7章40話(ハーレム編_クリスマスパーティ) どっちが好きなの?
遅くなりすみません。クリスマスパーティー編はもう少しで終わります。
「……和人」
あの時の嫉妬に燃えているまなざしで、美姫が俺を睨んでいる。
今、俺と美姫の二人だけで生徒会室にいる。アリアは帰った後だ。
爆弾を放り投げるだけ投げてアリアは帰っていったのだ。
「和人、本当はアリア先輩の気持ち、わかってるんでしょ?」
「気持ち?」
爆弾はまだ続く。
アリアが意味が深い言葉を残した。
『勘違いしてくれた方が』
それは、よほど鈍感でない限りは気づく。アリアは俺に明確な好意を持っているのだ。
「本当に気づいていないの? あからさますぎるでしょ?」
「……さあ、何を言ってるのかわからないな。それに、お前が俺にそれを伝えて何になる? 何かメリットがあるのか?」
美姫は純粋だから、こうやって自分の思いを明確に伝えてくる。だからこうして爆弾は続いているが、それが悪手だと暗に伝える。
お前がその続きを言うことで、俺とアリアの関係は前に進む可能性があるぞと。
「……そうね。何もうれしいことはない。だから話はやめるわ」
「……そうか。」
美姫は頭がいい。だから話をそこで終えた。
だが、美姫の不機嫌はつづいているようだった。
いつもよりも機嫌が悪い。今までになく、だ。
それはそうだろう。目の前で他人がいちゃついているのを見て機嫌がよくなる者などいない。ましてや、……好きなものならば一層だ。
機嫌が悪い虎を無暗につつくほど、俺は恐れ知らずではない。何も俺から話さないのが定石ではある。
だが、そのまま放っておいても、何も良いことがないのは確かだ。
こいつの感情が爆発してしまうと、何が起こるかわからない。
普通の人間ならば、そう、赤の他人ならば勝手に爆発してくれと思う。だが、こいつは特別だ。他人ではなく、俺と関係を持った人間。最悪思い出してしまい、これまででの関係が崩れる可能性が高い。
…少し、こいつと話を進めるべきか。
俺が少し思考に耽っていると、美姫が話しかけてきた。
「和人、あんた、……年上が好みだったりするの?」
「……は?」
「だってそうじゃない。和人、アリア先輩に優しいじゃない。それに、華先輩にもすごく優しいし…。」
「……お前は何を言っている? アリアと華は、俺と同学年だぞ」
「そ、そうよね……。私、何を言っているのかしら……」
……こいつは、思い出そうとしているのか? 前の時間軸では、確かに華たちは上の学年だった。今は違うが、美姫はそれを思い出しているのか?
優先度を変えよう。そう思い、こちらから話を進めようとした。
「美姫。少し腹を割って話そうか。」
「な、なによ突然……」
「あの時の缶コーヒーでいいか? 今から買ってくる」
「あの時って何よ……」
そうやって話す内容を頭で少し整理する時間を作り、生徒会室に帰ってくる。そわそわしている美姫に、俺は声をかけた。
「二人だけの空間だから言う。実を言うと、俺はあまりアリアに対して好意をもっていない」
「……?何を言っているの? だったら何で生徒会でまじめに働いているのよ? 和人らしくない」
「俺らしいか……。まあ、いい。腹を割るといっただろう? 本当のことだ。俺は俺で目的をもってこの生徒会にいる。」
「その目的って何よ?」
「それは今は話せない。時期が来たら話す」
「何よそれ…。全然腹を割ってないじゃない」
「時期が来たら話すと言っているだろう? それで今は許せ。言いたいことは、アリアに好意を持っていないということだ。現に俺からアリアに距離を詰めているか? プライベートの話をしようとしたか? 」
「……先輩のメンタルの話とかしてるじゃない?」
「同僚として当然の配慮だ。仕事の一環といってもいい。俺からプライベートの誘いはしていないし、プライベートで会うとしても、それは華の付き添いで仕方なくだ。」
「……そうだとしても、華先輩と仲がいいじゃない」
「あいつは好きという次元じゃない。もう……。そうだな、腹を割って話すといった手前だ、正直に言うか。あいつは、俺にとって一番大事な友達で、もう家族だといってもいい距離感だと思っている。」
「な、なによそれ! 友達はわかるわ。でも、家族って何よ。そんなの、それくらい大事って、……」
美姫が涙目になる。
そうだ。美姫は恋人にも、家族にも飢えている。距離がちかい者がいない。だから、他者を求めている。
俺がその候補だった。だから俺にアプローチをかけていたのだろう。
だが、俺から遠ざかる発言をした。華と家族になる、それは美姫から遠ざかると同義だ。
だから、この発言をするにはフォローが必要だと事前に考えていた。
「美姫。話を聞け」
「いやっ、いや。もう帰る。何よ、そんな話、ないじゃない……」
「美姫」
美姫の肩をつかむ。
「誰もお前が大事じゃないと言ってないじゃないか。大事じゃなかったら、お前のために時間を作ったりしない」
「うそ、うそよ。だって、和人優しいじゃない。だから、しょうがなく私の面倒みてるんでしょ?」
「嘘じゃない。俺は大事だと思っている。」
「じゃあ、どっちが大事よ。華先輩と、私」
「人間関係について、どちらが大事かなんて聞くのは卑怯じゃないか?」
「答えて」
……その質問は絶対に来ると思っていた。
……腹を決めろ。一度、深呼吸して息を整え、答える。
「お前だ」
「……証拠を見せてよ」
まだ懐疑的な顔をしている美姫は俺に問うてきた。信じられないと、暗に示している。
「……わかった。証拠になるかわからないが、今からの電話、聞いていろ。お前は何も話すな」
そうやって、華に電話をかける。
「……もしもし? 華か。俺だ。今日の夕飯だが、すまん。ほかに用事ができた。それを優先する。……ああ。わかっている。それじゃ。……美姫。聞いていたか?」
「な、何をよ?」
「華との予定をつぶした。お前を優先したからだ。それほどお前を大事だと思っている。それで答えになっているか? 家族より、お前を優先したんだ。」
「……うん。でも……」
「お前の言いたいことはわかっている。それは、今度のクリスマスパーティーの時に俺の口から言わせてくれ。この意味がわかるか?」
美姫の顔が赤らむがわかる。
そう、それはもう宣言と同じだ。
そこまで、決断する時が来ているのだ。
美姫の頭を撫でる。美姫は拒否せずただ受け入れた。
「クリスマスパーティーまで後もう少しだ。もう少しだけ付き合ってくれ。……ああ、そして、まだ約束は忘れていない。クリスマスパーティー一緒に周ることだ。楽しもうな。」
「……うん」
………
……
…