔の私じゃ考えられなかったよー」


……ああ、そうか。こいつは一人ボッチだったと言っていたな。だから、寂しい思いをしてきたこいつだから、今が幸せなのだろう。

昔を思い出す。俺にもそんな時期、一人の時期があった。誰も俺に近づかない、誰もが俺を蔑む時期。苦痛しかない時期だった。逃げ出したくなった毎日だった。そんな日々が聖にもあったのだろうか。ならば、そんな時期が終わり、こいつがこんな笑顔を見せてくれるのは、素直に嬉しく感じた。

……何を俺は甘くなっているんだ。……いや、甘くていいのかもしれない。

そうだ、この世界は安全だ。春香も、そして海や美姫達も誰も思い出していない。少々距離が近い気がするが、それでもまだ許容範囲ないだ。ここから彼女達と交流を減らして行けば、まだ間に合うのだから。それも程々を目指す必要がある。もし泣かせでもしたら、聖に迷惑をかけてしまうのだからな。

そうだ、聖は関係がないのだ。そしてあの部長も関係がない。部員は俺の罪の証が大半。いずれ罪を償う必要はある。だが、聖たちには何も関係がない。だから迷惑をかけるわけにはいかない。

……何を今熱くなっているんだ俺は。少し恥ずかしくなった。だから、苦笑いしながら、聖に言葉に応えた。


「だから言っているだろう、俺はお前の恋人じゃないって」


「ふふ、そうだったねー。弟君だもんねー。このこの~」


「だから俺はお前の弟じゃ……、もういいよ、面倒だ。そうだよ、ただの弟だよ、俺は。……だから、少しだけお前の言うこと聴いてやるさ」


そうだ、ただの弟なのだ。この世界だけの、弟。だから本当の姉さんには今だけは許してほしい。

どうやら俺も甘くなったようだ。そして聖に感謝の気持ちなんて抱いているようだ。

正直に言うと少しこの日々が楽しかった。穏やかな日常。攻略など何も考えず、ただ……、仲間って俺なんかが言っていいかわからないが、そんな奴らと笑いあえる毎日。自傷しようとしない海、閉じこもっていないあの二人組、誰にも依存していない美姫、……正直嫌いだが穏やかに笑っているアリア、そして何の邪気も感じさせない笑みを浮かべる春香。そんな彼女達と過ごせて、罪悪感も確かに抱いていたが、それよりも嬉しかった。


そんな日々を送らせてくれた聖。彼女が俺に目をつけ、無理やり俺を連れてきてくれなければ、俺は腐ったままだっただろう。

俺は心の中で彼女に感謝した。この時間軸では、できるだけ聖の助けになろうと心に決めていたのだった。


「おおー、やっと認めてくれたねー。お姉ちゃん嬉しいよー。だったら、これから近いうちにある『文化祭』、ちゃんと手伝ってねー。お姉ちゃん命令だよー」


「やだ、めんどい」


「即答だよー! この面倒くさがりー! ……何か予定でもあるのー?」


「家でたばこと酒飲みながらゆっくりするっていう予定があるんだよ」


「そんなの予定って言えないよー! もう、ちゃんと手伝ってねー? こういう皆の、それも先生たちがすぐ目の前にいる機会で、和人君が真面目にやっているところ見せないと、後々もっと面倒になるよー?」


「……そうだな。ていうかお前も結構考えているんだな」


「ひどいー! でも、納得してくれたからいいやー。じゃあ、ちゃんと手伝ってよねー?」


「はいはい、わかったよ。……でもなぁ、何か褒美がないとな」


「……何、その企んでそうな顔ー? わかったよー、……そうだねー、さっきから胸ばかり見ているえっちな弟君がいて、お姉ちゃん大変だよー」


そう言って彼女は俺の胸にぐりぐりと頭を擦りつけてくる。その姿が愛らしいなと、少し思ってしまった。また、どうしようもない色気も感じた。


「もう……そんなしょうがない弟君の面倒をみるのはお姉ちゃんの責任だもんね」


「……」


「それに、こんな弟君のおかげでお姉ちゃんは幸せなんだから。だから、少しだけご褒美しないと罰が当たるから……」


そう言って、彼女は顔を近づけ……。


「和人、君……」


「聖……」


「これからも、一緒に幸せな時を過ごそうね」


月が、彼女の体を綺麗に照らして。彼女の顔も、素肌を、より白く、美しく。

そして、夜は穏やかに更けていった。




………

……



更新が遅くなり申し訳ありません。リアルが忙しくて中々執筆作業できませんでした。

これから前作で描写できなかった「文化祭」編を書ければと思います。楽しんでいただければ幸いです。



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