5章4話
以下、注意点です。
・春香ファンの方すみません。
(春香の妹視点)
「ふぅー、……ただいまー」
いつも通り友人であるリサと学校に行って、遊んで帰ってきた。
最近何かリサの様子がおかしい。笑顔も減ったし、上の空なことが多い。何があったんだろう……。もしかして彼氏さんと喧嘩でもしたのかな? お似合いでラブラブだと思っていたんだけど……。
そんなことを考えながら自宅の玄関を開く。
玄関が開いていたから、家には誰かいるはずだ。だから誰がいるか確かめるために声をかける。
「ねえ、誰かいるのー?」
……反応はない。
だが、耳を澄ますと何か変な声が聞こえていた。
「……ぇ、……かえってきたから…………もう、ダメだって………………確かに嬉しいけど……」
何でリビングから変な話声が聞こえるんだろう……。
気になってそこに向かうと……。
「あ、あはは早いね。もう帰ってきたんだ……」
何故か、リビングには少し衣服が乱れ、汗をかいている春香お姉ちゃんがいた。 それに……何で。
「……」
何で、リサの彼氏の和人さんがいるんだろう? 彼のことは知っている。以前リサに紹介してもらったから。でもその彼氏さんが何で、私の家にいるんだろう? そして何故そんなにお姉ちゃんとの距離がそんなに近いのだろう?
私は彼を見つけると腹が立ってきた。それはリサのことについてだ。リサは今様子がおかしい。それは彼氏さんも知っているはずだ。それなのに何で彼女を放っておいて、お姉ちゃんと一緒にいるのだろうか? だからいつもより強めの口調で彼氏さんに質問した。
「……何で、あなたがここにいるんですか?」
「……」
「え、えっとね! これにはわけがあってね……」
「お姉ちゃんには聞いてないよ! 黙ってて!」
お姉ちゃんが慌ててフォローに入る。だが、私は話を邪魔されたくなくて大きな声で怒鳴った。
だが、それは間違いだったようだ。
「……はぁ?」
「……え?」
先程まで慌てていたお姉ちゃんの空気が変化する。
名前のように暖かい春のような抱擁感と明るさ。そんな優しいお姉ちゃんが私はいつだって大好きだった。だけど、今は違う。今は、まるで冬のような鋭さと冷たさとしかなかった。お姉ちゃんは私を見つめる。ただ見つめる。黙って見つめる。そして溜めに溜め、強く吐き出した。
「誰に向かって口聴いてるの? それに何で気安く和木谷君と話しているの? 妹でも限度があるでしょ?」
「えっ……あっ……」
「何私の妹のくせに和木谷君に対して馴れ馴れしく下の名前で呼んでるの? 私呼べなくてどれだけ苦労していると思ってるの? それに、一番大事なことなんだけど、……何で彼に命令しているの? 謝って。妹だからこれくらいですませてあげる。だから謝りなさい!」
本当に誰なのだこの人は。お姉ちゃんは私に一度も怒ったことはなかった。ただ甘やかしてくれた。こんなこと、今までなかった。私は誰かに助けを求めたくて、つい和人さんを見た。でも、その顔は……何で、無表情なんだろう?
「……はぁ、何か萎えたから俺帰るわ。じゃあな、春香。……あのこと、ちゃんとやれよ」
「え、わ、和木谷君?……うん、わかったよ!」
お姉ちゃんはニコニコとしながら返事をする。その変化のはやさに驚くが、大事なことを聞かなければ……! 家から出ていこうとする彼の背中を見て急いだ。そうだ、大事な親友の様子がおかしいのだ。私は理由を知っているかもしれないその彼の背中に問いかけた。
「あの、リサの様子が最近おかしいんです。何か知りませんか?」
「……っ」
彼の足が玄関前で止まる。
「多分、リサは寂しがっているんだと思います。失礼ですが、彼女が寂しがってる時にはそばにいてあげてください。先輩にとって大事な彼女でしょ?」
そのように説教めいたことを言ってしまったけど、後から考えると失敗だった。
だって……。
「え? 和木谷君彼女いたんだぁ。じゃあなんで私にあんなこと……………………………………………………―――――――――――――――――――は? え? あぁ、あははは……そういうことなんだ、『和人君』。やっと完全に思い出した。また私をそんな扱いで済まそうとするんだね。いつもそうだね。どうしてだろうね。信じられないね。どうしだろうね。あの涙は嘘だったんだろうね。……ねえ、何か言ってよ和人君。……言ってよ!」
お姉ちゃんの雰囲気が完全に変わった。いつもの優しいお姉ちゃんから、別人へと。怖い。本当に怖い。私はこのお姉ちゃんから逃げたい気持ちと、彼氏さんへの疑念で心がいっぱいで……泣きたくなった。
「……すまん。リサを頼む、妹さん。……あと、ちょっと待ってくれ」
「……え?」
先輩は振り向いて私に苦笑いした後、お姉ちゃんに冷たい表情を向けた。
「おい、春香。お前、何か思いだしたんだろ?」
「あはは、うん、そうだよ和人君。浮気したことについて謝ってくれるのかな? ……あれ、どっちが本命なのかな? 私が本命なら、……まあ、少しだけ許してあげる。だからまずは謝って。あ、それと今って私より年下だよね? その癖に、『ここ』で初めて会った時から呼び捨てとタメ口使っているよね? ということは和人君はもう初めから、私のこと思い出していたのかな? ……許さないよ。思い出している分質が悪いよ。何でそんなことできるの?」
「お前が何を言ってるんだかわからないが……」
「知らない振りをして……忘れている振りをして!」
「ああ、一つだけ言わせてくれ」
「今更何を……」
「何でお前に俺が謝らなければならない?」
「……は?」
空気が、凍る。こんな二人を見たことがない。こんなに、こんなに人とは変わるものなのか。
「浮気浮気って言っても、俺とお前が『恋人』だった関係なんて今までなかっただろ?」
「……何を言っているのかな、白々しい」
「何だそれ? 俺はここではリサとしか付き合ったことがねえぞ? それとも何か、『前世』とか訳が分からないことでも言い出すのか?」
「あのさ、和人君そろそろいい加減に……」
「ま、どうでもいいけどよ、もし俺がお前との間に恋人関係があったとしても……俺ばかり責めるのはおかしくないか?」
「……え?」
「だってお前……」
先輩の表情が、無表情から変わる。まるで、何か愉悦を感じているかのように、嗤い始めた。
「お前、いずるの野郎にデレデレだったじゃねえか」
「……それは! それは忘れてたからで!」
「何だそれ、わけわかんねえよ。お前もうそろそろあいつに落とされそうだったじゃねえか。何が俺に一途だよ。何が俺以外のやつ触られたくないだよ。あいつともう少しでキスまでいきそうな段階だっただろう? それだったら俺だけ責めるのはおかしいだろうが」
「え?」
「何で忘れていたお前が許されて、同じく何も覚えていないって言っている俺が許されないんだよ? 不公平じゃねえか?」
「……」
「一つ言っておくぞ……お前が誰かを傷つけたら、俺は絶対にお前のものにならない。 俺の彼女や、妹さんを傷つけたら、もっとだ」
「……へー、そういうこと言うんだ」
「じゃあな。……ああ、安心しろ。また会いにくる」
その言葉を言い残して、先輩は出て行った。その後数分経って、先輩を追ってだろうか、お姉ちゃんも出て行った。
家に残った私の胸の中には、何とも言えないものが心に残ったのだった……
………
……
…