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6章4話

長らくお待たせしてしまい申し訳ありません。また、短くて申し訳ありませんでした。





そして合宿の日がやってきた。合宿といっても、あの副会長が言っていたようにほとんど遊びである。ゴミ拾いを1時間程度おこなった後、後は自由時間というもの。こんな部活に金を出すとは、俺の学校も予算が潤沢なんだなと心の中で苦笑する。

場所は俺達の住んでいる街から小1時間程した海辺。そこで主に清掃活動を今日から2泊3日程行う予定である。


「疲れたねー、海ちゃん。早く終わって遊びたいねー」


「そうですね、……そうね、春香」


ちらっと少しだけ俺の様子を伺った後、春香と談笑しながらの清掃活動に戻る海。その様子を見て、何故こいつはこんなに俺のことを警戒しているのか、心の底でため息を吐く。こいつには何もまだしていない。事務的な会話のみだ。それだけでもこいつはビクビクとしながら俺の様子を伺う。それに俺が近くにいると、自然に敬語を使ってしまうという謎の癖が発生する。どんだけこいつは昔の記憶が頭に染みついているんだよ。


「うーん、……時間が来たわね。よし、皆お疲れ! もう遊んでいいわよ!」


「「「はーい!」」」


今までの時間軸で一度も俺と交流がなかったあのロリ体型の部長の一声で活動に終わりを告げ、皆が喜びの声を上げる。我先にと、ある大きな木造の家に走りだした。そう、その家とは美姫の別荘である。俺達は美姫の別荘に合宿しに来ているのだ。

美姫は所謂お金持ちのお嬢様である。美姫を攻略した時間軸、俺と美希はいわゆる超進学校でありながら超お金持ちのお嬢様お坊ちゃまがたくさんいる学校に通っていたことは記憶に残っている。美姫もその例外ではない。彼女はその中でも特にトップクラスの家柄の持ち主だ。だから美姫個人で別荘の一つや二つ持っていたのだった。

海辺の別荘。そこからは海が一望でき、一般人の日常では味わえない景色を楽しむことができる。俺も荷物を置きに来たときはタバコを吸って楽しませてもらった。


そうそう、昔の話だが俺もこの別荘に来たことがある。美姫を攻略した時間軸で。美姫が、「ねえ和人、今度旅行しない?」 言ってきたから、ほいほいついて行ってしまったらここに連れて来られたんだ。あの時は呆然とした。いや、確かにこの馬鹿デカい別荘のことも驚いたが、お前積極的すぎんだろって。どこに学生時代から男連れて別荘に旅行しに行くお嬢様がいるんだよ。まぁ、その時は彼女を汚すことはなかったが。美姫は手を出さなかったことに拗ねていて、宥めるのに少し時間がかかったことを思い出し、苦笑してしまった。……何昔のことを思い出して一人で笑っているんだよ。キモいな、俺。


部員の一団から遅れて別荘について一服し、今日これからの予定を頭の中で考える。ここにきても俺がやることは変わらなかった。まあ雑用だ。彼女達が遊んでいる間に夕飯の食材と必要な生活用品を買いに行き、その他諸々の雑事を済ませる。聖たちは俺にばかり押し付けて申し訳ないと断固反対していたが、俺は一切聞かず、逆にそうさせなければ合宿に来ないと言い張って認めさせた。合宿と名目しているが、実際は部員の仲を深めるために遊びに来ているだけだ。そんなところに俺なんかがいつも横にいたら素直に楽しめないだろう。だから今彼女達を遊ばせたかった。まあ、俺が一人で自由になれればいいという考えもあったが。


ゆっくりと海の景色を楽しみながら歩くと、目的である地元のスーパーに到着した。夕飯の材料を買うのも大事だが、酒を買うのを忘れてはならない。俺は初対面ならば成人に見えなくもないらしい。購入は可能だった。一仕事終えた後の酒は最高なのだ。一人で雑用しているから、これくらいのご褒美があってもいいだろう。勿論自費だがな。


「……ん?」


「……っ!」


視線を感じて後ろを見てみる。……おかしいな、誰かからジッと見られていた気がしたんだが。ま、男が一人でこんな大量のものを買っていると、珍しく思うからかな。俺はその時何も気にせずに買い物を終了した。


数十分後、何往復かして買い物も終了し、別荘のベランダでタバコを吸って満足していた。ここから彼女達が遊んでいる様子を伺えた。海と春香は二人仲良くビーチパラソルの下でおしゃべりしていた。それ以外の面子はどうやらビーチバレーに興じているようだった。

その様子を見て一つ疑問があった。一人足りないのだ。俺以外の部員は全員で8人のはず。ビーチには7人しかいない。


「またタバコ吸ってんの? やめた方がいいわよ」


後から声がかかる。透き通るような声。聴きなれた声。……聴きなれたくなかった声。


「……美姫」


「そうよ、……ていうかまた名前……」


そうか、足りないと思っていたのは……美姫だったか。

彼女は水着の上に上着を羽織って、俺にジト目を向けていた。その上着から見える肌は男の劣情を誘うほどに美しかった。前の世界のままだ。彼女はとても、綺麗だということを再認識した。面倒だと思う気持ちが半分、緊張半分だったが、何とか表面上は冷静を装いつつ、俺は彼女に話しかけた。


「……どうした、腹でも減ったのか?」


「違うわよ」


「それならトイレか?」


「……サイテー。違うわよ」


「……なら何だよ? 早く用件を言え」


「あんたが変なことしていないか見張りに来たのよ」


「……そうか」


と言ってるが、違うだろう。今までこいつらを見てきたが、どうも美姫はまだみんなに距離を取っている気がした。それは美姫のぎこちない仕草や会話の内容などから判断できた。俺は彼女を攻略した経験から、心の状態を推測することができるのだ。……今から、俺の推測を話す。おそらく美姫は、あの学校では友人ができず、孤独だっただろう。気難しい彼女のことだ、彼女の長所を妬むものたちに嫌なことをされてきたんだろうな。それで人を遠ざける習慣ができてしまったのか。そして他人を容易く信じることができなくなったのだろう。そんな辛い経験をした美姫が、このどいつも良いやつの部活に入った。周りは信用できるやつばかりというのは美姫も部活を通して知っていっただろう。そして彼女達を気に入ったのだろう。だが、それでも嫌われやしないか、自分を出したら相手は離れやしないか心配しているのだろう。


副会長に美姫のことを少し聴いたことがある。その際、「うーん、美姫ちゃんねー。ちょっとまだ固いかなー。優しくて皆に好かれているんだから、そんなに固くならなくてもいいのになーって少し思うねー。……まあ、私のフォロー力不足っていうのもあるだけどー」と言っていた。だから心配することはないのだ。……まあ、俺が「お前は好かれているからどんどんいけ」と言っても、素直に従わないだろうがな。


そんな俺の悩みを知ってか知らずか、美姫は呆れた様子を見せ、ため息を吐きながら話を続けた。


「……あんた、何でいつもサボってんの? やっぱ不良だから?」


「は? 何だその理由。面倒だからに決まってるだろ?」


「いつもいつも面倒だとしか言わないわね、あんた」


「お前もだろうが。自分の姿を思い出せよ」


「私はいいのよ。やることはやっているんだし」


「俺もやるべきことはやっている。それを終わらせてサボっているだけだ」


「……はぁ、そんなだから不良と思われるのよ」


「そんなやつにこの前足震えさせられた女はどこのどいつだったか?」


「う、うるさいわね! 震えてなんかないわ!」


少し美姫を攻略した時間を思い出して、気持ちが軽くなって、話を長く続けてしまった。懐かしいな。そうだ、こうやってお互い遠慮しないで話をしていた始めの頃を思い出した。まだ、強く彼女を汚していると意識していない頃。ただ彼女のそばにいたいと思っていたあの頃。その時の気持ちを思い出してしまった。少し、この空間を続けたいと思ってしまった。


……だけど。


「……あいつらとさっさと遊んで来いよ」


「……」


「遠慮なんかする必要ないだろ。あいつらの人の良さはお前もわかっているはずだ。それにこんなつまらない、話も面白くない不良なんか相手してるなんて時間の無駄だ。ほら、行って来い」


少しマジになって言う。これ以上話してはだめだ。お互い、何のメリットもない。逆にリスクしか発生しない。だから強めに言った。彼女の方から目を逸らし、タバコの煙を見つめながら、言い捨てた。彼女は少し黙った後、不機嫌さを増して応えた。


「う、うるさいわね! ………わかったわよ。じゃあ行ってくるわ。……ばか」


最後の方は聞こえなかったが、どうやら行ってくれるようだ。

よかったよかった。美姫はあいつらと早く仲良くしてほしい。健やかな人間関係で、綺麗に彼女は育ってほしいのだ。……俺なんかに毒される前に。


「……さっさと行って来い。そんな微妙な水着みせられて、こっちも反応に困ってたんだ」


自分が放った言葉を後から思い出し、少し恥ずかしさを覚えてしまう。だから思ってもないことを言ってしまった。……何で俺っていつも美姫や『彼女』の時にはこうなんだよ。


そんな俺の言葉に何を反応したのか、少し雰囲気が変わった気がした。


「は? 私の水着が微妙ですって? 何言ってるの? あんた鼻の下のばしてたじゃない」


少し怒気が混ざった声。ていうか何で怒るんだよ、美姫。どんだけ自分に自信があるんだよ。まあ、確かに綺麗だけど。


「べ、別にのばしてねぇよ」 


「じゃあ何で私を見かけたら少し目線を泳がせたのかしら?」


「お前の自意識過剰だろ。このナルシストが」


「ナルシストはあんたも同じじゃない」


「違う、どちらかというと俺はネガティブだ」


「そうだったわね……、いや、あんた時々凄くナルシスト入るでしょ? ……あら? それっていつだったかしら?」


「……しらねぇよ。」


「ほら、早くビーチに一緒に行くわよ。仕方ないからオイル塗らせてあげる。感謝しなさいよね」


彼女が俺の手をとって、連れていこうとする。だからやめろって。そんなに俺に近づくなって。というかどんだけ自分に自信があるんだよ。前の世界から思ったけど。


「嫌だよめんどくさい。ほら、早くいけ、セクハラするぞ」


そういって、美姫との距離を詰めていく。調子に乗っている後輩には少しお灸を据える必要があるからな。美姫は一瞬ビクッとするが、すぐに正気に戻り、俺から逃げていく。


「この変態不良……。さっさとビーチ来なさいよ! 待っているから」


彼女は俺に背を向け、去っていく。

はぁ、あいつの水着姿を耐えるのきついな、やっぱり。なまじあいつの綺麗さに惚れた分、どうにもあんな恰好したら心が揺れてしまう。


しょうがない、中途半端にムラムラしてるから、別荘の中に戻って発散して昼寝するか。

そういうわけで、自分の部屋に戻り、パンツ一枚になり、携帯でエロ……お姉さんが頑張っているような動画を見ようとしていたら、突然ドアが開いた。


「ちょっといいかしら? 美姫がどこにいるか聞きたいんだけど……え?」


アリア……いつもいつもお前はタイミングの悪い時に目の前に現れるんだ。


「……」


「……」


おいおい黙るなよ。それと俺の下半身をずっと見るな。……ああ、これから面倒になるぞ。


「……キャー!!」


どこのラブコメだ。というか立場は逆だろうが。

何だよこれ…………俺に青春ラブコメをさせる気かよ?




………

……






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