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6章3話

「……ちょっと、サボっているアンタ」


「ん?」


俺はあいつら、いわゆる女ばかりの部員から離れ、一人で清掃活動を行っていた。他の者は楽しく会話しながら草をむしったり、ゴミを拾ったりしている。何が楽しくて草をむしるのか。……まあ、この年代のやつらだったら、友達と共同作業できるだけでも楽しいか。だから誰一人として友人がいない俺は、10本草をむしったらタバコ休憩を入れて作業に戻るという非効率的なことを行っていた。この部活動の目的は「学校に貢献する」だ。草を全部むしることではない。よって、いくら本数を稼いだところで意味がないのだ。だから俺は疲れないように作業をしていた、彼女達から少し離れて。

しかし、不意に後ろから声をかけられて、ついうっかりポケットのタバコの箱を落としてしまった。


「ちょっと、あんた何校則違反を堂々とやっているのよ」


「違う違う、これはそこに落ちていたゴミだ」


「嘘。あんたタバコくさいわ」


「……しっかりケアはしたんだがな」


振り向かなくてもわかった。その声は……美姫だ。ふと思う、お前も成長したんだなと。こいつは前の、俺が彼女と近しくなった時間では、人と極力触れ合おうとしなかった。何が理由か知らない。……おそらく、あの美姫の誕生日の日に聴くことができたのだろう。あの時俺は……! ……、今となってはもう遅いか。話を美姫に戻す。そんな、他人を拒絶していた美姫が、得体も知れない男に話すようになった。そして部活に入れるようになった。それは人を受け入れられるようになった証だ。どうしてそう成長できたのだろう? ……いや、元から環境が良ければ自然と彼女は受け入れられていったのだろう。あの環境が悪すぎた。あの時は周りの奴等に余裕がなかったのだ。だから、俺みたいなやつに落とされたんだ。おそらく美姫は、あのまま同じ系列の高校に進学せず、こんなどこにでもある学校に編入したのだ。


うん、……前の依存した美姫より今の美姫の方が俺の好みだ。そうだ、だから……、だから、前の彼女のことを忘れろ。孤高の存在にしたいという勝手な願望を消去しろ。彼女は今、間違いなく幸せなのだから。

そんな俺の妄想というべき思いを知らないだろう美姫は、話を続けた。


「あんたに言いたいことがあるの」


「……なんだ? 面倒だから早く済ませろ」


「絶対あの子達に手を出さないで。もし、手を出したら、ただじゃすまないわ」


「……へぇ」


……本当に変わったな、美姫。他人をかばうようになれるまで、成長するなんて。ただ嬉しく感じるよ。

……でもな、美姫。


「……へ、返事は?」


「……」


チラリと横目で見たが、そんな足を震えさせながら俺を脅しても意味がないぞ。逆に、嗜虐心を芽生えさせる。こんな気が強そうに見える女が、無理をして俺を脅してくるのだ。いや、『くれた』のだ。ここで反応しない男など、男と言えない。ただの不能だ。

だけど……。


「へ、へんじはぁ……?」


「美姫、俺は何もするつもりはない」


そう、この世界では適度に、あいつらとは極力関わらずに付き合うと決めたのだ。いや、それこそ人間関係を極限まで減らすことを目標としている。だから彼女のことは、今回はどうでもいいのだ。だからどうでもいいと思うようにしろ。だから彼女に従え。ここで無理に断ると、美姫に目をつけられるだろうが……。


「……気安く名前で呼ばないでよ」


初対面の男に下の名前で呼ばれ、不機嫌さを出す美姫。ああ、昔もそんな反応をしていたな……。


「ああ、悪いな。要件はそれだけか?」


「そ、そうよ! それじゃ、私は先に行くわ!」


「……ああ」


彼女は俺を素通りして、仲良し二人組であるC,Dの所に向かう。どうやら美姫は彼女達と仲が良いのだろう。同じ学年である彼女達と気が合うのか。美姫が笑顔で会話しているのを見て、少し嬉しくなったのか、俺は少し声が出てしまった。




「……よかったな美姫、友達が出来て」




………

……




それからしばらくして、俺は順調に部活の中で一人の影が薄い存在として溶け込むことができた。部の雑用を俺は積極的に担っていた。書類仕事などの事務やお茶出し、果てには部室の清掃まで、色々なことを率先してやった。少しでも部に貢献しないと今度は迷惑な存在として目をつけられ、変に絡まれてしまうからな。だから最低限役に立っているやつとして、こうして一番下っ端のように働いているのだ。

その雑用に励むのを口実に、彼女達と一緒に交流するのを避けることができた。自然と距離を置くことに成功したと思う。


今日の活動は屋上の清掃活動だった。最後に戸締まりをするといって、彼女達がここから出ていくのを見送り、ポケットからタバコを取りだす。


「ふぅ……」


疲れた体には最高の褒美だった。タバコの紫煙が空に溶ける。なんとも言えない情緒を感じた。それをもっと感じたくて2本目を取りだそうとすると、不意に屋上のドアが大きな音を出して開かれた。


「こらー、また勝手にいなくなってー! ……あー、またタバコ吸ってるー!」


「……またお前か」


副会長が高頻度で俺の目の前に突然現れるのにはもう慣れた。何だこいつ、俺に構い過ぎだろう。もっと自分の仕事に励めよ。アリアのバカ野郎の介護とか。


「もう! 先輩に向かってお前はないでしょー?」


「はいはい、すみませんでした」


「全然反省してないー! ……もう、冗談、冗談だよー。本当はね、男の子の後輩に敬語で先輩として接してもらえたらな嬉しいなーって思ってたの」


「突然何言い出すんだよ……っていうかどんな要望だ。お前部活とかやってなかったのか?」


意味が分からないことを微笑みながら呟くこいつを無視して、もう一本の煙草を取り出し火を灯す。


「堂々と私の前でー……。まぁ、いいやー。……私ねー、この学校にくるまで転校続きだったのー。一人ボッチだったんだー」


「そうか……」


タバコの煙が空を漂う様を見続ける。俺には関係ないことだ。


「和人君、一人は寂しくないー? みんな心配してるよー?」


「……先輩、そろそろ皆で解散の挨拶しますよね? 俺、行きますね」


「もう、都合のいい時ばかり敬語使ってー……」


煙を見続ける。空を漂う姿は、何かを思い出させる。


「……副会長」


「ん、何かなー?」


「……寂しくなんてない、俺を休ませろ」


煙は消える。タバコの火を、消したから。


「え? 何て言ったのー?」


「何でもねえよ。ほら、行くぞ」


「もう、またタメ口に戻ってるー! 和人君はいつも……ってちょっと待ってー! 言い忘れたことがあったよー」


「………なんだ?」


「今度ね、私達合宿行くのー。まぁ、合宿という名のただの遊びなんだけどねー。だから和人君も……」


「却下」


「タバコ……停学……」


「……ああ、わかったよ。行けばいいんだろう、行けば」


「ふふ、可愛いなー後輩君はー。ほら、皆が待っているから早く行くよー」


「はいはい」


「『はい』は一回ー!」


「うるせぇ」


「痛っ! お尻を蹴らないでよー!」


火を失ったタバコを俺は力強く踏み潰し、俺は屋上から去っていった。




………

……




『j jq@f7et』



海:☆☆☆☆☆

C,D:☆☆☆☆☆

美姫:★☆☆☆☆

春香:★☆☆☆☆

アリア:★☆☆☆☆


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