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4章1話

『あなたは私のこと好き?』


「……嫌いだ」


『あなたは私のこと好き?』


「嫌いだ」


『あなたは私のこと好き?』


「嫌い、だ」


『あなたは私のこと好き?』


「嫌いだ、嫌いなんだ……」


『あなたは私のこと好き?』


「……………………………………―――――――――好きだ」




「―――――あ」


「おはよう和人君! 起きて起きて! 朝ご飯用意できたよ! チューっ!」


俺―――和人 は『恋人』であるBと共に穏やかでそして賑やかな日々を過ごしている。その彼女は今、寝ている俺に馬乗りになりながら、俺に顔を近づけている。ニコニコと笑顔を浮かべながら俺を見つめている。そのまま俺にキスをしてきた。


「えへへ、おはようのキス!」


「……恥ずかしいな、朝から」


「和人君の寝顔が可愛くって! ほら、早く着替えてリビングに来てっ」


Bはウインクして俺の部屋から出ていく。そんな彼女を苦笑しながら俺は着替え始めようとしていた。 ……ん? 『B』とは、何だ? 俺は何故そんな記号を使って彼女を呼んでいるんだ? 彼女にはちゃんと名前があるだろう、『春香』という彼女にぴったりな可愛い名前が。

……まあ、いい。次に話を勧めよう。前回の時間軸で……ん?

『前回の』ってなんだっけ? 俺に前回などあったか? 何で続けてそのような変なことを考えてしまうんだ?

……どうやら寝ても疲れがとれないらしい。まあ、いいさ。俺は今、最愛の人と、幸せな日々を暮している。それだけで満足なのだ。着替えてリビングに行くと、彼女はエプロンを来て笑顔で配膳をしていた。俺を見かけるとさらに笑みを深め、抱き着いてきた。朝日に照らされている俺の部屋。小鳥のさえずりが聞こえる。朝の報道番組が、ほどよいBGMになっている。そして、彼女の花のように明るい笑顔。それだけで、俺は心が晴れやかになれる。彼女と一緒に席につき、用意してくれた朝食を口にいれる。


「……どうかな? 今日のご飯。いつもとはちょっと違う味付けになっちゃたけど……」


「いや、おいしいよ。お前の料理がまずいことなんて、昔から一度もなかったじゃないか」


「よかった~! 今日は頑張ったんだぁ」


「はは、ありがとうな」


彼女は万歳して喜びを表現した。その大げさな態度に苦笑しながら、食事を進めようとすると、一つの違和感に気付いた。


「……和人君、何か変かな?」


少し春香の表情が暗くなるが、俺は違和感の正体を見つけた。


「春香、指怪我したのか?」


そう、春香の指に包帯が巻いてあるのだ。彼女がバンザイしたときに見かけた。


「え、ああ、うん。ちょっと料理中に切っちゃって……」


「おいおい、大丈夫か? 痛くないか?」


「うん、大丈夫だよ! ちょっとドジっちゃった。えへへ」


「本当に大丈夫か? 病院にいかなくてもいいか?」


「もう、心配しすぎだよぉ……大丈夫、私は元気だから!」


「よかった……。ありがとうな、毎日頑張って作ってくれて。凄くおいしいよ」


「ううん全然いいよ! それよりもたくさん食べてくれたら嬉しいな!」


「ああ、任せとけ」


本当に安心した。彼女が何か事故などにあってないか心配した。大事な彼女だ、心配ぐらいするさ。その辺の女が自分を切っても気にはしないが、彼女は大事な人なのだ。少しでも怪我をしたら嫌でも心配になる。……心配に、なる。……俺は、こんなに心配性だったか? 血に恐怖していたか? そんな事故が前に起きたのか? ……今は、いい。彼女との時間が大事だ。


「和人君、ごはんおいしい? 本当に味、おかしくない?」


春香は身を乗り出して聴いてきた。心配やつだと思ったが、俺も同じなことに気が付いて内心苦笑いをしてしまう。


「ああ、いつものようにおいしいよ。春香、おかわりくれるか?」


「うん、まかせて!」


朝から彼女の最高の笑顔を見ることができる。今日も、春香のおかげで最高の一日のスタートを切れる。俺は……幸せだ。

















「………うん、よし」




………

……







「おはよう海ちゃん!!」 「おはようございます、海先輩」


朝、登校中。

俺はいつも彼女に朝食を作ってもらい、一緒に食べて学校に行くのが習慣になっていた。

俺の親は仕事が忙しくて家を空けることが多い。何というか、俺を放置する傾向がある。まあ、それに対して特に意見はないが……。それを春香が心配してくれて、俺になにかと世話を焼いてくれることが多いのだ。

その一つが今朝の朝食。おざなりにしがちな食事をこうして世話してくれていた。

彼女の親はどんな反応をしているのか? 一度心配で春香に聴いてみたことがあった。彼女に迷惑をかけていて申し訳なかったから。彼女の親が良い反応をしていなかったら春香を止めるつもりだった。しかし春香は『パパもママも応援していたよ! 恋人と一緒にいたいって言ったら喜んでくれたの!』 と述べていた。でも、なんだかなぁ。前に彼女の家に遊びに行った際、両親とか妹さんがこっちを少し変な目で見ていたような気がする。まるで触れてはいけないものを見るような目。恐怖の目で見ているような気がするけど……気のせいか。

まあでも、そんなこんなで周りの人に支えてもらいながら、俺達は幸せな毎日を送っていた。目の前の春香の横にいる女性も、その一人だ。


「はい、おはようございます。今日も二人ともお熱いですね」


「えへへ、恥ずかしいなぁ……」


海先輩が真面目な顔で挨拶を返してくれる。いつも綺麗だなと、少し見つめてしまう俺。

彼女は同じ学校の春香の友人だった。彼女つながりで俺は知り合い、こうして交流を深めていた。今では春香、海先輩と俺の3人で毎日登校しているくらいだ。

海先輩、大和撫子で美人で、凄く人気がある。学校の上級生の半分は彼女のことが好きなのではないか? 巷ではファンクラブがあるっていうくらいだし……。そんな人と一緒に登校できて役得だ。

それにしても、こいつも後輩に挨拶できるくらいに成長したんだなぁ……って、何で俺先輩に対して上から目線なんだよ。しっかりしろ、朝から寝ぼけ過ぎだぞ。


……ん?何故俺が敬語だって? それは俺が彼女達より年下だからだ。何をあたりまえなことを。しかし、春香と二人きりの時には、春香に対してタメ口で話すけどな。恋人同士で敬語とかなんかいやだろ? 春香も言っていた、『和人君が敬語なんて何か変だよ~』と。俺も変な感じだしな、ちょうどよかった。

それにしても何故海先輩は敬語で話すのだろう? 前に一度聴いてみたが、『何故か和人君に対しては、そうしなければいけない気がして……』ってはぐらかされたけど……。


「……二人とも本当に幸せそうですね。私に挨拶するまで手をつないでいたのが見えましたよ」


「えへへ、そんなに褒めたらはずかしいよぉ……。でも、私たちは本当に幸せだよ! だってやっと和人君が隣にいてくれるようになったんだもん!」


「見てたのかよ海、……すみません、海先輩。「和人君敬語じゃなくていいんですよ?」いや、無理ですって。ていうか春香、やっとって何だよ?」


「やっとはやっとだよ! ……昔から和人君のことが好きだったの!」


春香が俺の腕を抱きしめながらそう応えた。腕に春香の胸の感触が伝わる。それに彼女の気持ち。……恥ずかしいな。だから、この場から退散することにしよう。


「……さ、課題あるから先に学校に! それじゃ春香、海先輩、お先に!」


「うわっ、もう和人君ったら!」


「……」



騒がしくも、こそばゆい日々。

そんな日々を俺は彼女達と過ごしていた。















「……ふふ、可愛いなぁ」





………

……




「ふぅ……」


午前の授業が終わり一息つく。授業の内容は簡単だった。というか習ったことがないはずなのに、何故か頭の中にしっくり感覚があった。そのおかげか、俺は良い成績を修めることができていた。……一瞬、ひどくズルをしている気がしたが、心当たりがないので無視した。

周りでは学食に行くもの、友人たちと固まって食事をとろうとするもの様々が騒々しくしていた。いつもの風景。俺もその中に混ざろうとしよう。……あ、思い出した。あの2人とは学年が違う、だから必然的に俺はクラスで一人になって……。違うぞ、ボッチじゃない! 俺は孤独が好きなんだ! 孤こu……いや、この言葉は使いたくはない。使ってはダメだ。

とにかく、俺は一人じゃ……


「まーた、何か変なこと考えている」


「和人君、いつも楽しいこと考えてるもんね」


そう、こんな俺に話しかけてくれるクラスメイトがいる。

『CとD』だ。美少女二人組。……だから、そのCとかDってなんだよ。ちゃんと名前で呼べよ。彼女達はクラスで一人ボッチ……いや、独り立ちしている俺に話しかけてくれる唯一の存在! そんな彼女達は俺にとって女神だ。


「まったく、ボク達たちがいないと心配だよ。しょうがないから一緒にいてあげる。ついでに課題ノートを見せる権利を上げる」


「ちょ、ちょっと、それ無茶苦茶だよぉ……」


このボクっ子が面白いことを言って、このおどおどっ子がツッコミを入れる。そんな彼女たちの存在は賑やかだった。そしてそんな姿を見ていると何故か安心してしまう自分がいた。


「あはは、何だよそれ。まあ、別にいいよ。ほれ、ノート」


……うん、だけどドヤ顔のこいつに意地悪したくなったな。このボクっ子に天誅を下すときがきたようだ。課題ノートをみせる。だが、それには秘密が隠されていたのだ!


「えーっと、あそこの答えはっと……うわ!!!」


「……ん? どうしたの?」


「……作戦勝ちだ!」


そう、課題のノートには、グラビアの写真が貼ってあったのだ。

普通、女子にそういうことしたら引かれてしまうのだが、相手は彼女。俺達の仲だし、こいつもそこまで意識しないだろうから大丈夫だろう。


「くそーやったな!?」


「なにをー?」


「やるかー?」


「「望むところだ!」」


「うふふ、二人とも仲良いね」


そんなやり取りを毎回繰り返していた。

これも、俺にとっては幸せな日々を構成する一つ。そのやりとりに俺は懐かしさを何故か感じていた。懐かしさといっても、良い感情だけとはいえない。失敗したという感情、後悔と懺悔。それが何故か、少し浮かんでくる。何故なんだ? ……ま、いいか。

3人で少しばかり馬鹿やっていると、横から声をかけられた。


「ねえ、先輩が呼んでるよ」


クラスメイトの一人が俺にそれを伝えてきた。名前は……憶えていない。(俺は名前を覚えるのが苦手なんだ!)だが、いつもはその子は明るそうにしていたのを憶えている。その子が、何故か機械めいて俺に伝えてきたことに疑問を抱いた。何か、感情を押し殺そうとしているような、何かを恐れているような、そんな感じ。

まあ、いい。呼んでいる人とは『あいつ』のことだろう。さっさと行くか。


「ああ、ありがとう。ごめんな二人とも、それじゃ」


「う、うん。そ、それじゃ」


「……じゃ、じゃあね」


こいつらもこいつらで何を怖がっているんだ? まあいいや。早くあいつの所に行こう。どうせ早く昼食を食べたくてウズウズしてるのだろう。それで少し後輩に怒っているのを見せてしまったのだろうな。素直すぎるやつだ。ていうか腹ペコキャラってなんだよ。元気っ子でそれって安直な設定だぞ。まあ、何でもおいしそうに食べるところは彼女の良い所ととらえておこう。


そして教室を出て屋上に行くと、春香が待っていた。心なしか、その表情は暗い。いつもの、あのひまわりのような明るさがみえない。


「……和人君、遅かったね。あんまり遅いから伝言頼んじゃったよ」


「ごめん、ちょっとな。それより早くご飯を……」


「私との時間より、他の女の子との時間の方が大事なんだ……」


空気が変わったような気がした。

空気というか、酸素が凍ったような。そんなありえないことを妄想してしまう。……なんだ、この雰囲気は。俺は何かしてしまったのか? そんなに春香を傷つけるような真似をしたのか? まあ、一応フォローしておくか。


「謝るからそんなに怒るなって。俺はお前との時間が一番大事だよ」


「本当……?」


「その証拠に……」


「あ……」


彼女にキスをする。

ここの屋上、基本立ち入り禁止だ。俺達以外誰も入ってこないし、見る者もいない。何故俺達だけが入れるかは、春香が屋上のカギを持っていたからだ。何故持っているのかは教えてくれなかったが。

春香はキスをするとご機嫌になる。春香はキスが好きだった。いつも俺に求めてきた。何でも、一瞬でもつながっていたいと。そんな恥ずかしいことを言っていた春香はキスの後、一瞬で顔を赤くした。


「も、もう! そんなことじゃだまされないんだからね!」


「じゃあもう一回」


「へ? ちょ……! んー!」


一回で駄目だったら、何回もやるまでだ。姉さんも言っていた。……ん? 姉さん? 俺に姉さんなんていたか? ちょっと疑問だったから春香に聴いてみた。


「……なあ、俺に姉妹とかいたっけ?」


「え? 何で和人君が知らないのに私が知ってるの? それより、キスしたすぐ後にそんな話ー? 和人君はさ~、雰囲気ってものをさ~」


「そっか……。ま、でも機嫌直してくれただろう?」


「もぉ~! ……まあ、私が和人君のお姉ちゃんみたいなものだから許してあげる!」


「はは、俺はお前が姉さんだったら嫌だなぁ」


「え?」


一気に顔が暗くなる目の前の彼女。ちょっとこいつ地雷多すぎじゃね? めんどくs……いや、彼女に何てことを言っているんだ。俺がまた変なことを言ってしまったのだろう。ちゃんと最後まで言わないと。


「だってさ、姉弟だったら恋人になれないだろ?」


「和人君……」


「……ああ、もう。かわいいな、お前は」


抱きしめてくる彼女。しばらく抱き合っていると彼女はパッと離れて「あ、ご飯食べようよ!」と言い出した。そうだった、今は昼休みで、俺達は昼食のためにここにいるのではないか。お互いのおっちょこちょいに俺達は苦笑した後、春香が用意してくれた弁当を開けた。中身は俺の好きなおかずばかりだった。でも、赤いハートマークの弁当は恥ずかしかった。春香も少し照れながら横を向いた。俺も相当恥ずかしかったのだろう、少しそのハートの味がわからなかった。俺の顔の色とハートの色の赤さは似ているだろう。それにしても赤いな、このハート。


「あ、和人君」


「もぐもぐ……、何だ?」


俺がそのハートを見つめていると、春香は声をかけてきた。


「今度の休み、デートしない? 観たい映画があるの! 映画館行こうよ!」


「ああ、いいぞ」


「やったー! えっとね、えっとね。その映画ってね……」


彼女は大の恋愛映画好きだ。休みの日は一緒に恋愛映画を俺の家で見るのが結構な頻度である。特に、純愛物の映画を見ることが多い。彼女は『私達もこんな、えっと……恋、いつもしていたいね』と、俺の肩に頭を乗せながら言ってくるのだ。俺はそんな彼女が可愛く感じた。いつも恋愛映画をみせられて少し飽きもして、違う種類をみないかと提案したこともあったが、何でも二人で見ることに価値があるそうだ。普段はあまり俺に求めない春香。だから、俺は彼女の趣味に少しばかり付き合っていた。

そんな彼女とのデート。いつもの家デートとは違う、外でのデート。少し楽しみだった。


まあ、こんな感じで俺達はイチャコラしていた。大事な、大事な日常の1ページ。

俺はその日常を大事にしていきたい。


















「………そろそろかなぁ」




………

……






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