表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/106

5章5話

遅くなり大変申し訳ありません。

昼。何でもない昼。穏やかに、そしてただ暖かく過ぎていく昼。子供たちの遊ぶ声が聞こえる。おばさんたちの談笑が聴こえる。その中でただひとつ気になるのは家族団欒の声。それは私が確実に、それを羨んでいることを意味していた。

……それもそうか。今は、私と妹のリサ二人で暮らしている。両親は忙しいから最近は会う機会がまったくない。それが凄く寂しい。


でも、少し前まで寂しさは和らいだ時期があった。それは彼氏……、かな。近しい男の子ができたこと。その彼の熱烈なアピールに押され、恋愛初心者の私はOKをしてしまった。まあ、彼は私に優しくしてくれていたし、私も少し好きになりかけていたから結果はまあいい。それからその彼氏となった男の子は凄く遊びに誘ってくれた。ショッピングモール、遊園地、水族館。どれもデートの定番。彼は私を楽しませようとしてくれたのだろう。だけど、何故か近づく気にはなれなかった。……それどころか、拒否をしてしまっていた。彼には失礼だが、私はまだ恋愛、そして男の子が怖かったのだ。熱烈な愛情、例えばキス、そして体を触る行為を2回目のデートでしてこようとする彼を拒否してしまった。

それから、彼は何かがっかりしたようで、私に遠慮するようになってしまった。つまり距離を置いたのだ。それは私の思い違いではないと思う。だって、明らかに話かける回数は減ったし、何より遊びに誘ってくれる回数は最近ではほぼない。それどころか会う機会すらあまりない。……彼は今、違う女の子に夢中なのだから。彼は女の子に人気がある。彼の周りには常に女の子がいる。そんな彼は、拒否した私に構う必要などないのだろう。私は、少し後悔していた。何か選択を誤ってしまったのだろうと思った。落ち込んでいた。


そんな時だ。

『彼』に、彼に出会った。

妹の彼。はじめはただカッコいいなと思っただけの彼。そんな彼との時間が増えるたびに、彼を知っていった。そして今も、こうして知る機会が目の前にあった。


「はぁ、はぁ、……すみません、アリアさん! 少し遅れました……」


「ううん、いいのよ。私も今きたところ」


そう、目の前で息を切らしながら謝ってくる、和人君だ。


「ごめんなさい、今日が楽しみで、楽しみ過ぎて、朝まで起きちゃってて。それで寝ちゃって寝坊しちゃいました……」


「ふふっ。案外抜けているのね」


「メチャクチャ恥ずかしいです……」


「うふふ、しっかりしていると思ったけど、凄く可愛い所もあるのね」


私は彼の意外な一面をみれて嬉しく思いながら、この前のことを思い出していた。数日前、和人君が私の生徒会の仕事を手伝ってくれた時に、こう話しかけてきた。


『アリアさん、ちょっと一緒に買い物行きませんか?』


『え?』


『実はリサにプレゼントを贈りたいんですけど、俺女の子のこと何も知らないから、どんなものを買えばいいかわからなくて……』


突然の申し出。私は少し考えた。私も彼もパートナーがいる。そんな私達が二人で遊びにいってもいいのかと。でも、この考えもあった。私は今、すごく和人君にお世話になっている。私の仕事をいつも手伝ってくれ、加えて私の愚痴にまで付き合ってくれる。彼は私を肯定してくれた。いつも頑張っていると褒めてくれた。学校のため、妹のために折れずに頑張っていると、私が褒めてもらいたいことを、何度も褒めてくれた。こんな私を尊敬しているとまで行ってくれた。真面目で、そして話も面白く、気遣いもできる彼。自然と、私は彼を好ましく思っていた。そんな彼を嫌いになれる人がどこにいるというのか。かっこよく、頼りになり、そして優しい。妹のリサが羨ましくなっていた。そんな彼が滅多にしないお願いごとをしてきたのだ。かなえてあげたいという気持ちが強かった。

……それに、妹のリサのためだ。彼女がプレゼントで喜んでくれるのが一番の理由だ。……そうだ、絶対にそうだ。


だから。


『……わかったわ。普段お世話になってるものね。でも、いずるやリサには内緒よ?』


『はい! ありがとうございます! 凄く嬉しいですアリアさん!』


『っつ。……もう、そんなに喜んじゃって……』


彼の凄く嬉しそうな笑顔に、一瞬息が止まった。こんなにも鼓動が激しくなるのは、生まれて初めてだった。だから、そのあとは、彼が話しかけてきても、うまく返すことはできなかった。


そんな好ましい彼が今、私との遊びを楽しみにしてくれて、こうして目の前に来てくれていた。

彼の様子を見てみる。学生服じゃない彼、その姿に少しドキリとした。全体的に大人っぽさを演出したジャケットを用いたコーデ。スタイルも顔も良く、その辺の大学生よりも大人っぽい姿。いつも頼りになる和人君に凄く似合っていたのだ。……少し、妹のリサを羨んでしまった。だって、私の本当の彼氏は服装に気を遣わないから、中学生みたいだから……。

そんな風に彼をみていると、彼はニコリと笑った。


「アリアさん、今日凄く綺麗ですね。私服、凄くセンス良いし、なんだか女優みたいだから、一瞬他人かと思って通り過ぎようとしてましたよ、俺」


「えっ。そ、そうなの? も、もう……褒めても何も出ないわ……」


今度は先ほどの二倍くらい胸の鼓動が大きくなる。素直に嬉しかった。こんな風に褒めてもらうのは久し振りだったのも理由の一つだ。そんな風に心臓の音を抑えようと頑張っていると、和人君は一層笑みを深くした。


「あはは、恥ずかしがっているアリアさん、可愛い!」


「あーっ! からかったのね!?」


「ははっ、仕返しですよ」


やり返された私。今度は恥ずかしさで顔が赤くなってしまう。彼に心臓の音が聴こえないか心配になる。そして少し自分の幼さに腹が立った。年下の男の子に簡単にからかわれるなんて、ちょっと自分が情けない……。そんな風に思っていると、


「……でも、嘘じゃないですよ」


「え?」


「今日のアリアさん、凄く綺麗だと思います。本当に……」


「……うぅ」


真面目に見つめてくる彼。……やばい、ここ最近いつも見ている和人君の顔を、まともに見ることができないでいる自分がいる。


「今日は来てくれてありがとうございます。俺なんかの頼み、聴いてくれて嬉しいです。アリアさんが楽しんでくれるよう、頑張りますね!」


「……ぅん」


「さぁ、いきましょうアリアさん」


手をひいてくれる彼を、もう体中が暑くて恥ずかしくてまともに見ることができない私は、ただ下をみながらエスコートされていった。

はじめの目的の場所であるところまでエスコートされた私。彼の顔をまともに見れない私は、道中話し掛けられてもまともに返事を返すことができなかった。そして気が付くと、その場所についていた。


「アリアさん、この服とかどうでしょうか?」


まあ、服屋さんだ。プレゼントといっても、何を買うのかはたくさん見て回って決めようという話になっていた。候補はたくさんあった方が良い。だからまずは定番である服を見てみることにしたのだ。

彼が選んだ服、それは少し子供っぽい感じの服だった。ピンク色を基調としたファッション。それに私は意見を言った。


「少し子供っぽくないかしら? あの子、気に入るかしら……」


「そうですかね、……あいつ、ガキっぽいから、こういう服好きかなって思ったんですけど……」


「まあ、確かに少し前まであの子は好きだったわね。でも、最近はそうでもないみたい」


「え……?」


「今はね、少し上の年代のファッション誌を見てるのよ。大人っぽくなりたいんですって。誰かさんに子供扱いされるの悔しいからって。ふふっ、誰かしらね?」


私は少しおどけてそう伝えてみた。あの子と和人君が仲が良くて微笑ましい。……そして、何だか胸の中にシコリが残る。何だろう、この気持ちは……。


「……そうですか。あいつがそんなこと……」


和人君も何かしら思うところはあるようだ。少し考えるようなしぐさをとった。そして数秒たった後、和人君は何か悪だくみをしているような笑顔でこう言った。


「うーん、じゃあこんな服はどうですかね?」


「それは……、ちょっと大人っぽくないかしら?」


今度は白を基調とした大人し目の服。この服を着ているあの子の姿を思い浮かべる。少し笑ってしまった。だって、大人っぽすぎて彼女にはあまり似合いそうになく思えたから。私も弄っちゃいそう。


「あはは、そうですよね。どちらかっていうと、アリアさんに似合いそうです。……あ、よければアリアさん着てみてもらえないですか?」


「え? 私?」


「はい、凄く似合いそうだなって。アリアさんがこの服を着た姿、見てみたいです!」


突然の頼み。少しドキッとした。だけど、彼の悪戯っぽい笑みに、私も乗ってみようと思った。こういうのはせっかくだから楽しまなくちゃ。


「そうね、着てみようかしら」


「おおっ! アリアさんのそういうノリがいいところ尊敬してますよ!」


「ふふっ。もう、何言ってるのよ……。ちょっと待っててね」


さっそく試着室で着替えてみる私。思ったより自分に合っているようで少し驚く。だけど、試着室のカーテンを開けるか迷った。だって、和人君が何て言ってくれるか心配だったから。

……何を心配しているのだろう。そして、何を期待しているのだろう私は。彼は、あの子の……。ええい、もういいわ。私はカーテンをゆっくりと開ける。


「ど、どうかしら……?」


「おお、アリアさん凄く似合ってます!」


彼の満面の笑顔に安心した私がいた。そして顔が赤くなる私がいた。


「アリアさん、スタイル良いから凄く綺麗です。いや、今日来てよかったです。アリアさんのこんな姿見れたから!」


「もう、ほめ過ぎよ」


「そんなことないですよ! モデル並みです!」


こんなに異性に褒められるのは滅多にないから、本当に恥ずかしいし……嬉しい。だから、私も何かやり返したくなって、和人君に無茶振りしてみた。


「こ、こんどはあなたが着てくれないかしら!」


「え? 俺ですか……?」


「私ばかりずるいわ! い、今から服選んでくるから、それを着て……」


早歩きでメンズコーナーに行き、彼に合いそうな服を選び、彼に渡す。和人君は苦笑いをしながら試着室に向かい、着替えた。カーテンを開けると、私は驚いた。


「……あー、どうですか? 恥ずかしいですけど」


「か、かっこいい……」


「え? 何ですか?」


「な、何でもないわ! あ、ありがとう!」


「えー、何か感想言ってくださいよー」


「に、似合ってるわ! す、すごく」


「え、本当ですか? 嬉しいですね」


何だか彼の反応が淡泊だったからちょっと悔しかった。だって私は彼に感想言われた時、すごくドキドキしたのだから。……あれ? どうやら私が下を向いて恥ずかしがっている最中に元の服に着替え終わったようだ。……ちょっと悔しい。私がお姉さんなのに、何だか冷静さで私の方が気持ちの余裕がないし……。だから、今度はちゃんとした感想を言って、彼を恥ずかしがらせて、大人の余裕をみせるためにこう言った。


「今度こそ……リベンジよ」


「何のリベンジですか!? って、何でまた服を持って来るんですか!?」


「リベンジったらリベンジ! ほら、早く着て!」


「もう嫌ですよ~。恥ずかしいですって~」


「そんな風に見えないからズルいわ!」


「って何がズルいんですか!?」


「早く、早く!」


「何でそんなに必死なんですかー!?」


こんな押し問答を和人君としていると、店員さんが不意に話しかけてきた。


「どうですか~何か気に入った服ありましたか~?」


「「え?」」


「先程から少し拝見させていただいていたんですが、凄くお二人とも似合っているなって思ってました! 羨ましいです~美男美女のカップルなんて~」


「「……」」


私たちは反応に困り、うってかわって口を閉じてしまった。そして私は何より、恥ずかしさ、そして、そして……嬉しさで、頭の中がパンクしそうだった。だから


「て、店員さん、は、はい、これ! あ、ありがとうございました!」


「え、ええぇ?」


「か、和人君、行きましょ!」


「あ、は、はい……」


この場所にいるのが恥ずかしくて、店員さんに服を持っていた服を返し、和人君の手を引いてお店から走り去った。少し走って、はっとした。だって、和人君の手を握っているのだから。今日、いや、過去最高に、頭の中が沸騰した。


「あ、あわわ……」


すぐに手を離そうとした私。だけど、今度は和人君が強く握り返してきた。


「アリアさん、もっと手を……握っててもいいですか?」


「え……?」


突然の申し出。混乱してしまう。何で彼はこういうことを言うのだろうか?


「あいつの前で、手を繋いだだけで緊張する俺の姿なんて見せたくないんです。アリアさんには失礼で、そして俺なんかで申し訳ないけど……少しだけ、だめですか?」


「……うぅ」


恥ずかしさで本当に目が回りそうだった。嬉しさで胸が一杯だった。


「それに、……何より」


「え……? な、何かしら?」


「アリアさんと、……もっと手を繋いでいたいから。……だめ、ですか?」


和人君の苦笑い。そして、子犬のような目。

どうにかなった頭の状態の私は、もうこの言葉しか口に出せなかった。


「……うん、いいわ」


「わー、ありがとうございます!」


下を見るしかなかった。ホントにまともに彼の顔を見ることができなかった。そんな私にふと、不意に小さな声が聞こえた気がした。




「……近いな」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ