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6章5話




和人お色気事件。

……そんな大層な名前をつけてみたが、特別なことはなかった。ただ俺がズボンを脱ごうとしたときに、アリアが部屋に入ってきて騒いだだけだ。幸いなことに、あの別荘には俺とアリアしかいなかったから大事にはならなかった。ただ少しアリアの精神にショックを与えただけだ。何か『男の人の……もうお嫁にいけないわ……』なんて言って、落ち込んでいた。ていうか、どんだけ純情なんだよ……。前の時間ではあのクソ野郎と色々やっただろう? え? やってない? そんなはずは……だって、性欲まみれの学生だぞ? やることと言ったら……え? 本当に手をだしていないのか? ……まぁ、この件は忘れよう。


その事件の後、アリアに適当なフォローを入れつつ、俺は海の方向に向かっていた。それはあいつらにそろそろ夕食の時間であることや、その他諸々の報告事項を知らせるため。報告と言っても、あいつらがリクエストしたものを買ってきたとか、メンバーの携帯が鳴っていたとか、それぐらいだ。あまり乗り気ではないが、まぁ、美姫があれだけ来いと言ったんだから少し顔ぐらいは出すべきだとも思った。そうそう、一人でビーチに向かっているぞ。アリアは置いて。あいつは部屋の中で休憩している。


ビーチに着く。その場所を少し説明すると、もはやそこは美姫の家のプライベートビーチと言っていいくらいにいつも人が少ないところであり、また、海も街から離れていることから澄んでいる。現に美姫の時間では夕陽を眺めて幻想的な雰囲気に浸ったものだった。


彼女達が集まっているのが遠目からわかった。集まっている分、伝えるのも楽だなと思っていた矢先、彼女達の様子と雰囲気がいつもと違うことから異変を感じた。

何か起きたのか? 誰か怪我をしたりとか……。そのような俺らしくもない心配をしつつ近づいてみると、


「ねえねえ、君達可愛いね? 俺達と一緒に遊ばない?」


「や、やめてください………」


……はあ、何でナンパするような連中がこのビーチにいるんだ?

彼女達はナンパされていた。ナンパしている野郎共は大学生っぽい。それも大学デビューしたての。似合っていない茶髪と、何か焦っている雰囲気、背伸びした服装で勝手に判断した。本当のモテるやつらは絶対に自分に似合う髪型を選び抜き、自分に自信をもち、清潔感かつ大人びた服装をするのだ。過去の経験上と、俺の前の世界の時間ではそうだった。……ふむ。おそらく彼らは暇な大学生らしく旅をしていたのだろう。そういうやつらが好きそうだろう、自分探しの旅や思い出つくりの旅行などというのを。そして偶然彼女達を見つけた。それは俺達にとって、あまり運が良いとはいえるものではなかった。


「うぅ……」


現に海は半泣きになりながら唸っていた。あいつは男に慣れていないのだろう。俺と付き合っていた頃、そして春香と付き合っていた頃、あいつは男とあまり交流したことがなかった。それは今の時間でもそうなのだろう。まあ、俺と付き合っていた頃は、俺が意図的に排除し、そして恐怖心を抱かせたのだけど。……あれ、俺のせいか?

俺が少し罪悪感を抱いていると、怖がっている海と仲良し二人組の前に、一人の小さな女の子が出てきた。


「ねーえ、何で私には声かけないの? わたしー、今日すごく気合の入った水着なんだけどぉ」


ナンパされていて困っていた海達を庇うために前に出てきた中学生っぽいやつ。そう判断したのは、彼女が前に出て背中から、(早く逃げなさい!)とでも言うように後輩たちにジェスチャーしていたのが後ろから見えたからだ。こいつは俺の入部の時の自己紹介時にいた部長。中学生が見学に来ていたのかと思っていたが、どうやら甘く見ていたらしい。やるじゃねぇか、あのロリ部長。でかい年上の男たちから後輩を庇うなんて中々できることじゃねえぞ。少し俺の人を見る目が曇っていたな。……全盛期をあの海を攻略したころの狂った俺と思いたくはないが。


だが、その部長の尊い行動も虚しく、


「あー、ごめんなお嬢ちゃん? 俺達、小学生には興味ないんだわ。親御さんのところに戻ってね」


「失礼ね! 私は高校生よ!」


何故コントをしてるんだ? そんな部長を適当にあしらいつつ、この大学生の男たちはさらに海達に距離を詰めた。


「ねー、いいじゃん? あっちでバーベキューでもしようぜ? それともバレーとかやっちゃう? 俺、高校の時バレー部だったんだ。カッコいい所みせちゃうよ?」


「や、やめてください!!」


ナンパ野郎共の一人が、海の水着で隠れていない肌の部分を触る。目の前に広がっている海ではない、俺が攻略した方の海だ。というか今はギャグを言っている場合ではない。


……あ? 何でお前ら何かが海の肌触ってんだ? 誰の許しを得て触ってんだこいつ?

クソ野郎が……お前らごときが触っていい女じゃねえんだぞ。上等な女なんだ。滅多にみないくらいの美人だ。お前らごときが汚していい存在じゃねえぞこのゴミ共が。傍観していようと決めた心を一気に燃え上がらせ、俺は彼女達の元にかけつけようとした。


その時、海達の前に出るやつが一人いた。


「ちょっと、海先輩嫌がっているでしょ!? やめなさいよ!」


美姫だった。俺と別れた後、彼女は海達と合流したのだろう。そして美姫の心情を考えるに……相手が面倒だったから、相手が飽きてどこかに行くのを待っていたと思う。だが、海が嫌がっている様子をみてブチ切れたのだろう。

そんな美姫を見て、大学生共は喜色の笑みを浮かべた。


「そんな怒らないでよ~。あ、ていうか君凄く可愛いね! スタイルもいいし。俺、凄くタイプ! ねぇ、二人でこれからドライブしない? こいつらを置いてさー」


「おいおい、何言ってるんだよ(笑)」


イカれた発言をした大学生の一人を、他の連れが弄る。


「いやよ。絶対に嫌。あんたたちと行くくらいなら、あの不良の先輩と一緒にいる方がまだマシだわ」


「そう言わないでよ~。ほら、あっちあっち」


「ちょっと! 気安く触らないで!」


しつこく迫っていた男が、美姫の腰に手を回す。そして無理やりにでも、連れて行こうとするさまを、俺の瞳は映していた。


……は? 何、美姫に気安く触っているんだ? そして何、海に気安くふれているんだ? 何、お前らが、こいつらを汚しているんだ? 


怒りは、最早沸点を超えていた。


「すみませーん、こいつら、俺の連れなんですよ」


「あ?」


「わ、和木谷くん………」「あ、あんた……」


男と美姫を無理矢理引き離し、前に出る。海が少し安心した顔を俺に向ける。美姫が驚いた顔を見せる。その顔が、少し懐かしい。こいつらに頼られる、驚かれるのも久し振りだからな。それに、海には春香の時の世界で助けられた恩がある。美姫には罪悪感がある。それらを今、返すべきだろう。

美姫に触れていた男が先ほどの様子と打って変わり、明らかに苛立った様子を見せる。


「うるせえな。お前みたいないガキ、どうでもいいんだよ。ていうか何だよ、お前。ガキが割り込んでくるんじゃねえぞ」


「はは、すみませんー」


海達を怖がらせないように、努めて優しい表情を浮かべる俺。その間に、こいつらを少し観察、これからのプランを考えようとする。……というかガキはお前たちだろうが。嫌がっている海達がわかんねえのか? 似合ってもない茶髪にして。それは顔が整っていて、なおかつ肌やファッションに気を遣うやつがするからこそ輝く。だからカッコよくて、女が寄ってくるのだ。お前らがやったらただのその辺のチンピラだ。俺の内心を知らずか、こいつらは苛立ちを俺にぶつけるかのように、嘲笑を浮かべた。


「どうせあれだろ? 荷物持ちとかで連れてこられたんだろ? 俺達が代わってやろうか? ハハハ!! そうだよ、俺達がやればいいんだよ。ねえ、君達ー。お兄さんたちが美味しいものとか食べさせたり、荷物もちとかやってあげるよー? 好きなんだよねー、年下の世話するの! それにこいつじゃできないでしょ? いいじゃーん」


少しは的を射ているじゃないか。確かに俺は雑用で来ている。だが、お前たちがやることなんてわかっているんだよ。どうせ代わってやると言っても、頼まれた買い物とかで購入した安い酒で、こいつらに飲ませまくるつもりだろうが。短期間のナンパで成功する手段は限られるからな。頭が悪い大学生がやりがちな手段だ。俺はそんな方法、反吐が出るくらいに嫌いだが。


……しかし、そろそろ愛想笑いもダルくなってきたな。そろそろ、だ。美姫や海達も、少し俺とナンパ野郎共から離れることができた。


「あの、ちょっといいですか?」


「あん、何だよ?」


ナンパ男たちに近づき、素の俺の声を出す。さっきまでの合わせる声ではない。怒気をにじませて、冷静に。


「……ついてこいよ、暇人どもが。年下の学生を狙うなんて恥知らずなお前らなんか、俺一人で相手してやるよ。好きなんだろ、年下の世話が」


「……はぁ?」


「だから言ってるだろ、好きなんだろ、年下に無理やり性欲をぶちかまして世話するのが」


「……あ? いい度胸じゃねえか!? お前、ちょっとこいや!」


俺と大学生はこの場を離れようとした。しかし、後ろから声をかけられた。


「和木谷! 行っちゃだめよ! 部員を危ない目にあわせられないわ! 警察を呼べばいいのよ!」


後から声をかけたのは部長。だが、それはダメなんだ。海、美姫がやっと普通の日常と友達を得ることができたんだ。普通の思い出を得ることができたんだ。それを、大事に、悲しい思い出にしたくないんだ。

後から声がまた聞こえる。それは……。


「だ、だめです!」「ちょっと、あんたやめなさいよ!」


海と、美姫だった。不安そうな顔だった。俺は、そんな顔を見たくなかった。してほしくなかった。そうさせてしまった自分にイラついた。……だから、


「うるせぇ! じっと待ってろ!」


無理矢理、大きく強い声を出して、彼女達を置いていった。

……だから、


「……うぅ」「……あんた」


そんな、不安そうな顔を、お前らの顔で俺に見せないでくれ。


………

……



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