7章39話(ハーレム編_クリスマスパーティ) 嫉妬
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こうして美姫が生徒会の一員(仮)となった。
これについては一石二鳥だと考えている。
美姫の様子を傍で伺えるし(美姫も俺と一緒にいる時間が長い方が嬉しそうだと推測している)、単純に俺の生徒会での作業ボリュームも減らすことができる。
だからアリアに提案したのだった。
まあ、提案時にあそこまで感情を爆発させるとは思わなかったが…。しかし、結果的にそれでよかったと考えている。いつまでも自分で抱えてしまい、突然問題が発生してしまうよりもだ。
今、生徒会室に俺らはいる。横でアリアが作業しているが、以前よりも活気があふれた顔をしていた。どうやら俺の視線に気づいたようで、微笑んできた。俺も片手をあげてこたえた。
「……何イチャついてるのよ」
そうしていると、俺の傍で作業していた美姫が肘でわき腹をつついてくる。
「べ、べつにイチャイチャなんてしていないわ……。そんな、生徒会室で破廉恥な」
お前はどこの風紀委員だよ。と内心アリア(顔が赤い)に突っ込む。
それに対してジト目で俺とアリアを交互に見る美姫。
「そうですかね……。何か距離が前よりも近いような…」
「そ、そうかしらっ。ま、まぁ、でも生徒会のメンバー同士で仲がいいのは良いことじゃない?」
「そうですけど…」
まだ納得いっていないような顔をしている美姫に、表には出さないが、内心ため息をつきたい気持ちでいっぱいだった。
……こいつ、嫉妬心が強すぎるんだよ。
前の時間軸からも一層そう思っていた。俺と誰かの距離が近くなる姿を見るだけで、こいつは強い拒否反応を示す。普通の女の子でもそうだが、かわいい女の子が俺と話をするだけで、一層だ。
それが、仲の良い、あの部活のメンバー相手ででもだ。
初めの時間軸、そう、美姫と出会った時間軸。その時は可愛いものだと思っていた。女の嫉妬はかわいいものであるし、それが美姫ならばなおさらだった。こんな美人に嫉妬されるなど、男冥利に尽きるものだと思っていた。
だが、段々とではあるが、こいつのその嫉妬心が強すぎることを実感していった。
要因はいくつか考えられる。
一つは、こいつは純粋すぎるという点だ。
純粋培養のお嬢様。その可憐さから、おそらく誰にも近づかれなかったのだろう。あまりにも現実離れが過ぎるその容姿から。女子にも、そして男子にもだ。
その影響で、おそらく人間関係における感情の制御がうまくできていないと思う。純粋すぎる感情を抑えることができないのだ。
その、純粋すぎる感情に、濁点を残したのが、過去の俺なのだが……。やめよう、今深くそのことを思い返すのは。今更それを後悔しても、もう遅い。変えることなどできないのだから。
「……それにしても、美姫さん。すごいわね、もうこんなに仕事回せるなんて」
「そうですか? まだできますよ」
ちょうどいいタイミングで、アリアが話題を変えてくれた。俺の今の澱んだ思考を変えるために、俺も話題に乗ることにした。
「ああ。こいつは頭がいい。個人的には仕事ができる能力と、勉強ができる能力は別だと考えているが、それでもこいつはどちらの能力も高い。連れてきて正解だったよ。」
美姫には俺がもっていた業務の少しを回してもらっているが、問題なく遂行している。俺もチェックに入っているが、少しコメントするくらいで、特に大きな問題がない。
この年でこれだけやれるなら、大人になってからどれだけすごくなるのか、少し怖くなっている。
俺?俺はまだいい。少し社会人を経験したことがあるのだ。それくらい回せないと情けないにもほどがある。
「か、和人っ。何急にほめてるのよ! なに?からかっているの?」
「そう言うな。からかってないし、素直に褒めてるんだ。お前も素直に受け取れ。……本当によくやってくれているよ。助かっている。ありがとうな、美姫」
「あ、頭撫でないでよ! 子供じゃあるまいしっ」
すぐ大人振る美姫に苦笑してしながら、頭をくしゃくしゃとなでる。まんざらでもないのか、最初は少し抵抗していた美姫はそれを受け入れ始めた。
……内心、単純な女でよかったとは、一言も言えないな。
「ふふっ。ほほえましいわね。……それじゃ、もうそろそろ帰りましょうか。あとはみんな片付けだけだと思うし。」
「はい」「そうだな」
アリアが終業の合図をしてくる。俺も書類を机の中に入れようと帰り支度をしていると、俺の肩に手をかけるものがいた。……アリアだ。
「今日もお疲れ様。和人君。助かったわ」
「……特別なことは何もしていないさ。」
この前の出来事から、俺へのボディタッチが多くなってきたのだ。やはり、あの出来事は距離感が近くなるものであったのだ。
ふいに俺に抱き着くこともあるし、手を触れてくる機会も多々あるし。それがデメリットといえばそうなる。
「いいえ、そんなことあるわ。和人君が居てくれるだけで頑張れる。ありがとう、和人君。」
俺に体重をかけてくるアリア。それはおそらく信頼の証であり、そして俺に寄り添いたいという思いもあるのだろうか。
……はぁ。
別に感情をそうやって発露してくれるのいはいい。ストレスを抱えるよりも、こうやって発散してくれるのは。
だが……。
「……アリア。それは美姫にも言ってやってくれ。美姫も頑張っている。」
「そ、そうよね。ごめんなさい。美姫さん。いつもありがとう。本当に助かっているわ。」
「……はい。」
美姫が人を殺せそうな目で俺の方をにらんでいる。お前、俺のせいじゃないだろうが、今のは。
「アリア。お前、俺以外にそうやってボディタッチするのは控えた方がいいぞ? 勘違いする男がかわいそうだ」
「べ、別に和人君以外にはそんなことしないわ……」
「その発言も控えた方がいい。なおさら男が勘違いしてしまう。自分が好きなんじゃないのかとな。男は基本馬鹿だからな」
「それは和人君も含めてって、こと……? わ、私は和人君のこと……だから、だから……勘違いしてくれた方が…」
それ以上言うな。
「アリア、そろそろ帰る頃だろう。肩から手を放してくれないか?」
「う、うん。ごめんなさい……。それと、さっきのこと、……ううん、なんでもないわ。それじゃ、私先に帰るわねっ! 申し訳ないけど、いつものように戸締りよろしくね和人君!」
そうやってアリアはぴゅーっと我先に帰っていった。
お前……、そうやって爆弾だけ残すなよ……。あとのことを考えろよ…。
「……和人」
ほら。昔のように、あの時の嫉妬に燃えている美姫が俺を睨んでいるのを確認して、俺はため息をついた。