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5章7話

※閲覧注意です。この話は人によってはショックなものとなっています。不快な思いをされた方は申し訳ございません。

俺は、富美田いずる。

現在、この世界に迷いこんでいる。というか、転生している。


この世界に来る前の俺は、本当の俺ではなかった。

つまらない日常。学校も楽しくないし、現実は苦しいことばかり。だから、転生したこの世界こそが本当の世界なのだ。


この世界に来れたきっかけは思いもよらないものだった。大学で同じゼミの女の子が俺を誘ってきたのだ。『実験でVRゲームが完成したから、試してくれないか』って。

その女の子が好きで近づきたかったし、また少しでも面白いことを探していた俺は迷わずプレイしてみた。すると、何というか『転生』してしまったのだ。そう、『没入』ではなく転生だ。頭に強い衝撃と痛みが溢れ、頭に装着したはずのHMDの感触がなくなり、暗闇の中に。誰かに助けを叫んでも、誰も反応しない。しかも五感が完全にこの世界と一体化していて、気が付くと子供の体になっていた。これは流行りの転生だと認識し、喜びで狂った。俺はまさに、物語の主人公の立場になったのだと。そして前とは比べものにならないくらい充実した日常生活を送っていた。それはそうだろう、二回目の人生なのだ。周りの子供よりも視界は広がり、何事にも準備ができる。例えばテストなども、元の学力と復習に成績では負けはなかった。また、将来のためにも、スポーツや周りの人間関係に力を注いだ。その結果俺の周りには人が絶えることがなかった。この世界に来た当初は困惑したのだが、やっと俺の人生を始めることができるのだ。この、『異世界転生』という俺が主人公の物語を。


だから、俺は事前にその女の子から紹介された、この世界の主要人物達を攻略していった。

彼女が説明したヒロイン達は皆俺好みの可愛い子達だった。それに説明を聴いたから彼女達の性格、その背景を俺は知っている。それに今までの俺とは経験値と元々のポテンシャルが違う。だからそれらをもって、単に優しくしたり、背景にある闇を取り除いたりするだけで心を開いていった。ここまでは攻略は順調だったのだ。

後は俺の推しである『アリア』を完全に攻略することと、俺という『主人公』のヒロイン達を増やすだけだった。ただのヌルゲーを攻略している気分だった。だけど最近、アリアにばかり気を取られすぎて、他のメンバーから苦情がでたりした。やれあの子のことがホントは好きなんでしょ? とか。私のことなんて本当はどうでもいいんでしょう? 薄情だとか。

……挙句の果てには、近づくな、気持ち悪い、消えろなどと言われた。だから、ここ最近はみんなのフォローに回っていたのだ。

しかし、ここ数日、みんなの様子がおかしい。


まじめでお淑やかなで比較的従順だと思った海は、

「……すみません、嫌です。早く、彼に会いたいので」

開いていた心を閉じ、違う誰かのことを気になり始めて。


明るい元気っ子である春香なんて、

「……触るな。彼以外に靡いていたなんて自分でも腹が立って、自分を殺したくなる」

と言ったり。


お嬢様の美姫なんて、

「うざい」

としか言わなかったり。


そして仲良し二人組は俺を完全に拒否しないものの、早く会話を切り上げるようになった。それに何だか二人の間がギスギスしている気がする。


……おかしい。

こんなことはおかしい。あってはならないことだ。なんで俺を皆拒否するのだ? 俺が何をしたんだ? 俺はただ周りのみんなが幸せになってほしいだけなのに。

意気消沈していた。この世界に来て初めて上手くいかなかったのだ。俺の世界、物語なのに、あの主人公たちは一回も否定されず、ただ肯定されていたのに! 何故俺を受け入れてくれないんだ!


……そうだ、そうだそうだ。

俺にはアリアがいるじゃないか。そうだ、彼女がいる。

周りにいた皆はもういなくなりはじめたけど、彼女がいる。俺を包み込んでくれる彼女、俺が大好きな彼女。一番、俺を好きでいてくれた彼女。

もう彼女だけでいい。ハーレムはもう無理だけど、彼女さえいれば。そうだ、メインヒロインはいつも一人ではないか。これからは彼女のために尽くして生きていこう。みんなを幸せにする力を、すべて彼女に与えるのだ。彼女にこの疲れた心と身体を癒してもらおう。

……疲れていた。本当に。だからだろうか……、こんな夢みたいなものを見るのは。


アリアの家の扉を開く。彼女にはこの時間家に来ることは言ってある。しかしいくらベルやノックをしても反応がなかった。……おかしい、彼女はいるはずなのに。ドアノブを確かめると鍵は開いていた。俺は少し躊躇ったが、心配で家の中に入らせてもらい(後で謝る予定だった)、彼女の部屋に向かうことにした。


本当に、疲れていた。いたんだ。

だから、だろうか。だからだから。


こんな幻覚が見えるのは。


俺は……、俺は何も見てない見てない見てない見てない見てない見てない見てない見てない聴いてない聴いてない聴いてない聴いてない聴いてない聴いてない聴いてない聴いてない聴いてない聴いてない聴いてない聴いてない聴いてない聴いてない聴いてない聴いてない見てない見てない見てない見てない見てない。


―――――――――――――――恋人が、アリアが他の男と熱く抱き合いながら、ディープキスをしているところなんて。


「……すき。大好き。カズ君……」


あ、あああああああああああああぁっぁぁっぁああああああああああ!!!!!!!!!


俺にも見せたことがない赤い顔、俺にもしてくれたことがない抱擁、俺にも見せたことがない笑顔。それをアリアは奴に捧げていた。


やめてやめてくれやめてやめてやめてやめてやめてくれやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてくれくれやめて。


アリアがもう一度、キスしようとするが、男はそれを避ける。不機嫌そうに。

そのやり取りが俺の気分を更に悪くさせた。だって、俺はアリアとそんなキスしたことがないのだから。


また……。また、俺は一人の日常を送るのか?また、偽りの自分に戻ってしまうのか?

嫉妬と、気持ち悪さと、吐き気で狂った俺は、目の前が、真っ暗になった。




………

……


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