7章36話(ハーレム編_クリスマスパーティ) 美姫とのこれまで
本編開始します。
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俺と美姫がこの世界で会ったのは初めてではない。
『この時間軸』では、あの球技大会が初めてだった。
あいつがあの球技大会にきたきっかけ……それは美姫にとってはどうでもいい理由、つまり暇つぶしだったらしいが。
あまりにも、色々なタイミングが良すぎた。
俺にとっても。そして、他の誰かにとっても。
「……何か作為的なものを感じるな」
「何がよ? 和人」
目の前の美姫。そいつが食べかけのスイーツから目を上げ、俺のほうを不思議そうに見てくる。
前の時間軸で、どのような目にあったのかを何も覚えていない顔。
だが、いずれ思い出すだろう。俺と関わり合いになったことで。
自惚れだったらよかった。
気持ち悪いことを言うが、俺に惚れることなどないと確定していたらよかった。
この娘に、……悪影響を与えたくはなかった。
だが、出会ってしまったのだ。
そして、前の世界で約束をしてしまったのだ。
「なんでもない。お前は黙って目の前の甘いもの全部食べろよ」
「無理よ! こんな量全部ひとりで食べきれないわ」
「お前が頼んだだろうが…。このカップル専用パフェも、ほかにも」
「だ、だっておいしそうだったからしょうがないじゃない…」
今、俺と美姫は学校帰りにカフェに来ていた。
こうして帰りに一緒にカフェに行ったりするのは初めてではなかった。
「早く食べてお前の受験勉強に備えるぞ。ほら、早くしろ」
「うぇ~…。……別にいいじゃない。せ、せっかくの二人の時間なんだから」
「お前に何回も時間を使っているが、俺も忙しい。それにお前も忙しいはずだ。お互い、有意義に時間を使おうと考えているだけ。ただそれだけだ」
「そんな、言い方ないじゃない…。」
「……言い過ぎたなようだな。すまない。だが、お前も時間がないだろう? 受験近いだろうが」
「受験ねぇ…。このレベルなら、私問題なく受かるわよ。伊達に偏差値高い学校、通ってないし。それに、和人が勉強の面倒見てくれたおかげで、もっと成績も上がったし。もう数か月かしらねぇ…。意外と早かったわね」
「もうそんなに経つか、お前が無理やり教えろとせがんできたときから……。時間がたつのは早いもんだな」
「何おじいちゃんみたいなこと言っているのよ」
そうだ。あの球技大会から交流を美姫ととっていた。途切れることなくだ。
球技大会の時に連絡先を交換させられ、あいつから事あるごとに連絡があり、連れまわされていた。
俺の忙しさの理由の一つだったのだ、こいつは。
そして、最近こいつが俺の学校に通うと言い出し、勉強を教えろと駄々をこね、こうして時間を作っているのだった。
こいつが俺の学校に入るのは予想していたことだ。
だが、俺がかかわりを持つなど、華と出会った当初ではあまり考えていなかった。
予定が早すぎるのだ。
こいつと交流すること……。メリットは確かにいくらかある。
こいつの状況を知れること。いつこいつが爆発するかがわからないよりも、こうして適宜様子を伺うことで対策がとれる。
…精神衛生上でもいいがな、こいつがいつ崩壊しないか不安になる夜を過ごすよりは。
だが、デメリットもある。
こいつに時間を使いすぎると、他の人間との交流時間が減ってしまうのだ。
アリア、海、春香。カバーすべき人間は多い。つい先日アリアは生徒会長になったばかり。副会長の俺がフォローできなくてどうする。
だから、こうしてこいつの時間を減らすよう努めてたいのだが…。このお姫様はそれが気に食わないようだ。時間を気にしすぎるのは、美姫が言うように、俺もこの世界に時間を使いすぎて、精神的に老いたらしい。
「だったら、おじいちゃんにあまり無理を言うな。老人は労わるよう教えられなかったのか?」
「ばか、何言っているのよ。もしかして、スイーツ食べない言い訳に使おうとしているんじゃないでしょうね? ほら、一緒に食べてっ」
「はいはい…。まったく、お姫様はわがままばかりで疲れる」
「……ふふっ、何だかんだ言って、私に甘いんだから」
「何か言ったか?」
「なんでもないっ! ……あ、そういえば、そろそろクリスマスね」
「だからなんだ?」
「だからなんだとは何よっ。クリスマスよ? 重要じゃない、学生の私たちにとっては。ねぇ……わかってるでしょ?」
「おじいちゃんだから、あまり一年ごとのイベントに興味がなくなってな…」
「そのネタいつまで引っ張る気よ? 女々しい和人なんて嫌よ。」
「おまえなぁ……このくそわがまま女が。はぁ……、わかったよ」
「そう、じゃあ…」
「ああ。友達と遊びに行くんだろう? その日、一応俺らの勉強の時間にしていたが、休みにするか。楽しんで来いよ?」
「……わざと言っているの?」
赤い顔で不満げな美姫の様子を見て、疲れがどっと沸いてくる。
……はぁ。やっぱりか。
わざとボケて話をそらそうとしたが、無駄だったようだ。
「外れていたら自意識過剰で恥ずかしいが……俺と一緒に過ごしたいってか?」
「……そうよっ。」
彼女は視線を俺から外し、そわそわした様子を見せる。
少し不安げで、そして何かを期待しているようで。
美姫に回答する前に、……その前にいくつか確認する必要があるな。
「なぁ、少し聞きたいことがある。お前、俺以外に今も友達いたりしないのか? クリスマス、その人たちと過ごしたりという話もないのか?」
「え? そうね、別に必要だと思ったことないし。友達なんていないわよ。だから今年も一人よ」
「……家族とは? クリスマス、一緒に過ごすという家庭もある」
「もう何年もクリスマスパーティーなんて、家でやっていないわよ。みんな、自分のことばっかり。それに、私があんたの学校に行くことにまだ少し怒っているし、そんな雰囲気の中でやろうとは誰も言わないわ」
そうだ。
美姫は本来ならば一貫校に通っていた。その中でトップの成績をずっと保持し続けた。
それが、家族からしたか何があったかわからないだろうが、急に進路を変えたのだ。この美姫にとって最終学年になった際に。
当然、美姫の家族は怒っていたそうだ。何があったのかと。
誰か、…『悪影響』を与えたやつはいないのか。
美姫にその時どう乗り越えたかを以前少し聞いたことがある。
『別に。学校でみんなから無視されているって言っただけ。私は別に周りなんてどうでもいいから気にしていないけど、理由に使えるかなって思ったのよ。それに、私って見ればわかるけど、頭がいいのよ? もう大体高校の勉強範囲も自分で理解していたし。親が行けっていう大学の模試も勝手に過去問とか受けてみたんだけど、A判定だったから。勉強も合格ラインに到達している。別に親が行けって言っている大学は受けないっては言っていない。ただ環境がつらいだけって言ったら、OK出してくれたわ。あまり感情面で納得は完全にしてくれてなかったようだけれど……。まぁ、親も今通っている学校に不満は前からあったようだしね。レベルが下がっているとかなんとか。一応、和人が通っている学校も偏差値高いし、親にとっては合格ラインだったそうよ』
この時間軸でも、そして前の時間軸では、そうやって納得させていたのかと腑に落ちた。
そして、今の家族との関係も納得がいった。
「海や春香とは? 何もないのか?」
「ああ、先輩たちね。すごく私に良くしてくださっているけれど、さすがにクリスマスまで私に付き合ってもらうのは心苦しいわ。一緒に遊ぼうって誘ってくれたけれど、用事があるって断らせてもらったの。」
「用事って何かあるのか……いや、愚問だったな。今、現に俺を誘っているもんな」
「そうよ、ばか。言わせないでよっ。……そういえば、あんたたちの学校って、クリスマスパーティーあるわよね? 結構大きいイベントって聞いているわ。出店にも遊びに来てって先輩たちにも言ってもらったし、それの打ち上げに誘ってもらったんだったわ。あんた、副生徒会長になったのよね? それだったら、和人が仕切っているのよね…。ふふっ、楽しそう。遊びに行ってからかってやろうっと♪」
「お前、さっき海たちの誘いを断ったって言ってただろ? もし会ったらどうするんだよ」
「和人、口裏あわせてよ。和人が先に誘ったから、和人のほうを優先しないといけなかったって」
「お前……、強引すぎるだろう。このわがまま姫め」
「悪いとは思っているわよ。でも、しょうがないじゃない……あ、あんたと一緒に過ごしたかったんだから……。そ、それに、夜も予定空けときなさいよっ! 行きたいって場所、目星つけてるんだから!」
途中の方は声が小さすぎて聞きにくかったが、気持ちはわかった。
……答えは、正直に言うと決まっていた。
もうそろそろ、動くべきだと考えていたのだ。
後は覚悟を決めるだけだった。
すでに甘えを捨てろと、心の中で言い続けていたが、どうやらまだ残っていたらしい。
その時に備えて、お前は今まで準備してきたのだろうが。
……さあ、始めるか。
「ああ、わかったよ。予定、あけとく」
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