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6章7話


「起きてー和人君~」


「ふわぁ……あぁ?」


重い瞳をこじ開け、目を覚ます。だが重いのは瞳だけではなかった。胸の上に何かが乗っていた。確かめると、一人の女の頭が乗っていた。


「ほら~、お姉ちゃんに挨拶はー?」


「……聖か。それよりも服を着ろ」


「しょうがないじゃんー、私も起きたばかりなんだからー」


にこにこと、何が嬉しいのか笑っている副会長「聖」が居た。そう、何故だかわからないが、彼女が「姉」になった。姉とは血縁上なるもの。だから口約束でしかないのだが、それでも一応は俺は許可してしまった。そのことについて、今は少し後悔している。迂闊なことをしたと。……誰とも距離を縮めないと決めたのにな。だが、こいつの笑顔で、少し悩みを吹き飛ばされた。そのことに苦笑しながら、話を続けた。


「あー、いいこと思いついたー。ほら、『弟君』、おはようのチューしてー」


「何言ってるんだ……朝からダルいこと言うなよ……」


「やだー、してくれるまで退かないし、服も着ないし、皆の前で昨日の夜は和人君と寝たって言う~」


のほほんとしたこいつの雰囲気はただ癒しを与えてくれるし、相手の感情を読み取るのが上手いのか距離を適度に保てる。それに会話も上手い。今の俺にとって、この上ない相手だった。……しかし、今俺に遠回しに脅迫しているんだけどな。ただ、こいつのわがままな脅迫は、可愛いものだと思った。


「わかったよ……ほら、顔向けろ」


「うんー! ……ちゅっ。えへへ~」


「おい、早く着替えて下に降りるぞ。遅くなると変な疑いをもたれる」


「うーん、……ちょっと先に行ってて~」


「は? 何でだ?」


「ちょっと、昨日誰かさんが頑張り過ぎたから動けない~」


「……お前が誘ってきたんだろ?」


「それはそうだけどー……、ほら、一緒に行っちゃうと変に思われるのもあるでしょー?」


「まぁ……それはそうだな。わかった、先に行く。早く来いよ?」


「はーい。いってらっしゃい~。……きゅ~」



聖の間の抜けた顔を見て、ドアを開ける。疲れた体に鞭を打ち、皆が居るであろうリビングまでのそのそと歩く。そうだ、顔と外見だけを言えば、聖は美人に加え、背が小さいくせに何気にスタイルもいい。体だけの関係を迫ってきただけはあるな。……そうだ、体の関係だが聖から迫ってきたしOKだろ? 実際に聖も「……初めてだったのに……、和人君、責任、取ってくれるよねー? ……まぁ、私から迫ったんだし、無理にとは言わないけど」とは一応言っていた。あれ、こいつって案外重いのか? まぁ、……今はあまり気にしなくていいか。

何だかさっきから俺って聖のこと褒めまくってないか? まあ確かにあいつはそれだけの魅力はある。だが、それだけの魅力を誇っているのに、前の世界のクソ転生者はこいつを何故攻略しなかったのだ? あいつが攻略したメンバーは俺が今まで攻略してきたメンバーだけという都合が良い展開であり、それも気になるのだが……。


それにあのクソ野郎が攻略していないメンバーで一人気になる人物がいる。

そう、俺が所属している部活のロリ部長だ。あいつも何だかんだ言ってその部長も魅力がある。少し単純な部分があるが、年下を守ってやったり、率先してみんなをフォローしたりという中々男前な部分をみせてくれる頼もしいやつだ。あの部にアリアや聖が所属しているのにあのロリが部長である理由が少しわかってきた。

その彼女も、前回では攻略されていなかった。


単純に考えると、聖と部長の二人はあのクソ野郎が言うような「ヒロイン」達ではないということになるのかもしれない。あいつはヒロイン達から攻略すると言っていたし。それならば視野が狭いと言うしかないな。こんなにいい女が二人も近くに居ながら狙わないなんて。俺ならば彼女達を……。いや、ありもしないことを考える必要はない。それともあの転生者はただ単にハーレムに年上はいらないだけなのだろうか?

今現在のヒロインと思われる人物達の学年を整理してみよう。

3年:聖(仮)、アリア、ロリ部長(仮)

2年:俺、海、春香

1年:美姫、C、D


このような構成である。

……何で俺がヒロインの中にいるんだ? まあいい。こうして整理すると、確かにバランスが良いかもしれない。頼れるお姉さんキャラがいて、後は自分を頼って慕ってくれる同級生と後輩たちに囲まれるというハーレム。まったく気持ち悪い欲望が詰まった構成だな。あの転生者が言っていた女の子が考えたのかな?


さて、何故俺が今更このような考察をしているかというと。


「わ、和木谷くん! い、一緒に泳ぎに行きませんか!? 」


合宿も2日目。日程も遊びが大半といった学生仕様。自由行動で、大半のやつらが今日もまた海に遊びに行くという予定が組まれているのだが……、それに海が俺を何故か誘っていて混乱しているのだ。だから誰か代わりに生贄になってくれるヤツがいないかを考えていたのだ。


「あー……俺と遊ぶよりも春香たちと遊んだ方が楽しいと思うぞ」


少し混乱している。こいつには怖がられていると思ったから。

海とはあまり合宿まで話してこなかったし、何より俺と関わっていない時のこいつは絵に描いたような大和撫子である。成績優秀、容姿端麗、性格もよし。男の先生を立てる態度はまさしく昔ながらの日本女性を体現したような存在で、学校の男たちから憧れられている存在だった。そんなこいつが、俺みたいな悪目立ちしているやつなんて嫌いだと思っていたのだから驚くしかない。


「そんなことありません! まだ遊んでいないのにわかるわけないです!」


「えぇ……」


嫌がっているのに気付いてくれよ。お前がいつ思い出すかわからないから怖いんだよ。


「それに……」


「ん?」


「あなたに、お礼がしたいのです」


「は? 別にお前に特別なことは何もしてないだろ」


「いえ、してくれました! 昨日、ビーチであなたは私達を助けてくれたじゃないですか……!」


「……あー、あれか」


なるほどなぁ……確かに海に触った野郎に腹が立って、かばったなぁ。あの時の行動に悔いはないが、こうなるとは思わなかった。……迂闊だったか?


「あの時、とても嬉しかった。男の人なんてあまり話したことも、……その、触れたこともなくてただ怖い存在でしたから。でも、あの時のあなたは、とても優しくて、頼もしく見えて……」


お前は封建制からの生き残りだったりするのか? どこの箱入り娘だよ。


「私達のためを思って助けてくれたことが嬉しくて……とてもカッコよく見えて」


確かに海に触れたことでイラついたが……。いやいや、他のやつもいたから。自分の都合良く記憶を彩りすぎた。


「私はあなたを怖がって失礼な態度をとってきました。でも、あなたはそんなことを気にしないで私を助けてくれて。……そんなあなたが」


海は、瞳を潤ませ、顔を夕陽に照らされているかのように赤く染めて、俺を上目遣いで見つめている。その姿はまるで、恋する乙女のような……。

……って。おいおい、何だかまずくないか?


ここで完全に惚れられたりしてみろ、海が『思い出して』しまう可能性が出てしまう。そうなったらこの部は……だめだ、それは最悪の結末である。

というより何で海はこんな惚れるの早いんだよ。どれだけ純情なんだよ。正直、海に好かれるのは嫌な気分ではない。むしろ嬉しい。これだけの良い女が俺のことを好いてくれるなんて男としては幸せだろう。

だが、それでもこの時間軸ではだめだ。この部を壊してしまうし、また初めからやり直さなければならない。

それにな、俺はもうお前たちを汚さないと決めたんだ。ただでさえ今こうして彼女達に俺は悪影響を与えている。もうこれ以上彼女達に迷惑をかけることはできない。


今、この状況を打破するために考えよう。

現在、別荘の中。このリビングには俺と海の他、部活メンバー全員がいる。……何でこんな場で海はこんな雰囲気を出すんだよ?

頼ろうとする人物を探す。聖はだめだ。今彼女は昨夜の俺との×××で疲れてダウンしている。

アリアは……ダメだな。ポンコツだし、何より俺のことをまだ少し怖がっている傾向にある。それに昨日の俺の裸を見たことでまだ目を逸らしているのもある。

春香は……だめだ、あいつはだめ、絶対。危険だし。ていうか春香は今どこにいるんだよ。

後輩たちに頼るのは何だか情けない気がする。


そうなると必然的に。


「そうだ、海。それならみんなで一緒に遊ばねえか?」


「え……?」


「部長ー! 一緒に遊び行きませんかー? 今から海と海に行くんですけど」


「ダジャレ?」


「……違いますよ」


「ふふ、冗談よ。いいわね、行きましょうか! それなら他のみんなとも一緒に遊ばない? 本当はね、今からあんたを私も誘おうとしてたのよ。この機会に仲良くなっておきたかったしね。それは皆も同じはずよ」


「……ありがとうございます。みんなで昨日変な感じになった分、いっぱい楽しみましょう!」


「そうね! ていうか、あんたいつのまにか敬語に戻っているし。何、使い分け?」


「じゃあタメ口で話してもいいか?」


「別にいいわよ、あんたが話しやすいようにしなさい。ほら、皆! 今から遊びに行くわよ! 聖も早く元気になりなさい! というより何でダウンしてるのよ。昨日みんなで早く寝たでしょう」


部長が聖を揺らす。それに対し聖は「寝たには寝たけど誰かさんのせいで疲れたんだよー」と俺の方をジト目で見ながら返事をした。やめろ、バレたらどうすんだ。


でも、これで軌道は修正できた。

部長に頼って正解だったな。部長という立場だったら皆を必然的に誘うし、何より彼女の性格がそうさせる。俺も一日目は誘われたのだから。ま、買い出しとかで断ったけど。


「さ、海。準備しようぜ」


「……はい、そうですね」


あきらかに海が落ち込んでいる姿が目に入る。あー……、そんな顔するなよ。そんな顔されたら……。


「……ま、一日中みんなで遊ぶっていうわけでもないし」


「……え?」


「途中でさ、俺も買い出しとかあるしさ。その時お前も手伝ってくれないか?」


「……はい!」


……甘くなってしまう。

何でいつも俺はこう、海や美姫に甘くなってしまうんだ? 別にこいつらはこの世界ではどうでもいいはずなのに……。それに思い出す確率が高いから距離をとらなければいけないはずなのにだ。


「……」


「いたっ」


物を投げるな、聖。別に浮気とかじゃない。ていうかいつから居たんだよ。


「……」


「いてっ」


何で美姫が俺のケツを蹴ってくるんだよ。お前今の所俺のこと嫌いだろうが。


「……ば、ばか」


「お前がやるのだけは許さないぞ、アリア」


「何で私だけ!?」




………

……


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