6章2話
「まーた今日も授業サボッたのー?」
昼休みの日課、コーヒーを飲みつつ屋上でタバコを吸っていたら、誰かが俺に声をかけてきた。
……その声は、副会長か。
……何で見つけられるんだよ? というか何で入れるんだよ。ここは俺が教師から一晩だけ鍵を盗み……借用し、スペアを作った場所だった。だから教師と俺以外入れないはずだ。どうやって鍵を……ああ、ここはあのクソ野郎が言うには創作物の世界である。その漫画のように異常な権力を持つ生徒会だから、鍵のスペアくらい持っていても不思議ではないか。
「そうだよー、生徒会だから鍵は持っているんだー。それに部活やってるとき、ここが見えるんだよー」
しらねぇよ、ていうか心の中読むんじゃねえ。
「だって顔に出てるんだもんー。……あ、違う違う。今日はお話があってきましたー」
「それじゃ。すぐ退散するわ」
「ちょっと待ってよー! いきなり帰ろうとしないでー」
「俺、真面目だから次の授業の予習しなきゃ駄目なんだよ。学生の本分を邪魔するのか?」
「いつもタバコ吸って授業サボっているくせに、どの口が言うのー?」
どうせめんどくさいことだろう。関わらないことが一番。どうせ俺になにかやれとか言い出すだろう。校内の清掃活動とか、部活動に入れとか。
今まで先行共に生活態度を勉強面で見逃してもらっていたが、それも限界がきたのか? ……糞面倒だ。あんまり目立ちたくなかったが……、それももう堪忍袋の緒がきれたということか。一瞬、この頭が悪そうな女を殴り倒し、恐怖を抱かせ、二度と近づかないよう忠告しようと思った。だがそれは悪手だ。今までは正当防衛でなんとかなってた。それが女を殴ったとなれば、今度こそ退学になる。この先、一人で生きていくためにはどうしても学歴が必要だ。ここでヘマをして、レールから外れるわけにはいかない。……姉さんなら、レールなど気にしないんだろうな。
この目の前でニコニコしている女を無視し、自分の教室に戻ろうとする。しかし、こいつに腕を掴まれて阻まれた。
「まあ、待ってよー。これ、見覚えあるでしょー?」
「……」
彼女が差し出したのは、タバコの吸い殻。俺がこの前、アリアを脅したところに落としたやつ。あの時の俺は少し暴走していて、吸い殻を回収するのを忘れていた。自分の迂闊さに腹が立つ。俺は後何回この未熟さで失敗すればいいんだ?
「停学だよ、停学! ……って、本当は言う所なんだろうけどー」
副会長は俺にニヤニヤしながら詰め寄ってきた。距離を離そうとするが、やめる。ここで俺が距離を離すということはこいつに動じているということを証明している。それはこいつに舐められる可能性を生み出す。そんなことはプライドが高い俺が許さない。ここまで堕ちたが、それと同時に喧嘩をし、無事に何回か勝ち、何度も荒れたせいか、プライドだけは高くなった。そこらのナヨナヨした男と同じだとみられることが腹立たしくなった。……こんなプライドが、これまでの失敗を招いたんだけどな。
「で、何だ? 見逃してくれるのか?」
「ただじゃ見逃さないよー? 君には私達の部活に入ってもらうからー」
「……は?」
「君の生活態度を改めろって命令が先生たちから来たんだよー。だから、部活に入って、健全な生活を送るんだよー!」
「クソ面倒だ……百歩譲って入ることはわかった。だが、何であんたの部活に入る必要がある? 俺に権利はないのか?」
「私や会長の目がつくところにおきたいんだよー。どうせ君、他の部活に入ったら、適当にさぼったりするでしょー? それに今までの素行を見ると、部員を脅して見逃してもらったりしてー。不良さんは怖いねー」
「……はぁ」
腹立たしくなると同時に脱力感が湧いてくる。お前らの部活なんて本当にどうでもいい。どこでも青春をしてろ。俺がいない場所で。……しかし、教師がそこまでするということいは、俺も危ないラインにいるかもな。停学や退学は避けたい。
「どう? 来てくれるー?」
「……わかった」
一応元の世界では、野球、バスケ、陸上、水泳、合気道、サッカー、習字、合唱、その他諸々をやっていた。これらの大半は姉さんたちの影響。姉さんたちがやるものはすべてやってみたかった。姉さんたちができるなら、俺にもと。……まあ、姉さんたちと比べると、中途半端になってしまったがな。それにこの世界に来てからは海達を攻略するため、体の使い方が鈍った感じがある。しかし、どんな部活動でも少しは適応はできるだろう。
……まあ。入部しても、てきとーにサボれる方法でも考えるか。
あの時の俺は、そう楽観的に考えていた。
………
……
…
「みんなー、今日は新しいお友達を紹介するよー」
「え?」 「だれだれ?」 「どんな娘かな!?」
……俺は小学校の転校生か何かか?
あの昼休みが終わり、適度に休憩(30分に一度タバコ休憩を入れ)をはさみ、放課後を迎えた。俺は副会長がいる部活に入ることを了承してしまった。そして今、副会長がいる部活の部室の前に来ているのだった。……停学はいやだが、今の状況を考えると俺って情けないな。高々停学ごときが嫌で従うんだから。これじゃ不良なんて言えない。俺が本当に不良だったら、その副会長やアリアを手籠めに……おい、何を考えているんだ俺は。今回はそれは無しだろうが。
……はぁ、憂鬱だ。部活とか本当にめんどくさい……。……何だか美姫みたいだな。
「それじゃあ入ってきてー」
……おっと、考え込み過ぎたな。今から自己紹介するが、別に仲良くする必要はない。俺抜きで楽しくやってくれればそれでいいのだ。外から聞こえている声からすると、部員は女子ばかりだろう。そんな環境で俺のような暗く、得体も知れないやつに話しかける趣味が悪い女などいないだろう。ライオンの群れの中に一人だけ人間が入っても仲間になれるわけがないだろう? だとしたら、そいつはターザンか何かだ。もちろん俺はそんな特別な人間ではない。そういうことなのだ。
だから……。
「……和木谷 和人だ、よろしく。それじゃ俺、休憩入るから……」
こんな感じで適当に紹介しながら部室に入り、すぐに出ようとする。
「「「……」」」
まあ、そんな反応だろうな。俺のことは生徒会と先公共が直々に指導に来るくらいだから、この学校の生徒は知っている可能性は高いと踏んでいた。近づきたくない不良、そのレッテルを俺は貼られている。笑えるよな、ついこの前の世界までは優等生してたのに。だからこんな風に奴等は微妙な反応を……。
……は?
いやいや、ちょっと、ちょっと待て。
「……少し、怖い。いや、……ごめんなさい。怖いです」
海。
「あ、よろしくねー! 初絡みだったかな? 春香っていうんだ、よろしくー!」
春香。
「……はぁ、何で男なんか。面倒だわ」
美姫。
「あ、あはは……何かちょっと、ね……」「うぅ……何ていうか」
CとD。
「やっと来たわね。それに、ちゃんと挨拶しなきゃだめよ? これから仲間になるんだから……」
アリア。
「アリアの言う通りよ! ほら、男なんだからシャキッとしなさい!」
何かよくわからない小さい幼児体型のやつ。
何でこう都合よく、俺が今まで攻略してきたやつらがいるんだ?
海、春香、美姫、C、D、アリア。後一人知らない中学生みたいな奴がいるが、こいつはどうでもいいや。おいおい、何でオールスター勢揃いしてるんだよ。というか地雷原じゃねえかここ。何、俺に踏み抜けってことか?
「ひ、聖先輩、アリア先輩。本当にその人この部に………」
Cが震え声を出しながら聖副会長に話しかける。そうだよ(便乗) Cのその反応を聞いて少し安心した。こいつはまだ思い出していないようだ。これならばしばらく安心して暮らすことができる。……早く対策を練る必要があるが。
「うん、そうだよー。彼が新入部員の和人君。みんな仲良くしてやってねー」
「「「……」」」
まあ、皆嫌だろうな。
攻略しなければこんな良い子を体現したような娘たちが、好き好んで俺みたいな態度悪いやつと積極的に交流したいと思わないよな。
……それにしても、やっぱり攻略されたやつらは俺のこと忘れてるな。
以前にも少し触れたが、一定の法則の存在を考察した。仮に潜在好感度と表現しよう。前の時間軸で俺への感情が高ければ、俺を思い出す可能性が芽生えるが、感情が高くなかったら忘れたままの可能性が高くなる。CとDが、春香の時間軸で思い出してないのが一つの判断材料である。それに、これは言っていなかったが、前の時間軸で春香達を再攻略したが、その際に美姫の攻略に少し時間がかかった。それは美姫の近づき難い性格もあるが、これまでの記憶を思い出させるのに時間がかかったことが原因だ。直前の時間軸では俺への好感度が高くなかったことが要因だと考える。まあ、これらが判断した理由だ。……姉さんからすると浅いがな。他にもまあ、理由はあるが……、話が長くなるからここまでにしよう。
これで俺の説が正しいと、少しは確信できるようになってきた。
こいつらとはできるだけ干渉しないようにしよう。適度に距離を保ちながら、卒業まで。迂闊に手を出すと、何かの拍子で思い出す可能性がある。
油断はできない。いつ思い出すかわからないのだ。前の世界で春香が突然思い出したように。特に春香とアリアが危険だ。気をつけろよ、俺。
「さあ、紹介も済んだことでだしー、今日の活動にうつろうかー。ね、部長ー?」
「ええ、そうね。ほら、早く行くわよ皆!」
聖副会長が部長と思われる幼児体型の女に促し、部員は皆部室から出ることになった。
……いや、まて。清掃活動? この部活って……。
「こら、和人君、春香ちゃんや会長を睨んだりしちゃだめでしょー! それじゃあ皆行こうかー」
「睨んでねえよ。っておい、副会長聴いていいか」
「もう、先輩には敬語で……」
「この部活ってどんな活動してるんだ?」
「あれ、言ってなかったっけー? ここはボランティア部だよー。募金活動や、清掃活動を頑張るんだー。ま、皆で遊ぶことの方が多いんだけどねー」
その言葉を聴いて自嘲の笑みを浮かべた。こんな、他人に迷惑しかかけてない俺が、奉仕をするだと?笑わずにはいられなかった。それに少し安心した。思ったよりも緩そうな部活だからだ。これならば楽して卒業できるだろう。
だが、こいつらと一緒となると、決して楽はできないだろう……。俺は肩を落としながら、今まで堕とした女たちのケツを見ながら、後を追いかけるのであった……。後ろを盗られたら、何をしでかすか、わからないから……
………
……
…
『vsz d8b4 bodjd94』
海:☆☆☆☆☆
C,D:☆☆☆☆☆
美姫:☆☆☆☆☆
春香:★☆☆☆☆
アリア:★☆☆☆☆
この章は24話以上あります。




